鬼剣の王と戦姫   作:無淵玄白

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というわけで後篇です。


『タトラへの道』(後編)

 ――――タトラに入った後に、山師的な嗅覚でティグルは、大公の居場所を探していく事にした。

 

 

 如何に、人質にしているとはいえ、排泄や食事は欠かせないし、監視役の人間の『補給』なども必要なのだ。

 

 

 人質は生きているからこそ意味があるのであって、特に戦姫のような激発すれば万の人間も鎧袖一触な人間の縁者なのだから、扱いは慎重になっているはずだと当たりをつけて捜索を開始した。

 

 

 下手人があの「忍者」であるならば、ティグルは確実に大公は五体満足で生きているはずだとして―――タトラにある人の痕跡―――それに目を点けて探索して言った。

 

 

 山に入って二日目になって―――遂にティグルとピピンは遠くにある―――山小屋を発見した。

 

 

 降り積もる雪に隠れきれず残るものを元にして、見つけたそれに間違いないと確信するも……。そこに近づけなかった。

 

 

 

「おかしいですな。道は正しいはずなのですが」

 

 

「まるで幻でも見せられているようだ……」

 

 

 

 400アルシンあるか無いかの距離。無論、雪山に建てられた小屋、可能な限り雪崩で流れないなだらかな傾斜ではない所に、作られているのだが……険しいわけではない。

 

 

 元の山道、最初の出発点に戻るとやはり目指した所に、山小屋はあるのだ。

 

 

 おかしな限りだが……ここまで来るとティグルもそれとなく察しが着いていた。

 

 

 恐らく、ロドニークからの帰り道で自由騎士リョウが使った「光の勾玉」による幻惑と、捕虜生活の時にエレンが副官である女性の部屋に潜りこんだ際の「空気の屈折」などによるもの……そういった「まやかし」の類が使われているはず。

 

 

 

 山に登る前のブルコリネ平原の様子から察するに、そろそろ両軍がぶつかり合う頃だと思うので、助けを求めるのも一計だが……そもそもそのぶつかり合いを止めたくて、ここまでやってきたのだ。

 

 

 山を降りる事はありえないとして『イクユミヤ』に矢を番える。あの黒弓と同じ要領で力を込める動作をする。

 

 

 朱色の和弓はティグルの技量全てを費やしても更なる「先」を見せるかのように、扱いに「楽苦」する。

 

 

 四百アルシンの先すらあるのではないかというほどに、楽しめる。

 

 

 踏足、組足の取り方。弦の引っ張り方。姿勢の変え方。

 

 

 それら全てをどこまでも改良して「先」が、あるかのように思える。

 

 

 リュドミラの父や、今にも山の下で命の華を散らしあう戦士達には、不謹慎かもしれないが、ここまでとは思っていなかったのだ。

 

 

 

 山小屋に対して照準を合わせる。鏃の先端に黒弓とは違う色の力が集まる。

 

 

『黄金色』のそれらが十分に集まった瞬間に、それらを飲み下すと同時。ティグルは弓弦を離して、番えていた矢をタトラの山に飛ばした。

 

 

 黄金色の軌跡を残しながら、目測四百アルシン先の山小屋に進む―――少し上向いた所にあるそれを目指した矢は―――途中で何かを砕きながら、山小屋への真実の「道」を白日の下に晒した。

 

 

 

「まさか戦姫様以外に、このような事を出来る方がいるとは……いやはやお見事です」

 

 

「俺としては、こんな力よりも山小屋にまで届かなかったことが不満だ」

 

 

 

 ティグルとしては山小屋の屋根を吹き飛ばして、敵を混乱することも目論んでいたのだ。

 

 

 しかし、これにて四百アルシン先の山小屋に突入をかけることが出来るようになった。声を掛けつつも山の険道を進みながら、山小屋を目指す。

 

 

 

 大公閣下を移動させるとしても、あちらも思い切った行動が取れないだろう。

 

 

 希望的観測にしか過ぎないかもしれないが、下手人がどこから「まやかし」を突き破ったか分かったならば、その方向からの襲撃を警戒するはずだ。

 

