みでくにアリス、第5話です。
ゴトンっと自動販売機が音を立てる。下の取り出し口から炭酸飲料と爽健美茶、お釣りのところから小銭を取り出す。あ、十円落ちた。落ちた十円玉を拾って小銭入れに投入。この後売店まで焼きそばパンを人数分買ってきたらミッションコンプリートだ。
パシリ代も合わせて少し高めに請求してやるか、と邪な考えと財布とお守りを胸に抱いて歩く。
__いや、歩こうとした。
《緊急警報。緊急警報。
けたたましいサイレンが鳴り響き、拡大された声が危険を呼び知らせる。ついさっきまで晴れていた空が薄暗く濁り、その空中でバチバチと人ならざるものが蠢く。
学校中が唖然としている中、「繰り返します」と冷静な女性の声が響き渡る。
《__市民の皆様は直ちに避難して下さい。》
腕の中の炭酸飲料が、地面に落ちて、破裂した。
♥︎♠︎♦︎♣︎
ここは警戒区域から遠いから。このままだと被害が出てしまう。『オサムの腕だと死ぬ』そう忠告してくれた空閑には悪いけれど、それでもぼくにはやるべきことがある。
近界民がいる方向へ階段を駆け上る。さっきまで和気藹々としていた空間。瓦礫だらけで走りにくい空間。硝子が散った踊り場。クラスメイト達の悲鳴。
__そして脚を斬られ、態勢を崩した近界民。
そいつを下に落として、ぼくの姿に驚いていた彼らを早く逃げるよう促す。長くは保たないから。
全員逃げたことを横目確認し、自動車に足の生えた様な近界民を見据える。狭い場所なら、体の小さい方が有利な筈。__そう思っていたけど、
「っ……」
敵は収納されていた足でぼくごと壁を薙ぎ払った。教室と廊下を仕切る壁をぶち壊し、壁だったものの瓦礫とその近くにあった机や椅子が宙を舞う。幸い薙ぎ払われたときの足以外がぼくに当たることはなく、不恰好ながらもしっかり着地が出来た。これも戦闘体の恩恵なのだろうか。
しかし、壁が壊され、廊下と教室が繋がって広くなってしまった。ぼくの後ろには窓がある。この壁も壊されて、壁を上がって屋上まで到達してしまうとまずい。反撃をしようと試みたもののレイガストを持っていた腕を丸ごと断たれ、傷口から勢いよく霧が漏れた。
「モールモッド」は戦闘用のトリオン兵だ。
__オサムの腕じゃ、死ぬぞ?
刻々と敵が近づく中、空閑の声が頭の中に木霊した。
♥︎♠︎♦︎♣︎
校舎の窓から煙が立つ。戦況を見るために生徒がフェンスに近づく。ほらみろ。普通にやられてんじゃん。そう思いながらおれはばれないように、ひっそりと屋上の扉に向かう。
「仕様がない。助けに__ん?」
あと一歩というところでタンッとチェシーが驚異の全段飛ばし(踊り場から、だが)をしておれの前にしゃがみ、膝に手を乗せて立つ。はぁはぁと肩で息をしながら、前を向いて「いない」と呟いた。そしてまた下を向き、
「遊真。アリス、知らない」
こう言った。くるりと背後を見回す。……言われてみれば、多少色素が薄い人がちらほらいたが、綺麗なミルクティーの髪とアイスグリーンに近いあの碧眼を併せ持つ奴__ましてや自分の紫のスカーフ(リボン?)をネクタイ結びにして代わりにつけているという猛者はいなかった。
「……ざっと見た限りはいないな」
「そっ、か。はは……だよなぁ……」
そうして踵を返してもう一度飛び降りようとするチェシーに待ったをかける。
「……お前、トリガー持ってないだろ。行くのはおれ一人で充分だ」
「『今は』の間違いじゃないかな。……それもそうだな。こうして話している時間が惜しいしね。ちゃんと全員で帰ってこいよ」
「当然」
チェシーが踊り場から退いたのを引き金に、何段か飛ばして駆け下りていった。
♥︎♠︎♦︎♣︎
瓦礫を避けながら走る。避けるのが難しいなら飛び越えるだけ。
集合場所に向かって走る。友達は、先生は無事だろうか。
近界民がいないうちに階段を駆け上がる。時々上から地響きが聞こえてくるが気にしない。
極力音を立てないよう脚に力を込める。全ては敵に、援軍に見つからないようにするため。
脚の近くに近づいてきた小さな
斜め上から物とものが掠れる音がする。何かが落ちた音が斜め上の廊下から聞こえた。
意を決して階段を上がる。階を上がった直ぐの場所には、紫色の鎌のような敵の腕(ブレード付き)が転がっていた。
それを拾って、ハンカチでブレードを拭く。護身用くらいにはなるだろう。そう思って、構える。
「……敵の武器で敵を獲るのは、アリなんじゃないですかね」
階段を上がった先には、紫色の巨体と、モノトーンカラーの隊員が交戦していた。