鬼剣の王と戦姫   作:無淵玄白

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『将星の集い-Ⅱ』

 

「……宰相閣下、私はあなたに失望しておりますよ……」

「言ってくれるなロラン。だが国の防人たちに恨まれるのは、今更だ」

 

 宰相の執務室に着席するなりロランは、目の前にいる猫顔の男に言い放つ。それを受けても淡々とするボードワンに歯軋りしたくなる。

 現在の王都における政治機能は、「貴族絡み」の陳情を、二大公爵に任せてそれ以外を合議で決めているという有様なのだ。

 

 ――――王都に着くなり、寝込んでいるだろう陛下の見舞いではなく、見たくもない奸賊の場所に案内されたときには案内した人間に激怒しそうになったものだ。

 そこを抑えて、アスフォール、オルランドゥと共に聞くことにしたのだが、誠に実の無い話であった。

 

『貴卿の息子が、王都に無断で何の咎も無いというのに、他の領土に軍団を引き入れたことに対しては、何も無いのか?』

 

 アルサス領主の怒りの矛先は、『テナルディエ』だけに向いているだけではないかと問いかける。

 皮肉交じりのそれに対して、笑みを浮かべて咎ならばあるではないかと言うテナルディエ。

 

 現にアルサス領主はジスタート軍を引き入れて、ブリューヌに存在している。彼は多くの貴族連中から彼が捕虜として捕まり、身代金を必要としていることを聞いていた。

 それゆえにアルサス領主の行動に先んじて行動を起こしただけだと言ってくる。

 

『あの弓だけが取り柄とかいう軟弱な小僧のことだ。小僧を捕虜とした戦姫の色香に絆されて、領地を売り飛ばすことぐらい考えていただろう』

 

『預言者でもあなたの側にいるのか? とはいえ、その軟弱な小僧の行いであなたは嫡子を失ったわけだからな。怒りもひとしおということか』

 

 ギロリと目を剥いて睨み付けるテナルディエだが、そんなもので怖気づくロランではない。

 ブリューヌの騎士は文武に優れていなければなれぬ狭き登竜門なのだ。たとえブリューヌを代表する貴族だろうと、対応は変わらない。

 

『―――まぁフェリックス卿の気持ちはともかくとして、現にブリューヌにジスタート軍を引き入れたヴォルン伯爵に対して多くの民も良い感情をしていない。征伐はともかくとして、彼の目的―――フェリックス卿を追い落とすだけではないならば、それを探ってほしいのだよ』

 

『おや、ガヌロン殿は随分と慈悲深いですな?』

 

『何かお考えでもあるのですかな?』

 

 南部国境付近を守っているアスフォールとオルランドゥが、そんなワザとらしいことを言ってガヌロンを挑発する。

 意図がわからないわけではない。この二大が表面上はともかくとして王権を狙うために日々ろくでもないことをしているのは既知。

 

 もしも一騎当千のジスタート軍を自陣に入れることできれば、それはフェリックスを追い落とす強力な力となりえる。

 打算だけで動く人間が、そんな風なことをするわけがない。だがそんな挑発に対して、悪魔のような『顔』をしたガヌロンは苦笑しつつ、口を開いた。

 

『先に語ったとおり、テナルディエ公爵にも非が無いわけではない。悪事というものは風のごとく伝わるのだからな』

 

 テナルディエ公爵にとって一番の誤算は、己の所業が『悪事』として全土に伝わったことだ。

 

 これに関しては、戦傷者や逃亡兵に対する対処がものを言うのだが、五頭の竜が辺境に行ったらば、『一匹残らず殺されて総指揮官も敗死』などという事の顛末はどんなに隠そうとしても無理な話だった。

 

 息子にかけた期待と保険が―――全て裏目に出た。親心を出した事が最大の仇となるなど、如何に非道な男とはいえ許容できる事態ではなかった。

 

『ゆえに治めるべきところがあれば、治めるように私が取り計らおうと思う。我らは皆、ブリューヌ王家の臣なのだからな』

 

 言った方も言われたほうも欠片も心から思っていない言葉。だが、一つの案として受け入れておき、仮に彼らがそれでも公爵との決戦を望むならばどうするのだと聞く。

 

