岸波白野の提督業務   作:キングフロスト

1 / 7
EP.0 始まりはいつも唐突に

 

 ここは月。

 正確には、月の内部に構築された電子世界に築かれた、データの海。

 

 数多の魔術師が、この月の───ムーンセルの支配権を争い、そして散って行った。

 聖杯戦争と呼ばれる、100を越えるマスターの中から、ただ一人を決める戦い。

 

 俺は、その命懸けの闘争を勝ち抜き、聖杯を手にする唯一のマスターとなった。

 

 

 

 ……となった、はずだったのだが。

 

 

 

 

 

 

「ここは、月海原学園じゃ……ない?」

 

 気が付けば、そこは見覚えのない場所だった。

 

 靴を通して、足の裏から伝わってくるコンクリートのしっかりとした硬い感触。鼻腔をくすぐる潮の香りは、何度かアリーナで感じた、深海や海中の湿っぽいものとは違う、爽やかな海上の香りだ。そう、例えば──海辺や港で嗅ぐような。

 

 そして、今まさに、俺の目の前に広がるのは果てしなく広がる一面の海。水平線の先すら海しかないような、どこまでも続くその光景は、聖杯戦争の頃にはなかったものだ。

 いや、それに近いものなら見た事はある。第七回戦時のアリーナ第二層。あそこは唯一、全てのアリーナにおいて()()()()()()()()()()()

 だけど、やはりそれもムーンセルの作り出した幻想的な空間でしかなく、美しいがあまりにも現実味の薄い景色だったと記憶している。

 

 しかし、今目の前に広がるこれは、現実のそれと遜色なく、むしろこれこそが現実なのだと信じざるを得ない。

 それほどまでに、この光景はリアルそのものだったのだ。

 

 だが、やはりこの世界も現実そのものという訳ではないと理解している。どう見ても、地上のそれと変わりないように見えるが、決定的にそれが間違いだと裏付けるものが、俺の傍らで存在していたのである。

 

 そう、その存在こそは───

 

 

 

「みこーんと来ましたとも! どうやら(わたくし)達は、違う仮想世界へと飛ばされてしまったようでございますねぇ」

 

「どうやらそのようだ。私達がマスターに付き従う形で現界している以上、やはりここはムーンセルが作り出した仮想の空間、という事なのだろう」

 

 

 

 

 月の聖杯戦争を共に駆け抜けた、俺の自慢のサーヴァントである。

 いや、何故サーヴァントが二人も居るのかは、ちょっと俺も謎なんだけど……。

 

「ところで、そちらアーチャーさん。どうして貴方までここに? せっかく(わたくし)とご主人様だけの甘々、ラブラブ、イチャイチャ、グヘヘ、な新婚生活が満喫出来るチャンスでしたのに~」

 

 不満たらたらといった様子で、尻尾を逆立てるのは、俺の記憶(といっても今は自信がない)が正しいのなら、自称良妻巫女狐ことキャスターだ。

 

「いや、私に聞かれても困るのだがね。こちらとて、現状に困惑しているんだ」

 

 ほとほと困り果てたとばかりに、額を片手で押さえる彼はたしか……アーチャー、だったはず。

 というか、サーヴァント二人分の記憶がごっちゃになってるんだけど、どうなってるんだ俺の頭……?

 

「現状もそうだが、私のマスターは女性だったような気がするのだがね。如何せん、私もその辺りの記憶がどうにもあやふやなのだよ」

 

「いやいやいや、俺は生まれた時からずっと男でしたけど!?」

 

 というか、普通に考えて女になれるはずがない。どこぞの呪いの泉に落ちた訳でもあるまいに。

 

「それはそうと、お二方。後ろにも目を向けて下さいません?」

 

 と、キャスターがちょいちょい、と俺の肩をつついてくる。後ろに何がある、と…いう……、

 

 ………。

 

 彼女に促されて振り向いたそこには、大きな建物が建っていた。それは、校舎というにはあまりに無骨で、飾り気がなく、機能面を重視したようなシンプルな造りをしている。

 なんとなく、軍事的な何かを彷彿とさせるものを感じ、何故かかつて戦ったマスター、ダン・ブラックモアを思い出した。彼はたしか、軍人だったと聞いたが……。

 

「ふむ……まさか、な」

 

 俺が奇妙な感覚に囚われている間、アーチャーは何か心当たりがあるかのような、思わせぶりな態度を見せる。

 が、それすらも霞むような事を言ってのけるのが、我らがシリアスブレイカー、キャス狐さんなのであった。

 

「うーむ……というか、ぶっちゃけ艦これじゃね?」

 

「かんこれ?」

 

 心当たりを通り越して、知ってます発言でした、ハイ。

 

「……私も名前を聞いた事はあるが、詳しくはないな。それで、キャスター? ここはどういった世界なのかね?」

 

