次からはもう少し早く更新しますのでよろしくお願いします。
「さて、これから貴方の魔法の適性検査を始めるのだけれど」
読んでいた本を閉じてパチュリーが言う。
「始める前にこれを噛まずに飲み込んで」
そう言って差し出されたのは金平糖の様な小さな粒だった。
「何です?これ」
「体内に眠る魔力を引き出す為の薬みたいなものよ。体に害は無いから安心しなさい」
「・・・まぁ、そう言う事なら」
パチュリーの掌からそれを取って高橋は口にして飲み込んだ。それと同時にパチュリーが言った。
「その代わり凄く苦いけどね」
「ガハッ!ゴホッ、ゲホッ!超苦げぇ!」
あまりの苦さに高橋は噎せかえった。
「だから言ったじゃない」
呆れた様子で言ってくるが、そもそも忠告が遅いだろと高橋は内心で毒づいた。
「それじゃあ次ね。小悪魔、お願い」
パチュリーが言うと少ししてから小悪魔がやって来てある物を机に置いた。
「これって水ですよね?」
高橋が聞く。小悪魔が持って来たのは水が入れられたグラスだった。
「貴方にはこれが血に見えるの?」
「・・・誰が見ても水でしょうね」
「それを使って試すのよ。水の上に紙片を置いて、その反応で貴方の適性の有無や得意な系統を判断するのよ」
「いや水見式かよ」
どこぞの人気漫画の様な診断方法だ。
「水見式が何なのかは知らないけどこれが簡単でわかりやすいのよ」
「・・・まぁいいか。それで俺はどうしたら良いんですか?」
「グラスを両手で掴んで自分の中にある力を注ぐイメージをしなさい。適性が有れば何かしら反応がある筈よ」
つまり反応が何もなければ魔法の才能が全く無いと言う事か。
高橋は言われた通りにグラスを両手で掴んだ。
(・・・力を注ぐイメージ、か)
目を閉じてイメージする。
体中のエネルギーを両手へ。
更に両手のエネルギーをグラスへ。
注ぐイメージ。それだけを意識して行ったが、高橋の自覚としてはあまり変わった様子は無い。
「もういいわ。目を開けて」
パチュリーに言われ、目を開けた。見たところやはり変化は無いらしい。
(置かれている紙にも水にもパッと見た限り変化は無いか)
試しにグラスの水を舐めてみたが、甘くなったわけでも無い。温度が変わっている様子も無い。
「何も無いみたいですけど、俺って才能無いんですかね?」
「まぁこうなるとは思ってたわよ」
「え?」
「だってこんな方法嘘だもの」
「何じゃそりゃ!」
思わず高橋は叫んだ。
「退屈凌ぎに揶揄っただけよ。それにそろそろ良い時間みたいだし」
「時間?」
「手を出して」
先程と同じ様に言われ、再びパチュリーに向けて手を差し出す。またあの苦いのを寄越す気だろうか?
「苦いのは嫌いなんですが」
「もう食べなくて良いから安心して」
しかし予想に反してパチュリーはそう言った。そしてパチュリーはそのまま高橋の手を掴んだ。
「今から貴方に魔力を流すから、頭の中に浮かんだイメージがあったら答えて」
「今度は本当ですか?」
「勿論よ。目を閉じて」
言われて今度こそと思いながら目を閉じた。
するとパチュリーに掴まれていた腕がほんのりと暖かくなっていく感覚がした。それは腕から肩へ、そして次第に体全体へと流れていった。
(・・・あ、何か頭に浮かんできた)
浮かんできたのは真っ暗な空間にいる自分。
不思議な感覚だった。時間が経てば経つ程自分の意識が現実から離れていく感覚だ。沈む様に、溶けていく様に。
そして目の前には蒼い宝石の様な物が出現し、目の前で浮かんでいる。
(触れたら良いのか?)