『その時は止むを得まいな。騎士として為すべきことを為すのだよ』

 

 その前にガヌロンの腹心とも言えるグレアストがアルサス伯爵と『会談』をすると言って来たので、それ次第でもあると伝えられた。

 

 そうして――――両公爵からの王代としての命令を聞いた後に、アスフォールとオルランドゥと分かれる形でロランは宰相の執務室へと向かう。

 これは二人とも示し合わせていたことだ。

 

 おそらく両公爵は自分たちを陛下および陛下に近いものに近づけさせないつもりだと気付いていた。

 アスフォール、オルランドゥに適当に言って公爵派の案内係から離れて、宰相の部屋に向かった。

 

 邪魔が入るかと思われたが、ここに来るまで特に妨害を受けなかった。

 

『どうやら、予想通りお前が来てくれたようだな……護衛の兵士に道を『作らせて』おいて良かった』

 

 ―――そういうことだったらしい。深刻な表情で安堵のため息を突いた宰相との会話が始まったのだ。

 

「つまりボードワン様『も』、ヴォルン伯爵を排除したいのですか?」

 

「……少なくとも、何の伺いも立てずに外国の軍を引き入れている彼を認めるわけにはいくまい」

 

「貴族絡みがやつらに握られている以上、彼の陳情は通りますまい……!」

 

 分かりきったことを繰り返すボードワンに憤怒を抑えて返す。

 

「今、王宮が伯爵を認めて官軍だと宣言し、騎士たちと一体となれば、奸賊を追い落とせるのです!! 彼の伯爵には陛下も勇者と認めた自由騎士がいるのですよ!!」

 

「つまりロラン。お前は―――ヴォルン伯爵の資質ではなく自由騎士だけを認めて国の大事を決めよというのか? 例え自由騎士が認めた貴族であろうとも、そこに下心がないと言えまい。現に『大陸』アスヴァールの実権を握ったタラード将軍は、なかなかに野心的な人間だぞ」

 

 自分の知らない情報を挙げられてはロランもそれ以上言えない。自由騎士の『目』と『心』だけで、義の有無を決めていいのかどうか。

 そこなのだ。

 何事も『最悪の事態』を考えて動かなければならない。政治の世界とはそういうものなのだ。

 そうして自分たちが『戦争』を、宰相閣下と陛下が『政争』を生き抜いてきたのだから、その判断も素直にとはいかないが、頷けるというもの。

 

「……今は耐えてくれロラン。『時』が来るまで我らは刃を研ぎ澄ましておかねばならない……」

 

「!? ―――私はただの平民から騎士になったものですから、領地持ちの貴族達の機微は分かりかねますが……それで王宮に尊崇の念が集まるとは思えませぬ」

 

 時というのが『何』であるかは分かっているが、それまであの奸賊達の暴虐が下にいる者たちに多くの困難を与えるのだ。そう考えれば激発したヴォルン伯爵の心も何となく分からなくもない。

 そんな自分の苦悩を知ってか知らずか、宰相は頼みごとをしてきた。

 

「ああ。だからこそロラン―――汝に『密命』を託す―――デュランダル、ドゥリンダナ―――そして王家に在りし『第三の宝剣』―――『ジョワイユーズ』、それを『持つもの』を探せ。そこに―――今は『昏倒』した陛下の『心』がある――――」

 

 自由騎士の如く託されたものの大きさ―――それを理解し、再びの戦いに挑むには―――己は一度、『死ななければならなかった』。

 

† † † †

 

 

「俺はかまわないとは思っている。リムが言う何処かの貴族が味方したというわけでなければ、そこまで兵站の消費は多くないだろうからな」

 

「よっぽどお腹が減っていたとは思いますけどね」

 

 ちょっとした大きさの鍋のシチューが空となったものを見せながら、言うティッタ。だが怒っているわけではなく、もうお代わりはいいのかという意味だったが、この若武者にとってはそうは取られなかった。

 

「す、すみません奥方様! ここまで殆ど食わずで来ましたので……ですが! 戦働きでは必ずや閣下のお役に立ちます!」

 