 

 全てが憶測任せの行動だ。だが最後に全てを決するのは、その憶測を「現実」のものとするための「勇気」。

 

 

 

 ピピンと共に山小屋に突入を仕掛ける。残り3アルシンという所で、林の中を突っ切ろうとした瞬間に、クナイや「シュリケン」なるものが飛んできた。

 

 

 

「ティグルヴルムド殿!!」

 

 

 

 瞬間、自分の前に立ち塞がったピピンが、ミスリルの槍を振り回す―――というより風車のように振るった。

 

 

 飛び道具の類がそれによって封じられると同時に、ティグルは林を出て己の身に雪が積もるも、ようやく辿り着けた山小屋に安堵する。

 

 

 

「っ! あの時の弓使い!!」

 

 

「アルサス領主ティグルヴルムド・ヴォルン!」

 

 

 

 山小屋の屋根に立ちながら、こちらを睥睨する―――同じ顔の女子。襲撃の時、果敢にエレンに斬りかかった双子だと気付く。

 

 

 見ると歳はオルガと同じぐらい、背も似たほどだろうと改めて気付かされたが、それ以上のものが見えた。

 

 

 

「大公様!!」

 

 

 

 ぐったりとした様子で、双子に「担がれた」中年の男性。それに気付いたピピンの声で身じろぎする大公。

 

 

 見た瞬間に和弓が「鳴る」感覚を覚える。イクユミヤが伝えるものとはつまり……、あの大公の身にも呪いが掛けられているということだ。

 

 

 ピピンに見えているかどうかは分からないが、ティグルの目には大公の身に茨のようなものが何重にも巻き付き、自由を奪っているように見えていた。

 

 

 

 リョウの言うとおりならば、イクユミヤの弦を鳴らせば―――と思うも、流石に現在そんなことは出来ない。

 

 

 双子による攻勢は止まらない。飛び道具を躱しつつ矢を番えるも……百戦錬磨のティグルですら、狙いを着けるのは容易ではないのだ。

 

 

 下手をすれば、大公閣下に当たると思いつつ、短剣を抜きつつどうしたものかと思う。

 

 

 あちらも、こちらの腕を知っているだけに山小屋の屋根から降りようとはしていない。

 

 

 

「ティグル殿! 私が突破を掛けます。数秒でいいからあの女子達の攻撃を止めさせてください」

 

 

「危険だ。俺はあの双子がどういったことを出来るか知っている。二人がかりならば戦姫と打ち合える人間だ」

 

 

 

 とはいえこのままでは千日手だ。こちらでもあちらでもいいから何か膠着を抜けるためのアクションが欲しい。

 

 

 などとどこに隠し持っていたのかと言いたくなるほどの飛び道具の乱舞を避け続けていると、あちらに変化が現れた。

 

 

 林を抜けて、影のようなものが飛びながら、山小屋の屋根に降り立った。

 

 

 

『サラ様!』

 

 

「結界を崩され、見に来たら……お前か、ティグルヴルムド・ヴォルン」

 

 

 

 双子の言葉でやってきた人間の正体を知る。金髪の忍。ザイアンを殺したのが誰かと問いを発した女だ。

 

 

 

「エルル、アルル。貴様らは大公を連れて城砦に行け……人質の無事をリュドミラ・ルリエに見せてやるようだ」

 

 

「戦は―――どちらに微笑んだの?」

 

 

「決着着かずだ。戦乙女として祈りを捧げるのは、まず城砦に行ってからにしておけ」

 

 

 

 どちらが『エルル』で『アルル』なのか分からないが、一方が神妙な面持ちでそんなことを聞いてくると、即返すサラという忍者。

 

 

 しかし警戒は緩んでいない。隙の一つでも出来ると思っていたが、予想外にこちらを見てきているのでティグルとしても何も出来なかった。

 

 

 やり取りの終わりと同時に、エルル、アルルなる―――耳の長い双子達は、屋根の上から去ってしまった。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 即座に後を追おうとしたピピンとティグルの眼前に立ち塞がる忍者。

