「ん?」
高橋が目を覚まして最初に見たものは天井だった。
「・・・夢オチだったのか?」
もちろん違うことは高橋も理解していた。
「ここは何処だ?紫の奴もいねぇようだし」
辺りを見回すと純和風の造りの家の様だが、高橋以外に人の姿はなかった。
そして高橋が最初に取った行動は至ってシンプルなものだった。
「おい、誰かいるか?」
高橋は近くの襖を開け、他に人がいないか捜索を始めた。
襖を開けた先の部屋に二人の少女がいた。
「あら?もう起きたのね」
紅い巫女服の少女が高橋に向けてそう告げた。
「いや〜さっきは驚いたよね〜。空から人間が、しかも女の子じゃなくて男が降ってくるんだもん」
二本のツノを生やした少女が笑いながら言った。
「期待に応えられなくて悪かったな。幾つか聞きたい事があるんだが良いか?」
「答えるのは構わないけど、あんた、名前は?」
「おお、自己紹介がまだだったな。俺は高橋 愛乃、愛乃で良いよ。助けてくれたようでありがとうな」
「別に良いわよ。私は博麗 霊夢。ここ博麗神社で巫女をやっているわ」
「まともに参拝客が来ない貧乏神社だけどねー」
ツノを生やした少女が瓢箪に口をつけながらそう言った。
「余計な事言うんじゃないわよ!そもそもあんた達が毎回毎回馬鹿騒ぎするせいでしょうが!」
霊夢が貧乏神社と聞いた途端に怒りをあらわにした辺り、この単語は彼女にはタブーらしい。
「賽銭なら後で入れてやるから落ち着けよ。話が進まねぇだろ」
高橋が言うと霊夢は諦めたように言葉を止めた。
「全く、霊夢はおっかないね〜。私は伊吹 萃香。酒を飲むのが好きな鬼よ」
「鬼?俺の知ってる鬼とはえらく違うんだな」
「どんなのを想像したのかは知らないけど想像と現実は必ずしも一緒じゃないからね」
「夢を壊すような事言わないでくれるか?それよりもさっきの話だが、幾つか聞いて良いか?」
「落ち着きがないわね。答えられる範囲なら良いわよ。何かしら?」
「先ずは一つ目、ここって幻想郷であってるか?」
「・・・確かにここは幻想郷であってるけど、あんたは幻想郷に来るのは初めてよね?」
「ああ、その通りだ」
高橋が幻想郷の名を口にした途端、霊夢の表情が僅かに変わった。
「なんで初めて来たはずのあんたが幻想郷を知っているのかしら?」
そう告げた霊夢から高橋はある感情を感じた。未知のものに対しての自己防衛の感情、警戒心である。
(明らかに警戒されてんな。当たり前か、知らないはずの事を知ってる奴がいるんだ。警戒されてもおかしくねぇ)
一方の萃香はと言うと、話を聞いているのかいないのか瓢箪で頻りに何かを飲んでいた。
「俺が幻想郷を知っているのは紫の奴から聞いたからだ」
「紫から?もしかして今回の異変について?」
「察しが良いな。どうも俺には『特別な力』が有るからとか色々あって紫の奴にこの幻想郷の異変とやらの解決を頼まれたんだよ」
「力ねぇ・・・。取り敢えず信用はしておくけど、あんたは幻想郷について何処まで知ってるの?」
霊夢から警戒の色が消えたのか先程まであった威圧感は既になかった。
「八雲 紫が管理していて、妖怪や存在を忘れられた者達が多く存在する世界である事。現在、謎の異変によって『弾幕ごっこ』とやらがギャンブルに変わっている事。以上だ」
「そう。先ずは何処から説明しようかしら」
「ならその『弾幕ごっこ』とやらについて教えてくれ。少しばかり興味があった」
「はいはい。簡単に言えば『弾幕ごっこ』はこの幻想郷で用いられる決闘手段の事ね。妖怪や人間の力関係を対等にするためのルールよ」
「対等にするためのルール、ね。それは確かにありがたいな」
「そしてこの弾幕ごっこのもう一つの特徴としてスペルカードがあるわ」
「スペルカード?」
高橋は霊夢の言葉を繰り返した。