右手を伸ばして恐る恐るそれに触れてみると、触れた途端にそれは溶ける様に消えた。
いや、溶ける様に、より触れた高橋の手から体の中へと流れる様に、と表現した方が正しいか。
「もういいわ。目を開けて」
言われて高橋はゆっくりと目を開けた。
「どんなイメージが出た?」
「暗い空間にいる自分、そこに蒼い宝石みたいなのが出てきて、それに触れたら俺の体の中に入っていきました」
「なら問題無さそうね」
「え?」
「その宝石が貴方の中にある所謂魔力の結晶。それが見えて触れられて何も問題が無ければ魔法の適性があるって事よ」
「つまり俺にも魔法の適性が有るって事ですか?」
「ええ。蒼い宝石って事は恐らく貴方の得意とするのは水系統の魔法ね」
「水系統?」
「水系統は属性魔法の基礎の一つ。水は色々な魔法と組み合わせる事が出来れば便利な系統魔法よ。良かったわね」
「水か・・・」
「不満かしら?」
「いえ、水は人を生かす事も殺す事も出来ますからね。それに注ぐ器によって様々な形に変えられる。一先ず文句をつける点は有りませんよ」
「変幻自在って言いたいの?」
「そんな万能でも無いでしょう。注ぐ器がなければ形も留められないんですから。注ぐ水がなければもっと意味をなしませんけどね」
(まぁその辺は俺らしいと言うべきか)
自分の能力を考えると、なんとも自分らしいと思えなくもない。
自分という器に他者の能力という水を注ぐ。それにより水は形を成す。
そして器は器としての役割を、意味を為す。
注ぐ水(他者の能力)が無ければ器(自身の能力)としての意味をなさない。
空っぽの器。
それに対して自分の系統魔法が水と言うのだから皮肉が効いている。
「さて、貴方の系統がわかった事だし、次に進みましょう」
そう言いながらパチュリーは近くにあった紙にペンで何かを書き込み始めた。暫くして待つと書き終えたそれを高橋に差し出した。
「これを持って、さっきみたいにこの紙に力を送るイメージを思い浮かべて」
その紙を受け取り、高橋は言われた通りに行った。
すると数秒後、高橋が手にしていた紙が光り、近くに置いてあった先程のグラスの水が浮かび上がった。
「うおっ!?なんじゃこりゃ!」
グラスの上を浮かぶ水の玉を見て高橋は思わず声を上げた。
「素人にしては中々ね。もう良いわよ」
「もう良いと言われてもこれをどうしたら良いかもわからんのだが」
「持ってる紙を破りなさい」
パチュリーに言われ、高橋は指示された通りに持っていた紙を破いた。それと同時に先程まで浮いていた水の玉が重力に従って呆気なく落ちていった。その水は机に触れると四方八方に飛び散った。
「小悪魔、拭いておいて」
「はーい。かしこまりました!」
いそいそと拭き始めた小悪魔を横目にパチュリーが続けた。
「今回は初めてと言う事で魔法の式を描いた紙を使ってやってもらったけど、魔法の基礎が出来ればあんな紙が無くても今くらいの事は簡単に出来るようになるわよ」
「本当ですか?魔法って慣れない物に触れたせいか、何かワクワクしてきますね」
「最初の頃はそうでしょうね。何かを学び始める時はその感情は大切ね。それは立派な原動力になるもの」
「自分が出来る事が増えるのを実感出来るってのが尚良いですね」
「ふふっ。楽しそうで良かったわ。では次は試しに貴方の今の魔力の総量を測ろうかしら」
「魔力の総量?俺がどれだけの魔力を持っているかって話ですか?」
「ええ。魔力の総量が多ければ多い程魔法を使える数も増える。逆に少なければ簡単な魔法一つですぐに魔力が尽きてしまうわ」
自分の現状を知らなければ何も出来ないのは魔法も同じである。
「それで、俺は次に何をすれば?」
「じゃあ次はこれを持って」
次にパチュリーが差し出したのは短冊の様な細長い紙だった。裏返してみても何も書かれていない。両面真っ白な紙だ。
「今度はその紙に魔力を流すイメージをしなさい。上手く出来たらその紙が貴方の総量を教えてくれるわ」
「この紙に魔力を・・・」
言われるがまま、高橋は目を閉じて集中し、魔力を流すイメージを整えた。
「もういいわよ」
数秒後、パチュリーに言われて目を開けると、持っていた紙が赤く染まっていた。
「何だこりゃ?」
「その紙は魔力の量に反応して色を赤く染めるのよ。下から上にね」
言われてみると紙全体のうち、上の方はまだ白いままだった。
「ちょっとそれを見せて」
「はい」
言われた通り、紙を差し出す高橋。
「貴方、本当に魔法の知識や経験は無いのよね?」
