今回はIS二期決定ということで、思わず触発されて書き始めてしまいました。こんな織斑一夏だったらどんな物語になるのだろうという発想で生まれた作品ですが、暖かい目で見守っていただけたら幸いです。
なるべくすべてのヒロインに焦点を当てて進めていけたらいいと思っています。よろしくお願いします。
物心ついた時には、既にその自覚はあった。
今となってはもはや慣れたものである。明らかに自分のものとは違う顔、名前も、似ているようで異なっているこの世界にも。僕はとっくに慣れていた。なじんでいた。
そう、思っていた――――――僕が、僕にとって、この世界で最も異彩を放っているモノに触れるまでは。
◆◆◆◆◆
僕がIS学園への入学が決まった日。
彼女からの連絡は、こういうことだ。
『お前に起こったことについては聞いた。これからのことは送られてくる入学案内を読むといい。今度会ったときに話は聞いてやる』
簡潔な連絡だった。これだけだと僕の姉さんはひどく冷たい印象を受けられるかもしれない。けれど、決して彼女が冷血な女性などではないことを僕は知っていた。連絡してきてくれるほどに心配だということは、きっと僕は彼女の中ではかなり上位に位置している存在なのだ。だから僕はそれについてまったく不満はなかったし、幾分か僕の胸にあった不安は和らいだものだった。
もちろん、だからといって僕がこの状況を受け入れられるかと言われれば、答えは決まりきっていたんだけどね。
「それでは、織斑君。自己紹介をお願いできますか?」
場所は教室。それも、僕にとっては少し近未来的な教室。身に包んでいる制服もそれに合わせたデザインで、僕だけ男子制服だということがさらに疎外感を強めていた。うん。ごめん、なんとか気を紛らわせようとしてみたけど無理だ。めっちゃ居心地が悪いです。
教壇に立つ女性が最前列の席の僕に自己紹介を求めてくる。教師としてはかなり年若い人だ。顔立ちは幼く、高校生や中学生と言われても納得できるかもしれない。その童顔とは不釣り合いな豊満なバストは迫力があったけど。
そんでもって、この自己紹介は彼女に対してではなく、好奇心やらなんやらをむき出しにして僕を見つめるクラスメートたちに向けてとのことだろう。いくら落ち着いて話を聞ける心理状態ではないとはいえ、それくらいは推測できる。
山田先生は反応がない僕にもう一度言った。
「あの、織斑君?聞こえてますか?次は織斑君の番だから、よかったら自己紹介してもらいたいな~って先生思うんだけど・・・」
「大丈夫です、返事しなくてすみません」
困った顔をする山田先生に僕はそう言って軽く(ぎこちない)笑みを見せる。山田先生はほっとしたような顔をした。笑顔は良好な対人関係を作る上で重要なものだとこの前テレビで評論家のおっさんが言っていた。その点については僕も同意見だ。むすっとしてるよりニコニコしている人の方が好感が持てるよね。今の僕の笑顔にその効力があったかどうかは知らんけど。
僕は立ち上がると、緊張を抑えて、教室にいるクラスメート全員にきちんと聞こえる程度の大きさの声で言った。
「織斑一夏です。わからないことも多いので、いろいろ教えてもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします」
はきはきと言い切ると、静かに席に着く。パラパラと拍手が起こった。無事終えることができたことにひとまず僕は安堵する。こんなに緊張した自己紹介は僕が生まれて初めてだ。
「ありがとうございます。それでは、次の人――――」
それからは特に何事もなく自己紹介は進んだ。そりゃそうだ。この中で最もインパクトがある奴の番が終わったんだから。それが他でもない僕自身だってことが悲しい。加えて、それがこの教室に限ったことではなく、IS学園でとどまることでもなく、全世界規模の話だというのだからもう笑えなかった。
インフィニット・ストラトス。通称ISで知られるこの兵器が世界に現れたのは二十一世紀初頭のことだ。ある事件をきっかけに瞬く間に世界に浸透していったこの兵器は、究極の兵器として脚光を浴びた。しかも発明者は日本人である。まあ、あの人を語る時に人種なんてものは実に些細なものだとは思うけど。
そして、その兵器には大きな特徴があった。
「はい、これで、自己紹介は全員分終わりましたね。女子29名、男子1名の計30人。これから一年間、一年一組でともに頑張っていきましょうね」
ISは、女性にしか使用できない。
世界中でただ一人、織斑一夏という例外を除いては。
「それでは、織斑先生。お願いします」
「・・・ん?」
現実逃避の思考に沈んでいると、よく聞きなれた名前を聞いた気がして僕は顔を上げる。そこは、やはりと言うべきか、僕のよく知る女性が教室に入ってきた所だった。
いや、これはよく知るとかそういうレベルじゃない。普通に千冬姉さんだった。
「姉さん?」
「織斑先生と呼べ」
「あがっ!!」
何気なしに姉さんに声をかけた僕に返ってきたのは、流れるようなそぶりで放たれた右拳だった。僕の脳天は綺麗に撃ち抜かれ、鈍痛が僕の頭を襲う。隣に座っていた鈴木さんがぎょっとしているのがわかった。そうだね、驚かせちゃってごめんね?でも、これは僕のせいではないと思うんだ。
「いってぇ・・・・・いきなり殴ることないと思うんだけど」
「これは教育的指導だ。どうやらお前には教員に対する礼儀が足りないようだな?」
「すみませんでした!これからはちゃんと敬語を使いますから!」
