おそらく週に二本程度の投稿になってしまうかと思いますが、よろしくお願いします。
ご意見・ご感想お待ちしております。
僕が彼女と出会ったのは、小学校五年生の時だった。
異国からの転校生。当初は日本語もおぼつかなかった彼女は、その小柄な体格も合わさって随分と幼い印象を僕に与えた。
そのためか、僕にとって彼女は娘とまでは言わずとも、妹に近い存在となっていたのだ。
それも、僕の勝手な位置づけだったけれど。
◆◆◆◆◆
隣のクラスに転入生がやって来た次の日。もちろん特に何か変わったことがあったわけでもなく、僕は今日も教室へと向かう。
転入生が来たからと言ってIS学園の様子は変わらない。ここに通っているのは全世界から国籍問わず集められたエリートなのだ。当然のことである。
この程度で揺らぐ乙女たちではないのだ。
「今日の放課後から、一夏の訓練相手はあたしがするわ」
「なぜお前が出てくるのだ!一夏の相手はこの私だ!」
「貴女は二組ではありませんか!クラス代表戦も近いことですし、敵の施しは受けませんわよ!」
こ、この程度で揺らぐ乙女たちでは・・・・ないはずなんだけど。
今日もまた迎えというか、出待ちのように僕の部屋の前で待機していた箒とセシリア。けれどそこに割り込んできた鈴ちゃんとその二人は、朝から僕の部屋の前で口論を繰り広げていたのだった。僕のことで、僕抜きで。あれ?これおかしくない?
とはいえこのままドアの前で待っていても話は終わりそうでもなく、なにより学校に遅刻してしまう。仕方なく僕は自動ドアを抜けて彼女たちの前へと踏み出す。
ドアが開くやいなや、一斉に僕の方へと向いた彼女たちは口々に言った。
「一夏、これはどういうことだ!?」
「なぜこの方がここにおりますの!?」
「あんた、今日まで毎朝こいつらに迎えにこさせてたわけ!?」
ひどい言われようだった。
「三人とも、なんで僕の部屋の前にいるのさ。というか、みんなどうして教えてもいないのに僕の部屋の場所がわかるの?」
鈴ちゃんといい、箒とセシリアといい、僕の部屋にはなにか目印でもついているのか。
「なに言ってんの。そんなの、IS使えば一発じゃない」
「プライベート・チャネルを通して相互位置確認操作を行えば、専用機持ちならそれぞれの居場所を探ることなど簡単ですわ」
「最初の時は、私は朝練の後、たまたまセシリアを見つけてついて来ただけだ。なにか怪しい動きをしていたからな」
「・・・そうだった」
そう言えば、ISにはそういう機能もあると教本の26ページに書いてあったのだった。そんなこともできるのかと、その時は他人事のようにとらえてしまっていたけれど。本当に便利というか、恐ろしい機械だ。
というか、箒とセシリアの間には何があったのか。ツッコみたいけどやめておこう。藪をつついてなんとやらだ。
「ちなみに、あんたがさっきまでドアの向こうで様子を窺ってたのもお見通しだからね?」
「私にはあれほど格好の良いことをおっしゃっていたというのに、随分なことですわね」
「ほう?一夏、どういうことか説明してもらおうか」
なぜだ。藪をつついてもいないのに蛇が飛び出してきた。
女の子というのは僕が想像している以上に勘が鋭いようだった。僕がとっくに身支度を終えていたことなんて見透かされていたのだ。これが女の勘というやつなのかもしれない。
三人の標的は一瞬で僕に切り替わった。ドアを背にする僕を取り囲むように彼女たちは並ぶ。不味い。このままでは集中砲火にあってしまう。それも不味いが、もう一つの懸念事項が僕にはあった。
僕の頭の中で警報が鳴り響いている。これ以上ここで時間を取られるわけにはいかない。鈴ちゃんは気にならないのかもしれないが、僕たち一組のメンバーにとって遅刻は厳禁である。
「そ、それより!もうそろそろ時間が危ないと思うんだけど!?」
上ずった声で僕は叫んだ。
情けない僕の言葉に、けれど十分な効果はあったようで、箒とセシリアの顔から血の気が失せる。
「あと五分だと!?」
「一夏さん、お先に失礼させて頂きますわ!」
「あっ、ずるい!僕も―――」
「待ちなさい、一夏!」
箒とセシリアが我先にと駆け出す。僕も彼女たちに負けじと駆け出――――そうとして、そうはさせんと僕の手をつかんだのは鈴ちゃんだ。その小柄な体を精一杯使って僕を引き留めようとする彼女に、そのまま引きずっていくわけにもいかず僕は立ち止まる。
振り向いて言った。
「なに?今は話している場合じゃないんだ!僕のクラスの担任が誰か知っているだろう!?」
「いいからっ、ちょっと待ちなさい!心配しなくても時間は取らせないわよ!」
「・・・っ?」
必死だった。予想以上に真剣な声に、その表情に、僕は彼女の様子がおかしいことに気づく。
僕の腕をつかむ力の強さが、彼女の心情を物語っていた。
「どうしたの?なにか、僕に言いたいことがあるの?」
こうなってしまっては遅刻は決定的だったが、今はこの子の方が心配になっていた。
僕に促され、鈴ちゃんは言った。
「昨日の続きっ。・・・・一夏は、あの約束、覚えてるよね?」
僕を見上げる視線からは、彼女の本気が伝わってくる。
「昔あたしがこっちに来たばかりの頃、小学校の時教室で二人で話したこと、一夏は忘れてなんかいないでしょ?」
「教室・・・?」