 

 

 リョウがいないから舐められているのか、それとも秘策でもあるのか、既に必殺を放てる距離ではある。

 

 

 前衛にはピピン。倒そうと思えば倒せないわけではない。

 

 

 

「ティグル殿……あの女が全ての黒幕ということでよろしいのですかな?」

 

 

「ああ、知る限りではテナルディエ公爵の暗殺者……狙ってきたのは俺のはずなのに……」

 

 

「如何に戦姫と言えども、所詮は人の子だな。情に付け込めば……ブルコネリで命を散らした将兵も、まさか主君の親の為に戦っているなど思いもしまい」

 

 

 

 嫌な笑いをする女。視線も自然ときつくなるのを避けられない。この女は領民とリュドミラの親を人質にして、戦争を誘発した。

 

 

 裏側の事情を知ってしまえば、人によっては馬鹿馬鹿しくなるかもしれないが、だが親兄弟、己の子供の為に戦うことほど戦士としての誉れは無い。

 

 

 ザイアンとて敗走する自軍の将兵を守るために自分に一騎打ちを挑んだのだ。

 

 

 

(その気持ちが分からないのか)

 

 

 

 女というものは総じてそういうものなのだと、分かっていても……。ティグルは歯軋りしたい気分だった。

 

 

 

「何を言うかと思えば、そんなことか、オルミュッツの騎士達は、長くルリエ『家』に仕えてきた騎士だ。先代戦姫様が心底惚れられた大公閣下は我らにとっても尊敬すべきお方だ。戦士の覚悟を舐めるなよ暗器使いごときが」

 

 

「ならば……貴様も、ブルコネリで死んだ連中と同じくなるだけだ」

 

 

 

 クナイを取り出すシノビと槍を構えるピピンが対峙しあう。一瞬だけ、ピピン殿がこちらに視線を向けた。その意味を知れないほどではない。

 

 

 しかし……刺し違えるなどという結果を齎したくないとして、それに頷くことだけはしなかった。

 

 

 

「姫様の心を乱して、我が子に災いもたらした貴様を―――我が槍に賭けて倒す!!」

 

 

 

 轟っ! という音と共に、突き出される穂先とクナイが打ち合う。何合もの打ち合い。その距離で打ち合う限りは毒を撒き散らすことは出来ないだろう。

 

 

 隙を見出してティグルはピピンを援護する矢を放つ準備をする。雪が撒きあがり、踏み込まれる足と共にその下の土も噴きあがる。

 

 

 騎士と忍びの土俵違いというには拮抗している戦いの間隙を縫って、ティグルは――――――矢を放った。

 

 

 ピピンはそれを見ながら『後ろ』に倒れこんだ。ピピンの後ろより放たれた8アルシンの距離を進む矢。

 

 

 斬り合いを中断させられたサラは考える。恐らくこの男のことだ。躱した所で上体だけを起こして、槍を突き刺してくるに違いない。

 

 

 しかし飛び来る矢を完全に躱すことは、不可能だ。

 

 

 

(ならば!!!)

 

 

 

 望んだ仇敵が、そこにいる。というのならば―――――数瞬の思考。高速での考えの下での行動を甲賀忍者「双樹沙羅」は、実行に映した。

 

 

 後ろに飛び退きながら手を突き出す。得物を滑らなくするための手袋一枚。布一枚のそれを前に出して矢を―――『受け止める』。

 

 

 鏃が薄布を突き破り、掌を貫き手の甲に突き出た一矢。その痛みが……心地よい。

 

 

 

 ザイアン様も、この男の矢に貫かれて死んだのだ。ザイアンと同じものを共有しているのだと気付くと同時に恍惚と同時に沙羅は、噴き出る血とヴォルン伯爵の念を下に―――呪いを「放った」。

 

 

 

「死ね!! ティグルヴルムド・ヴォルン!!!」

 

 

 

 言葉と共に―――ティグルに呪いの「波動」が放たれた――――。それは硬直するように、弓を放った体勢のままのティグルを直撃した――――。

 

