ここは月。
正確には、月の内部に構築された電子世界に築かれた、データの海。
数多の魔術師が、この月の───ムーンセルの支配権を争い、そして散って行った。
聖杯戦争と呼ばれる、100を越えるマスターの中から、ただ一人を決める戦い。
俺は、その命懸けの闘争を勝ち抜き、聖杯を手にする唯一のマスターとなった。
……となった、はずだったのだが。
「ここは、月海原学園じゃ……ない?」
気が付けば、そこは見覚えのない場所だった。
靴を通して、足の裏から伝わってくるコンクリートのしっかりとした硬い感触。鼻腔をくすぐる潮の香りは、何度かアリーナで感じた、深海や海中の湿っぽいものとは違う、爽やかな海上の香りだ。そう、例えば──海辺や港で嗅ぐような。
そして、今まさに、俺の目の前に広がるのは果てしなく広がる一面の海。水平線の先すら海しかないような、どこまでも続くその光景は、聖杯戦争の頃にはなかったものだ。
いや、それに近いものなら見た事はある。第七回戦時のアリーナ第二層。あそこは唯一、全てのアリーナにおいて
だけど、やはりそれもムーンセルの作り出した幻想的な空間でしかなく、美しいがあまりにも現実味の薄い景色だったと記憶している。
しかし、今目の前に広がるこれは、現実のそれと遜色なく、むしろこれこそが現実なのだと信じざるを得ない。
それほどまでに、この光景はリアルそのものだったのだ。
だが、やはりこの世界も現実そのものという訳ではないと理解している。どう見ても、地上のそれと変わりないように見えるが、決定的にそれが間違いだと裏付けるものが、俺の傍らで存在していたのである。
そう、その存在こそは───
「みこーんと来ましたとも! どうやら
「どうやらそのようだ。私達がマスターに付き従う形で現界している以上、やはりここはムーンセルが作り出した仮想の空間、という事なのだろう」
月の聖杯戦争を共に駆け抜けた、俺の自慢のサーヴァントである。
いや、何故サーヴァントが二人も居るのかは、ちょっと俺も謎なんだけど……。
「ところで、そちらアーチャーさん。どうして貴方までここに? せっかく
不満たらたらといった様子で、尻尾を逆立てるのは、俺の記憶(といっても今は自信がない)が正しいのなら、自称良妻巫女狐ことキャスターだ。
「いや、私に聞かれても困るのだがね。こちらとて、現状に困惑しているんだ」
ほとほと困り果てたとばかりに、額を片手で押さえる彼はたしか……アーチャー、だったはず。
というか、サーヴァント二人分の記憶がごっちゃになってるんだけど、どうなってるんだ俺の頭……?
「現状もそうだが、私のマスターは女性だったような気がするのだがね。如何せん、私もその辺りの記憶がどうにもあやふやなのだよ」
「いやいやいや、俺は生まれた時からずっと男でしたけど!?」
というか、普通に考えて女になれるはずがない。どこぞの呪いの泉に落ちた訳でもあるまいに。
「それはそうと、お二方。後ろにも目を向けて下さいません?」
と、キャスターがちょいちょい、と俺の肩をつついてくる。後ろに何がある、と…いう……、
………。
彼女に促されて振り向いたそこには、大きな建物が建っていた。それは、校舎というにはあまりに無骨で、飾り気がなく、機能面を重視したようなシンプルな造りをしている。
なんとなく、軍事的な何かを彷彿とさせるものを感じ、何故かかつて戦ったマスター、ダン・ブラックモアを思い出した。彼はたしか、軍人だったと聞いたが……。
「ふむ……まさか、な」
俺が奇妙な感覚に囚われている間、アーチャーは何か心当たりがあるかのような、思わせぶりな態度を見せる。
が、それすらも霞むような事を言ってのけるのが、我らがシリアスブレイカー、キャス狐さんなのであった。
「うーむ……というか、ぶっちゃけ艦これじゃね?」
「かんこれ?」
心当たりを通り越して、知ってます発言でした、ハイ。
「……私も名前を聞いた事はあるが、詳しくはないな。それで、キャスター? ここはどういった世界なのかね?」
「えーっと、あれです。旧日本帝国が有した軍艦を女の子にしちゃったゲーム☆みたいな? そして、その女の子になった軍艦を艦娘と呼ぶんです」
「色々言いたい事はあるが、止めておこう。さて、という事はつまりあれか。軍艦ならば、当然その艦娘とやらが戦う相手も存在する、と」
「察しが良くて助かりますねぇ。はい、その通りです。敵に関しては、追々語ると致しますが、ここが艦隊これくしょん、略して艦これの世界なら、このキャスターにお任せあれ! 実は
えっへん、と胸を張るキャスター。それに合わせてそのたわわな胸が揺れるが、全力でスルーする。
「なるほど。どこかで見た覚えのある造りだと思ったら、日本海軍のものだったか」
え、そんなものを見た事があるのか、アーチャー!? 一体いつの英霊なんだと問いたいが、確か彼はかなり現代に近い時代の生まれだったはず。
その頃にまだ日本帝国軍は存在していたのだろうか?