「?はい。まともに触れたのも今日が初めてです」
「・・・そう。」
高橋の返事を聞いて考え込むパチュリー。
(初めてにしてはかなりの魔力量ね)
当然、ちゃんと魔法を学んでいる魔法使いと比べたらまだまだではあるが。
「因みに貴方の能力ってどんなものなのかしら?」
「それを無条件で人に教える程俺は優しくも馬鹿でもないですよ」
「ならどうしたら教えてくれるのかしら?」
「こちらの質問にパチュリーさんが答えてくれるなら」
「答えられる範囲なら構わないわ」
「なら貴女のスリーサイズと好きな男のタイプを」
「真面目にやりなさい」
「これでも至って真面目なんですけどね?」
真顔で答える高橋の発言にパチュリーは馬鹿馬鹿しくなった。
「スリーサイズは教えないわよ。でも少なくとも会って間もない相手にそんな事を聞く男は好きではないわね」
「あーあ、フラれた」
「フラれたくないのならそれに見合った行動をしなさい」
至極真っ当な意見だ。
「貴方、もしかして女好き?」
「美少女は国の宝ですよ?知りません?」
「知らないし知る気も無いわ」
段々とパチュリーの対応が素っ気なくなってきたので真面目に話すとしよう。
「ではパチュリーさんの能力は?」
「新たに質問を追加するのはズルくないかしら?」
「一度こちらの質問を拒否したので一度くらいなら問題無いと思うんですけどね?」
「ああ言えばこう言うとは貴方の為にある様な言葉ね」
「紅魔館の人達には負けますよ」
あんな個性の強い連中を前にしたら高橋など霞んで見える。
「それで、今の質問には答えてもらえるんですか?」
「『魔法を使う程度の能力』。それが私の能力よ。主に属性魔法が多いわね」
「さっきの水とかと同じやつですか?」
「そんな解釈で良いわよ。細かい事を言っても今の貴方にはわからないでしょうしね」
「やっぱ難しいもんなんですね。魔法って」
「当然よ。一から何かを学ぶのだからそう簡単に理解されても困るわ」
簡単に会得されては魔法使いとしての立場が無い。
「それで、ここから俺は一体何を教えてもらえるんですか?」
「今日はここまでよ」
「え?」
突然の授業中止に高橋は驚いた。
「前にも言ったでしょう。『魔理沙から本を取り返して来てくれたらその度に教えてあげるわ』って」
確かに以前彼女はそう言っていた。
「成程。どの程度教えるかは貴女の自由って事ですか」
「理解が早くて助かるわ」
高橋も口では理解した様ではあるが、その内心で舌打ちした。
(上手く動かれたもんだ。いや、交渉が多少有利に動くと予想して油断した俺のミスか)
別段、高橋に損は無いのだから良い様にも思えるが、そうでもない。
まず第一に前提として魔理沙からパチュリーの本を取り戻さねばならない。これが中々に面倒だ。前提としてまず魔理沙と接触し、その上で本を魔理沙から奪還せねばならないのだから。
そしてもう一つ。それは高橋が主導権を握られたと言う点だ。
「いつでもこちらの都合で教えてもらう」
「条件を満たせば教えてもらえる」
言わなくてもわかる通り、この二つは明確に違う。
一つ目は高橋に主導権があると言う事。
二つ目はパチュリーに主導権があると言う事。
片方が一方的な主導権を握ってしまえば、その相手に選択肢は殆ど無くなってしまう。その選択肢を減らさない為の交渉だったが、これは高橋の言う様に完全なミスだ。
だが、相手にこう言われてしまった以上、このまま言い合いをしても意味は無い。
「わかりました。ではまた本を取り返したらその時は是非お願いします」
高橋が軽く頭を下げて言った。
「ええ。その時が来るのを楽しみにしているわ」
少しだけ笑いながらパチュリーはそう答えた。
「ええ。どうぞ期待して下さい」
心の中で再度舌打ちをしながら強がりで高橋はそう答えた。
「では今日はこれで失礼します」
「あ、ちょっと待ちなさい」
そう言い残して図書館を立ち去ろうとした時、パチュリーが思い出した様に言った。
「どうかしましたか?」
「二つだけ貴方に言っておく事があるわ。一つ、無闇に魔法を悪用しない事。二つ目、私が出す課題を必ずこなす事」
「課題?」
「ええ。別に貴方がこれ以上魔法について勉強したくないと言うのなら無理にとは言わないけれど」
そんな事を言われずとも高橋の答えは決まっている。
「勿論、やらせてもらいますよ」
「そう。なら暫くはさっきの紙無しで水を操れる様にしなさい。やり方は後で教えてあげる」
「わかりました」
素直に従う高橋。