 

 

 

 

 † † † † †

 

 

 

「―――以上が経緯だ。その後、サラなるシノビはタトラの城砦に向かったと思われる」

 

 

「ちょい待て。かなりはしょったぞ。何でお前は五体満足なんだよ?」

 

 

 

 葡萄酒の三杯目を呷ったティグルの説明に誰もがツッコミを入れざるを得なかった。そこまで怨念強い呪詛を受けて何故、ティグルは無事なのか……。

 

 

 そんな自分達の疑念はティグルからすれば、更に疑問だったようだが、それでも追加の説明を受けていく。

 

 

 

「あれ? リョウからすれば不思議じゃないと思っていたんだけど……、もう少し言うと、慌ててそれを『弓』で受けて払ったんだよ」

 

 

「呪詛返しか……咄嗟によくそんなこと出来たもんだ」

 

 

 

 思わず感心してしまう。聞く限りでは本当に避けられない奇襲だったはずなのに。とはいえティグルは忍の放った呪詛をイクユミヤで返したそうだ。

 

 

 人を呪わば穴二つ。相当な呪詛の反射だったはず……だというのに、まだサラという忍は生きているのだ。

 

 

 その場にいれば適切な解説が出来ただろうに、もどかしい限りではあるが、詳しく聞くと……「祓った」呪詛は、そのまま忍に返されたのだが……。

 

 

 

「消え去ったか……」

 

 

「すまないな。色々と手を回してくれたのに、満足行く結果を出せなくて」

 

 

「別に謝ることじゃないだろ。俺達だって完全な勝利を得られなかったんだから」

 

 

 

 だが、消え去った呪詛というのが気になる。確証こそ無いが……もしも、サラなる女忍がザイアン・テナルディエと深い仲であり、それが―――。

 

 

 思いついた推論でしかない事がリョウの中に重くのしかかる。その推論が真実であった場合が……重すぎる。

 

 

 

(重い決断を再びティグルに強いるかもしれない。もしくは、何も知らせずに俺が斬り捨てるか?)

 

 

 

 知らなくてもいい深い事情にまでティグルを突っ込ませなくてもいいはずだ。城砦内部に対して大公閣下の呪いを解く「祓い」を行いつつ、その双子と「くノ一」を殺してしまえば、それで万事解決だ。

 

 

 

「ピピン殿には悪いが、城攻めをする必要もある。恐らくだが、ネズミ一匹すら入れるなとか言われているはずだからな」

 

 

 

 完全な篭城作戦。それを破らなければならないのだ。それは少なからずピピンの同僚にも再び殺傷を与えるだろう。

 

 

 

「その辺はお構いなく。ただ、タトラの城砦はライトメリッツの戦姫に対抗するために築城されたものです。下手に攻撃を仕掛けるのはいたずらに犠牲を増やすだけなのは、ヴィルターリア殿がよくご存知のはず」

 

 

「忌々しいことにその通りだ。あの砦は厄介の一言に尽きる」

 

 

 

 挑戦的な笑みを浮かべたピピンに対して腕組みをして、語るエレオノーラ。

 

 

 山城攻めというのは面倒なものである。叡山にて「羅刹」に魅入られていたとはいえ、生臭坊主を殺した時のことを不意に思い出してしまった。

 

 

 

「なぁリョウ、もう一度、大公閣下の救出を出来ないか?」

 

 

 

 そんな風に苦い思い出に浸っているときに、ティグルはそんなことを言ってきた。

 

 

 呆れるでもなく、それが一番だと思うのは、自分とて出さなくていい犠牲をもう出したくないからだ。

 

 

 

「捕らえたオルミュッツの人質変換に紛れて砦に入るってのはどうだい?」

 

 

「サフィールの意見も一つだが、二度目の轍を踏むかね? 第一、まだ戦時体制なんだから交渉に応じるとは思えない」

 

 

「俺自身が入れなくてもいい。とにかくタトラの城砦に『矢』を入れられればいいんだ」

 

 

 

 サフィールの意見を取り下げると同時にティグルはそんなことを言ってくる。諦め切れないのは分かる。

 

