そんなことがあった翌日。
「空閑君さっきの凄かったね!『ズドン!』って!」
我らが3年3組の切り込み隊長が空閑君に目を輝かせながら話しかけていた。『さっき』とは何か解らない私は近くにいた一之瀬さんに何があったのか、と聞いてみた。
話を要約すると、こうだ。
昼食のときに懲りずにやって来た三馬鹿ヤンキーズがワンコインとお札と有り金全部を要求した。
私はしっかりと一円玉を渡して一足早く帰ってきたから有り金伝々は聞いていなかった。ーー「1円とか嘗めてんのか!」とか言われたが1円も立派なワンコインだ。100%アルミニウム舐めんなーーその後空閑君は足を使い衝撃波を出して三馬鹿を威圧。まんまとその場を離れ、他の生徒と生徒達の懐を守った。
「ーーということか」
「だいたいあってるけど何かが違う!」
「アリスは遊真をなんだと思ってるの……」
「紙様見習い堕天使
「ごめんちょっとよくわからない」
そんなやりとりをしている間にも有名人好きな二ツ木さんは、「何あれ中国拳法?」「アリスといいチェシーといい転入生はただ者じゃない気がする!」と言っていた。ちょっと待て。
「チェシーとルーシー(空閑君)のことは分かる。けど私は一般人です!」
「一般人?逸般人の間違いじゃないのか?」
「遅刻の女王がそれ言う?」
という二人のツッコミが来たがーー空閑君よく逸般人なんて言い回し知ってたね。チェシー、お前後で校舎裏なーー気にしない気にしない。
「話変わるけど、空閑君のいた国ってどんなところだったの?なんいう国?」
そう聞くと、彼は唸って少し考えた後、「名前言っても分かんないと思うよ」という解答が返ってきた。
「かなりマイナーな国らしいぞ。空閑、野球もテニスもサッカーも知らなかったからな」と三好君が補足事項を述べた。
「マジか。じゃあチェシーと同じ国、っていうわけじゃなさそうだね」
「イタリアはヨーロッパ圏だからね。その周辺でもないだろうし。」
「じゃあさ、その国って、何が流行ってたの?趣味とか音楽とかスポーツとか」
「私は音楽にハーゲンダッツ」「じゃあ俺はスポーツに爽健美茶」「三雲君は?」「えっ!?……趣味?」という賭け事(?)をして皆で空閑君のほうを見る。しかし皆の予想は全て外れた。
「……戦争?」
「戦争!?」
「あ〜………そうきたか」
空閑くんは所謂旅人であり、各地を転々と渡り歩いていたらしい。彼曰く「大体どこも戦争中」「物心ついた時からずっとそんな感じ」だったらしく、過酷な環境で育ってきたことが伺える。
「でも、戦争って言うなら
そう、三門市--正確にはボーダーが、だが--も人ではないとはいえ戦っている。
有る人は家を壊され、離る人は行方知らずとなり、また或る人は家族や隣人を殺された。
たったの2日で東三門に住んでいた人々を絶望させ、そして別の区画をも蹂躙していったその怪物はしかし、突如颯爽と現れた謎の一団が近界民をあっという間に撃退していった。
『こいつらのことは任せてほしい。我々は、この日のためにずっと備えてきた』
そう言った彼らこそが、界境防衛機関『ボーダー』
近界民の
色々と抜けているような気しかしないが私が知っている情報はこれだけだ。
因みにこのボーダー系の話は主に三好君とチェシーから得た情報だったりする。
三好君は生粋のボーダーファンで、広報サイトに載っている正隊員の名前を全て暗記している。その暗記力を勉強面にも反映して貰いたいところだ。
チェシーは親戚がボーダーにいるらしく、そこから聞いた情報だと言う。
その親戚はA級のエリート、らしい。
空閑君が何かを探るようにチェシーを見ていたが、まぁそこまで気にする程のことでもないだろう。チェシーだし。
「……と、いうわけで街は安全、オレらも安心!あーオレもボーダーに入りてーなぁ。どうやったら入れるんだろうなー」
ボーダーの情報を整理している間に三好君が空閑君にボーダーについて力説していたらしい。周り(主に四ツ谷君)が「ああ、またか」と呆れ顏で彼を見ている傍ら、空閑君がきょとんとしながら何かを言った。
即座に三雲君が彼の口を押さえながら教室を出て行ったため、何と言ったかは聞き取れなかったが。
「面白そうだからちょっと行ってくる」と言って出た野次馬ならぬ野次猫チェシーのことはこの際放っておこう。
「ちょっと飲み物買ってくるわ。ついでに焼きそばパンでも買おうかな」
「うちらの分も頼むわ〜」
「後でお金取るからね?奢りじゃないからね??」
そんな会話をして、私は教室を後にした。
この後すぐ、私たちの何気ない日常は呆気なく崩れることとなる。