 奥方などと言われたティッタだが、それに対して顔を赤くしつつも、アルルとエルルを嗜める辺りに分かっている。

 幕営内の軍主要人物は特に反対意見は無かった。ハンスの顔にティグルは無き老公を、そしてジェラ―ルも、既知であったことがそれを円滑にした。

 

「お前は私に隠しているだけで他の交友関係もあるんじゃないか?」

 

 銀の竜星軍の責任者の一人であるエレンのジト目と共にこちらに問い掛けてきた。それに苦笑しつつティグルも答える。

 

「いや、俺自身、領主になってからはマスハス卿ぐらいとしか交流していなかったんだよ……父親が生きていたころはあちこちに連れまわされたけど」

 

 その一環の一つ。狩猟祭におけるある『顛末』が、あの老公に評価されていたとは思わなかった。

 殆どの人間が、ティグルを責めていたのだが、そこに価値を見出されているとは……。

 

「我が故郷、マッサリアの海は、時に『黒赤狼』『森原人』の賊が襲い掛かります。そこにてブリューヌの合戦礼法など意味を為しません。求められるべきは、誰にも負けぬ『力』それだけであり、爵位も礼儀も二の次なのです」

 

 そう言い放つハンス。亡くなったピエール卿は、いずれ『海洋騎士団』の一員としてティグルを招きたかったといつも呟いていたと伝えられる。

 しかし折り悪くも、武者修行や見聞行などをする前に父ウルスは亡くなった。結果として、自分が南海に赴くことは無かった。

 

 これでリョウのように父親が存命で家督を相続していなければ、そうした経験で、自分の戦いはもう少し楽だったかもしれない。

 考えてもしょうがない仮定ではあるが、このブリューヌにブリューヌ人として自分を認めてくれていた人がいることが嬉しかった。

 

「だが……ピエール様は亡くなられたんだな?」

 

「―――はい」

 

 祖父から頼まれたこととはいえ、ハンスは勇戦する親族を置き去りにして、ここまでやってきたのだ。

 父親こそどうなったかは分からないが、ここに来るまでにマッサリアが砕かれ、ピエールが敗死したのは聞こえてきたはず。

 それに耐えるように身を震わせるハンス。その心情が分からぬ者はここにはいない。

 

 誰もが何かを失ってまで、この乱世を生き抜いてきたのだ。だからこそ……ハンスという若武者をティグルは引き入れることにした。

 

「顔を上げろハンス。お前も見たのならば分かるとおり、テナルディエ公爵は竜を使い、黒い魔獣を使いこのブリューヌを混乱に陥れている元凶―――私は、それを正すためにも友である『自由騎士』『戦姫』と共に戦うことを決意したんだ」

 

「ヴォルン閣下」

 

「いずれマッサリアは、取り戻す……その為にも逆賊テナルディエを討つ。力を貸してくれ」

 

「―――兵の一人もいない私ですが、微力ながら―――全力を尽くします」

 

 感極まり拝跪したハンスの姿。それをリョウは見つつ、彼ならばティグルを支えてくれる『武臣』となれるだろうと思う。

 そんな大体の連中の思惑が少し気に入らないのかルーリックが何ともいえぬ表情をしているのが、気がかりである。

 

「気になるならば腕試しをすればいいだろう」

 

「ティグルヴルムド卿の判断に、ケチをつけたくはありません」

 

「いえ、剣の腕と弓の腕―――それを皆さんに教えたくあります。でなければ私はここに受け入れられませんから」

 

 リョウとルーリックの会話を聞いていたハンスは、挑戦的な笑みを浮かべて『戦士』の一人として受け入れてもらうために、ライトメリッツ『いち』の弓取ルーリックに挑み、剣はリムアリーシャが検分することになった。

 流石に得手『一番』どうしでは『ハンデ』をどれだけ着けても、正確な実力は測れないだろうということからだった。

 

『ハンスくん! ファイトーー♪』

「うん! 見ていてね二人とも!!」

 

 双子からの応援を貰いながらそれに奮起するハンス。まぁそれはいいとしても、今後のことを考えて何処の隊に所属させるかが気になる。

 