 

 そして……、ピピンの心意気に彼は応えたいのだ。

 

 

 

「タトラの城砦を見下ろせるだけの高い所、そこから矢を放ち―――あのシノビの呪いを無効化させた上で、要塞内に入り込み、決着を着ける――――こんなプランしか思いつかないぞ」

 

 

「最上じゃないか。エレンの風とリョウの風を使った上で城砦に入り込めば、後はピピン殿に説明してもらった上でリュドミラの杞憂は取り除けるはず」

 

 

「………お前も言うようになったよな。褒めてるから怒るなよ」

 

 

 

 てっきり正面の門をぶち破って入るとか言うと思ったが、それ以上の奇策を用いてきたものだ。

 

 

 

「だが正面を威圧する部隊も必要だぞ。誰が指揮するんだ?」

 

 

「指揮しなくても旗だけかざしていれば、そこにエレオノーラがいると思うんじゃない?」

 

 

 

 偽兵として砦正面に陣取らせる。というサフィールの意見に、隠し道を見つけておいたというティグルに抜かりが無くなってしまった。

 

 

 そこから100人いるかどうかの決死隊を引き入らせて、リュドミラと忍達を釣り上げる。

 

 

 決まった計画。確実性があるかどうかは、分からないが、恐らくこれが一番、犠牲を出さないで終わらせる戦いだろう。

 

 

 

「では偽兵部隊を率いるためにもサフィール殿には、――――私の衣装に着替えてもらうので男共は出ていけ」

 

 

 

 衣装箱から予備の戦姫衣装を取り出して笑顔でそんな事を言うエレオノーラ、言われたサフィールならぬフィグネリアは、面食らったのか口をあんぐり開けてエレオノーラを見返している。

 

 

 

「やれやれ、そこまで徹底する以上、文句は言えんわな。ティグル、ピピン殿一度出ようか」

 

 

「そうだな。少しリョウと話たいこともあるしな」

 

 

「私は捕らえられた騎兵達を見舞ってきていいですかな? 逃がしはしませんのでご安心を、万が一の時は躊躇わず殺してしまってよろしいですよ」

 

 

 

 男三人がフィグネリアを見捨てる形で幕舎をそれぞれの理由で出て行く様子に、当のフィグネリアは心底焦っている。

 

 

 

「ま、待て男三人、特にリョウ! あんたは―――」

 

 

「さぁサフィール殿、この衣装に着替えてもらえるかな? 私の気に入りの衣装なんだ。だからリュドミラやオルミュッツ兵達も騙せるぞ」

 

 

「ちょっと! この歳でこんな若い格好出来ない! スカート短すぎ、装飾が若すぎ―――」

 

 

 

 エレオノーラの笑顔での『悪ふざけ』に絶叫交じりの言葉が後ろに聞こえている。

 

 

 幕舎を出てもフィグネリアの言葉は続いていた。いつもの戦姫衣装を手にフィグネリアに迫っている様子がありありと思い浮かぶ。

 

 

 

『だ、だからこんな格好しなくてもいいって、というか他にあんたが戦姫として着ている衣装無いの!?』

 

 

『大丈夫だ。私の知り合いの戦姫達も「黒パンツ丸見えミニスカ」「華をあしらったドレス」「乳強調ヘソだしシースルー」と歳に関わらず着ているからな! 大丈夫。問題ない!』

 

 

『説明になっていないんだけどエレオノーラ!! た、助けてヴィッサリオーーーン!!! あんたの娘がアタシをいじめるーーー!!!』

 

 

 

 あいつ絶対にサフィールがフィグネリアだと気付いて、そんな事しているな。と分かる会話内容である。

 

 

 まぁそんなこんなで何となくフィグネリアの状況に対して合唱して『冥福』を祈る。

 

 

 そうしてからピピンとティグルを案内した騎士を見つけて、捕虜としたオルミュッツ騎兵にピピンを案内するように頼む。

 

 

 ピピンと分かれると同時に、ティグルは案内するように幕営内で一番人気の無い所まで歩いていく。

 

