上野公園入り口にて、一人の少年が待ち惚 けを喰らっていた 彼の名は北条 刀(ほうじょう かた な)。
歳は18。
幼い顔立ちの上、長い髪を後ろ に結っているために一見すると異性に見えなくもなかった。
「はて・・・、待ち合わせの場所は本当にここでしょうか?」
四尺(1.2m)はあるであろう長い包み を背負い直すと、辺りを見回す。
周りにいるのは花見目当ての人間だけで、 迎えらしき人物の姿は見えない。
桜舞い散るこの季節、この上野公園にも満開の桜が立ち並んでいる。
想像上の桃源郷を形にしたような光景には、しばし目を奪われたが、1時間近く見ているとさすがに飽きてくる。
一度、大きな溜め息を吐くと、懐から一枚の紙を取り出す。
軍から自分宛に一通の手紙が届いたのが全ての始まりだった
その内容は、突拍子もない、それでいて半ば強制的な感がある。
『北条 刀 ○月×日より帝国華劇団 花組体験入隊されたし 藤枝 あやめ』
帝国華劇団。
帝都を異形の化け物達から守るための部隊。
軍隊すら退けなかった化け物達を、彼らはいとも簡単に嬲り殺す。
戦車の大砲ですら倒せないモノを刀で、薙刀で、あるものは拳、機関銃
・・・そして超能力?
噂によると美少女達の集団という説もあり、世間の興味は尽きる事はない。
その帝国華劇団に、何故自分が選ばれたのか?
今から考えても訳がわからない。
そして真相を確かめるべく呼ばれてきたものの、こうして1時間近く待ち惚けをくらっている
こうなったら手紙の事など忘れ、このまま花見見物と洒落こもうか?と、公園に足を進めた時
突然、爆音と共に人々の悲鳴が耳を打った。
と同時に人の波が押し寄せてくる。
訳を聞こうと逃げる男の手を掴む。
「待て、これは何事か!」
「は、離せ化け物ぉ!」
半狂乱の男は刀の手を振り払うと、人の波に紛れて逃げていった。
他の人に聞こうと辺りを見回す。
逃げ惑う人々の表情を見れば、とても会話ができる状況ではない。
「くっ!」
事の真相を探るべく、我先にと逃げる人々の波を掻き分 け、公園の中へと急いだ。
全く人通りのなくなった桜道を走る中、また一際大きな爆音が聞こえた。
「そこか!」
すぐさま方向転換すると、爆音の中心点へと走る。
桜並木を過ぎ、屋台が立ち並んでいた広場に出ると、十分ほど前には人々が賑わっていたその広場は焼け野原となり
その中心には、異形の化け物達が存在していた。
「わ・・・、脇侍!?」
噂には聞いていた帝都に巣くう化け物。
その姿は戦国時代の足軽を連想させる。
しかし、戦車並みにあるその巨体は、人とは比較できない。
アレは人が敵う物ではない、と自分の全細胞が警告している。
無意識の内に体が下がる。
逃げろ、逃げろと体が脳に命令している様だった。
自分もまた上野から避難しようと決めかけた時、子供の泣き声が聞こえた。
泣き声のした方向を見ると、逃げ遅れた子供達の姿があった。
泣き声に反応したのか、脇侍の一つ目がソレを捕らえる。
脇侍は破壊活動を中止すると、ゆっくりとした動作で子供へと近づく。
一歩、また一歩と進むたびに子供の表情が凍りつくのが解る
「やめろ・・・」
カラカラに乾いた口が呟く。
脇侍は聞こえていないのか言葉が通じないのか、全く歩を止める気配は無い。
脳は『助けろ』と命令している。
だが体は『逃げろ!』と啼いている。
《どうする?》
また一歩、脇侍が進む。
《逃げろ!》
子供の表情が凍りつく。
《助けろ!》
脇侍が刀を握る。
その時、自分の手が無意識の内に背の包みを握る。
すると先程まで頭に響いていた声も、体から発せられた警告も消えた。
動かなかった体も、冷え切った心も全て解放された。
そうだ、始めから答えなど決まっている!