「スペルカードは自分の技を記したもので、予め使用枚数を決めておいてこれを相手に全て攻略されたら負けになるわ」
「『弾幕ごっこ』ってのもなかなかに楽しそうだな。それがどうギャンブルに変わったんだ?」
「きっかけはこれよ」
そう言うと霊夢は一枚の紙を寄越して見せた。その紙には以下の文が綴られていた。
本日より、幻想郷の全てにおいて一切の『弾幕ごっこ』を禁止する。これにおける期限はないものとする。
それに伴い、今後の争いの解決には全て、賭けを用いたゲームをする事。
ルールの詳細については下記の通りである。
・対戦者はゲーム前に予め何かを賭けてからゲームを始める事(当人達が同意すれば如何なるものでも構わない)。
・ゲームの勝敗によって決められた内容は倫理等に反しない限り、絶対遵守される。
・ゲーム中の暴力行為、及び不正発覚は如何なる場合であってもその者の負けとする。
・原則として、ゲームの制限時間は最長で二十四時間とする。それでも決着がつかない場合、他のゲームでの再戦とする。
・ゲーム中の能力の使用は原則として不正にはならないものとする。
・『弾幕ごっこ』に戻したいのであれば私とのゲームに勝つこと。
以上のルールに従って、素敵なギャンブルライフをお楽しみ下さい。
「なんだ?このふざけた一方的なラブレターは」
高橋はため息をつきながらその紙を霊夢に返した。
「一週間くらい前にその紙が幻想郷中のあちこちで配られたみたいよ」
「取り敢えず大まかなことはわかったが、これからどうすりゃ良いんだ?」
「まずは実際にやってみたら?でなきゃ異変解決どころでもないでしょう」
「確かにそうだな。なら霊夢、なんかゲームをしようか」
「ええ。何をしようかしら・・・」
と、霊夢が周りを見渡すと不意に萃香が口を開いた。
「その勝負、私にやらせてよ」
「萃香?急にどうしたのよ」
「いやさ、二人の話聞きながら酒飲むのも少し退屈だからね」
「俺は別に構わねぇよ」
高橋が賛成すると萃香は飲んでいた瓢箪から口を離した。
「なら早くやろっか。私が勝ったら美味い酒でも奢ってよ。愛乃は何を賭ける?」
高橋は少し考えるとニヤつきながら萃香に告げた。
「なら俺が勝ったら一週間萃香は酒禁止な。それか俺の言う事を一つ聞くかだな」
笑いながら言う高橋の言葉を聞いて萃香の顔が凍った。
「それ良いわね。こっちも毎日ここで飲んだくれられて困ってたのよ」
高橋の言葉に霊夢も同意の形を見せた。それには流石の萃香も動揺を隠せないようだった。
「いくら何でも一週間ってひどくない!?私にとって酒は命だよ!?」
「嫌なら勝てばいいじゃない。そうすれば愛乃からお酒貰えるんだから文句ないでしょう?」
霊夢の正論に萃香はぐうの音も出ないようで諦めるように頷いた。
「わかったよ。勝って勝利の美酒に酔いしれてやるさ」
萃香は覚悟を決めたと言わんばかりに真剣な目をすると、高橋に対して告げた。
「この私を怒らせたことを後悔させてやるよ!」
「符の壱『投擲の天岩戸』!」
萃香が自身のスペルカードを叫ぶと同時に辺りは光に包まれた。
「ん?」
光が消え、高橋が目の前を見ると先程まで何も無かった卓袱台の上にある物が置かれていた。
「これって、サイコロか?」
高橋が卓袱台を見ると丼と三つのサイコロ、それと何枚かのコインが置かれていた。
「サイコロね。と言うよりチンチロリンかしら?」
「そうだよ。チンチロリンのルールは知ってるかい?」
「何度かやった事はある。ヒフミで倍払い。シゴロは2倍、ゾロ目は3倍、ピンゾロは5倍の取りであってるか?」
「ついでに言うと、親がヒフミ、一の目もしくは六の目以上なら子は振る事はないってのもわかってるよね?」
確認を取るように萃香は聞いた。
「大丈夫。その辺もわかってる」
