これが今後も続けばなと思う、金曜日のジャンボどら焼きです。
寒くなりましたので、体調管理にはお気をつけて。
心地よい風が吹き、肌を優しく撫でる。
見上げれば、雲ひとつない青空が広がり。そこを飛び交う小鳥達が、さながら人里の子供のようにじゃれ合っている。
それにしても、秋の空はどうしてこんなにも高く見えるのだろう。『天高く馬肥ゆる秋』という
ちなみにだけどこの諺、ルーツは中国だと言われているらしいね。なんでも”秋になると敵が攻めてくるから警戒しよう”という、農民達の戒めから来たとかなんとか。
まぁ僕としては、一般的に広まっている意味の方が素敵だと思うけどね。
さて、なんてちょとした雑学も交えながらの話だったけれど。
そろそろ、本題へと移ろうじゃないか。
本日、この場所、つまりは僕の住む廃神社に二人の来客がいる。
一人は僕の初めての友人である古明地さとり。そう、あのさとりだ。
そしてもう一人は、最近友人になった烏丸芙蓉。あの人見知りの激しい彼女だ。
なぜこの二人がここにいるのかというと。言ってしまえば偶然、偶々、何の意図もない。ただ二人が僕の元を訪ねて日が重なった、それだけのことである。
「…………」
「…………」
廃神社の縁。僕を挟んで両側に腰を下ろすさとりと芙蓉。無論、初対面の彼女達の間に会話はなく。
さとりはその半眼を空へと向け、芙蓉はそのつり上がった目をただ真っ直ぐ、睨みつけるように前方へと向けている。
静寂。
たまに風に吹かれてざわめく木々の音だけが鼓膜を揺らす中、さすがにこのまま無言でいるのはどうかと思い、初めて口を開く。
「それで、二人はなんでここに来たんだい?」
「別に、たんなる暇つぶしですよ」
「…………」
平坦な声で答えるさとりに対し、芙蓉からの返事はない。多分知らないさとりがいることで、緊張が最高値にまで高まったのだろう。
うん、やっぱりそう簡単に人見知りが治るわけがないか。
仕方ない。ここは僕が間を取り持って、うまく話を繋げようじゃないか。
「芙蓉、ふようー」
「……はっ! え、あっ、はいっ……芙蓉です」
優しく肩を叩き我に返す。
透き通る黒い瞳と重なるけれど、すぐに逸らされてしまう。
「ほら、せっかく僕以外と話せるんだから。この好機を無駄にしちゃいけないよ」
「わ、わかっています。わかっているんですが……あぅ」
ちらりと、横目でさとりを見た、ただそれだけで芙蓉は顔を伏せてしまう。天魔としてのスイッチが入っていないと、本当にこの子はダメダメだなぁ。
それじゃあ、さとりから話をしてもらう方向で行こうか。
「ほらさとり、ぼっちの大先輩だよ。なにか一言挨拶とかないのかい?」
「ぼっちをやめろと、前にも言ったはずですが。あれですか、また抓られたいんですか」
「はっはっはっ、いやだなぁさとりは。お茶目だよ、お茶目」
伸びてくるか細い腕を掴み、それ以上進まないように抑える。
「あの子、芙蓉って言うんだけどね。かなりの人見知りだからさ、君から話しかけてはくれないかい?」
「なんで私がそんなこと。それに彼女って天魔でしょう? なぜこんな場所にいるんですか?」
「なんでって、友人だからさ。それ以上も以下もないよ」
「……なぜこの短期間で天魔と友人になったのかは置いておきましょう。それよりも、なぜその天魔があんなにもビクビクしているんですか」
だから人見知りだって言ってるじゃないか。まったく、さとりは物忘れが激しいなぁ……ってああ、ごめんごめん。だから力を強めないでくれないかい?
