岸波白野の提督業務   作:キングフロスト

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EP.1 re.ゼロから始まる白野の生活

 

 開口一番に、自らを軍艦であると名乗った、セーラー服に身を包んだ中学生くらいの少女。

 キャスターの言葉の通りなら、彼女が『艦娘』という事になるが……。

 

「……って、あれ? 三人? えっと、どなたが司令官でしょう……?」

 

 と、少女は後ろから続々と入ってきたアーチャーとキャスターの姿に、大量の疑問符を頭の上で浮かべていた。

 最初に入ってきたのが俺だったので、反射的に俺を司令官だと認識したが故の混乱だろう。

 だが果たして、俺は本当に司令官並びに提督なのだろうか? 俺が提督で良いのだろうか?

 キャスターはこの世界の元となったゲームの経験者と言っていたし、彼女に任せた方が良いような気もするが。

 そう思い、キャスターにどうしようかと相談すべく振り返ったところ、ほぼ同時のタイミングで、俺の唇にキャスターの人差し指が重なるように触れた。

 

「分かっておりますとも。貴方様が何を仰ろうとしているか。ですが、(わたくし)はあくまでご主人様のサーヴァント。なればこそ、サポートはすれども、この鎮守府の提督は我が主の他において、最適な方はおりません」

 

 俺が何を言おうとしていたのかを先読みしたかのように、先手を打たれてしまった。彼女の言葉に、俺は困り顔でアーチャーにも視線を送るが、彼もまた、やれやれと分かりやすくジェスチャーを以て返した。

 

「彼女の言う通りだよ。私やキャスターは君のサーヴァントだ。元来、サーヴァントの本分はマスターに仕える事なのでね。悪いが、君を差し置いて司令官になどなる気は毛頭ない」

 

 アーチャーもキャスターも、提督になるつもりは一切無いらしい。となると、必然的に鉢は俺にまわってくる訳で、今のやりとりを見ていた少女も、ホッとしたように一息ついていた。

 

「やっぱり、あなたが司令官だったんですね。ああ良かった~。最初から間違えたかと思って、ちょっとヒヤヒヤしちゃいました」

 

「いや、なし崩し的にだから、俺だってそんな自覚は全然無いし……」

 

「最初は誰だってそうですよ。この鎮守府だって出来て間もないですし、所属する艦もまだ私しか在籍していません。一からコツコツと頑張っていきましょう! 一緒に!」

 

 なんというか、元気過ぎない程度には元気な子だ。

 だけど、今の台詞……。

 

(わたくし)達も居ましたので、いやまさかとは思いましたが、結局はそうなりますか」

 

 明らかにガックシとうなだれるキャスター。それが意味する事とは、やはり……。

 

「喜べ、マスター。どうやら私達はゼロから鎮守府運営に携わる必要があるらしい」

 

「ああ、やっぱりなのか……。うん、なんとなく分かってた」

 

 そんな気はしていたとも。聖杯戦争の時だってそうだった。最初は知識も経験も実力も、何も自分には無かったのだから。

 

「だが、君は聖杯戦争においても、今と同じような状況で、いや、今よりも過酷な状況でスタートダッシュを切ったが、月の勝利者となった唯一のマスターだ。誇るといい、君の本懐は“何もない”から始まり、天賦にさえ届くという事なのだからね」

 

 アーチャーの励ましは、共に聖杯戦争を駆け抜けたからこそ出て来る言葉だ。互いに信頼の置ける間柄だという、何よりの証明でもある。

 アーチャーと熱い男同士の友情のようなものを互いに確かめ合っていると、面白くなさそうにキャスターはアーチャーへと睨みを利かせていた。

 

「あ、あのですね、早速ですが司令官に任務を消化して頂きたいんですが……よろしいですか?」

 

 おずおずと、そう申し出てくる少女──吹雪に、俺はその任務とやらについて尋ねる。

 ここに来てから最初の任務とは何だろうか。少しばかり気になるし、ワクワクもしていた。

 

「いいよ。それで、任務って何をすればいいんだ? 出撃?」

 

 言っておいてアレだが、艦一隻だけで出撃は流石に無いか。やはり、俺の問いはあっさりと切り捨てられる。

 

「いいえ。流石に私だけでの出撃は心許ないので……。任務というのはですね、私以外の艦の建造です。艦隊を編成するにも、一隻だけでは戦力が圧倒的に不足していますから」

 

