東方賭博奇譚   作:シフォンケーキ

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第2話から長いこと間を空けてしました。
これからはもう少し早く更新できるようにしていきたいと思います。
それでは本編をお楽しみください


3話・人里へ行ったらまたギャンブル。

「さて、デートするのは良いが、これから何処に行こうか」

博麗神社の長い階段を下りた愛乃と萃香はこれからの行き先を考えた。

「それは愛乃がどこに行きたいかなんだけど、どこ行きたい?」

「取り敢えずこれからこっちの世界で世話になるんだから人の多いところに行きたいな。異変の話も調べたいし」

「なら先ずは人里だね。これから何かと行くだろうし」

「だったら決まりだな。その人里まで案内してくれよ」

「わかったよ。じゃあ、はい」

そう言って萃香は手を差し伸べた。

「?急にどうした?」

差し伸べられた手を取って愛乃は尋ねた。

「いやさ、ここから人里まで歩いて行くのは遠いから飛んで行こうかなってね」

「は?飛んで?」

高橋が聞き返そうとした瞬間、視界が大きくぐらついた。自分の体が浮いているのである。

「うおぉぉーーー!高ぇぇぇー!」

「ちょっと愛乃、あんまり暴れるなよ。落としたらどうすんのさ」

「急に飛ばれたら誰でも驚くわ!そもそも俺の世界では飛べるような奴なんかいやしねぇよ!」

「幻想郷じゃ飛べないと不便だから飛べる様になりなよ」

ゆっくりと飛びながら半ば呆れる様に萃香は言った。

「簡単に言ってくれるなよ。こっちはただの人間だぞ」

「ただの人間が紫に幻想郷の異変解決なんて頼まれるわけないじゃん」

高橋の反論も虚しく呆気なく萃香に論破されてしまった。

「それより一つ聞きたいんだけど良いかい?」

「お好きにどうぞ」

萃香の言葉に愛乃はつまらなそうに言った。

「最後に愛乃が言った、『目には目を歯には歯を』ってどう言う意味?」

「どう言う意味って?」

「ただ偶然にピンゾロが出たならわざわざあんなことは言わない。だったら愛乃があの時に何かしたって考えるのが当然だよ」

「なかなか悪くない読みだが、何処に自分の秘密をバラす奴がいるんだよ」

「私だって教えてやったんだから教えてくれても良いじゃん」

「まあ確かに、そのおかげで勝てたようなもんだから教えるついでに反省会といこうか」

「反省会?なんでわざわざ反省会なんてするのさ?」

高橋の言葉に萃香は疑問を抱いた。

「俺が勝てたのはお前のお陰って事さ」

「はっ?」

「俺の能力は簡単に言うと相手の能力をコピーして使えるって能力さ」

そう。これが高橋 愛乃が持つ能力である。子供の時ある日を境に手にした能力だ。

「てことは私の能力をコピーしたの?」

「ああ。だけど困ったことに肝心のその能力が何かがわからなかった。何かをしているのは間違いないのにそれを知る術がないんだ。そして考えた。だったら萃香に教えてもらえば良いんだってな」

「・・・」

萃香は無言で返した。

「それでお前を怒らせようと軽く挑発したら予想以上の反応をしてくれたからな。助かったよ」

「成る程ね。私はまんまと愛乃の策に嵌ってペラペラ喋ったってわけだ」

「頭に血が上ったやつにまともな思考が出来るわけないからな。油断させるって狙いもあったし」

(紫に言われた事をそのままってのが癪だがな)

「だからお前の能力がわからなかったら負けてたよ。コピーした後もちゃんとやれるか不安だったしな」

「ならなんであの時に腕一本なんて馬鹿な条件を受けたのさ」

「俺が思うに博打ってのはな、例え自分が死ぬ直前だとしてもそれを相手に悟られちゃあいけないもんだと思ってる。相手に自分が弱いと思われた時点で負けに近づいてるからな。だから無茶だとしても虚勢を張らなくちゃいけないんだよ。それに」

