天邪鬼は神社で暮らすそうです(仮題)   作:ジャンボどら焼き

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第9話です。
出てくる新キャラの設定、何か不備あれば言ってください。



第9話 『秋に染めよう!』

 秋も徐々に深まりつつある今日この頃。

 天邪鬼の住む神社の付近の木々もだんだんと色づき始め、夏の頃とは違う肌寒い風が吹き抜ける。

 

「うぅっ……それにしても、最近は寒くなってきたねぇ」

 

 黒い甚兵衛に包まれた体を震わせ、天邪鬼はぽつりと言葉を漏らす。そんな薄着でいればそれは当然だという話だが、そもそも彼にはこの甚兵衛以外の服がない。

 この神社の居住スペースにある引き出しを漁ってみたが、彼の体に合うサイズのものはなく。

 はぁ、と重い息が溢れる。このため息も間もなく、白く染まるのだろう。さすがに冬になる前にはどうにかしたいが、これといって具体的な解決策が思いつくわけでもなく。

 

 ひゅうぅ、と再び風が吹き、天邪鬼は再度、体を震わせる。

 

「これは……本格的になんとかしないとねぇ」

 

 そう言い、天邪鬼は何時もの縁側から腰を下ろすと、鳥居へ向けて足を進める。

 そして鳥居の向こう側、この神社へ続く石造りの階段へと目を向け。それを挟むようにして生い茂る、まだ赤く染まりきっていない木々を見下ろす。

 ここから見える以前踏み入れた妖怪の山は、今では完全に色を変えている。他にもちらほらと紅葉した木々が見受けられ、おそらく色変えしていないのはここの木々くらいだろう。

 

「ふむ、同じ里でも染まるのには差があるのか」

 

 なんて、暇なのでそんなことを考えていると

 

「あれ、妖怪がいる」

「ん……?」

 

 どこからか女性の声が聞こえ、天邪鬼は辺りを見回し声の主を探していると。

 ガサガサ、と眼下に並ぶ木々の内の一つが不自然に揺れ

 

「よいしょっと」

 

 そんな声とともに、まるでリンゴが木から落ちるかのごとく、金髪の少女が姿を現した。

 思いもよらない場所からの登場に天邪鬼が、おぉ、と軽い衝撃を受けていると。少女はツカツカと、靴音を鳴らしながら階段を登り、彼の元までやってくる。

 

「珍しいわね。こんなボロボロの神社に誰かいるなんて」

 

 そう言いながら天邪鬼を見上げる少女。

 ウェーブのかかったボブの金髪に、同色の瞳。頭には赤・オレンジ・黄色の3枚セットの楓の髪飾り。

 ボタン留めの長袖は茜色で、膝まであるスカートは腰から裾にかけて赤から黄色へとグラデーションをしている。スカートの裾から覗くのは、脛上まである白色の靴下と黒い靴。

 

 ぱっと見、紅葉を思わせる出で立ちをしたそんな少女は、柔和な顔を不思議そうにさせつつ、天邪鬼へと問いかける。

 

「あなた、どうしてこんな場所にいるの?」

「そうだねぇ、ここに住んでいるから……かな?」

「えっ……ここに? ほんとに?」

 

 見るからにボロボロの社殿に目を向け、ギョッとした表情を浮かべる少女。まぁこんな場所に好き好んで住むものなど、この里中を探しても片手ほどいれば十分だろう。

 

「それに妖怪が神社に住むって……妖怪的にどうなの?」

「どうって聞かれても……まぁ本人がよければいいんじゃないかな?」

「ふぅん、そんなものなのね」

 

 返答には特にこだわっていないのか、そう言葉を返す少女。

 すると次は、天邪鬼が少女へと質問をする。

 

「そういえば、君はなんであんな木の上に登っていたんだい? 木の実を探している、というわけではなさそうだけど」

「あああれね。あれは木の実を探してたんじゃなくて、葉っぱを染めていたのよ」

「葉っぱを染める……?」

 

