東方賭博奇譚   作:シフォンケーキ

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この作品は東方projectの二次創作となります。
・オリキャラ
・独自解釈
・原作との設定の違い
・キャラ崩壊
などが含まれている場合がございます。
よって至らぬ点が多々あるかもしれませんので予めご了承ください。


1話・ある女と出会ったら世界が変わった。

とある日、騒がしい街の中でさらに騒がしい店の中から一人の男が出てきた。

男が出てきたのは公営ギャンブルの一つ、パチンコ店である。男はにやけた顔をしながら機嫌の良さそうな声で呟いた。

「勝った、勝った、勝っちまった。今日はついてるぜ」

男の声が薄暗い路地裏に響いた。

端的に言うとギャンブルで大儲けした。ただそれだけである。

男の名は高橋。二十三歳独身、彼女いない歴=年齢、仕事は便利屋をしており、そして根っからのギャンブラーである。

ここ最近、彼はまともな仕事の依頼もなく、ただ毎日ギャンブルに明け暮れていた。

「・・・つまんねぇなぁ、空から金でも降ってこないもんかな」

そんなありもしないと分かりきってることを呟きながら歩いていると高橋はあることに気がついた。

(誰だ?この女)

高橋の目の前にはこの辺りでは見ないような格好をし、日傘を持った女が高橋の進路を阻むように背中を向けて立っていた。

そして女はゆっくりとした口調で振り返りながら告げた。

「貴方が高橋 愛乃(たかはし よしの)で間違いないわね?」

高橋 愛乃と言うのは確かに自分の名前であっている。しかし高橋は目の前の女に自分の名前を教えたことはおろか、過去に会った記憶もない。

そこで高橋は感じた。目の前の女から発せられる謎の威圧感を。全身を硬直させられるような圧迫感を。

(こいつはヤバイ!肌でわかる!何かはわからんがとてつもなく怪しい凄みのようなものがある・・・!)

そこで高橋がとった行動は至ってシンプルなものだった。

高橋は身体を反転させ来た道を全力疾走した。

(こんな怪しい奴に構ってられるか!)

三十六計逃げるに如かず、俗に言う逃走である。

「あら?何もしてないのに逃げ出すなんて流石にひどいんじゃないかしら?」

背後で女が何か言っていたが高橋は聞く耳を持たずにひたすら走った。幸いにも高橋は足には自信があった。日頃鍛えている成果から逃げきれると考えた。事実、高橋を追い負かすことは並みの者には不可能と言っていいだろう。

それから数分ほどして人気のない公園で高橋は足を止めた。どうやら逃げることに成功したようである。

「取り敢えずは撒いたか、あの女は一体何だったんだ?まぁ、もう会うこともないだろうがな」

逃げきりに成功した安心感からかそんな事を考えた。

 

だが、高橋は一つ、致命的なミスをした。ある事を忘れていたのである。

 

「あら?鬼ごっこはもうお終いなのかしら?」

途端に背後から声がした。

 

勝負事において、忘れてはいけない事を高橋は忘れていた。

 

「嘘、だろ・・・」

 

結果を見る前に『勝った』と慢心した時、それはつまり、

 

「改めて言わせてもらうわ。初めまして、高橋 愛乃さん」

 

自らが『負け』を受け入れるという事であると。

 

そこには先程撒いた筈の女がつまらなそうな顔をして立っていた。

 

意味がわからない。高橋は最初にそう思った。

目の前の女は確かに撒いた筈であった。特別身体能力は高くも見えない。それどころか女は走って追いかけたとしても息が上がってすらいないのである。

(どうやって追ってきた?落ち着け、落ち着いて考えろ。逃げられないなら先ずはそこから考えるんだ)