萃香の言ったチンチロリンとは、親と子(カジノなどで言うディーラーとプレイヤーの様なもの)の互いが出したサイコロの出目の強さを競う代表的なサイコロ賭博の一つである。
チンチロリンのサイコロの出目とは丼の中にサイコロを三つ投げ、うち二つが同じ目の場合、残ったもう一つの数字が出目となる。
例えば、サイコロを振って三つのサイコロが二、二、五となった場合は五が出目となる。
目の強さは一が一番弱く、六が最も強い。だがこれ以外にもいくつかの役がある。
それが先程高橋が言った、ヒフミ、シゴロ、ゾロ目、ピンゾロである。
最初にヒフミとはサイコロの出目が一、二、三の目で作られる役の事であり、最悪の役である。この役が出てしまったら賭けた(若しくは賭けられた)金額の倍の額を支払うことになる。
次にシゴロ。これは三つのサイコロが四、五、六の目で作られる役。この目が出た場合、賭け金の倍の額を手にすることができる。
そしてゾロ目。これは三つのサイコロが全て同じ目で作られる役。この場合は賭け金の三倍の額を手にすることができるが、一の目のゾロ目、俗に言うピンゾロは特別。掛け金の五倍の額を手にすることができる(ゾロ目の額はローカルルールなどによって様々である)。
この様にそれぞれのプレイヤーは最大三回のうちにいずれかの役を作らなければならない。
「確認も済んだしさっさと始めようぜ。親はどっちにする?」
賭け金代わりのコインを互いに配り終えたところで高橋が問うた。
「それもこれで決めようよ」
丼の中からサイコロを一つ取りながら萃香が答えた。
高橋も残ったうちの一つを手に取ると二人ともサイコロを振った。
二人の手から離れたサイコロは徐々にその動きを止めてやがてその運命の目を露わにした。
「四か」
萃香の出目は四。そして対する高橋の出目は、
「・・・おいおい、マジかよ」
一だった。
「はっはっは、早速ついてないね。それじゃあ遠慮なく振らせてもらうけど、いくら賭ける?」
手の中でサイコロを転がしながら萃香は笑って聞いてきた。
「(コインの数はそれぞれ三十枚。流れを掴む前に馬鹿みたいに賭けるのは危険だな)」
高橋は積まれたコインの山から一部を取ると萃香に質問した。
「始める前に確認したいんだが、賭け金の上限と親の継続についてだ」
「んー、別に特に考えてなかったけど、なら賭け金の上限は十枚。親は連続で二回までにしようか」
「はいよ。なら俺の賭け金は五枚にしよう」
そう言って高橋は五枚のコインを置いた。
「それじゃ、今度こそ始めるよ」
そう言って萃香はサイコロを丼の中目がけて振った。甲高い音を鳴らしながら転がるサイコロ。次第にその力を失い次々と目を天に向けて一つ、また一つと動きを止めていった。
そして運命の一投目。
その結果。
「おいおいおいおい、何だよこれ」
萃香の一投目、なんと初っ端から六のゾロ目、三倍役。つまりは高橋はコイン十五枚を失ったことになる。
「ど頭から不運だね〜。もう一回やったらもしかして次で終わりなんじゃないの?」
萃香はあからさまに馬鹿にした様な笑顔を見せてきた。
「幾ら何でもこれはひどいわね」
霊夢もどこか呆れ顔で言った。
「まだまだ始まったばかりだろうが。勝った気になるには早いだろ」
「そりゃそうか。でももう一回私の親があるのは忘れてないだろうね?」
「勿論わかってる。次は二枚賭ける」
そう言って二枚のコインを高橋が出すと萃香は途端に口を開いた。
「何さ愛乃、さっきまで強気だったくせにもう弱腰じゃん」
「言ってろ。こちとらこれでも今出せるギリギリのラインだ。もし三枚以上賭けてピンゾロなんてことになったらその時点で俺の負け。サイコロも振れないで負けなんざまっぴらごめんなんだよ」
萃香の言葉に高橋は忌々しげに答えた。
