六月 AM4時 秋名
梅雨時期に入りジメジメした空気が鬱陶しい季節。
昨日の雨のせいで路面は湿っている。
そんな中、1台の青い車 FD3Sが疾走する……
「今日も早くバイトを終わらそう……」
FDのドライバー「宮永 剛」はまだ高校2年である。未成年である彼が運転してる理由は両親に経済的に負担を掛けたくないと山の麓にある小さな店の物資の運搬のアルバイトをしているからだ。勿論同級生は彼がアルバイトをしている事は知らないしましてや運転してる事を知らない。
剛の家は秋名山の麓にあり、バイトしてる店も近い。ただそこから物資を運ぶ為に秋名山を1度上る。今まさに剛は物資運搬中だ。
「…………」
剛の表情は硬い。真顔に近い程だ。バイトが嫌な訳では無く過去に問題があるのだ…………
秋名山山頂
「早く帰って寝るか……」
剛はトランクから運んだものを渡して運転席に乗り込む。シートベルトをしめてクラッチを切って発車する…
ヒルクライムの時には余り感じないのだがダウンヒルになると途端に過去の出来事が鮮明に脳裏に映し出される。
「……ちっ…」
思い出したくないのに嫌気がさし舌打ちする。
ギュゥゥゥゥ…
無意識の内にアクセルを強く踏み込んだ。
「おっと……危ない…………ん?」
無意識だったせいで見えていなかったがバックミラーにいつの間にか後続車が映っていた。
(……煽ってるのか?)
後続車は抜こうともせずにただFDの後ろに着く。
上等だ!、と心の中で叫んだ剛はフルスロットルでストレートを駆け抜ける。
「…あんな車秋名に居たっけ?」
後続車…ハチロクのドライバーは疑問に思った。
いつもこの時間帯なら車は居ないのにと。
しかしそんな疑問はよそにハチロクもフルスロットルで駆け抜ける。
剛は正直ワクワクしている。剛が2年間走り続けたこの道路をどんな後続車がどう攻略してくるか。退屈すぎる毎日に新しい刺激を求めてるから余計に期待している。
「俺をガッカリさせんなよ!」
アクセルを抜きブレーキペダルに足を伸ばし荷重移動を起こしてコーナーを曲がる。
少し遅れてハチロクもコーナーを攻める。
FDと同じタイミングでブレーキをかけるが少し早めにペダルをリリースをする。
「あの車…下手では無いけどコーナーを攻めきれてない…」
軽くハチロクは中速コーナーを流す。
剛のバックミラーにヘッドライトの光が強く映った。
「離れてない……!?ならストレートの後のヘアピンでブレーキ勝負だ!」
スピードに乗る二台、ハチロクの車内にはキンコンキンコン……
静かに音を奏ででいた。