「・・・・ふん」
追撃を恐れて謝る僕。姉さん、いや、織斑先生は僕を一瞥するとさらなる打撃を加えることなく教壇へと歩いていく。教室を見回すと、威圧感の込められた声で、言葉で、僕たちに言った。
「私が担任の織斑千冬だ。一年間で君たちを使い物になるまで鍛えるのが私の仕事だ」
『キャアアアアアアアアアアアア!!』
「ぅおっ・・」
織斑先生が言い切るや否や、教室は黄色い歓声で包まれた。驚いて僕も声を上げる。周囲の女子、とはいっても周りには女子しかいないわけだけど、ともかく女子からは歓喜の声が次から次へと飛び出していた。一転して騒然となった教室を見て織斑先生が嘆いている。
たまらず織斑先生は叫んだ。
「ったく・・・・。うるさいぞ、鎮まれ!!」
途端に静かになるクラスメートたち。早くも統率がとれている感じだ。こう、姉さんには昔から人を従わせる圧力みたいなものがある。いや、今はそれはいい。
姉さんが担任だって?電話の内容からなんらかのコンタクトはあると思ってたけど、それどころじゃない。この人、IS学園で教師なんかやってたのか。
「え、えーと・・・。ここ、IS学園はみなさんもご存じのとおりIS,インフィニットストラトスの扱い方を学ぶための学園です。これから三年間、一生懸命頑張っていきましょうね」
おどおどと山田先生が締めくくって。
僕の波乱に満ちた学園生活が幕を開けた。
世界初の男性のIS操縦者。僕がひょんなこと(本当にしょうもないこと)からISを動かしてしまってから、それは世界的な大ニュースとしてメディアに取り上げられた。僕の名前は実名で報道されるわ、強制的に進路が確定するわ、それからは割とひどい扱いを受けた気がする。僕のプライバシーはどうなっているのか。甚だ疑問である。
「彼が、織斑一夏くん?」
「入試会場で間違えてISを動かしちゃったんだって」
「誰か話しかけなよー」
・・・僕のプライバシーはどうなっているのか。
廊下から漏れ聞こえてくる楽しげな話し声とは裏腹に、僕の気分はどんどんブルーになっていた。それに、僕の唯一の救いの手と勝手に思っていた幼馴染は僕と目すら合わせようとしな―――。
「―――ちょっといいか?」
「・・・?」
それは僕に向けられたものだったのか、はっきりと確信が持てずに声のした方を向く。そこには件の幼馴染が立っていた。不機嫌そうな顔で。それはまだ僕たちが幼かった頃にはあまり見たことがない顔だった。もっと天真爛漫な感じだったのだ、篠ノ之箒という少女は。
かの少女は、今では年相応の女の子へと成長していた。凛とした顔立ちは鋭さを感じさせるほどだし、発育の良いスタイルは女性らしさを存分に備えている。なんだかいろんな意味で攻撃的に成長したようだった。
「・・・箒」
「少し話がしたい」
「それは、ここじゃ駄目な話?」
「お前は、ここでゆっくり話ができると思うのか?」
「・・・ごもっとも」
不機嫌そうな声で箒は言う。話しかけられたことへの安堵と、不機嫌そうな彼女への気まずさを感じつつ、僕は箒につられて教室を出ていった。
二人で廊下を歩く。廊下に出たところで僕への視線は減ることはなく、むしろ一層遠慮がなくなった気がした。ねえ、珍しい?そんなに男子は珍しいの?ここじゃ珍しいかもしれないけど、君らだって学園を一歩出れば男なんていくらでも見たことあるでしょ。そっとしといて欲しい。
無意識に早足になっていたかもしれない。箒に連れられてたどり着いたのは屋上だった。なくなった視線と心地よい風に少し気持ちを立て直すことができ、僕は箒に言った。
「久しぶり。六年ぶりだっけ?随分と大きくなったもんだね」
「お前は親戚のおじさんか・・・。六年ぶりに会った幼馴染に、他に言うことはないのか?」
確かに年寄り臭いことを言ってしまったかもしれない。呆れたように箒は言った。その遠慮のない物言いに、僕は凝り固まっていた気持ちがほぐされていくのを感じる。
「いや、実際助かったよ。男が僕だけで気疲れして仕方がなかったんだ。箒がいてくれて本当によかったと思ってる」
「む・・・。そ、そうか。そんなに私と再会できて嬉しかったか。そうか・・・」
僕の言葉に、箒はわずかに顔をほころばせると、満足げに頷いた。今度はお気に召してもらえたようだ。僕も気分がよくなる。
箒が僕に言った。
「お前は変わらないな。身体は大きくなっても、中身は昔のままだ」
「そうかな?箒だってそんなに変わってないと思うよ。だからこそ助かってるけどさ。もし箒が(性格まで)もの凄く女の子らしくなってたりしたら僕も参ってたかもしれないよ」
「なっ・・・!」
「え?」
なにかおかしなことを言っただろうか。箒が呻いている。いや、怒っている。なんだか知らないが、箒が怒っていることはわかる。
「箒?どうかした?」
「ふ、ふふ・・・・。そうか。つまりお前は、私が昔通りに男臭かったから、気を遣わなくて済んで楽だと、そう言いたいわけだな?」
「え?いや、別にそんなつもりじゃな――――」
「一夏のばかぁ!!」
「おふっ・・・・!?」
六年ぶりの幼馴染のボディーブローは、姉さんの拳に勝るとも劣らない威力だった。
これが幼馴染の成長を一番強く感じた瞬間だったのが情けなかった。
しばらく大筋は原作通りだと思います。
もちろん主人公が別人なので同じ話にはならないと思いますが。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。