「それに?」

「不条理に身を委ねるのがギャンブルの本質ってやつだろ?」

高橋は迷いなく答えた。

「本気で言ってるとしたら本当に馬鹿だよね」

高橋の言葉に毒づきながらも萃香はどこか楽しそうな顔をした。

「はい、反省会終了。それより萃香、人里ってのはあとどれぐらいだ?」

「もう着くよ。ほらあれさ」

萃香はすこし離れた場所を指差した。

 

「ここが人里か」

人里に到着した高橋は呟いた。

そこはまるで一昔前にタイムスリップした様な光景だった。

「思ったより悪くないな。余計なものは無いし、何より空気が良い」

「気に入ったんなら良かったよ」

「それじゃあ萃香、案内よろしくな」

そうして二人は里の奥へと進んで行った。

それから数十分、萃香に案内されながら高橋はあちこちを見て回ったが、異変解決の手掛かりになるような物は見つからなかった。

「なんか一つくらい異変解決のヒントくらいあるかもと思ったんだがなぁ、情報無しかよ・・・」

 

「おい逃げんじゃねえ!待ちやがれ!」

 

と、高橋が項垂れていると背後から男の怒声が聞こえた。

「なんだ?」

振り返ると二人の男が高橋達の方へと走ってきた。と言うよりは先に走っている男をもう一人が後ろから追っているようだ。

「そこのお兄さん、そいつを止めてくれ!」

後ろから追っている男が高橋達に向かって叫んだ。

「退け!このクソガキ供!」

追われている男も高橋達に叫ぶと、それを聞いた高橋は無言のまま男の前に立った。

「退けって言ってんだろうが!」

自分の進路に割って入ってきた高橋に男は勢いよく殴りかかってきた。

男の右腕が高橋の顔めがけて迫って来る。しかし、高橋は動じない。

数瞬後、ゴンッと鈍い音が響いた。

それは高橋から()()()()

殴ってきた男の方からである。

 