高橋は動揺した心を落ち着かせるように自分にそう言い聞かせた。

「あんたは一体何者だ?どうやって追いついてきた?何のために俺に近づいてきた?」

高橋は怒鳴るように問い詰めた。すると女は呆れたような顔をして言葉を返した。

「人に質問をしたいなら先ずは会話をする姿勢を見せなさい。それと質問は一つずつにしてくれると助かるわ」

「ふざけるな!いいから答えろ!」

高橋は苛立ちながらそう言い放った。すると女は然程気にもせず飄々とした態度で言葉を返してきた。

「あまり人に怒りの感情を見せない方が賢明よ?相手に自分を弱く思わせるし、まともな思考も出来なくなるのだから」

女はハァと一息つくと、

「まぁそれは今は良いわ。私に聞きたい事があるのでしょう?一つずつで良ければ、歳とスリーサイズ以外は答えてあげるわよ?」

高橋は苛立つ感情を抑えながら考えた。確かに今ここでこの女に憤慨したとして、自分に得などない。ならばここは素直に相手の言う通りに疑問を解決させ、話を早々に切り上げた方が幾分もマシである。

高橋は一度深呼吸をして再度疑問を投げ掛けた。

「ならまず一つ目だ。あんたは一体何者だ?」

「あら、思ったよりも聞き分けは良いのね。少し安心したわ」

女は小さな子供を褒めるようにそう言うと続けて言った。

「私の名前は八雲 紫。少し事情があってあなたの事を探していたのよ」

高橋は女が言った名前、八雲 紫の名を頭の中で思い浮かべたが、やはりそんな名前に心当たりはなかった。

「なら二つ目だ。そのあんたの事情とやらになぜ俺が巻き込まれなければならない?」

「それは貴方の力が必要だからよ」

紫は端的に答えた。

「俺の力?ちょっとばかり足が速いだけで特になんの取り柄も無い俺に大それた力なんかあるわけないだろ?」

「それはどうかしら?。それは貴方が一番わかっているのではなくて?貴方自身の『特別な力』なのだから」

どこか不敵な笑顔を浮かべながら紫は答えた。

全てを見透かしているかのようなその瞳に高橋は素直に恐怖心を抱いた。

確かに高橋には人にはない『特別な力』があった。幼い頃からその身に宿っていた力。おそらく紫はそのことを言っているのだろう。

(この女、どこまで知っている?)

高橋の恐怖心と疑問は依然として消えはしなかった。

(俺の力のことを知っている?だとしても、この女が俺に寄ってきた意味がわからない・・・。そして、だからこそ、余計に怪しい・・・)

大前提として、高橋は過去に自分の力について他人に話したことは一度もない。親にも友人にもである。

にも関わらず、この八雲 紫は高橋 愛乃の力を知っている。これに対して疑問や恐怖心を抱くなと言う方が無理な話である。

「・・・どうして俺の力のことを知っている?」

高橋は諦めるように紫に聞いた。

否、実際問題として、高橋は諦めたのである。逃げる事も叶わず、自身の秘密も知られ、挙句に相手の素性もあかせていない。そんな状況を打開できるほど高橋は強くはないからである。

「これはさっきの貴方の質問の答えにも繋がるのだけど・・・」

たっぷり間をあけて、紫は続けた。

「特別な力を持っているのが自分一人なんて、そんな事はあるはずがないでしょう?」

その言葉を聞いた途端、高橋は頭の中にある仮説を立てた。

『特別な力を持っているのは自分だけではない』

『先程の質問の答えにも繋がる』

(幾つか疑問は残るが、もしかして・・・)

高橋は曖昧ながらも閃いた答えを口にした。

「あんたも特別な力を持っている。それもひとつじゃない。恐らく、瞬間移動とか読心能力とかな、他にも何かあるはずだ」

「その考えの根拠は?」

紫は表情を変えずにそう聞いた。

「あんたが言った、さっきの俺の質問の答えにも繋がるってのは、『何故俺の力のことを知っているのか』だけじゃなく、『どうやって追いついてきたか』にも当てはまるからじゃないのか?そうでなきゃ、そんな言い方しないだろうよ」