そして二度目の萃香の親。その一投目。出目は四、二、一。メナシである。
「んー。さっきので運が尽きたかな」
続けて二投目。三、二、五。またもやメナシ。
後が無くなった萃香、続く三投目。六、四、そして最後の一つは、
「六か」
出たのは六、四、六。つまり出目は四となった。
「惜しいなー。六の目だったらそのなけなしの二枚も手に入ったのに」
明らかな皮肉を込めながら丼を渡してくる萃香。
「今から取り返せば問題ないさ。俺の勝負強さを見せてやる」
そう言ってサイコロを強く握りしめると丼に向かって振った。
「やれるもんならやってごらんよ」
萃香の言葉を気にもとめず丼の中で転がるサイコロを真っ直ぐ見続ける高橋。
一、六、と二つのサイコロが動きを止め目を出すと、残る一つのサイコロに全員の視線が集まった。
そして、やがてその最後の一つが徐々に力を失っていく。
そして、
「一だ。一が出た」
出目は六。それを見るとえらく間抜けな声で高橋が口を開いた。
「せっかく勝っても張りが小さいと意味がないよね」
小馬鹿にした様子でコインを寄越しながら萃香は笑った。
「取り分はどうであれ、勝ちに変わりはないだろうよ」
そして巡ってきた高橋の親。それに対して萃香の賭け金は、
「七枚賭けるよ」
言って萃香は七枚のコインを差し出した。残りの枚数が十七枚の高橋からすればゾロ目を出された時点で負けが決まると言う危機的状況である。
「(この親番、ここが最初の分岐点だな)」
そう考えれば必然的にサイコロを持つ手に力が入る。だが、高橋に焦りの色はない。
そして緊張の第一投目、高橋は丼の中へとサイコロを振った。丼の中で縦横無尽に転がるサイコロが一つ、また一つとその動きを止める。
やがて最後の一つもその動きを止めたサイコロを見るや否や、その場の全員が驚いた。
丼の中には四、五、六の目を出したサイコロ。つまりシゴロ、二倍役である。これによって萃香から賭け金の二倍、十四枚が高橋へと支払われる。その結果、高橋の残りの枚数は三十一枚となった。
「流石だね〜。初っ端から勝負を巻き返すなんて」
「これぐらいないとつまらないだろ?」
萃香の軽口に高橋も適当に返した。
続く二度目の親。萃香は賭け金に先程と同じく七枚を差し出した。
「その運が何処まで続くか見ものだね」
そして親の高橋の一投目。サイコロを振って出たのは六、五、六。出目は五であった。
それに対して萃香の一投目。
三、三、二。出目は二となった。
こうして高橋は更に七枚のコインを手に入れた。
それから数分後、未だに二人の勝負は続き、どちらも引かぬ一進一退の攻防となっていた。
現状、互いのコインは萃香、四十四枚。高橋、十六枚。
枚数差こそあるものの、高橋は一つ気掛かりな事があった。
それは萃香が親の際、こちらが賭け金を高く張った場合にゾロ目が多く出ている事だった。無論それが偶然ではなく萃香が何かしらしている事は察しているが、肝心の内容が未だにわかっていなかった。
そして高橋はある一つの仮説に確信を持っていた。
伊吹 萃香は高橋 愛乃を舐めている。
こちらが高く賭けた時にゾロ目を出すくせに時折こっちが負けない程度に手を抜いていること、そして自分の親の時にのみ行っていること。その二点がこの仮説を裏付けるにこと足りていた。
でなければ、萃香がもし本気なのだとしたら自分はとっくの昔に負けているはずであるからだ。
この事実を知って高橋の中にある感情が浮かんできた。
それは勿論怒り、憤怒の感情。
などではない。
「(これはもしかしたら好機かもしれない)」
寧ろこの状況を喜んでいた。
何故なら、如何に萃香に遊ばれていようと、勝負はまだついていないのだから。
まだ勝てる可能性が残っているのだから。
「(此処ら辺が正念場ってやつか・・・)」