「黙って寝てろよ。クソ野郎が」

高橋がつまらなさそうにいうと同時、男は意識を失いゆっくりと倒れた。

「見たか。これが必殺のクロスカウンターだ」

高橋は男の拳が自分に当たる直前にその拳に合わせて自分の左腕で男を殴りつけたのだ。

「止めろって言われたから殴り飛ばしたけどこれで良いのか?」

「先に殴ってきたのは向こうだしね。にしてもなかなかやるね」

「なんだ惚れ直したか?内角をやや抉るようにして打つのがコツだな」

高橋が言いながら左腕でジャブを打っていると後ろから追っていた男が話しかけてきた。

「お兄さん、その男を捕まえていただきありがとうございます」

「いや、俺はただそいつが殴ってきたからやり返しただけですよ」

「それでも助かりました。本当にありがとうございます」

「そうかしこまらんでも。えーと、あなたの名前は?」

「申し遅れました。私、この先の賭場で働いています兵八と言います」

「ご丁寧にどうも。俺は高橋 愛乃、そっちは萃香だ。それで兵八さん、こいつは何をやらかしたんだ?」

「実はこの男、博打で負けたのに金が無いって逃げ出したんです」

「そいつは穏やかじゃないな」

「ええ。なので本当にありがとうございました。もし機会があればうちの店にお越し下さい」

「そん時は世話になりますよ」

「はい。ではこれで失礼します」

言うと兵八は倒れていた男を引きずりながら来た道を帰って行った。

「んじゃ、気を取り直してまたどっかぶらつくか。・・・どうした萃香?」

「愛乃、さっきの奴どう思う?」

先程から黙ったままだった萃香が口を開いた。

「・・・どう思うったって」

言われて高橋は先程の男、兵八のことを思い返した。人当たりの良さそうな物腰や態度、そして今までの会話で感じたことは一つであった。

「多分萃香が思ってることと一緒だよ」

「・・・そう。それで、この後はどうする?」

「まぁせっかく誘われたんだ。早速その賭場に行ってみるか」

そう言って二人は先程兵八が戻って行った方へと向かった。

暫く進むとそれらしき二階建ての木造の店が見えてきた。

「店の名前が『運否天賦』とはまた酷いセンスだな」

「まんまだね」

二人は看板に書かれた店の名前を見るとそんな感想を言いながら暖簾をくぐった。

「結構空いてるな」

「まだ昼だからね。夜になればもっと此処も混んでくるんじゃない?」

店の中に入り、辺りを見渡すとちらほらと人の姿を見る程度でそこまで多くはいなかった。

「おや?貴方は先程の高橋さん。それに萃香さんも。早速お越し頂きありがとうございます」

高橋達の姿を見ると先程の男、兵八が相変わらずの態度で話しかけてきた。

「ああ。折角招待されたのに来ないってのも失礼だろうってね」

「そんな、とんでもございません。我々は皆様が好きな時にお越し頂き、この店で楽しんでいただければそれで幸せでございます」

「そうかい。なら遠慮無く遊ばせてもらうよ」

そう言って店に上がると高橋と萃香は店の中へと入っていった。

店の中を見渡すとポーカーやブラックジャック、丁半博打などが店のあちらこちらで繰り広げられていた。

「ここは二階建てみたいだが二階は何か無いのか?」

「二階は雀荘となっておりますよ。残念ながら開くのは夜だけですが」

「そいつは残念だ。なら何をするかな・・・」

「お決まりになられていないのであれば僭越ながら私からよろしいでしょうか?」

「ん?何ですかな兵八さん」

「私と高橋さんとで一勝負いたしませんか?勿論高橋さんが勝てば金を稼ぐ事も可能ですよ」

「そう言われると一ギャンブラーとしてはやらざるを得ないな」

兵八の言葉に高橋は軽く笑って返した。

「では決まりですね。お手柔らかにお願い致します」

「それで?これから始めるゲームは?」

「我々の間では『高低博打』と呼ばれているものでございます。こちらです」

高橋達を先導しながら告げる。

「丁度場所も空いたようです。早速始めましょう」

二人が話していると、丁半博打をしていた客が帰るのを見て兵八はサイ振りをしていた男に話しかけた。

「辰さん、これからこちらの方と『高低博打』をしたいので、すみませんがサイ振りをお願いできますか?」

「あいよ。俺はいつでも構わねえ」

辰と呼ばれた男は表情を変えることなく答えた。

「では、ルールの説明を致します。今から高橋さんには二つのサイコロを振り、出た目の合計がいくつかを予想していただきます。二から六なら『低』、七から十二なら『高』となり、そのどちらか片方に賭けていただきます。『高』か『低』に賭け、予想が当たれば賭け金と同額を得ることができます」

「成る程、だから高低か」

「はい。そしてここからが最も大事な部分になりますが、もし出目が十二か二の時に高橋さんが『高』か『低』かを的中させられれば、賭け金の三倍を得られますが、その逆ならば賭け金の三倍をお支払いいただきます」

「じゃあもし仮に俺が『低』に一万賭けて出目が十二なら三万を失うってことか?怖いルールだな」

「一度に大金が動けばそれだけで皆様のギャンブルに対する熱は増しますからね。それとこの博打に賭け金の上限はございませんので、ご自由にお張り下さい」

「ああ、わかった」

「それから一つ。始める前に重要なことを言っておきます」

先程までとは違い、影が指した様な雰囲気で兵八は言った。

「通常、現在の幻想郷のルールにおいて、不正の発覚はその時点で敗北となりますがここではそれはございません。その代わり、いかなる理由でも罰則金として現金で百万円を支払っていただきますがよろしいですね?」

「成る程、負ける代わりの罰則金(ペナルティー)か。良いよ、その代わりそっちも同じ条件を受けるんだよな?」

「勿論でございます。と言っても私達はイカサマなど致しませんし、高橋さんがその様なことをなさるとは思いませんが、ここの規則ですので何卒、お気を悪くなさらないで下さいませ」