 

「同伴小便」というわけではないが、何かを察したのだろうかティグルも無言だ。

 

 

 

「―――何か、聞きたい事がありそうだな?」

 

 

「お前が言い辛そうな顔をしていなければ、何も聞きだそうとは思わなかった」

 

 

 

 タトラの冷風が吹きすさぶ幕営の端、少し足を平原に向ければ幕営の外に出られ、男連中ならば用を足そうとする場所にてティグルは風を受けながら真剣に聞いてきた。

 

 

 髪をなびかせながらタトラ山を向きながら、話すかどうかを真剣に考える。

 

 

 自分の胸の内だけでどうにかなることであれば、特に話す必要も無かったこと。それだけだ。

 

 

 だが『可能性』に気付いてしまったばかりに深刻な顔をしてしまったのが失点だ。

 

 

 

「聞かなくてもいいことかもしれないんだが」

 

 

「それを判断するのは俺だ。第一、友人と信じている人間なんだ。隠し事はしてほしくない」

 

 

「………」

 

 

 

 嘆息をして、自分が伝えるのを躊躇った事の詳細を伝える。『もしかしたら』、『あるいは』、『不確定だが』などと散々前置きした上で、ティグルの呪詛返しが「サラ」に通じなかった原因を伝えた。

 

 

 

「―――そんなことがありえるのか?」

 

 

「聞いた話だけならば、な。人を呪うってのは結構、リスクが高いんだ。相手の『霊力』が高すぎると効かないことも多い……特に『命』が「一つ」じゃなければな」

 

 

「……なんて事だ……。しかし、そうだとしたらば、あの忍を殺すことは出来ないぞ」

 

 

「生かしておくつもりなのか? あの女は絶対にお前に厄をもたらすぞ。―――それはあの女の『後』を継ぐものでも変わらない」

 

 

 

 戦国の世の常としてザイアン・テナルディエは殺した。自分もそれを最良とした。

 

 

 もしもあの時、約定どおり一騎打ちが果たされたとしてザイアンを捕らえたとしても、その首を刎ねていただろう。

 

 

 捕虜としての身代金支払いぐらいには応じるかもしれないが……。

 

 

 

「だからこそだ。あの時、俺はザイアンに対してあの結末が相応だったかどうか分からない。ただ、あいつの心ならば、フェリックス卿とは違う『道』を示していたかもしれないんだ」

 

 

「……本気か?」

 

 

「―――『生まれた』後に、どういう判断をするかなんて分からないし、俺だってそんな未来の『心』まで責任を持てない―――だが、ネメタクムに「テナルディエ」がいなくなるような事態は避けたい……あの土地は、家の者が継ぐべきものだ」

 

 

 

 それに対して代官を立てる。自治都市化、共和制など多くの意見を述べる事は出来る。ティグルとてそれぐらいは検討しているはず。

 

 

 フェリックスと対決すること出来れば、勝敗に関わらず……あの家は次第に没落するだろう。縁故のもの全てを殺し尽くした先代の行いが呪いのように響いている。

 

 

 

「自由騎士リョウ・サカガミ、―――サラ=ツインウッドの『未来』を『生かしてくれ』―――もちろん俺が決着を着けること出来れば、それが一番だが、もしもの時は……頼む」

 

 

「もしもの時とか言うんじゃない。恨みをぶつけるのがおまえ自身だと言って『未来を生かす』ならば……お前が絶対に決着を着けろ」

 

 

 

 もしもの時、それはティグルが負けてしまった場合を考えてのことだとは分かった。

 

 

 そんな時は、絶対に来させない。この男が恨みも何も全て呑み下して、『未来』のために行動するならば……自分もそうするだけだ。

 

 

 ここからも、見える険しき山の上にいるべき囚われの姫君「二人」を救い出す。

 

 

 

 因果と言う『魔物』を殺して未来の為に生かすのだと――――。

 

 

 

 そして若者二人の決意を含めて、その日の内に、タトラ城砦攻略戦が開始された――――――。

 

 

 

 


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