この織斑一夏は物覚えがいいようです。   作:夜水秋水

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第7話 二番目の幼馴染

 きっかけは些細なことだった。そもそものきっかけ(・・・・)は衝撃的だったけど、とりあえずそれはいい。

 あたしが中国の軍部で訓練を受けていたあの日。

 唐突にあいつはまたあたしの日常に入ってきた。

 

 世界的なビッグニュースとして。

 それは、新たな期待感をあたしに与えたのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おはようございます、一夏さん」

 

 朝日に照らされた金髪が、輝きを増したかのようにも見えた。たぶんそれは気のせいで、彼女がまぶしく見えたのは、きっと隣に立つ彼女(・・)のせいだ。

 

 「おはよう、一夏」

 

 今日も自慢の黒髪はまばゆい艶を放っている。この二人は対照的で、それでもどこか似ている。一人が柔らかく微笑んでいて、一人がしかめっ面をしていて。なのにやっていることは同じなのだから、女の子は不思議なものだ。僕にはもう分からないよ。

 ―――――とにかく、僕が今すべきことは。

 

 「・・・おはよう、セシリア、箒。これで7回目になるわけだけど、別に僕は迎えに来てもらわなくても一人で教室までたどり着けるからね?」

 「そんなことはお気になさらずと何度も言っているではありませんか。私はただ、朝のひと時をこうしてご一緒したいだけなのです」

 「私は千冬さんに頼まれているからな。お前がおかしなことをしないように見張っているだけだ」

 「人をダシにしなければ動けないなんて、情けないことですわね」

 「猫かぶりよりはましだと思うが?」

 

 なるたけ穏便に、この場を切り抜けることだけだ。

 

 「オーケー、僕が悪かった。もう理由は聞いたりしないよ。さあ、早く行こう。遅刻なんてしたら何を言われるかわからないからね」

 

 そう言って、僕は一足先に歩き出す。こう何回も小競り合いをされると自然とそれに対する対処法も覚えるというものだ。この二人が仲が悪い理由は正直さっぱりだけど、この子たちの動かし方は記憶してきたのだ。

 

 「あっ・・・一夏さん!お待ちになって!」

 「一夏!まだ話は終わっていないぞ!」

 

 後ろからパタパタと足音が聞こえる。手早く事態を収めることができて僕は胸をなでおろした。不本意ながら、女の子というものの扱いに慣れてきた気がするな・・・。

 しかして、彼女たちもそう甘くはなくて。

 

 「なんだか、うまく躱されているような気がしませんこと?」

 「無駄に記憶力がいいからな。この状況にさっさと慣れてしまったのだろう」

 

 ぼそっと聞こえた呟きすら記憶してしまう。背筋が冷たい。

 自分の記憶力が恨めしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕がIS学園に入学して三週間ほどたった。人間とはなかなか図太い生き物のようで、当初はどうなることかと思ったこの状況にも僕は馴染みつつあった。

 見慣れた教室に入ると、何人かのクラスメートとあいさつを交わす。初日の自己紹介で全員の顔と名前は覚えていたので打ち解けるのに時間はかからなかった。もちろんそれほど親密な仲ではないけど、とにもかくにもクラスには馴染めているのだ。男友達がいないのがネックではあるんだけど。

 

 「おはよー、おりむー。ねえ、あの噂聞いた?」

 「おはよう布仏さん。噂って?」

 

 と、席にカバンを置いた僕に布仏さんが接近してきた。相変わらず野生では生きていけなさそうな動きだ。

 彼女の名前は布仏本音。牙を抜かれたというか、まず歯が生え変わらなかったような雰囲気の、のほほんとしたクラスメートである。僕の癒し系認定を受けている数少ない人の一人でもある。

 いや、刺激的な人が多いからさ。僕の周りの女性陣には。

 

 「なにか言ったか、一夏?」

 「いや、なんでもないよ?だから木刀を取り出そうとしないで」

 「布仏さん、噂とはどのようなものですの?」

 

 いつの間にやら僕の後ろに控えていた箒とセシリアが話に入ってきた。布仏さんとは対照的に牙をむき出しにしている箒をなだめる。冗談にしては目が本気だ。

 セシリアの質問に、彼女は言った。

 

 「んーと、なんだっけ?」

 

 嘘でしょ?