「そっちこそお気になさらず。それよりさっさと始めましょうや」

「では始めましょうか。辰さん、お願いします」

「サイコロ入ります」

辰の一言でサイコロはツボに入れられそのまま床に敷かれている白い布の上に伏せられた。

「さあ、張った張った!高か、低か!」

「さあ高橋さん、一回目、どうなさいますか?」

「じゃあ手始めに高に五万賭ける」

兵八の言葉を聞きながら高橋は答えた。

「開きます」

そう言い、辰はツボを開く。

「一、二の低!」

出目は低。よって今回は高橋の負けとなった。

それを隣で見ていた萃香がここに来て初めて口を開いた。

「愛乃、あいつ何か怪しいよ。気をつけな」

そんな事を小声で高橋に言ってきた。

「安心しろ。わかってる」

言われずともわかっていると言わんばかりに高橋は答えた。だが、それも当然と言えるだろう。なにせこれは相手が用意してきた博打。イカサマや裏があると考えるのは大前提である。

続く二回目、辰がサイを振ると同じく高橋は高に五万を賭けた。

「三ゾロの低!」

結果はまたしても低。

「しかし高橋さん、なかなかついていませんね。確率五十パーセントとは言え、立て続けにはずれとは」

兵八が見え透いた嫌味を言ってきたが、高橋は気にもとめず一つのことを考えていた。

「おや?何を悩まれているんですか?」

「いや、大したことじゃない。さっさと続けようぜ。次は高に六万賭ける」

高橋、三回目にしてまたしても高を予想。

高橋が答えると辰がツボを開いた。

「一、二の低!」

「おやおや、残念でしたね。なんと不幸か」

サイの目を見るや否や兵八が明らかに嘲笑った様子で言ってきた。

「なに言ってんだ、俺はまだツイてるさ。だって今のがピンゾロだったら俺は十八万も持っていかれてたんだからな。しかし、こうも負け続けると泣けてくるな」

「もうお辞めになりますか?」

「いや、ただ一つ言いたいことがあるんだがいいか?」

「ええ。構いませんよ」

「なら遠慮無く。そのクソ下手な芝居はやめろ」

高橋の言葉を聞いて、兵八は言葉に詰まった。

「何を仰りたいのかよくわかりませんが?」

「鬼の前で嘘はつくもんじゃねぇよ。お前、演技下手過ぎんだよ。そのいい人ぶった態度をやめろ」

先程萃香が高橋に聞いた『さっきの奴どう思う?』とはこの事を指していたのである。萃香も最初に出会って会話している時から兵八の違和感に気づいていた。

「仮にあなたの言う通り、私が演技をしていたとして、何の得があると言うのですか?」

「んー。例えばの話だが、相手に好印象を与えておいて、油断させてから店に招いて有り金を搾り取れるだけ搾り取るって魂胆なのかもなぁ」

「・・・」

兵八の顔が大きく歪んだ。明らかな動揺、図星である。

「沈黙は是なりだ。何をしようと勝手だがお前なんかじゃ俺には勝てねぇよ」

「・・・調子にのるなよ、クソガキが」

途端に口調が変わった兵八が唸るように言った。

「俺の演技に気づいたからって勝った気になってるようだが、現にお前はこうして俺とギャンブルしてる!それは罠にかかってるも同じだろうが!」

「自惚れるなよ。お前程度のおつむで俺を罠にかけれるなんて思うな。俺達がここにいるのはお前に騙されたからじゃない。お前を潰す為だ」

「は?」

「人を簡単に騙せると思ってるその考えが気に入らない。だから俺はお前を潰す為に来たんだよ」

「俺を潰す?能書きはいい!未だに一銭たりとも稼げてねぇ奴がやれるもんならやってみろよ!ほら、さっさと賭けな!」

さっきまでとは打って変わり、凄まじい剣幕で食ってかかって来た。(元々こちらが本性ではあるが)

「高に二十万」

ここに来て高橋は最高額二十万を賭けた。

(クズがっ!人を散々コケにしやがって。だがお前に勝ちはない。その金はいただいた!)