 幕営から数人がいなくなり指揮官級どうしの話し合いに自然となる。

 

 そこから更に、ハンスの腕試しの為の試験官と野次馬根性な連中がいなくなると、ティグルとリョウの二人だけになった。

 

「ハンスなんだが……何処に入れるのが最適かな?」

「オルガ隊だな。適正とか以前に、年齢が近い同士の方がいいだろうさ。あいつは俺ほど『一人遊撃』が出来るほど武に卓越していないし、かといって軍団指揮させるには年齢も知り合いも少ない」

 

 ユーグ卿が集めた兵士達の中にどれだけ、マッサリアの後継者『ハンス』のことを知っている連中がいるか分からない。

 そういう状況では、適正よりも知り合いや気心の知れた人間同士で組ませた方がいいだろう。

 

 そうしている内に、どこかで『一人立ち』させて指揮させたとしても、誰も文句は言わないはず。

 

「―――ここに来て結構経つが、未だにテナルディエ公爵に動きは無いな」

 

「マスハス卿も来ていない―――膠着状態だな」

 

 だが、こういった時に限って厄介な事態は起こるのだ。何気なくリョウは分かっていたので、気を緩めることはしなかった。

 

「ハンスも聞いてきたが……銀の『竜』星軍というのは中々に面白い名前だ」

 

「由来を聞けば馬鹿らしくなるがな」

 

 ティッタが残していったお茶を飲みながら、幕営に張られている『軍旗』二枚を重ねたが故の名称決めのことを思い出す。

 おそらくエレンはかなり前から考えていたと思われる連合軍の名称、発表された当初はリムは少し戸惑っていたが、それでも最後に少し一悶着あった。

 

 銀もいいだろう。星というのも悪くは無い。しかし、それでは自由騎士のいる意味を察せられないとリムは抗弁してきた。

 おそらく撤回させるために、エレンにとっての鬼門であるリョウの存在をどこかに入れなければ意味が無いとしたかったのだろうが――――。

 

 リョウは別にどっかに無理やり含めなくてもいいんじゃないかとしてきたが、頑として譲らぬリムの態度に、裏側の事情を察するのだった。

 そんなリムに対してエレンは涼やかな笑みを浮かべて、以下のようなことを言ってきた。

 

『心配するな。それに関してはサーシャと共に案を出し合った―――お前が反対することを見越した上に誰を『ダシ』にするのか分かっていたようだからな』

 

 結果として呼び名こそシルヴミーティオという名が残ったが、文字で書くとそこには『昇竜』の一文字が加えられていたのだった。

 そんな自軍の由来を象徴するように、プラーミャとカーミエも着いて来たりしていた。

 

 カーミエは、アルサスの住人であるのだから仕方ないが、プラーミャに関しては――――。

 

『獅子は我が子を千尋の谷に放り込んで、鍛え上げるという話があります。故に母として私はプラーミャと断腸の想いで別れます! 次に会うときは千尋の谷を上って竜王としての格を上げたとき――――』

 

 などと語るも、子であるプラーミャは久々に会えたティッタに喜色満面で引っ付いていたりして、話を聞いていなかったりした。

 途中で言葉を打ち切ったヴァレンティナの表情は、どこぞの禁忌人形(?)のように絶望しきっていたりした。

 

『うん。まぁ俺の方でプラーミャは守り鍛えとくよ。だから―――泣くな。いや今は泣け』

 

 そうして、両親(?)は揃って子の成長に涙したりした。同時に、『この場にアレクサンドラがいなくてよかったぁ』と何人かが、指揮官の幕営にて安堵したりした。

 結果としてヴァレンティナ・グリンカ・エステスは『竜星王』の子息を、我が陣営の幕下に加えてからいなくなってしまった。

 彼女の動向は再び分からなくなってしまったが、少なくともリョウの邪魔をするようなことはなく、自分たちを害するようなことにはならないだろうと考えておくことにした。

 

「今のブリューヌは『混沌』としか称せられない状況だ。辺境伯が外国の軍の協力の下、大貴族に誅罰を加えんと動き、大貴族は皇太子の死亡と同時に、王宮の権力を握ろうと動き、南部では『ドン・レミ』村を中心に自治村運動が勃発、『奇跡の聖女(ラ・ピュセル)』なるものが扇動を働いている」