「異性で手を繋ぎあって……世間一般ではそれが普通なのですか……?」
僕とさとりのやりとりを見て、後ろで芙蓉がぼそりと漏らす。
これを見て仲睦まじいと思うのだったら、彼女はかなり手遅れな部類に入るのかもしれない。
「ほら芙蓉、君から話しかけないと。ここで自分の殻を破るんだ」
「わ、私の殻を、ですか……」
「そうともさ。じゃなきゃ、前には進めないよ……それとさとり、そろそろ手を離してくれないかい?」
ようやくさとりが手を離してくれたことで、僕はその場から腰を上げ数歩前に進む。
ここからは二人で会話を広げてもらおう。芙蓉には酷かもしれないけれど、心を鬼にして当たらせてもらうからね。
面白いものが見れそう、なんてことはこれっぽっちも考えていないよ。期待はしているけれど。
「……あ、あのぉ」
よし、一言目を口にできた。後はそのまま流れでいくだけだ。
「……きょ、今日は、いい天気でひゅね……はぅ」
あら、噛んじゃった。それに話題も、話ができない人の定番のものだ。
やっぱり今の彼女には初対面の他人と話すのは難易度が高すぎたかなぁ。
「そうですね、今日はとてもいい日だと思います」
「は、はい……そうですよね……」
「…………」
「…………」
だめだ、会話がつながらない。芙蓉も芙蓉だが、さとりももっと会話を弾ませる努力をしてもいいとは思う。
そんな二人の会話を遠くから眺めていると
「はぁ……それで、なんで天魔であるあなたがこんな場所にいるんですか?」
仕方ないですね──そんな言葉を代弁するかのようなため息を吐き、さとりが芙蓉へと話しかけた。
「あぁ答えなくとも結構です。私は心が読めるので、適当に思い浮かべてください」
そう言い、さとりは胸元に抱えた第三の目を芙蓉へ向ける。芙蓉はさとりの指示に従い、黙って彼女の質問に心の中で答える。
「はぁ……人見知り、ですか」
芙蓉の答えにさとりはなんとも言えない表情を浮かべる。
確かに天狗のトップに君臨する彼女が人見知りなどと、いったい誰が思うだろうか。
「……なぜ、という理由は聞いても?……はい…………なるほど」
険しい表情を浮かべ
「いえ、別におかしいとは思ってませんよ。ただ、私も少しはですが、あなたの気持ちはわかる……と思っただけで」
芙蓉の気持ちがわかると、さとりはそう語った。
心を読めるが故に、妖怪からも
確かに、二人の境遇は傍目から見れば似ているのかもしれない。
けれど、二人の間には決定的な差がある。
「……気が変わりました。私もあなたのお手伝いをするとしましょう……えぇ、あの天邪鬼だけでは心配ですから」
心外だなぁ。僕だってちゃんとしなくちゃならない時は、ふざけたりはしないというのに。
「運がいいことに私は覚り妖怪です。まず話に慣れるまでは、私があなたの話し相手になりましょう」
さとりがそう言うと、芙蓉は嬉しさからか、満面の笑みを浮かべる。それはあの日、僕に見せた笑顔と同じもので
「ふふっ、それがあなたの本当の顔なんですね」
そんな彼女の笑顔につられて、さとりもまた、月下美人のような儚い笑みを咲かせた。
その後は、さとりの話題の提供もあってか、二人は談笑し──まぁ傍目には、一方的にさとりが話しているだけに見えるけれど──終始笑顔を浮かべるのだった。
夕刻。秋空にはうろこ雲が浮かび、その隙間から茜色が顔をのぞかせる。
「そ、それでは、この辺りで失礼しますっ」
「あぁ、またいつでもおいでよ」
「また色々とお話聞かせてくださいね」
そう言い、芙蓉は一対の漆黒の翼を広げると、落ち葉を巻き上げながら、夕日の中へと姿を消していった。
神社に残された二人。内、天邪鬼がさとりへと話しかける。