「長考もいいけどあんたの親だよ」
高橋が内心で考え込んでいると、萃香が丼を寄越しながら言った。
「ああ。それにしても良くもそこまでゾロ目を連発できるな。イカサマでもしてるんじゃないだろうな?」
「馬鹿も休み休み言いな。そんなんじゃない。念力みたいなものさ」
「念力?」
「そうさ。念力がサイの目を左右するんだよ」
萃香が何処ぞの班長のような事を言ってきた。
「とかなんとか言ってどうせ何かしら汚ねぇ小細工のイカサマだろう?そんなつまらない嘘はやめろよ」
高橋は萃香を煽るように笑いながら聞いた。案の定、萃香の顔が険しくなった。
「ふざけるな。私たち鬼は嘘が嫌いだ。だからその鬼の名に誓って言うよ。私はあんたの言うイカサマなんてしちゃいないよ」
「なら今までお前がやったのはやっぱりお前自身の能力。どう言うわけかそいつでサイの目を操ってるってわけだ」
予想通りの結果に納得したように高橋は笑った。
「・・・ああ、そうだよ。私の能力は“密と疎を操る程度の能力”。物質だろうと何だろうと萃めるのも疎めるのも私の思うがままになる。それでサイコロの目を萃めたのさ。私がその気になれば何もしないであんたを負かすことも出来たのさ」
余計なことを口走ったと思いながら萃香は答えた。
確かに萃香の言う様にこれが彼女の能力によるものならば先程霊夢が見せた紙にもある様にイカサマでは無い。
「へえ。流石は鬼の子、とんでもない能力をお持ちのようだ」
依然として煽る態度をやめない高橋に怒りが募る萃香。
「それなのになんでそうしなかったのかわかる?あんたみたいな奴に全力を尽くすなんてただの弱い者いじめ。そんなの鬼の名折れよ」
「はっはっは!」
それを聞いた高橋は突然笑い出した。
「何が可笑しいのさ」
「とうとうおかしくなったのかしらね」
萃香と霊夢が笑い出した高橋を不安な様子で見ていた。
「いや、悪い悪い。萃香の冗談があまりに面白すぎてツボに入った」
「冗談?」
霊夢が繰り返す様に問うた。
「ああ。そうだよ。だってそうだろ?相手の実力もわかってないくせに弱い者いじめとか言いだしてんだからな」
「それじゃあ何さ。この状況で私に勝てるって思ってるの?」
萃香が苛だたしげに聞いた。
「思ってるさ。少なくとも流れは今俺に来てる」
萃香の質問に高橋は怯むことなく答えた。
「嘘だと思うなら一つジャンケンでもしてみようぜ」
「何で態々やるのさ」
「なに、俺に流れが来てるってのを証明するだけさ」
言われるがままにジャンケンをすると萃香はグー、高橋はパー。無論高橋の勝ちだった。
「見ろよ。やっぱり俺に流れが来てる」
「たかがジャンケンに勝っただけでそこまで言えるなんておめでたいね」
「いいや。充分すぎる程だよ」
まるで既に勝ちを目前にしていると言わんばかりに高橋は言った。
その姿見た霊夢はあることに気がついた。
「(あら?今愛乃の目が光ったような・・・)」
ほんの僅かな瞬間、高橋の目が黒から青く光ったのである。一方の萃香はというと、高橋のその変化に気がついてはいないようであったが。
「で、俺の親だが萃香は何枚賭ける?」
「(愛乃のあの態度、何か企んでるのは確かだ。ならここは低く賭けて様子を見ようか)」
「まさかとは思うがさっきまで人を弱者呼ばわりしてたくせに様子見だなんてことはねぇよな?」
萃香がコインを置こうとした時、途端に高橋が口を挟んで来た。
「人を小馬鹿にしておいて自分は逃げ腰とは鬼ってのは大したことないのかな?」
高橋の言葉を聞いた萃香の眉がわずかに動いた。
「舐めるなよ!あんたなんか相手に私は逃げも隠れもしないよ!」
こうなればもう売り言葉に買い言葉、萃香は上限いっぱい、十枚のコインを叩きつける様に置いた。
「これなら文句はないよね」
