キリト「生還したら妹と弟がくっ付いてた」 作:ブロンズスモー
試合が終わり、直葉と海斗は二人で帰宅していた。海斗は無事に準決勝の進出を果たし、一週間後の土日にその準決である。
「あー……疲れた………」
「すごいじゃん。今日はゲッツー三個も取ったじゃん」
「すごいのはピッチャーの山本先輩だよ。あの人、一塁にランナーが出ると、二遊間にしか球をやらないんだもん。お陰で俺と中崎が忙しくて仕方ない」
「あー……山本君ね……」
「?」
「あの人、なんか三振取るとあたしの方見てくるんだよね。ドヤ顔で」
「つか何、知り合い?」
「同じクラスなの。なーんか、クラスでも野球部の話題になると、すごく嬉しそうな顔になるんだよね。すごいねって言うだけで大はしゃぎで……」
「まぁ、仕方ないでしょ。思春期の男子なら、クラスの可愛い女子に褒められれば喜ぶって」
「………今、遠回しにあたしのこと可愛いって言った?」
「はぁ?…………あっ」
無表情のまま、若干顔を赤らめる海斗を見て、直葉はニヤリと意地悪な微笑みを浮かべた。
「ふぅーん?カイくんったら、あたしのこと可愛いって思ってたんだ?」
「いや、違うから」
「違くないでしょ?流石に無理あるよそれは?」
「いや、違うんだって。今のはアレ、何か霊的なものが俺に憑依して……」
「んふふー、お姉ちゃん嬉しいなー。弟に可愛いなんて思われてたなんて」
それを聞いて、海斗はイラッとした。そして、反撃に出た。
「可愛い」
「へっ?」
「直葉可愛い。俺の姉超可愛い」
「ちょっ、何?」
「おかっぱ可愛い。実は可愛いって言われて照れてる癖に弟より優位に立つためにからかってくる直葉超可愛い」
ヤケに褒められて、直葉は顔を真っ赤にしながら海斗を指差して反撃した。
「〜〜〜ッ!か、海斗こそ今、真顔の割に顔が真っ赤なの可愛い!」
「って言ってる直葉の顔が耳まで真っ赤なの可愛い!」
「昨日、さよならタイムリー打って試合終わった後、すごくホッとしてたの可愛い!」
「俺がそのヒットを打った時、メチャクチャピョンピョン跳ねてて、野球部より喜んでたの可愛い!」
「この前、家事を手伝ってくれて、褒めた時に頭撫でてあげたら、何処と無く嬉しそうにしてたの可愛い!」
「俺が誕プレあげた日、湯船に浸かりながら嬉しそうに鼻歌歌ってるの可愛い!」
「………………」
「………………」
「…………や、やめよっか…」
「……………うん」
その後の帰り道、二人は一言も喋れなかった。
ー
帰宅してから直葉は晩飯の準備、海斗は湯船にお湯を溜めた後に、表に出てバットを振った。
『昨日、さよならタイムリー打って試合終わった後、すごくホッとしてたの可愛い!』
思い出して、顔が真っ赤になった直後、バットが手を離れた。二階の直葉の部屋に飛んでった。窓に直撃して、ガラスが粉々になった。
「あっ」
「ちょっ、何の音⁉︎」
慌てて直葉が飛んで来た。ボンヤリと窓の方を見てる海斗と、カランッと空から降ってくる金属バットを見て、何が起こったのか一発でわかった。
「何か弁明は?」
「場外ホームラン」
「謝りなさいよ!」
「分かってるよ……。つーか、誰の所為だと思ってんの」
「? 何か言った?」
「別に。片付けてくる」
「ダメだよ、危ないんだから。あたしがやるから鍋見ててくれる?」
「もうガキじゃねーんだよ。俺が行く」
直葉の制止を無視して、海斗は二階に上がった。その背中を見ながら、直葉は「大丈夫かな……」と思いながら料理に戻ろうとした。
だが、窓が割れてる部屋は自分の部屋だということを思い出した。
「や、やっぱダメ!」
慌てて火を消して階段を駆け上がって、海斗の肩に手を置いた。
「? なんで?」
「あ、あたしの部屋だから!あたしがやるから!」
「いや、別に姉弟で部屋に入ることくらい、気にしなくて良くね」←義姉と知ってるとはいえ、姉に可愛いと言われて動揺して窓割った人
「い、いいから!あたしやるから!」
「や、俺が割ったんだし別に良いよ」
「………じゃあ、二人でやろう!二人で!だけどちょっと待ってて!勝手に入って来たら面打つから!」
「あっ、ちょっ……」
直葉は部屋の中に入ってしまった。中に入ろうか迷ったが、剣道お化けの直葉に面打たれるの嫌だったので、待機することにした。
数分後、ガチャッ……と控えめに開けられたドアから、直葉が顔を出した。
「…………良いよ」