「開きます」

兵八が考えていると同時にツボは開かれた。そして、

「二、四のて・・・」

辰がツボを開き、出目を確認しようとした時、高橋が動いた。辰が持っているツボを奪い取ったのである。

「貴様、何をしやがる!」

辰が怒鳴りながら高橋に殴りかかったがその拳が高橋に当たることはなかった。

「大人しくしてなよ」

隣にいた萃香が高橋に当たる直前で止めたからである。

「助かったよ萃香」

「惚れ直した?」

「これ以上ないぐらいにな」

萃香の軽口に答えると兵八が口を開いた。

「これは一体何の真似だ?クソガキ」

「その質問にはお前が答えろ。さっきあんたは確かに言ったよな、『私達はイカサマなど致しません』と。ならこれはどういうことだ?」

そう言って高橋は奪い取ったツボの中へ手を入れると中から何かを引きちぎり、兵八へと見せた。

それは細い糸だった。

「こういうのは『毛返し』っていうんだっけか?」

高橋が言う『毛返し』とは丁半博打などで使われるイカサマの一つである。ツボの中に糸を張っておき、その糸にサイコロを引っ掛けて出目を変えるというものである。

「慣れてるやつならある程度はサイの出目を操れると聞いたことがあるが、これはその保険か?」

「何のことかわからんな」

「惚けるな。お前がこの店の人間って時点でそこの馬鹿とグルなのは必然だ。『私達』と言ったのが何よりの証拠。兵八さんよ、イカサマは現金で百万だ。きっちり払ってもらうぞ」

「ッチ、クソが」

毒づきながら兵八は現金で百万を放ってきた。

「これで気はすんだろ。さっさと帰ってくれ」

兵八がその場を離れようとした時、

 

「ふざけるな、この百万でもう一勝負だ」

 

「はっ?」

兵八は自分の耳を疑った。

「聞こえなかったのか?百万を賭けてもう一勝負だ」

「お、おい。待ってくれよ。こちとらその百万でも大問題なんだ。もしもこれ以上負けて損害を出したら俺は・・・」

「んな事俺の知った事じゃねぇ。最初に言ったよな?俺はあんたを潰す為に来たって。そもそもこうなったのはお前自身のせいだろうが。そのくせ自分が危なくなったら命乞いだ?通るかよ、そんなもん!」

「・・・」

高橋の言葉に圧倒された兵八は渋々ながらも元の席に着いたが頭を抱えて俯いていた。

それは自分のこの現状に危機感を感じているから()()()()

(やった!うまくいった!計算通りだ!)

この現状が自分の狙いだと気づかれないようにである。

元々兵八はさっきの勝負、イカサマがバレても構わないと考えていた。つまり、百万を取られても問題無いと思っていたのだ。答えは簡単だ。

たとえ今取られてもその後で倍にして取り返せばいいのだから。

(あいつは今イカサマを見破って気が緩んでいるはずだ。そのスキをつけば勝てる)