「あら、思ったよりもちゃんと頭を働かせてくれたようね。でも残念、その推理では百点とは言えないわね」

「何?」

「確かに私にも貴方の言う『特別な力』が宿っているわ。けど私の持つ力はたった一つだけよ」

「・・・」

高橋は言葉を詰まらせた。話を聞けば聞くほどに頭が痛くなっていた。

「話が逸れたわね。貴方の力のことを知っているのは色々と調べさせてもらったからよ。その上で協力者として貴方に白羽の矢が立ったと言うわけよ」

「プライバシーも何もあったもんじゃねぇな」

高橋は忌々しげに呟いた。

「つうか、その協力者の条件ってのは何だよ?別に俺以外にも候補なんざいくらでもいるだろうよ」

「条件っていうのは単純よ?こっちの話に食いついてきそうなギャンブラーである事。できる限り強者の方が理想的だったわ。そして貴方には『特別な力』が備わっていた。これも貴方を選んだ理由に含まれるわね」

「俺よりも強いギャンブラーが良いなら一人心当たりがあるから紹介してやろうか?周りからは『超高校級のギャンブラー』とか言われてるよ。あれはもはや違う意味で人間離れしてるけどな」

「それが残念な事に笑顔で断られたわ。協力してもメリットがない、とね。それにこれは貴方への便利屋としての仕事の依頼と思ってもらって構わないわ」

ここまでの話を聞いて高橋は思った。これより先の話を聞けば後戻り出来ないのではないかと。自分の日常が壊れるのではないかと。

「・・・一つ、大事な事を聞き忘れてたな」

「何かしら?」

しかし、心とはうらはらに高橋は口を開いた。何か不思議なものに魅入られたかのように。

「あんたの依頼内容とやらについて、詳しく話せ」

紫はその言葉を待っていたとばかりに怪しく、妖しく微笑んだ。

「私からの依頼はたったひとつよ。私達の住む世界である事件が起きているのよ。だから私達の住む世界を、“幻想郷”を救ってくれないかしら?」

“幻想郷を救ってくれ”

その一言で高橋は自分の中の世界が音をたてて崩れていくのを感じた。

(俺の日常ってのも簡単に壊れたな)

高橋は目の前に立つ紫を見つめて思った。

(いや、この女に目をつけられた時点で、俺の世界は、日常は壊されてたんだろうな)

高橋は素直にそう考えた。現に高橋の思考は紫と会話するにつれて少しずつ変わっていった。先ほどまで抱いていた恐怖心などとうになく、怒りの感情は微塵も無くなっていた。

そして今、高橋が思った事はひとつである。

(最高に面白くなってきやがった!)

その顔はとてつもなく眩しく思えるほどの笑顔であった。

「その様子だと、この依頼を受けるかどうかを聞くまでもなさそうね」

紫も紫でとても嬉しそうに笑っていた。

「あぁ。まだ幾つか話を聞かせてもらうが、こんな面白い話を無駄には出来ねぇぜ」

この時、高橋の日常は、世界は、完全に壊された。

否、日常を、世界を壊したのは間違いなく、高橋自身であった。

ーーー八雲 紫の話に賛同する事によってーーー

 

「取り敢えずは協力してくれるようで助かったわ。ありがとう」

紫は笑顔を浮かべてそう告げた。

「いや、礼を言うにはまだ早いだろ?俺はまだ世界を救うどころかあんたから話を聞いてすらいねぇんだから」

「それもそうね。では世界を救う前に他に聞いておく事はあるかしら?」

「勿論あるさ。質問は大きく分けて二つだ」

高橋は指を二本たててそう言った。

「何かしら?」

「一つ目、あんたの言う“幻想郷”とやらについて教えてくれ。そして二つ目、その“幻想郷”での事件と俺は何をしたら良い?」

「質問は一つずつになさいとさっきも言ったでしょう?」

紫は笑いながらそう言った。さっきとは違い、冗談を言いあうような、そんな軽さだった。

「そう言えばそうだったな。失礼したよ」

高橋もその意図を察したのか、先ほどと違い笑って返した。

「では、そうね。まず一つ目、“幻想郷”について。そこから話しましょうか」

紫は指を一本たててそう言った。

「“幻想郷”とは私が管理している、こことは隔離された世界のことよ。そしてそこには主に、妖怪や存在を忘れられた者達が多く存在しているわ。勿論、貴方のような人間もいるわ」