「なるほどなるほど。それは然り、ですねぇ。簡単な海域程度なら一隻でも何とかなりますが、敵も艦隊を編成してくる訳ですし、こちらも戦力増強をしておくのは必要不可欠でしょう」

 

 やっぱり経験者のキャスターは頼りになる。分からない事や悩み事がある時は、キャスターに相談するのが良いかもしれない。

 ……後でどんなお返しを要求されるかが、若干心配ではあるのだが。

 

「それで? その建造とやらはどうやるのかね?」

 

 アーチャーは普段なら頼りになるナイスガイだが、この世界では俺と同じ初心者だ。当然、彼もまた何をして、どうすれば良いのかが分からないのである。

 

「ゲームの頃とは勝手が違うようですし、ひとまず工廠に赴くと致しましょうか。手順については道すがらにでもご説明しますね。それじゃ、吹雪さん。案内お願い致しますね?」

 

「あ、はい! それでは、どうぞ私の後に続いてください! ……ところで他の二人って誰なんだろう?

 

 若干の思案顔で部屋を後にする吹雪に、俺は遅れないように後を追い始める。アーチャーとキャスターも、俺に続く形で付いて来ていた。

 

 とにかく、俺の提督としての初仕事な訳で、少し不安なところもあるけれど、それ以上に未知への期待も強く胸の内に湧き上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 しばらく歩く事数分。司令室を出て建物内からも出た俺達は、海岸沿いに建っている大きな倉庫のような所へと連れて来られた。

 どうやらここが工廠らしい。

 

「工廠のすぐそこが海なんだな。その方が都合が良いのか?」

 

「はい! 建造した艦は試運転の為に少し海上を航行しますから。それに、ここは艦の建造の他に兵器開発や改造、艦の改装なども行いますので、すぐ海に出られる方が試験運用の効率も良いんです」

 

 なるほど、よく考えられている。というか、それが当たり前なのだろうか?

 無知の恥とはよく言ったものである。

 

「さて、ここで新たな艦の建造をするんだったな、吹雪君?」

 

「は、はい! それで、建造に使用する資材数を司令官に決めて頂きたいんですが……」

 

 アーチャーの問いかけに対し、少し緊張したように返事をする吹雪。そのままスライドするように俺へと視線変更をした彼女だったが、さて、資材の数か……。

 

 本当に道すがら、キャスターによる簡単な艦娘建造についてのノウハウを聞いていた俺は、その内容を思い返す。

 

『それでは説明致しますね? 艦娘の建造ですが、ぶっちゃけ簡単楽チンちょちょいのちょいで出来ちゃいます。まずは建造に使用する資材を、種類毎に幾つ使うかを決めます。それで後は妖精さんにポイッと丸投げ。ね? 簡単でございましょう?』

 

 ……うん。かなりザックリとした説明だったが、要はどの資材をどれだけ使うかを決めるだけ、という事だ。

 妖精さんとやらが何かは分からないが、とにかく、使う資材数を建造に携わるその妖精さんとやらに伝えれば良い。

 

(わたくし)のオススメは、設定のそのままです。まあ、最初ですし? 資材は貴重ですから、十分な資材確保の手段を整えるまでは節約していきましょう! ふっふっふ、今こそ良妻節約術をお見せする時! 期待してお任せ下さいましね?」

 

「あ、ああ。頼りにしてるよ」

 

 そういえばキャスターは、敵から魔力を奪うのが得意だった。魔力を奪って自分に還元して、そしてその魔力でスキルを行使する……といったエコロジーかつ循環的な節約術を思い出すな。

 紙一重でこなした戦闘の数々も、今や良い思い出だ。

 

 さてと、キャスターのアドバイスに従い、最初は資材をそのままの設定数で消費して建造しよう。

 建造ドックは二つあるようなので、二隻同時に建造するのも手かも。

 

「ところで、これは誰に伝えれば良いんだ?」

 

 一応の建造予定が決まったので、早速取り掛かりたいところなのだが、肝心の施工する者がどこに居るのかが分からない。

 キョロキョロと辺りを見渡してみるも、それらしき人物は見当たらなかった。

 

「………ん?」

 

 と、キョロキョロしている俺の足下で、誰かにツンツンとつつかれる。

 何だろうと下を見てみると、

 

「ヤァ」

 

 とでも言いたげに、それはもう、とても小さな子どものようなモノが立っていた。というか俺を小さな指先で突っついているのはその子どもだった。

 

「あ、その子が妖精さんですよ。建造、開発、改造、改装、廃棄、そして艦載機の操縦と、色んな事を引き受けてくれている、とても優秀な妖精さん達です!」

 