包みを引き剥がし、刀の柄を握ると、四尺以上ある刀を一気に引き抜く。
鋭い鞘走りの音と共に、広場へと駆け下りた。
既に刀を振り上げている脇侍の正面に踊り出る。
好都合、その空いた腹に斬りかかる!
鋼鉄同士が磨れ合う不快な音と共に、確かな手応え
「でぇえええええええ!」
裂帛の気合と共に一閃すると、脇侍は胴から真っ二つに別れて地面に崩れ落ちた。
「でえええい!」
とどめに頭部らしき箇所に刀を突き立てる。
火花を散らせながら二度、三度と突き立てると、脇侍の一つ目が光を失う
完全に息の根を止めたのを確認すると、子供の方へと振り返る。
そこには、先程と全く表情が変わらない子供達の姿があった。
「っ、馬鹿者!早く逃げぬか小童!」
子供達はひっ!と呻くと泣きながら走り去っていった。
が、一人だけ動かない少女がいた。
「っ!」
再び怒声を浴びせようとした時、大きな影が2人を覆った。
刀は背後の確認もせずに少女の元へ駆け、庇うように抱き上げる。
と、同時に大きな衝撃が襲った。
「がはっ!」
脇侍の腕から放たれた砲弾が地面を穿った。
直撃こそ避けたものの、爆発の衝撃によって受けたダメージは深刻だった。
土煙が漂う中、腕の中の少女を見る。
地面に転がった所為で泥だらけ擦り傷だらけにはなっているが、無事だった。
「良かった・・・」
自分でも気がつかない内に言葉が出ていた。
少女を腕から解放すると、公園の出口を指差す。
「逃げろ。」
幸い、この土煙で脇侍達も自分達を確認できないだろう。
だが、時間がたてばすぐに見つかってしまう。
その前にこの少女だけは逃がさなければならない。
「お兄ちゃんは?」
突然発せられた言葉に、ほんの少し動揺する。
「私の事は心配するな。」
さぁ行け、と拒絶するかのように少女の体を押す。
すると少女は、首をふるふるっと振ると刀の腕を取る。
「一緒に逃げよ、早く!」
だめだ、先程の衝撃で痛めたのか、足が痺れて感覚が無い
歩くのが精一杯のだろう。
このままでは、この少女も巻き込まれて死んでしまう
そんなことになるならば切腹した方がマシだ。
今、自分に出来ることは…この少女が逃げる時間ぐらい稼ぐ事だろう
こんな時、どうすれば説得出来ただろうか?
出来るだけ優しい表情と声で告げる
「大丈夫。後からすぐに追いかける」
精一杯の虚勢を張りながら、身の丈ほどある刀を杖にして立ち上がると、少女の頭を優しく撫でる。
「本当に?」
上目遣いで見つめる少女に頷く。
すると少女は、たどたどしい足取りで出口へと走って行った
少女が見えなくなると、大きくため息をつく。
立っているのがやっとの状態の今、虚勢で模った闘争心も壊れ、もはやこの手には何の力も残されていない。
だが、答えは始めから決まっている。
救うと決めたのなら、最後までやり遂げて見せろ!
やがて土煙ははれ、自分の身を隠す場所はなくなった。
正面の脇侍を見据える。
その腕にある銃口、そこから出る砲弾は間違いなく自分を木っ端微塵に吹き飛ばすだろう。
よける体力も、身を隠すべき場所もない。
自分に出来る事は、刀をゆっくりと構える。ただそれだけ。
やがて大きな爆音と共に、銃口から鉄の塊が飛び出してくる。
スローモーションで自分に向かってくる鋼鉄の死神。
しかし、この胸には不思議と恐怖はない
死を覚悟し、目を瞑ろうと瞼を下ろそうとしたとき
風に舞う一枚の桜の花びらが見えた。
そして目を瞑ると同時に、雷鳴の様な爆音が聴こえた。
「っ・・・・・、?」
いつまで経っても肝心の傷みが来ない事を不思議に思い、ゆっくりと目を開ける
すると目の前に、舞い散る桜を身に纏った、一人の少女の姿が在った。
そして私は、自分が死んだことも忘れ、ただ目の前の少女に見惚れた。
初投稿…緊張しました!