「当面の目標はバケツ一杯分の水を五分間操れる様になりなさい。貴方の魔力量ならそれくらいは出来る筈よ。他を教えるのはそれが出来てからね」
「それと、俺が魔理沙から貴女の本を取り返してから、ですよね?」
「よくわかってるじゃない」
そう言われ、高橋は内心で思った。
(食えない女だ)
そして魔法の練習法を聞き、図書館を去ろうとした高橋をパチュリーが止めた。
「待ちなさい」
「?」
「貴方、まだ肝心な事を答えていないじゃない」
「肝心な事?」
「貴方の能力」
「あー、覚えてましたか」
「誤魔化せると思ったの?」
「可能性はゼロではないでしょう?」
これ以上言い合いをしていても仕方ないと判断した高橋は素直に答える事にした。
「相手の能力をコピーする。それが俺の能力です」
「えらく便利な能力ね」
「元の世界じゃ案外そうでもなかったんですけどね」
苦笑いしながら答える高橋。
それもその筈だ。確かに相手の能力をコピーする。そう聞けば誰でも便利なチート能力だと思うが、それでもこの能力には少なからず条件があるのだ。
(そもそもコピーする能力が無きゃ話にならないからな)
そう。これがそもそもの大前提。いくらコピーをしようとも、その対象物が無ければ出来るものも出来るはずがないのだ。
「その能力を発動するのに必要な条件は?」
パチュリーが続けて聞いた。
「そんな便利な能力、普通ならノーリスクで使えるとは思わないのだけど」
(良い勘してやがる)
確かにパチュリーの言う様に、高橋の能力はノーリスクではない。
「予め対象者が持つ能力を知るのが俺の能力を発動するのに必要な条件ですよ。知らない事にはコピーなんてしようがありませんからね」
「それだけでは無いはずよ」
今度は質問ではなく断言した。
「・・・何故そう思うんですか?」
「簡単よ。貴方が今言ったのは『能力の発動条件』であって、『能力を使うにあたるリスク』ではないもの」
「・・・やれやれ。やっぱ誤魔化すのは無理みたいですね」
「幻想郷ではこれくらいはいつもの事よ。もう少し話術を鍛えなさい」
「これでも人並み以上にはあると思ってたんですけどね?」
「人並み以上の存在が多いもの」
「そりゃそうだ」
言われてみれば妖怪やら何やらが多く存在するのが幻想郷だ。危うく忘れる所だった。
「それで?結局その能力のリスクは?」
「失礼ながら黙秘します」
「リスクが有るのは認めるのね。一応聞くわ。何故拒否するのかしら?」
「自分の弱点をベラベラ喋る馬鹿はいないでしょう?それに、俺が最初に聞かれたのは『俺の能力が何か』です。それ以上の質問に答える義務は有りませんよね?」
「それもそうね。それじゃあその話はいいわ」
あっさりと引き下がるパチュリー。これには高橋も意外だと思った。
「ならギャンブルで勝って教えてもらうわ」
これまた意外な一言だった。
「パチュリーさん、ギャンブルに興味ありましたっけ?」
前回話した時の様子だと然程興味など無さそうに感じたのだが。
「ギャンブル自体には興味は無いわ。でもそれで知識欲を満たせるならやっても構わないのよ」
彼女の根幹は金や名誉より知識を満たす事にあった。
「貴方、ギャンブルが好きみたいな様だし、のってくれるわよね?」
「因みに俺が勝った場合は何をしてくれるんですか?」
「次に貴方がここに来た時に無条件で一日中魔法について教えてあげるわよ」
それを聞いて高橋はふと考えた。
(・・・悪くないな)
自分の隠しておきたい情報を天秤に掛け、得られるかもしれない権利が釣り合うかを考え、高橋は自分にとっては充分に釣り合うと結論付けた。
「交渉成立の様ね。ゲームは貴方が決めて良いわよ。カードにする?それとも他にする?チェスくらいなら有るけれど」
決まった途端に今までで一番饒舌に喋るパチュリーに高橋は少し驚いた。彼女自身も無意識に勝負に対してのテンションが上がっているようだ。
(まぁ、自分が勝つ事を疑ってないんだろうな。既に勝って俺から話を聞ける事を想像してんだろうよ)
ゲームの選択権を高橋に譲った事から間違いないだろうと高橋は予想した。
そしてその予想は間違ってはいなかった。パチュリーは自分が勝つ事を疑ってはいなかったし、寧ろ当然だと思っていた。
簡単に言えば高橋 愛乃と言う男を下に見ていた。しかし、それも無理のない事だ。相手は自分よりも圧倒的に短い時間しか生きていないクソガキで有る上に、何かあってもこちらには魔法が使えると言う明確な力の差があるのだから。