 吹雪の説明に、気分を良くしたのか、その妖精さんは親指をグッと立てて俺に自信たっぷりの笑みを向けていた。

 よく見れば、小さいながらになかなかどうして貫禄があるというか。ともあれ、頼りになりそうな雰囲気を醸し出している。

 

「えっと、それじゃあ初期設定でいいから、建造を二隻。これで頼めるかな?」

 

 俺の頼みに、これまた「マカセロ」とでも言うかのようにサムズアップすると、妖精さんはすたこらと建造ドックの方へ駆けていく。

 そして、何やらスイッチのようなものを押すと、他の妖精さん達も多数現れ、建造が開始された。

 

「おお……小さいのに、てきぱき働いてすごいな」

 

「ああ。あの成りで働き者とは、まるで童話の『小人と靴屋』に出て来る小人のようだな」

 

 アーチャーと二人、彼らの働く姿に感心していると、先程ドックに駆けて行った妖精さんがこちらに戻ってくるのが見えた。手に何やら持っているようだ。

 

「多分、報告書でしょう。建造に掛かる時間でも書いてあるのかもですねぇ」

 

 俺は妖精さんから受け取った書類を見ると、そこにはキャスターの言った通り、建造に使用した資材の数とその種類に加え、建造に掛かる時間が記されていた。

 

「二隻とも、二十分強で完成するみたいだ。思った以上に早いな」

 

「まあ、そこはそれ、元がゲームなのですし仕方有りません。さて、では司令室に戻って完成を心待ちにすると致しましょう!」

 

「私もそれに賛成だな。こういうのは、出来てからのお楽しみというヤツでね。何が出来るか分からないからこその醍醐味とも言えるのさ」

 

「私もそれが良いかと思います。誰が来るのかを司令室で楽しみに待つのって、良いと思いますし!」

 

 三人とも一旦司令室に戻る事を希望している。別に俺も断る理由も無いし、三人の意見にも一理ある。

 よし、ここは戻って、どんな艦娘が出来るのかを楽しみに待つとしよう。

 でも、よくよく考えたら、船の建造なのに人の姿をした艦が出来るってのは、ある意味ホラーでミステリーだよね。

 

 

 

 

 そうして、なんだかんだと俺の新しい使命は、とんとん拍子に進んでいく。再びゼロから始まった、この提督としての活動だが、ひとまずアーチャーとキャスター、それに吹雪が居てくれるおかげで、あまり不安に感じる事はない。

 それに、新たな仲間がこうやってどんどん増えていくのは、むしろ頼もしいとさえ思える。

 

 キャスターや吹雪から色々と話を聞いているうちに、時間は過ぎていき、いつの間にか建造終了の予定時間となっていた。

 

「渡航訓練も建造時間に含まれていますので、そろそろこちらに完成した艦がやってくると思います。なんだか、少し緊張しますね……。どんな子が来るんだろう?」

 

 吹雪が見た目の年齢相応に、新たな仲間の到着を今か今かと落ち着かない様子で待つのを見守りつつ、俺も貧乏揺すりが止まらないでいた。

 

「気持ちは分かるのだがね、みっともないから止めたまえよ、マスター。これから来る艦娘は君の配下となるんだ。その子らにそんな姿を見せるのだけは推奨しないぞ」

 

「そうですねぇ。アーチャーさんの言うことも一理有りです。第一印象はかなーり大切ですから、ご主人様の威厳あるところをしっかりと見せてあげて下さいましね」

 

 うーん、そう言われると余計に緊張してくるんだけど……。

 だけど、時間とは無情にもやってくるもの。コンコン、という小気味良いノックの音が司令室に響き渡る。

 そして、その後に聞き慣れない女の子の声が聞こえてきた。

 

「失礼します」

 

 来た……!

 ゆっくりと開かれるドアに、俺達は息を呑んで待ち構える。やがて、その扉から二人の少女が姿を現した。

 そう、建造によって新たに仲間となった艦娘が───。

 

 

「駆逐艦、朝潮です。勝負ならいつでも受けて立つ覚悟です」

 

 

「駆逐艦、浜風です。これより貴艦隊所属となります」

 

 

 そして、彼女らの自己紹介に、何故か口をあんぐりと開けて驚愕の表情を浮かべるキャスターが深く印象的なのだった。

 




 
キャス狐が驚愕するその理由とは……?

その答えは、マシュマロもどきにあり……!!
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