「えーっと、あれです。旧日本帝国が有した軍艦を女の子にしちゃったゲーム☆みたいな? そして、その女の子になった軍艦を艦娘と呼ぶんです」

 

「色々言いたい事はあるが、止めておこう。さて、という事はつまりあれか。軍艦ならば、当然その艦娘とやらが戦う相手も存在する、と」

 

「察しが良くて助かりますねぇ。はい、その通りです。敵に関しては、追々語ると致しますが、ここが艦隊これくしょん、略して艦これの世界なら、このキャスターにお任せあれ! 実は(わたくし)、このゲームの経験者でして。ある程度は把握しておりますとも!」

 

 えっへん、と胸を張るキャスター。それに合わせてそのたわわな胸が揺れるが、全力でスルーする。

 

「なるほど。どこかで見た覚えのある造りだと思ったら、日本海軍のものだったか」

 

 え、そんなものを見た事があるのか、アーチャー!? 一体いつの英霊なんだと問いたいが、確か彼はかなり現代に近い時代の生まれだったはず。

 その頃にまだ日本帝国軍は存在していたのだろうか?

 

「不思議そうな顔だな、マスター。別に現役で活動するところを見た訳じゃないさ。海上自衛隊で基地をそのまま流用している地域が有り、私はそれを目にした事があるというだけの話だよ」

 

「へえ~、そうなのか。なんというか、人生経験豊富だよな、アーチャーって」

 

 それこそ、山あり谷ありの人生だったに違いない。だって、日本人なのにこんなに白髪だらけだし。

 

「ぐぬぬ……(わたくし)だって負けてません~! 艦これに関しては、(わたくし)の方が詳しいですし。まあ、ゲーム通りならの話ではあるのですが」

 

「えっ……?」

 

 キャスターの言葉に、俺は一抹の不安を覚えながらも、改めてこの施設に向き直る。

 俺達は一体何のために、この世界へ飛ばされたのか。ここを調べる事で何かその手掛かりが掴めるかもしれない。

 言い知れぬ不安と、沸き起こる好奇心を胸に抱いて、俺は一歩前へと足を運ぶ。まずは動く事。これが聖杯戦争から最初に学んだ基本だから。

 

 

 

 まず、この施設は何なのか。その正体はずばり、『鎮守府』である。言ってしまえば、防衛ラインのようなもので、ここを敵に突破されれば、大きな損失を被る──といったところか。

 キャスター曰わく、ここが『艦これ』において最も重要な拠点となってくるらしい。部隊編成や出撃、武器の開発に修理ドック、これらをまとめて管理、運営していく者の事を『提督』と呼ぶそうだ。

 

 少しの間、この鎮守府内を俺とキャスターとアーチャーの三人で調査してみたが、特にこれといった手掛かりは見当たらない。

 結局、何の成果も上げられないままに、俺達は未調査の部屋を一つ残し、その前に集まっていた。

 

「ここが最後……」

 

「司令室、ですか。これはまた、何の捻りもなく、そのまんまですねぇ」

 

「ここに何も無ければ、早速暗礁に乗り上げる訳だが、果たしてどうなるか……」

 

 どうあれ、ここしかもう可能性は残されていない。ここで何も進展が無ければお手上げだが……さて、俺達は何度となく、そんな局面でも乗り越えてきた。

 こういう時はあれだ。やれば何とかなるってものだ。

 

「相変わらずの前向き志向、我がマスターながら恐れ入る。さあ、マスターに倣い、我々も気張っていこうじゃないか、キャスター?」

 

「言われなくとも、(わたくし)はマスターに付き従うのみ。というか~、主人が暗い顔をしていたら励まし、明るい顔をしていれば一緒になって笑ってこその良妻というものでございましょう?」

 

「いや、そう言われても分からないんだけど……。でも、なんというか、その、二人共ありがとう」

 

 俺は礼を言うと、二人の反応を見る事せず、扉に手を掛けた。この先に何があるのか。はたまた何もないのか。

 どちらにせよ、今後の方針が決まる事は間違いないだろう。

 

 ドアノブを回し、扉を引いて中へと入る俺達の目に映ったもの、それは──

 

 

 

「あ! お待ちしていました! 貴方が司令官ですね? 私は特型駆逐艦、吹雪型一番艦吹雪です! よろしくお願いしますね!」

 

 

 

 中学生くらいの、自らを()()()と名乗る少女の姿だった。

 

 




 
 
どうも、作者のキングフロストです。
以前の活動報告にて書きました、ふと思いついた作品ですね。
前の設定と初期では異なっていますが、追々と設定の通りになっていく予定ですので、読者様は気が向いた時にでも、気長に気まぐれ更新にお付き合いいただければと思います。

なにしろ、Fate/EXTRA作品でのメインは復讐の方なので……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。