「不思議そうな顔だな、マスター。別に現役で活動するところを見た訳じゃないさ。海上自衛隊で基地をそのまま流用している地域が有り、私はそれを目にした事があるというだけの話だよ」
「へえ~、そうなのか。なんというか、人生経験豊富だよな、アーチャーって」
それこそ、山あり谷ありの人生だったに違いない。だって、日本人なのにこんなに白髪だらけだし。
「ぐぬぬ……
「えっ……?」
キャスターの言葉に、俺は一抹の不安を覚えながらも、改めてこの施設に向き直る。
俺達は一体何のために、この世界へ飛ばされたのか。ここを調べる事で何かその手掛かりが掴めるかもしれない。
言い知れぬ不安と、沸き起こる好奇心を胸に抱いて、俺は一歩前へと足を運ぶ。まずは動く事。これが聖杯戦争から最初に学んだ基本だから。
まず、この施設は何なのか。その正体はずばり、『鎮守府』である。言ってしまえば、防衛ラインのようなもので、ここを敵に突破されれば、大きな損失を被る──といったところか。
キャスター曰わく、ここが『艦これ』において最も重要な拠点となってくるらしい。部隊編成や出撃、武器の開発に修理ドック、これらをまとめて管理、運営していく者の事を『提督』と呼ぶそうだ。
少しの間、この鎮守府内を俺とキャスターとアーチャーの三人で調査してみたが、特にこれといった手掛かりは見当たらない。
結局、何の成果も上げられないままに、俺達は未調査の部屋を一つ残し、その前に集まっていた。
「ここが最後……」
「司令室、ですか。これはまた、何の捻りもなく、そのまんまですねぇ」
「ここに何も無ければ、早速暗礁に乗り上げる訳だが、果たしてどうなるか……」
どうあれ、ここしかもう可能性は残されていない。ここで何も進展が無ければお手上げだが……さて、俺達は何度となく、そんな局面でも乗り越えてきた。
こういう時はあれだ。やれば何とかなるってものだ。
「相変わらずの前向き志向、我がマスターながら恐れ入る。さあ、マスターに倣い、我々も気張っていこうじゃないか、キャスター?」
「言われなくとも、
「いや、そう言われても分からないんだけど……。でも、なんというか、その、二人共ありがとう」
俺は礼を言うと、二人の反応を見る事せず、扉に手を掛けた。この先に何があるのか。はたまた何もないのか。
どちらにせよ、今後の方針が決まる事は間違いないだろう。
ドアノブを回し、扉を引いて中へと入る俺達の目に映ったもの、それは──
「あ! お待ちしていました! 貴方が司令官ですね? 私は特型駆逐艦、吹雪型一番艦吹雪です! よろしくお願いしますね!」
中学生くらいの、自らを
どうも、作者のキングフロストです。
以前の活動報告にて書きました、ふと思いついた作品ですね。
前の設定と初期では異なっていますが、追々と設定の通りになっていく予定ですので、読者様は気が向いた時にでも、気長に気まぐれ更新にお付き合いいただければと思います。
なにしろ、Fate/EXTRA作品でのメインは復讐の方なので……。