兵八が用意していたイカサマは一つではなかった。寧ろ先程の『毛返し』はもう一つのイカサマを疑われない為のブラフである。

「・・・本当にその百万を賭けるのか?」

「しつこい。あんたが潰れるまでやるんだ。もちろん百万賭けるさ」

高橋の言葉を聞いて兵八は内心でほくそ笑んだ。この馬鹿めと。

「サイコロ、入ります」

辰がサイコロを振り、ツボが置かれた。

「その前に萃香、一ついいか?」

「何さ?」

「──────────── 。頼めるか?」

高橋が萃香に何かを耳打ちした。

「後で酒奢ってくれるならね」

「何を話してるか知らないが、高か低か早く賭けてくれ」

まるで覇気が無い声で兵八は言った。

「高」

高橋が迷いなく言った。

「それではツボ開きます」

辰がツボを開き、出目が姿を見せようとした時、またしても動きがあった。

しかし今度は萃香が動いた。

目の前の床を勢いよく殴りつけたのだ。

「「何っ!?」」

突然の萃香の奇行に兵八と辰は驚いた。

床を殴った事で凄まじい轟音と砂埃が舞い上がった。それにつられ、周りの客たちも集まって来た。

「これで良いの?」

この行動の理由は勿論ツボが開く前、高橋が萃香に言ったからである。『ツボが開く時に床に穴を開けてくれ。頼めるか?』と。

床に大穴をあけた張本人は何もなかったかのように高橋に尋ねた。

「勿論だ」

高橋がつまらなさそうに言った。

「この野郎!またふざけた真似しやがって!」

兵八が高橋に向かって叫んだが、気にも留めずに返した。

「それはこっちのセリフだ。このタコ」

「んだとコラ!」

「キレるのは勝手だがその前にこれはどういうことか説明しろよ」

そう言って高橋は先程萃香があけた穴を指差した。

そこには気絶して倒れている一人の男がいた。

「イカサマも結構だが、やるならもっとうまくやるんだな」

「穴熊ってやつだね」

萃香の言った『穴熊』は先程の『毛返し』よりも有名なイカサマと言えるだろうものである。壺振りの目の前に敷かれている布の下の床に小さな穴を開けておき、床下に潜んだ人間がその穴から針などでサイの目を変える。これが大まかな『穴熊』の流れである。

「さて、イカサマのペナルティーだ。もう百万いただこうか」

この言葉を聞いて兵八は初めて演技ではなく本心から恐怖心を覚えた。しかし、それも無理のないことだろう。自業自得とはいえ、立て続けに二百万もの負債を店に与えたのだ。そうなれば、この後の自分の身の安全も保障できないのだから。

(ダメだ、これ以上こんな奴に関わったら、殺される。食い殺される・・・)

当然、兵八にしてみればこれ以上の損害は良いはずがない。だが、自らが提示したルールによって払わなければならない。罰則金を。

(どうしたら良い?これ以上騒ぎが大きくなれば店の信用問題になる。だが、金を払わずに済ませられる方法もない・・・)

「これは一体何の騒ぎだ?」

 

声のした方を見ると一人の男が店の奥から出て来た。

「か、貸元!」

貸元と呼ばれた男の顔を見るや否や、兵八が今まで以上に焦りの顔が見えた。

「何の騒ぎだと聞いている」

「これは、その・・・」

兵八が言葉に詰まる。当然だ。自分から勝負を仕掛け、イカサマをした挙句に二百万程負けましたなどと誰が言えようか。

(右目に刀で切ったような傷、見るからにヤクザ顔だな)

一方の高橋は呑気にそんなことを考えていた。

兵八の明らかな焦り顔を見ると貸元と呼ばれた男は高橋へと視線を向けた。

「兵八が答えないのならば仕方がない。客人、一体何があったのですか」

「そこの馬鹿が二度続けてイカサマ仕掛けたは良いがそれがバレて二百万程俺にプレゼントしてくれたってだけですよ、旦那」

「ほう、今の話は本当か?兵八」

名前を呼ばれた瞬間兵八の体が大きく震えた。それだけこの男の言葉には威圧感があった。

「・・・はい。その男の言う通りです。誠に申し訳ございません」

言って兵八は深く頭を下げた。

「ふむ。ではその床の穴も客人がやったのか?」

「イカサマを暴く為に少々手荒にやったが俺は悪いとは思ってませんよ」

「いや、それに関してこちらは言及するつもりは無い。それより二、三よろしいか?」

貸元は兵八の隣に座ると高橋に尋ねた。

「答えられる範囲でよければ」

「では単刀直入に聞こう。なぜイカサマに気づけたのか」

貸元の質問に高橋は少し考えた後に答えた。

「今回の博打、『高低博打』は一見丁半博打とルールは似ているように見えるが実際はそんなことはない。さっき兵八が言っていたが、確率五十パーセントってのはあり得ない」

「なぜそう思う?」

「紙にでも書けばわかりやすいがサイコロを二つ振った場合、組み合わせは全部で三十六通りある。そのうち六以下がでるのは全部で十五通り。つまり六、七割の確率で高が出る筈なんだ。だが、何度やっても出るのは低だけだった。そこでイカサマを誤魔化すための嘘だとほぼ確信した」

