岸波白野の提督業務   作:キングフロスト

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EP.2 これはゲームであってゲームではない

 

 キャスターが唖然としているのが気になるが、俺はひとまず部屋に入ってきた二人の少女に、自己紹介をする事にした。

 

「えっと、初めまして。一応、俺がここの提督をさせてもらってる岸波白野だ」

 

「はい! 朝潮型一番艦、朝潮! 必ずや司令官のご期待に応えてみせます!」

 

「陽炎型十三番艦、浜風です。どうぞよろしくお願いします」

 

 俺の言葉にしっかりと返事を返す二人。同じ駆逐艦と言っても、まるで容姿も性格も異なるようだ。

 

 吹雪は中学生くらいの見た目で、真面目だが、少しおっちょこちょいな雰囲気がある。

 

 朝潮は小学校高学年くらいの容姿で、これまた真面目かつ少々熱血というか、責任感に溢れた女の子といったところか。

 

 浜風は中三から高校生辺りの容姿をしており、それ故かこの三人の中では最も大人びた感じがする。というかマシュマロを連想させる髪と体型は、明らかに子どものそれではないな。

 そして、なんというか、その雰囲気や口調からは従順そうな空気が漂っているような気がしないでもない。

 

 うーん、こうして見ると、今居る駆逐艦達は真面目な三人組といったところだろうか。いや、他の艦娘を知らないから、彼女ら艦娘が皆、真面目なのかは分からないのだが。

 

「優しそうな提督で嬉しく思います。どんな任務だろうと頑張りますので、末永く貴艦隊に置いて頂きたいですね」

 

「あ~分かる分かる! 世の中にはヒドい司令官もいるって聞きますし。私も司令官が優しそうな人で本当に良かったです!」

 

 にっこり笑顔の浜風に便乗するように、吹雪が彼女の台詞に文字通り乗っかっていた。

 いや、なんだか褒められているみたいで、少し気恥ずかしいな。

 

「君達、あまり彼を褒めすぎないでやってくれ。生憎と、そういう類の事には慣れていないのでね」

 

 俺が恥ずかしく思っている事を察したのか、アーチャーがさりげなくフォローを入れている。

 でも、別に褒められて悪い気はしないので、ちょっとだけ残念だったり。

 

「ところで司令官。司令官の後ろで控えているこのお二人は、一体どなたなのですか?」

 

 朝潮が優等生のようにビシッと手を挙げて、アーチャーとキャスターについて訊ねてくる。いや、まあそれは当然と言えるか。

 提督だけならまだしも、なんだかよく分からない人物が二人も、しかも艦娘ですらないのだから、疑問に思うだろう。

 

「ふむ……我々が誰なのか、か。そうだな、シンプルな答えとしては、私達も君達艦娘と同様に、彼に仕える存在と言える。君達とは種類と出自の違う、だけど君達と同じように彼に使役される者……とだけ言っておこう」

 

 アーチャーが淡々と、自身とキャスターの存在について、朝潮や彼女の意見に同調して聞いていた他の二人にも説明する。

 当たり障りのない範囲での説明を心掛けているようだが、サーヴァントについて教えるべきではないからなのだろうか?

 理由は分からないが、アーチャーはその辺をぼかしておきたいらしい。

 

 ところで、キャスターが停止したまま動かないのだが、一体どうしたのだろう。確か、朝潮と浜風が部屋に入ってきた辺りで、こうなってしまったんだっけ?

 

「キャスター、どうかしたのか? 何かマズい事でもあった?」

 

 キャスターにだけ聞こえるように、ヒソヒソ声で彼女に話し掛ける。すると、急に再起動したキャスターは、アーチャーから説明を受けていた浜風の肩をガシッと勢いよく掴むと、彼女にしては珍しく……もないか、ヒステリック気味に質問攻めを開始した。

 

「ちょちょ、ちょっと! 貴方、本当に浜風さんでございますか? どこぞのコスト0のマシュマロッパイさんじゃなくて!? ほら、例えば大きな盾を持ってたりなんかしてたりとか?」

 

「あ、いや、な、何がなんだか分からないのですが……。あの……私の胸を見て卑猥な事を言うのは、その……恥ずかしいので止めて頂ければ……」

 

 キャスターが浜風の肩を揺らす度に震える、彼女のマシュマロに目が行きそうになるのを何とか堪え、若干暴走気味のキャスターを止めに入る。

 

「ストップストップ! 浜風が訳が分からないって顔で困ってるから!」

 

「ハッ!? (わたくし)とした事が……。すみませんでした、ちょっと驚いたために取り乱してしまいました……。浜風さんも、申し訳ありません」

 

「えっと、その、何か事情があったようですし、私もそこまで気にしていませんので、どうかお気になさらず……」

 

 俺が止めに入った事で、我に帰ったキャスターが浜風へと頭を下げる。浜風もまた、キャスターのアレも何か理由があっての事なのだろうと判断し、彼女にキャスターを責めるつもりは無いようだ。

 なんだか、この二人を見ていると奥ゆかしいものを感じるのは、俺の気のせいなのだろうか?