鈴ちゃんが転校してきたばかりの小学校。二人っきりの教室。・・・約束。
いくつものキーワードを与えられ、ようやく僕は鈴ちゃんの言う
―――――ねえ、一夏。あたしが料理をもっと上手になったら。
今よりもずっと幼い少女は、たどたどしい日本語で僕に言ったのだ。
「僕に毎日酢豚を作ってくれる、君はそう言ったっけ」
「そ、そうっ、それよ!!」
一転して鈴ちゃんが嬉しそうに言う。僕も当時を思い出して懐かしさを感じていた。
あの時彼女はそう言ってくれたのだ。そしてあれが、僕が鈴ちゃんを妹のように思い始めたきっかけでもある。
「もちろん覚えてるよ。忘れるわけないじゃないか」
「そ、そうよね?一夏が忘れるわけないわよね!」
「そうさ。だって」
小学校時代の僕は、少し周りから浮いていた。精神年齢が生徒よりも教師に近い僕だから当然と言えば当然だが、そんな僕が小学生に混じって仲良く遊べるわけがなかったのだ。唯一仲の良かった箒も転校し、いよいよ僕は孤立していた。
そんな時に鈴ちゃんは転校してきたのだ。彼女が僕に懐いてくれた時は、それはもう嬉しかったものだ。
「―――――可愛い妹ができたみたいで、僕は本当に嬉しかったんだ」
「・・・・は?」
拍子抜けする鈴ちゃんに構わず、僕は続ける。
「あの時は友達も少なかったからさ。中学校に上がってからは弾とかとも仲良くなれたけど、それまでは鈴ちゃんだけだったからね、僕と話してくれるのは」
「・・・・」
「今だってそうさ。僕は鈴ちゃんのことを本当の妹みたいに―――――」
「うっさいっ!!!」
――――ドンっ。思いっきり頭を殴られた、気がした。
それは気のせいで。僕の耳を劈いた音は、彼女が思いっきり壁を殴りつけた音だった。部分展開されたISの腕は、壁にのめりこみヒビを入れている。
彼女が小刻みに震えていた。
「鈴ちゃ」
「ちゃん付けするなって言ってんでしょ、バカ!このウスラトンカチ!!何度言えばわかるのよっ!」
彼女は怒りに震えていた。
他でもない僕に対する怒りで。
「あたしはあんたの妹じゃない!そんなものになるためにあたしはここまで来たわけじゃないわ!」
「違うよ!僕は君を妹のように大事にしてるって意味で」
「違わないっ!あんたはあたしのことを全然わかってない!」
食い気味に彼女は言った。
わかっていない。理解していない。僕の認識を根本から否定する言葉に、僕は何も言うことができない。
押し黙った僕に、声のトーンを落として鈴ちゃんは言った。
「・・・あんた、一組のクラス代表になったそうじゃない」
「えっ?うん、そうだけど」
「あたしも二組のクラス代表になったの。だから、勝負をしましょう」
「勝負?」
そうして、彼女は言ったのだ。
「あたしとあんた、勝った方が相手になんでも一つ言うことを聞かせられる。これは
僕の知らない顔で、彼女はそう言ったのだった。
「一夏。後で何があったのか」
「ちゃあんと、説明して頂きますわよ?」
結局一限に間に合わなかった僕は、姉さんにキツイ一発をもらった後、放課後寮長室まで来るよう言われた。ただでさえこの学園の中で悪目立ちしている僕だけに、朝の一件についての噂は瞬く間に広まってしまっているようだ。
この二人にしても然り。休憩時間真っ先に僕のもとまで来た彼女たちは、そう念押しするとすぐ戻っていった。なんだろう。彼女たちがやけに静かなのが逆に恐ろしく思えてしまう。
と、僕の席にナマケモノのような緩慢な動作で布仏さんが寄ってきた。僕に言う。
「おりむー、おりむー」
「うん?」
「なんで今日遅刻してきたのぉ?」
『ええっ!?』
布仏さんが放った一言に、教室が揺れた。誇張とかじゃないよ?
相変わらずこの子は大胆というか、油断しているとスッと懐に入ってくるというか。底知れないポテンシャルを感じた。
といっても、僕は人に言うことではないと思ったから、適当に答えておく。
「うん、ちょっとね。大したことじゃないから気にしないで?」
「そっかー。人に言えない事なんだぁ~」
ちょっ。
「なになに?織斑君に何があったの?」
「今、人に言えない事って言ってなかった?」
「えー!?なにそれ気になるっ」
僕の恐れていた通りに、面白いように話が広まっていく。これはいけない。このままじゃどんどん尾ひれがついていってしまう。
僕は急いで、布仏さんに訂正を求める。
「なんてこと言うのさ!僕はそんなこと一言も言っていないじゃないか」
「え~?でも、おりむーが誤魔化したからー」
「くっ、君は・・・・!」
なんて子だ。言外に僕を揺すっているのか?いや、僕の考えすぎか?
誤魔化すのならこちらも容赦はしないと、彼女はそう言っているのかもしれない。僕の曲解だったら申し訳ないけど、今の彼女の言葉はそう取ることもできた。
・・・わからない。布仏さんはほわほわした顔で僕を見つめている。全く考えが読めない彼女に僕は戸惑っていた。
そして騒ぎを聞きつけたのか、新たな刺客が僕に近づいて来る。
「人には言えない事、か・・・」
「それは聞き捨てなりませんわね、一夏さん?」
「・・・・っ!」
こうなることだけは避けたかったのに。
結局僕は、次の授業が始まるまでの数分間、29名の女子たちのプレッシャーを受け続けなければならなかった。
織斑少年の異様な妹押しには理由があります。
次回もよろしくお願いします。