「成る程。兵八、口を滑らせたな。お前のその油断が負けに繋がったのだ」

貸元の言葉に兵八はぐうの音も出なかった。

「後はそこのツボ振りのミスにも救われた」

「俺が?」

突然自分に話を向けられて辰も焦った。

「あんたがサイ振りをして、開く時にあんたはサイよりも毎回ツボの中に視線を送っていた」

「どういう事さ」

隣にいた萃香が聞いた。

「普通ツボが開く時ってのは皆、サイコロに視線が行くもんだ。でもこいつはサイコロよりもツボを先に見ていた。しかもツボの中を俺には見えない様にな。そんな事をするのは何かイカサマをしてるって証拠だろうが」

「辰、お前さんまでなんてザマだ」

「・・・申し訳ありません」

辰も兵八同様深く頭を下げた。

「それで客人、お前さんは『二度続けて』と言ったな。二度目は『穴熊』であろうが、それはどうやって見破ったのだ?」

「これに関してはそこで寝てる奴に後で言っといてくれ。『二度とやるな』って」

「何故かな?」

「床下で隠れてる奴が物音たててりゃそりゃあイカサマもバレるって話ですぜ」

「・・・お前達三人、後で話がある。顔を貸せ」

貸元があからさまな呆れ顔で二人に言った。

「そいつらの処分なんざどうでもいい。それより兵八、この二百万でもう一勝負だ」

兵八達の会話にしびれを切らした高橋が口を挟んだ。

「まっ、待ってくれ、もうとても出来る状況じゃない。わかるだろ?」

「わからねぇな。イカサマのタネが無くなったら勝負は出来ないってか?俺は一度でもこれでやめだなんて言った覚えはないぞ?それに賭けるだけの金はあるんだ、ゲームを続ける権利くらいはあるだろう?」

「だ、だがよ!」

「兵八よ、受けてやりなさい」

貸元が兵八の言葉を遮るように言った。

「ですが貸元!」

「この男の言い分、儂にはわかる。確かに彼に権利がある以上、こちらの勝手な都合で中断ともいかぬ。それにこれ以上事を荒立てれば周りの客への店の信用問題になる。ならばこれはもう受けるしかあるまい。何も難しいことはない。お前が勝てば良いのだ」