 少女はさも当たり前のように言うが、天邪鬼には言葉の意味を理解することができなかった。葉っぱを染めるなどと言う言葉、言われたのは初めてなので当然といえば当然なわけだが。

 しかし染める、とはどういうことか。まだ葉っぱを取るというのならわかるが……いやそれでも、こんな山奥の木々にまで取りに来るのは、それはそれでおかしなものではある。

 

 はて、と首を傾げる天邪鬼に、少女はわかりやすいように説明を加える。

 

「私、この里一帯の木を紅葉させてるの。染めるっていうのは、葉っぱを紅くするって意味」

「へぇ、紅葉を……それは君一人でかい?」

「えぇ、今の所は私だけね。それに一枚一枚手作業塗るから、どうしてもムラができちゃうの」

 

 そう言い、悩ましげにため息を吐く少女。

 この里一帯の木々を、と言葉では簡単に言うが、それは途方もない作業だということは間違いない。しかも手作業で一枚一枚など、常人なら木が狂ってもおかしくはない苦行だ。

 

 知らぬ間に、へぇ、と関心の声が漏れ出ていた。自分なら、絶対に途中で投げ出してしまう自信がある。

 

「それはそれは大変だね。でもどうして君がそんなことをしてるんだい?」

「私、こう見えても神様なの。紅葉の神様。だから木々を紅葉させるのは私の役目なのよ」

「へぇ君は神様なのか……」

 

 少女の言葉に、天邪鬼は意外そうな表情を浮かべ、彼女の姿を見つめる。

 

「どうしたの? そんなにまじまじと見つめて」

「いやね、神様っていうともっと威厳があるものと思っていたから……ああ、気に障ったのならごめんよ」

「別に気にしてなんかないわ。それは私も自覚していることだから」

 

 曰く、彼女は八百万の神々の一柱らしい。中でも彼女は季節──秋を司る神だそうだ。

 日本神話に出てくるような名を馳せた神々とは違い、人間の近くに存在する。親しみやすさがあるのは、もしかしたらそういったものが関係しているのかもしれない。

 

「初めて会った神様がこんな威厳も何もない女の子で、ちょっとがっかりさせちゃったかしら?」

「そうでもないさ、むしろ初めてが君でよかったよ。僕としては、親しみやすい方が好きだからね」

「ふふっ、そう言ってくれて嬉しいわ」

 

 表情を柔らかくさせ、右手を差し出す。

 

「私は(あき)静葉(しずは)よ。以後よろしくね」

「僕は天邪鬼。こちらこそ、よろしく頼むよ」

 

 かくして天邪鬼は、初めて神様との交流を果たしたのであった。

 

 

 

 

「それで静葉、君はこれからまた作業に戻るのかな?」

「そうね。といっても、後はここの一帯の木を塗るだけなんだけど」

 

 そうは言うが、ここから見えるだけでもけっこうな量がある。さらには葉っぱ一枚一枚を手塗りするのだ、相当時間がかかるのは間違いない。

 今は昼前ではあるが、果たして今日中に終わるのだろうか。

 

「……よければ僕も手伝おうか?」

「ありがとう、その気持ちだけ受け取っておくわ。これ、私じゃないとできないことだから」

 

 木々を紅葉させるためには、彼女の有する”紅葉を司る程度の能力”が必要らしい。

 天邪鬼の心遣いを、静葉は申し訳なさそうな表情をしながら断る。

 

 しかし天邪鬼は、いや、と口を開き

 

「それなら、僕も力になれると思うよ」

 

 ちょっとごめんね──そう言い、天邪鬼は静葉の頭に優しく手を置く。突然のことに静葉は戸惑うが、5秒も経たない間に手は離れ。

 

「さて、君はいつもどうやって木々を紅葉させているのかな?」

「え……えぇっと、こうやって……こうするのよ」

 