「さとり、君はどうするんだい?」
目を合わせず、うろこ雲を眺めながら、そう尋ねる。
頬を撫でる風が、夏の頃とは違い、確かに体温を奪っていった。
「そうですね……もう少しだけ、お話しませんか?」
いつものように平坦に。だけどどこか、少しだけ物悲しそうに。
そんなさとりの言葉に、天邪鬼は一言
「そうかい」
そのままいつもの場所に腰をかけ、さとりもまた、何も言わずに少し間を空けて腰を下ろす。
「今日はすまないね。練習の相手にしちゃってさ」
「別に気にはしていませんよ。私も彼女が不遇だなと思ったので」
それに──と、言葉を続け
「私と違って彼女には、ちゃんと迎えてくれる方達がいますから。なら、少しでも早くその場へ送ってあげるものでしょう?」
さとりと芙蓉の決定的な違い。それは芙蓉を忌み嫌うものがいないということ。彼女は人見知りさえ治れば、居場所は自然と出来上がる。
だがさとりには、その居場所すらないのだ。
「言っておきますが、同情なんていりませんよ?」
「ははっ、僕がそんなことすると思うかい? 買い被り過ぎだよ、僕はそこまでお人好しじゃあないよ」
目を細め笑みを浮かべる天邪鬼。そんな彼の一言に、さとりは内心で苦笑する。
「僕はただ、自分の好きなように生きているだけ。自分の心に正直に、やりたいことをやっているだけさ」
だからさ──
「さとり、君も自分の好きなように生きていいんだよ? 君がしたいように、心の思うままにね」
いつだって、誰かの目を気にして。心を読まないよう、一人でいて。でも本当は、誰かと一緒にいたくて。
そんな彼女の心を見抜いたように語る天邪鬼に、ふっ、とさとりは笑みを浮かべる。
「まるで全てわかっているかのような口ぶりですね」
「おや、違ったかい?」
「さて、それはどうでしょう。なんなら、私の心を読んでみたらどうです?」
「生憎と、そんな便利な目は持っていなくてね。できるのは、精々、君のお願いを聞くことぐらいかな」
そう言い、さとりへと顔を向ける。夕焼けよりもさらに深い、紅い瞳と重なる。
「さとり、君がしたいことは何だい?」
「私がしたいこと、ですか……」
眉間に皺を寄せ、考え込む。今まで誰かにお願いなどしたことない彼女にとって、天邪鬼の一言は思考を巡らせるに十分なものだった。
首を傾げ、顎に手を当て、頭を抱え。そうして考えること、たっぷり五分。
さとりは顔を上げ、再び互いの視線が重なる。
しかし先ほどまでと違い、その頬はどこか赤く染まっており。
「えっと、あの……」
まるで先ほどまでここにいた、あの人見知り天狗のように、言葉が喉に詰まる。
そんなさとりを、天邪鬼は静かに、優しい目で見守り。
ようやく覚悟を決めたさとりが、ついに喉に詰まらせた言葉を口にする。
「その……手を、握ってもいいでしょうか……?」
恥ずかしそうに、しかし僅かな不安を交えながら。
「ああ、もちろんいいとも」
静かに、右手を差し出す。差し出された右手に、さとりは恐る恐る、自身の左手を伸ばし。
大きさの違いからか、彼の手がさとりの手を包み込む形になる。
「……あなたの手、温かいですね」
「さとりの手も、ひんやりとして気持ちいいよ」
左手を包む人肌の暖かさ。こうして誰かに手を取ってもらったっことはないさとりは、初めて感じるその温もりに口元を綻ばせる。
悪くない。どころか、どこか心が安らぐ。
そんなことを思いながら、さとりは少しだけ、ほんの少しだけだが、互いの距離を縮めた。
やっぱり、書くのって難しいですね。
表現がありきたりだから、面白みがなくなっていく感覚に陥って。
うん、作家ってすごい。