「流石は旦那、話がわかるぜ。さあ早くやろうぜ」

貸元がこう言ってしまえばもう兵八には逃げる術などなかった。よって、渋々高橋の勝負に応じるしかない。

「勝負はさっきと同じ『高低博打』一回きり、賭け金は二百万で良いな?」

「好きにしろ」

やさぐれた態度で言葉を返す兵八。

「ならもう一つ追加だ。サイ振りはお前がやるんだ。自分の運命を賭けるんだ、自分でやれば文句もないだろ」

「チッ。ふざけやがって!あとで後悔しても文句言うなよ!」

言って高橋から渡されたツボとサイコロを受け取り、兵八はサイを振った。

「さあ高か低か!」

兵八の言葉に対し、高橋の答えは。

「低だ」

ここにきて初めての低予想。

「開きます」

そう言って兵八は手にしていたツボを開いた。高橋は金を、兵八は自身の今後を賭けた一戦。その結果は。

「ほう、なんと劇的なことか」

「やっぱ面白いやつだね、愛乃は」

二つのサイコロが出した目は赤のピン。ピンゾロ。高橋の勝ちであった。

「そんな、・・・夢だろ?」

「ところが残念、これが現実だ。さて、三倍ルールで六百万いただきます」

「そんな、嘘だ、こんなことあるわけがない!何でこんな都合良くピンゾロが出るんだよ!」

「それはお前の運がないからだろ。それを証拠もなくイチャモンつけんじゃねぇよ」

「んだと!」

「見苦しいわ。兵八よ」

駄々をこねる兵八に怒りを込めた口調で貸元が口を開いた。

「お前さんは二度もイカサマを暴かれこの醜態を晒し、剰え相手の情けで得られた唯一の好機すら逃した。そんな無能にこの店にいる資格は無い。後で荷物をまとめて出て行け」

情けのカケラも見せずに貸元は言った。

しかし、この短時間で六百万もの損害を出したのだから無理もない。

「だからと言ってお前が出したこの損害が無くなるわけではない。それは必ずお前に支払ってもらうぞ」

「・・・う、そだ」

一言そう言うと兵八はそのまま気を失って倒れた。

「ふん、情けない男だ。客人よ、おめでとう。六百万であったな。辰、取ってこい」

「は、はい!」

「しかし、よくもまあ此処までやってくれたものだ。この短時間で六百万などという大金を稼いだ奴はそうはおらん。お陰でこっちは大損だ」

辰が店の奥へ行くと貸元が言った。

「それは褒め言葉として受け取らせてもらいますよ」

「ところでどうだ、その六百万で一つ儂と勝負をせんか?お前さんが勝てばその金が千二百万まで跳ね上がるぞ?」

「せっかくのお誘いですが、お断りします」

「訳を聞こうか」

千二百万。誰もが浮かれるであろう大金。そのチャンスを何故自ら捨てるのか。それに対して高橋は一言で答えた。

「水を求め過ぎれば水に溺れるんですよ」

高橋が言うと同時に店の奥から辰が戻って来た。

「ほら、約束通り全部で六百万だ」

そう言って辰は高橋の目の前に百万の束、計六百万を差し出した。

「確かに。それじゃあ俺たちはこれで失礼しますよ。行こうぜ萃香」

差し出された金を上着の中へしまうと高橋と萃香は店を後にした。

「水を求め過ぎれば水に溺れる、か。ふふ、若僧が生意気なことを言う」

「どう言う意味ですか?」

「人間にとって金、もっと細かく言えば欲というのは人を動かす活力の根源じゃ。それ無くして人は生きられん。しかしそればかりを求め過ぎてしまえば破滅へと繋がりかねん。奴はそれを水に喩えたんじゃよ」

人は水が無ければ生きられず、水に飲まれれば溺死する。それと同じ様に人は欲という活力が無ければ生きられず、欲に飲まれれば破滅する。それが高橋 愛乃の考え方である。

「ようするに何事も引き際が肝心ということじゃ」

そう。要約すればただそれだけのことなのだ。考えればそれほど難しいことではない。なのにそれを皆出来ないのだ。

「一度欲に溺れればもう助かる事はおろか、引き返す事も出来ん。まだいける、まだいける筈と在らぬ幻想を求めてしまうからな」

「でもそんな奴らがいるお陰で俺たちが儲けられるんですよね」

「良くわかっておるな。その通りじゃ。だから儂等は客を大事にせねばならん。それだけは忘れるなよ」

そう言って貸元は気絶している兵八を抱えて店の奥へと戻っていった。

 

 

 

「ところでさ、愛乃」

「ん?」

「さっきの勝負の最後のピンゾロって愛乃が何かしたの?」

店を後にしてしばらく歩いていると萃香が突然聞いて来た。

「いや、ただツイてただけさ」

戯けた様に答えた高橋を見て萃香は「そっか」と軽く笑うとどんな酒を奢らせようかと考えながら人里の案内を再開したのであった。




書きたいことを詰め込んだら文字数が一万を超えてたり、萃香とデートとか言いながら「あれ?萃香のセリフ少なくね?」となったり文才の無さが目立つ気がする・・・。
あと、お気付きの方もいると思いますが、タイトルを一部変えさせていただきました。理由としましては最近同じタイトルの作品があることを知った為です。(もっと早く知っとけよ)

お気に入り登録していただいた自由マークIIIさん、ありがとうございました。

では次はなるべく早く更新したいと思います。
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