「お、おう」
中に入ると、窓のガラスが部屋に飛び散っていた。ベッドまでは届いていなくて、布には掛かってなかったが、そこそこ広範囲に散らばっている。
「やるか」
呟いて部屋の中に入ろうとした直後、ガッと肩を掴まれた。
「待った」
「何?」
「やるのはあっちね。タンスの方はあたしがやるから」
「………いや別に服パクったりしないけど」
「い、いいから!」
「ああ、そう」
海斗は大きいガラスを拾い始めた。
直葉も内心、ドギマギしながら、ガラスを拾ってビニール袋に入れ始めた。
『おかっぱ可愛い。実は可愛いって言われて照れてる癖に弟より優位に立つためにからかってくる直葉超可愛い』
カァッと頬が熱くなった。気が抜けた直後、ピッと指にガラスの破片の先端が掛かった。
「痛っ………」
血が垂れて来たので、指を咥えてると、横から海斗が顔を出した。
「何、指切った?」
「へ、平気よこれくらい」
「お前何でそうやって強がんの?絆創膏持ってくるから待ってろ」
「…………誰の所為だと思ってんの」
「なんか言った?」
「別に」
海斗が絆創膏を取りに行ってる間、直葉はどうすれば良いの分からずに、ただぼんやりと座っていた。
「…………チビの癖に」
ー
ガラスを片付けると、二人はようやく飯の時間になった。
もっさもっさとソースのかかったキャベツを咀嚼してると、直葉が口を開いた。
「あ、そうだ」
「?」
「今日、海斗の部屋泊まるから」
「はっ?」
「念の為、あたしの部屋に掃除機かけるけど、日が沈んでからかけたら近所迷惑だもん。明日まで、あたしの部屋の中に入るの禁止ね」
「………や、別に良いけど」
言いながらカレーを食べる海斗は冷静に見えて、内心少し焦っていた。目の前の姉を義姉と知っているからというのもあるが、中学生になると姉や母親と一緒に寝るのが妙に小っ恥ずかしくなる現象が、海斗にも起こっていた。
「それに、海斗の部屋はお兄ちゃんのベッドもあるでしょ?」
「まぁ、あるけど。あ、じゃあ俺そっち使うよ。俺のベッド使って良いよ」
別に和人が死んだわけじゃないが、何となくSAOに囚われてる兄のベッドを使うのは気が引けるかな、と思ってそう言った。
それを察した直葉は苦笑いを浮かべながら、いやいや、と手を振った。
「……いやいや、そこまで気を使わなくて良いよ。流石にそこまで子供じゃないから」
「本当に?」
「あのね、弟にそこまで気を使われたら姉として立つ瀬がないっての」
「ふーん……まぁ、そこまで言うなら良いけど」
「………でも、ありがとね」
ニッコリと微笑まれ、サッと目を逸らした。
食事を終えると二人は順番に風呂に入って、二段ベッドの上に直葉、下に海斗が寝転がり、ALOにログインした。塔の前に集合すると、リーファが「あっ」と声を漏らした。
「シグルドとサクヤ来れないって」
「ふぅーん……レコンは?」
「レコンは今日は来ないらしい。来週の小テストヤバいんだって」
「じゃ、今日は二人か。ていうか、レコンがアレならリーファも小テストあんだろ?勉強しなくて良いの?」
「…………」
ヤバい、とは言えなかった。
「良いよ、して来て。たまにはソロでやりたいし」
「じ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
リーファはログアウトし、コイコイは一人でフィールドに出た。
ー
一時間後くらい。ログアウトした直葉は英単語の勉強を終わらせ、寝ようと二段ベッドに上がろうとハシゴに足を掛けた。その途中、アミュスフィアを被った海斗が見えた。
「………」
何となく気になって、直葉は降りて海斗の枕元に立った。
まだ中学一年生だからか、幼い寝顔を見て、直葉は少し俯いた。和人がSAOに囚われたばかりの時、こんなに幼い弟に随分と気を使わせたものだと、少し後悔した。
「……………」
ふにっふにっと頬を突いてみたり。
「………………」
何を血迷ったか、直葉は下のベッドに入り、海斗の隣に寝転がった。
真夏なので、自分に掛ける布団はタオル一枚程度だ。
(………カイくんがログアウトしたら、なんて言い訳しよう……)
横になって、目を徐々に閉じていった。
(…………まぁ、いいか……)
眠ってしまった。
ー
海斗はログアウトした直後、横を見ると直葉の寝顔があった。
「…………え、何この状況」
海斗はしばらく眠れなかった。