更に紫は指をもう一本たてた。

「そして二つ目、これが一番大事な部分。幻想郷で起きている事件と貴方のするべきことについて。私達は異変と呼んでいるのだけど、この異変を解決するのが貴方への依頼よ」

「その事件、いや、異変ってのはなんなんだ?」

「まず私達の住む幻想郷では人や妖怪達の決闘の手段として、『弾幕ごっこ』というのがあるわ」

「弾幕ごっこ?シューティングゲーム・・・みたいなもんか?」

高橋は頭の中で想像しながらそう聞いた。

「大方その解釈で問題ないと思うわ。けれど、その『弾幕ごっこ』がある日、誰かによって別のものに変えられてしまったのよ」

「・・・大方、その変えられたものがギャンブルってわけか?」

「ええ、その通りよ」

「それでその異変を解決させる為に仮にもギャンブラーである俺を訪ねたってわけか」

「あら?最初に比べて察しが良くなってきたようね」

紫は感心したように笑っていた。

「あんだけわかりやすい話し方してりゃあガキでも気づけるさ」

多分この女は自分で答えを教えるより相手に考えさせる方が好きなんだろうと高橋は内心で考えた。

「細かいことはまた向こうで自分なりに調べなさい。あと他に質問はあるかしら?」

紫の言葉に高橋は指を一本たてて応じた。

「なら最後に追加で一つ。その世界、幻想郷は俺を楽しませてくれるのか?」

高橋の質問にはつまりとして、『今の世界は退屈である』『自分の世界を楽しくしたい』という意味が含まれていた。

だからこそ彼は紫の誘いに乗ったのである。

そんな質問に対して、彼女は、八雲紫は今までで一番の笑顔で、

 

「安心なさい。幻想郷は全てを受け入れてくれるわ。貴方一人の願いくらい、容易く受け入れてくれるわよ」

そう言い放った。

 

その答えを聞いて、高橋は笑顔を浮かべた。幼い少年の如く、無邪気な笑顔だった。

「そいつは良いね。世界を救うなら楽しい世界でなくちゃ面白くねぇ」

「それじゃあ、今から貴方を幻想郷へと送るけど、本当に良いのね?」

紫は確認を取るように尋ねた。

「今更わかりきったことを聞くなよ。依頼は受ける。こんな退屈で仕方ねぇ世界より早く向こうに行きたいぜ」

相変わらずの笑顔で高橋は答えた。

(最初にこの女を見た時はまともに口も聞かずに逃げたってのに、まさかこんな展開を自分で選ぶなんて、人ってのは短時間で変われるもんだな)

高橋は自分の変わりように驚きながらも紫に告げた。

「もし幻想郷を元に戻せたら、成功報酬としてなんか俺の願いを一つ叶えてくれるか?」

「私にできる範囲であれば、そのくらいはしてあげても良いわよ?」

高橋はそうかと呟いて続けた。

「じゃあちょっくら、世界を救ってくるぜ」

「ええ、では改めて、よろしくお願いするわね。高橋 愛乃さん」

紫がそう言うと同時に高橋の足元に空間に裂け目の様なものが生まれた。言うまでもなく、紫の力である。それを見た高橋は驚きながらも瞬時にひとつの疑問を解決させた。

(俺を追ってこれたのはこの力のお陰ってわけか。やっぱり瞬間移動じゃねぇか)

徐々に沈んでいく自分の体を見ながら、これからのことに胸を躍らせた。

(ギャンブルだらけの世界なんて最高だぜ!待っていろよ、“幻想郷”‼︎)

そう思うと同時に高橋の体は完全に沈んでいった。

今この瞬間に、ギャンブラー・高橋愛乃の世界を救う挑戦が始まったのである。




お恥ずかしながら書かせていただきました、東方賭博録。これを読んで楽しんでいただけたなら幸いでございます。
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