 

 「あっ、思い出した。えっとね、隣のクラスに転校生が来るらしいよ」

 

 今日も布仏さんはいつも通りのようだった。この子のペースに乗せられるといろんな気が抜けていく。箒も落ち着きを取り戻していた。

 うん。これで高校生にまでなっちゃったんだから周りの人の気苦労が知れるというか。珍しい環境で育ったのは間違いないだろう。

 

 「転校生?この時期にか?」

 「うん。中国から来たんだってー」

 

 箒が食いつく。この子はまだ他の子と話すことは多くないけど、布仏さんとは普通に話せるのだ。これも彼女の持つ癒しパワー(仮)の効力なのかもしれない。

 すると、話を聞きつけたクラスメートたちがさらに話に混ざってくる。

 

 「中国の代表候補生らしいよ」

 「代表候補生?だったらなんで最初から入学しなかったんだろう」

 「ふふっ。今更ながらに私の存在を危ぶんでの転入かしら?」

 「変わらないよね、君も・・・」

 

 あの模擬戦の後も、セシリアのこういう所は変わらなかった。僕はそれでいいと思っているし、彼女自身もそうなのだろう。変にセシリアが傷つくことにならなくてよかった。

 ・・・しみじみと思う。ここまで僕を取り巻いていた環境は割と好転してきているんじゃなかろうか。

 男が一人だけという状況にも慣れたし、意外とこの生活も悪くは―――――。

 

 「――――久しぶりね、一夏!」

 

 わかってた。わかっていたんだ。この世界が僕に厳しいってことくらい。

 教室のドア。自動ドアであるそれが開き招き入れた人物は、僕の名前を叫んだのは、予想外の少女。ある意味では、予想通りの少女。

 茶髪のツインテール、勝気そうな瞳。改造された制服に身を包んでいても、彼女はあまりに僕の記憶通りの容姿をしていた。

 

 「あれ、鈴ちゃん?」

 「ちゃん付けするなって言ってんでしょーがっ!バカ一夏!」

 

 凰鈴音。僕の二人目の幼馴染であり、可愛い妹分である。中学二年生の時に中国へと帰っていってしまいそれっきりになっていたんだけど、まさかこんな形で再会することになろうとは。お兄さんびっくりだ。

 

 「鈴ちゃん、なんでここにいるの?そう言えば、さっき転入生は代表候補生だとか・・・」

 「ふん、聞いて驚きなさい!あたし、中国の代表候補生になったの。あんたには負けないわよ!」

 「負けないって、なんの勝負なのさ・・」

 

 この子は何かと僕に挑戦的なのだ。まあ、可愛い妹がじゃれついてくるようなものなので僕としてはまったく苦ではないが。

 しかし、僕のように知り合いというわけでもないのなら、彼女の登場には心中穏やかではないようで。

 

 「一夏!誰なのだあいつは!?」

 「一夏さん!あの方は一夏さんとどのような関係ですの!?」

 「織斑君、中国の代表候補生と知り合いだったの!?」

 「ちょっ、みんな・・・!」

 

 和気藹々としていた雰囲気が嘘のように教室は騒然となった。騒ぎが騒ぎを呼び、到底僕の手では収拾がつかない状況になってしまう。

 くっ、女の子はどうしてこうも噂話が好きなのか!どうやらみんな、目の前の鈴ちゃん(エモノ)に気を取られて肝心なことを忘れてしまっているようだ。

 この教室には、絶対君主が君臨しているということを。

 

 「うるさいぞ!朝から何の騒ぎだ!!」

 

 ほら、うるさくするから織斑先生が早めの登場を果たしたじゃないか。

 織斑先生は一瞬で静まりかえった教室を見回すと、入り口付近に立っていた鈴ちゃんに目を止めた。騒動の原因を察したようだ。いや、鈴ちゃんだけが悪いなんてことはないけれども。

 

 「ち、千冬さん・・・・」

 

 鈴ちゃんは少し怯えているようだ。どういうわけか知らないが、この子は姉さんのことが昔から苦手だったのである。

 まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。

 

 「そこで他人事のように見物している馬鹿には後で説教だ。それから凰、お前も教室に戻れ。そろそろホームルームの時間だ」

 「えっ!?」

 「・・・分かりました。一夏、後で覚えときなさいよ!」

 

 最後に捨て台詞を吐いて鈴ちゃんは自分の教室に戻っていった。

 というか、何故僕まで説教を?