 

「最後は知らないな。何のことだ?」

 

「ああ、実は――――」

 

 机に広げられたブリューヌ地図の上に次々と石を置いて状況説明をしていた自由騎士の言葉にアルサス伯爵は、耳を聞きとがめた。

 しかし、それは突如入ってきた衛兵の報告で途切れることとなった。

 

「いやはや賑やかな所、突っ切ってきましたが、伯爵閣下とサカガミ卿だけにお伝えした方が良いと思えました」

 

「ハンスは中々の若武者のようだな」

 

 この幕営の中にも聞こえてくる喝采の声と、ルーリックの悔しげな大声での注文『もう一回勝負だ!』の言葉に、それを感じる。

 しかし衛兵の報告を聞き、喜びだけでもいられなくなる。

 カロン・アクティル・グレアストなる侯爵位にある男がティグルとの会談を望んできたというのだ。

 

「どこの貴族なんだ?」

 

「又聞き程度だけならば、確かガヌロン公爵の『腹心』とか呼ばれている男だったはず」

 

「――――何故、そんな人が―――?」

 

 色々と憶測は出来るが、とにもかくにもリョウとて人相を知らぬので、一番顔が広いオージェ子爵にも話をしてみることにした。

 幕舎を出て、賑やかながらも金属音が響くフィールドを避ける形で老子爵のいる場所に赴くことに。

 

「少し顔が赤いですな」

 

「友人の孫があのような武勇備えし戦士になっていたのだ。嬉しくてつい飲みすぎてしまった」

 

 その言葉でハンスのいる方向に目を向けると、剣ではリムを越えるのか、遂に二番手であるフィーネを引っ張り出すことに成功していた。

 ハンスの姿を目を細めて見ていた子爵であったが、一度目を閉じてからこちらに問いを発してきた。その目は非常に真剣なものであって、事情は少し理解しているように見える。

 

「で、お主ら二人して何か用事があると見たが?」

 

 そうして事情を説明すると、先ほどまでの好々爺な顔を歪めた。

 

「ガヌロン公爵の腹心。顔こそ知らないので、会談には確認の為にご老体にも来てほしいのですよ」

 

「――――この会談、受けるのかティグル?」

 

 リョウの言葉に一度、瞠目したユーグであったが、ティグルは頷いてから何にせよ話を聞くことも必要だろうと思えた。

 

「とりあえず陣地ではなく、離れた所で会談をと、どういう用向きかは分かりませんが、一先ず話を聞いてみようとは思います」

 

「……分かった。サカガミ卿。この老骨はどうなってもいいので、ティグルの身の安全だけは確実によろしくお願いします」

 

「言われるまでもありませんが、老将軍もこの軍には必要なお方です。一介の騎士としてかならずやお二人を御守りしてみせましょう」

 

 ユーグの言葉にどう考えてもろくな会談にはならないだろうなと若者二人して意見を一致させてしまった瞬間だった。

 だが、そんな自分たちの行動はやはり注目を集めていたらしく、護衛を数名だけの会談と考えていたのだが、結局主要なメンバー全員が赴くことになってしまった。

 

「ティグルの護衛は私だ。お兄さんには悪いけれど、万が一の時でも、その刀が抜かれることは無いよ」

 

 そんなオルガの言葉を皮切りに、隊長、将軍級の人間―――具体的にはティグルに近しい人間全員で『奸賊』の顔を拝見しに行くことになった。

 敵になるか味方になるか、それは分からないが……。

 

「殺すかもしれない相手が大物かどうかぐらいは、この目で見ておきたいもんだ」

 

「悪い顔をするねアンタ」

 

 フィグネリアの言葉に構わず、静かな殺意を燃やしながら、会談準備を整えるために奔走することになる。

 おそらく会談は決裂する。だが、その決裂は決定的であり、『恐怖』を与えるようなものでなければなるまい。

 ……奸賊と和するような男であればティグルとは、ここでお別れだろうが、そうはならないと確信があった。

 

 


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