人生経験、そして大差で開いている技量、ちからの差は誰が見ても明白だ。
(なら俺は何を選ぶのが正解か・・・)
数少ない情報から自分が勝てそうな答えを考える高橋。
(この手の相手にはこれだろ)
そう結論づけて高橋は言った。
「魔法、及び能力の使用無しの純粋な身体能力のみの100m走勝負で」
それを聞いた瞬間、パチュリーの表情が固まった。普段から無表情の彼女にしては珍しい。
(やっぱりな)
高橋の予想通りの反応だった。
(パチュリーの今の反応と普段の様子からして身体能力は極端に低いと予想出来る。となれば体力勝負に持ち込めばまず負けは無い)
そうと決まれば自分の得意分野に運ぶのは当然だ。
数秒間考え込んだ後、諦めるように、いや、覚悟を決めたようにパチュリーは口を開いた。
「いいわ。やりましょう」
そうして魔女対人間の100m走が決まった。
そして二人が外に出た時、偶然にも美鈴と出会った。庭の手入れをしていた様だ。
「パ、パチュリー様!?お外に出られてどうかしたんですか!?」
「今から彼と勝負をするのよ。100m走の真剣勝負よ」
「正気ですか!?」
「驚き過ぎじゃねぇか?」
「何を言ってるんですか!パチュリー様に100mを走らせようなんて、子供にスピリタスを一気飲みさせる様な暴挙ですよ!」
(どこまで運動神経に問題あるんだよ)
「五月蝿いわね。いいから美鈴は勝負の判定役でもしてちょうだい」
高橋の考えを他所にパチュリーは美鈴の抗議を押し退けて勝負をしようとしていた。彼女なりにプライドを賭けている様だ。
「・・・わかりましたけど、無理だけはしないで下さいね」
渋々ながらも従い、美鈴は二人から離れた所に立った。丁度100mくらいの位置だ。
「では私が合図したら走ってくださいね。先に私の横を通り過ぎた方が勝ちですよ」
美鈴が叫びながら説明する。
「覚悟は良いですか?」
「五月蝿いわね。気が散るわ」
あからさまにイラついた表情で言われた。
「良いですか?レディー、ゴー!」
美鈴の声が響いた途端、高橋は全力で駆け出した。自分でも悪くないと思う程のスタートだ。
十数秒後、高橋は美鈴の横を駆け抜けた。結果は高橋の圧勝だった。
(・・・ふぅ、ベストタイムは出せなかったが勝ちは勝ち、だよな)
「パチュリー様ー!」
高橋がそんな事を考えていると背後から美鈴の悲鳴じみた叫び声が聞こえた。振り返るとスタート地点から10mくらいの場所でパチュリーが倒れていた。
「おいおい!まさか死んでねぇだろうな!」
慌てて高橋も駆け寄った。
「勝手に殺さないで下さい!生きてますよ!」
「・・・うう、中々やるわね。・・・今日はこの辺で・・・勘弁してあげる、わ」
パチュリーは一言そう言い残すと気を失った。
「パチュリー様ぁぁぁ!」
(・・・まさかここまで虚弱だったとは)
ここまで来ると些かながら申し訳なさを感じる高橋だった。
パチュリーが目を覚ましたのはそれから一時間程経った頃だった。
「・・・ん。あら、ここは?」
「あ、目が覚めましたか?ここは図書館の中ですよ」
寝ていたパチュリーにそばにいた小悪魔が言った。
「少し前に愛乃さんがパチュリー様を抱えてここに来たんです。驚きましたよ、パチュリー様、気を失ってたんですから」
言われてパチュリーは思い出した。そうだ、自分はあの男と勝負をして負けたのだった。
「全く。無茶しちゃダメですよ。心配したんですから」
「・・・悪かったわね、心配させて。あの男は?」
「愛乃さんなら少し前に妹様に会いに行きましたよ。多分まだお屋敷の中だと思いますが」
「そう。なら彼が帰る前にここに連れてきてちょうだい」
「?わかりました。少し探してきますね」
そう言い残して小悪魔は図書館を出て行った。
「・・・我ながら情けないわね」
一人残った図書館でパチュリーは呟いた。
「でも負けた時の約束はちゃんと果たさないとね」
パチュリーなりの意地であり、相手への自分なりの敬意の表れでもあった。
「面白い男だったわね」
誰に言うわけでもなく、再度パチュリーは一人呟くのであった。
その顔が笑っていた事を彼女は自覚してはいなかったが。
まさか前回から約半年も経ってから投稿するとは・・・。
遅すぎだろうに。
もし今までの話を忘れた方は是非過去の話を読み返してみてください。
コメントもいただければ幸いです。
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ありがとうございます。
ではまた次回。