 

 「なんとかならんのか、この愚弟は・・・」

 

 朝から疲労感丸出しの姉さんを前にして、それ以上の追及はできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、昼休み。僕は食堂に来ていた。もちろん目的は昼食なわけだけど・・・。

 

 「さて、そろそろ説明してもらおうか」

 「ですわよ、一夏さん。この方とはどのようなご関係なのですか?」

 

 この二人は違ったようで。僕は箒とセシリア、それに鈴ちゃんとテーブルを囲んでいた。

 うん。僕はいいんだ。できるならたくさんの人と一緒の方が食事は楽しいと思うし、この二人のことを鈴ちゃんに紹介したかったから。

 だけど、当の本人たちは僕の思いとは裏腹に妙な緊張感を作っていた。

 

 「あたしは凰鈴音。中国の代表候補生よ。こっちの一夏とは幼馴染なの」

 「幼馴染だと?一夏、どういうことだ!」

 

 僕がどうすべきか手をこまねいていると、鈴ちゃんが自己紹介をしてくれる。しかし、彼女の言葉の中に含まれていたあるワードが引っかかったようで、箒が僕に詰め寄ってきた。

 落ち着いてと、手でジェスチャーしながら僕は言う。

 

 「鈴ちゃんは箒と入れ違いの幼馴染なんだよ。箒が転校していってから入れ替わりにこっちに来たんだ。だから、鈴ちゃんも箒と同じ僕の幼馴染なんだよ」

 「同じ・・・?一夏、その子も幼馴染なの?」

 「そうだよ、前に話したことあるよね?篠ノ之箒。僕の一番最初の幼馴染さ」

 「い、一番最初、か・・・」

 

 ん?なんだか箒がうれしそうだ。

 ともかく箒の誤解は解決したようで、次は自分の番と言わんばかりにセシリアが言った。

 

 「幼馴染ですか、成程。私はイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットですわ!一夏さんとはクラス代表の座をかけて争った仲で―――」

 「聞いたわよ、一夏。試験会場で間違ってISを動かしちゃったんだって?」

 「え?ああ、うん。その気はなかったんだけどね」

 「――――ちょっと、聞いていますの!?」

 

 バンッとテーブルを叩かれる。まだ誰も手を付けていない料理たちが揺れた。幸い料理がこぼれるようなことはなかったものの、セシリアの表情からは明らかな苛立ちが漏れ出ている。鈴ちゃんが話を聞いていないからだろう。

 しかし、この子の態度が少し変だ。さっきからどうも箒とセシリアに対して挑発的というか、敵対心が見え隠れしている。いくらクラス対抗戦が近いとはいえ、こうもあからさまなことをするような子ではなかったと思っていたけど。

 まるでさらにセシリアを熱くさせようとするかのように、彼女は言う。

 

 「ごめん、あたし興味ないから」

 「興味ないですって?言ってくれますわね・・・・!!」

 「二人とも、ちょっと落ち着いて!」

 

 初対面からこれじゃ先が思いやられる。

 そう思った僕は二人の間に割り込むと、さっきから態度がおかしい鈴ちゃんに言った。

 

 「せっかくセシリアが自己紹介してくれているのに、興味がないとか言っちゃ駄目だろう?お兄さんはそんな言葉遣い許した覚えはありません」

 「誰がお兄さんか。あたしだってあんたの妹になった覚えはないわよ。いいから、あんたは引っ込んでなさい」

 「まったく、ああ言えばこう言って・・・。僕は悲しいよ」

 「だーかーらぁー!あたしを妹扱いするなっつってんでしょ!?一夏のばかぁ!!」

 

 これが、思春期の少年少女にある反抗期というやつなのだろうか。

 昔は男女の隔てなく僕や弾と一緒に遊んでいたんだけどなあ・・・。

 

 「なんだか、怒っていたのが馬鹿らしくなってきましたわ・・・」

 「・・・ああ。ある意味、私たちより遥かにかわいそうな奴なのかもしれないな」

 

 僕の仲裁は功を奏したのか、箒とセシリアはいつの間にかクールダウンしていた。どうやら僕たちの関係を正しく理解してくれたようだ。これで彼女たちが鈴ちゃんと険悪になることもないだろう。

 お兄さんは一安心です。

 

 「あーもう、お兄さんって言うな!!」

 「いてっ、ちょ、蹴らないで!スカートの中見えちゃうから!!」

 「なっ!どこ見てんのよ、このスケベ!」

 

 僕の妹分の機嫌はその後も最悪だったけど。

 

 

 

  

 

 

  




今作ではのほほんさんは本名で呼ばれます。これは、織斑少年がクラスメート全員の顔と名前を覚えてしまっているからですね。

初めて鈴を見た時、妹キャラだと思ったのは僕だけなのでしょうか。

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