「当たり前だ。ここまでしてもらっておいて文句も何もあるかよ」
「そう、ならいいわ。けどわかってるよね?」
「何がだ?」
「人をそこまでバカにしておいて負けましたで済むと思ってるの?」
「・・・何がお望みかな?」
萃香の質問の意図を察したのか高橋は端的に尋ねた。
「賭け金の追加だよ。私が勝ったら本当なら攫っておくとこだけど、酒と追加で腕一本。それで勘弁してあげるよ」
「萃香、それは幾ら何でもひどいんじゃないの?」
萃香の提案に霊夢が口を挟んだ。
「わかった。それでいい」
が、高橋はこれを二つ返事で受け入れた。
「偉大なる鬼に喧嘩吹っかけて負けたんだ。命があるだけ儲けもんだろ」
高橋の発言に霊夢は呆れるしかなかった。
「とはいえ、痛いのは好きじゃないんでね。ここは是が非でも勝たせてもらうよ」
「だから、そんなにうまくはいかないんだって」
「そうかな?」
萃香の言葉に高橋が疑問符で返した。
「ならそろそろ決着をつけてやるよ」
そう言って高橋はサイコロを取ると勢いよく振った。
「(馬鹿なやつだ。そんな都合良くわけがないんだ)」
萃香がそんな事を考えていると、次第にサイコロがそのは動きを止めた。
─── その結果 ───
「嘘でしょ・・・」
丼の中を見た萃香は無意識的に呟いた。それは見ていた霊夢も同じだった。
二人の顔を見た高橋は笑いながら、
「なんて言うか、『目には目を歯には歯を』ってやつかな」
そう告げた。
高橋の一投目、その結果は、
「ピンゾロで五倍だ。文句無く俺の勝ちだよな?」
丼の中には一の目を出したサイコロが三つ。これによって萃香のコイン全てが高橋へと移された。
つまり、この勝負は高橋の勝利で決着が着いた。
「・・・私の、負け?」
未だ呆然としたまま、萃香が聞いた。
「残念だがその通りだ。そう言うわけで、約束は守ってもらうぞ」
「わかってるよ。私も約束したからには守る。一週間酒我慢するよ」
萃香が覇気の無い表情で答えた。その姿はまるで泣きそうな子供そのものだった。
「何を馬鹿なこと言ってんだよ萃香。人の話は最後まで聞くもんだぜ」
萃香の言葉を否定しながら高橋は笑いながら言った。
「確かにそうね。あんた、何か忘れてない?」
高橋の言葉の意味を理解したのか霊夢も乗ってきた。
「あっ」
記憶を辿ると答えは簡単に出た。
『なら俺が勝ったら一週間萃香は酒禁止な。それか・・・』
「言う事を一つ聞くか・・・」
納得した萃香は思わず呟いていた。
「わかったか?例えお前が負けたとしても俺はお前から酒を取り上げるつもりは最初からなかったんだよ」
いたずらが成功した子供のような顔をしながら高橋は言った。
「なんだよ。愛乃って意外と意地悪なんだね」
萃香も笑って返した。
「不思議なことによく言われるよ」
「それで?愛乃は私に何を命令するの?」
「そうだな。幻想郷の案内も兼ねて萃香、俺とデートしないか?」
「そんなのでいいの?」
「愛乃ったら思ったより大胆ね」
「ははっ、それで萃香、どうする?嫌なら酒一週間我慢でも俺は構わないぜ?」
萃香と霊夢のそれぞれリアクションに苦笑いしながら高橋が再度問うた。
「もちろん行くよ」
「ならさっさと行こうか。んじゃ霊夢、ちょっと出かけて来るな」
「ちょっと!先にお賽銭入れて行きなさいよ!」
「帰ってからな〜」
霊夢の叫びを適当に返しつつ二人は博麗神社を後にした。
自分の書きたいことを書いては消して、書いては消して、そして考えては艦これに逃げていたら約二ヶ月がたっていました。文才の無さに泣きたくなります。
お気に入り登録していただきました夕音さん有難うございます。
誤字、脱字、ご意見、ご感想などありましたらよろしくお願いします。
次回は萃香との人里デート(?)となります。
それではまた次回