 若干戸惑いつつ、静葉は近くの木から染まっていない葉をちぎる。そして少し力を込めたかと思うと、手に持った葉が徐々に色づいていき、5秒もかからず紅く染まりあがった。

 

「力の調節で色の濃さも変わるの。強すぎたら茶色に、弱すぎたら黄色って具合に」

「なるほど……うん、わかった」

「……あの、本当にできるの?」

 

 疑いの視線を向けてくる静葉に、天邪鬼は先ほどの彼女と同じく、色づいてない葉を手に取り

 

「えぇっと……こう、かな?」

「え……うそ……」

 

 少し力を込めると、静葉同様、手にした葉が紅く色づいたではないか。本当に自分と同じことをして見せた天邪鬼に、静葉は驚きで目を見開かせる。

 葉を染め終えた天邪鬼は、ふぅ、と息を一つ吐き

 

「こんな感じでいいかな?」

「あ、うん……大丈夫よ」

 

 天邪鬼から受け取った葉を受け取り、ちゃんと染まっていることを確認する。

 自分がやったものと、ほとんど変わらないクオリティである。

 

「それじゃあ、僕はこっち側をやるから、静葉はそっちを頼むね」

「……ええ、わかったわ」

 

 何をしたのか問いただしたいところだが、まずは紅葉させることが先だ。

 木の葉の中へと姿を消す男の姿を見送った後、静葉もまた、同じように樹葉の中へ姿を隠すのだった。

 

 

 

 

 

 それから時間も忘れ、木々を紅葉させること早数時間。

 太陽は傾き始め、空が静葉と同じ茜色へと変化していく頃。

 

「よしっ、終わった!」

「こっちも、ちょうど終わったよ」

 

 ほぼ同時に、最後の木を染め終えた天邪鬼と静葉は、鳥居の下へと集合する。

 

「いやぁ、なかなか辛い作業だったねぇ」

 

 慣れないことをしたからか、天邪鬼はやや疲れたような表情を浮かべるのに対し。

 

「ごめんなさいね、会ったばかりのあなたに手伝わさせて」

 

 さすがは玄人なだけはあり、静葉は表情一つ変えていない。やはり新参者である天邪鬼とは年季の差が如実に現れる。

 

「なに、僕が勝手にやったことさ。それに山を紅葉させるなんて体験、滅多にできるものじゃないからね。こちらこそ、貴重な経験をさせてくれてありがとう」

 

 ぐーっ、と伸びをし、眼下に映える紅を視界に収める。この区画だけとはいえ、まさか自分の手で紅葉させることができるとは。なんだか感慨深いものがある。

 静葉と出会うまでは紅葉は自然とそうなっていくものだと思っていたので、影でこのような努力がされているのだなとわかった今は、より一層そう感じる。

 

 たっぷりと五分ほど、紅葉を見下ろした後、天邪鬼は隣に立つ静葉へと視線を向け

 

「染め終わったことだし、静葉……君はこれからどうするんだい?」

「どうもこうも、普通に過ごすだけよ。……あなたは?」

「僕もかな。好きな時に好きなことをして過ごす、それだけさ」

 

 まぁ今は、冬に向けての準備に取り掛かることが第一なのだが。本当に、どうすればいいのやら。

 

「それじゃあ、私はそろそろ御暇させてもらうわ。今度は妹も一緒に連れてくるわね」

「あぁ、それは楽しみだねぇ。君の妹だ、きっといい神様なんだろうね」

「まぁね、私の妹だもの。……それじゃあまた」

 

 小さく手を振り、石造りの階段を降りる静葉。

 その小さな背中が紅葉の中に混じり、見えなくなるまで、天邪鬼は見送り続けた。

 

 

 

 

 





秋姉妹が姉、秋静葉さんの登場回。
果たしてキャラはこれでいいのだろうか……。

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