 

 それにしても、一体何に驚いたというのだろう。今の感じだと、浜風のみへの反応で、同じ建造でも朝潮は無関係のようだ。

 浜風の方も、一緒に建造されたはずの朝潮ではなく、何故自分だけが詰め寄られたのかが気になっているらしく、キャスターに手を伸ばしながら口を開こうとするが、

 

「あーっと、そうだ。私達の能力についても説明しておこうか。君達艦娘が軍艦の力を持つように、私達も普通の人間とは違っていてね……」

 

 アーチャーがわざとらしく咳払いをすると、自分達サーヴァントの特徴というか能力について、ぼかしながら説明を始めた。

 吹雪と朝潮が熱心に傾聴し始め、その姿に、浜風も少し迷ったようだがアーチャーの講義へと関心を向ける。

 

 ひとまずの難が去った事に、キャスターがへなへなと力無く床に腰掛けた。彼女にとってよっぽど、一連の出来事は想定外に過ぎたのだろう。

 

 駆逐艦達がアーチャーの話に熱心に耳を傾けるのを確認し、俺はへたり込んだキャスターに耳打ちする。

 

「キャスター、何に驚いてたんだ? 浜風がその理由なのか?」

 

「……そうでございますね。ぶっちゃけると、まさしくその通りです。浜風さんが建造されて、少し混乱してしまいまして」

 

 浜風が建造された事が……? 何か、彼女が建造されては不都合でもあるのだろうか?

 

「経験者なら分かる話なのですが、ゲームなら彼女が建造されるなんて事は本来有り得ないのです。言ってしまえば、聖杯戦争で8戦目があったくらいに」

 

 ……それは、確かに。あの聖杯目前での最後の戦いは、本来ならばあるはずのない戦いだった。否、存在してはいけない戦いだった。

 それにより、本来の聖杯戦争はねじ曲げられ、何度も何度も繰り返し、血で血を洗うような殺し合いが幾度となく延々に行われていたのだから。

 

 なるほど、それならキャスターの驚きにも頷ける。彼女の建造はつまり、システムすら超越した現象に他ならない。そして彼女の存在こそが、その何よりの証明に他ならないのだ。

 

 だが、何故? 何故、本来建造される事のない浜風が、建造する事が出来たのか?

 そこに、この世界の秘密が隠されているような、そんな気がしてならなかった。

 

「ここが、ムーンセルが作り出した仮想空間だから、か……?」

 

「それはあり得る可能性です。この世界は単なるシミュレーション世界ではなく、それを模した事に変わりないけれど、どこか決定的に異なった世界なのかもしれませんね」

 

 ゲームを基にしているけれど、ゲームとはルールが違う異世界……みたいなもの、なのか?

 

「この状況に当てはめるべき言葉があるとするなら、それは『この世界はゲームであって、ゲームではない』……とでも言いますか」

 

 キャスターが得意気に言ってのける。だが、あながち間違いでもないかもしれない。

 月の聖杯戦争だって似たようなものだった。だからこそ……慎二だって命懸けの戦いをゲームだと勘違いしていた。ゲームだと思って、最後まで疑う事なく信じて、そして彼はその最期を迎えた。

 なら、ここもムーンセルが作り出した以上、電子世界であっても限りなく現実に近い“死”という概念が常につきまとうはず。

 ゲームであって、ゲームではない───言い得て妙という訳だ。

 

 だが、それが事実であるとするなら、キャスターの知識も根本からズレてしまうという事になるが……。

 

「キャスター、もし今の話が本当だった場合……、」

 

 言いかけた俺の言葉を遮るように、キャスターは俺が言うより先に首を振って否定した。

 

「それは心配なさらずに。確かに(わたくし)の経験としての知識はズレてしまっているかもしれません。実際に浜風さんの件がありますし。ですが、その全てが異とするとも限りません。それなら、少しは(わたくし)もお役に立てるかと」

 

 俺が言わんとしていた事は、どうやら彼女の第六感(シックスセンス)に巫女ーンと来ていたらしい。

 落ち込むどころか前向きになる辺り、彼女らしいというか何というか。良妻を自称するだけはあるな。

 

「さて、アーチャーさんがあの子達の気を引いてくれているおかげで、この世界についての発見を得る事も出来ましたし、次のお仕事に取り掛かると致しましょう!」

 

 今にも「キター!!」とか言い出しそうな勢いで、エアアッパーカットを放つキャスター。やめてください、あなたの物理は恐怖しか呼び起こさないのです。

 具体的には、主に股間的な意味で。

 

「? いかがなさいました、ご主人様? そんな前屈みになられて」

 

「いや、別に何でもないよ? 本能的にガードの姿勢を取ったというか……それより! 次の仕事って!?」

 

 自然と、いつの間にか俺は両手で股間ガードしておたらしく、キャスターが訝しげにしているが、無理矢理に話題を元の方向へと戻す。

 キャスターはまだハテナ顔をしていたが、それ以上の追及はしてこなかった。

 

「さて、次の仕事でしたね。それはもちろん、出撃ですご主人様!」

 

「出撃……!」

 

 そうだ、艦隊と銘打っているのだから、当然それは有って然るべき事。そして倒すべき敵も居るはずだ。

 

「という事は、聖杯戦争の時みたいなエネミーが、この世界でも存在してるって事か?」

 

「そういう事になりますかと……。ただ、この世界での敵──通称は『深海棲艦』ですが、奴らと戦えるのは艦娘だけかもしれません」

 

 深海棲艦……、深海に住んでいそうな名前だな。それはそうと、艦娘だけがその深海棲艦と戦える、というのは……?

 

「ルールが異なる以上、正確な事は分かりませんが、サーヴァントの攻撃が通じるのかは不明という事ですねぇ。そも、ゲームの時点で艦娘のみが深海棲艦に対抗する唯一の戦力でしたし」

 

「……つまり、キャスターやアーチャーが戦力にならない可能性もある…って事か」

 

 それは……少し不安だ。これまでの戦いで、彼または彼女の力に助けられて、俺は今ここに立てている。それが通用しない可能性があるなんて、不安に思わない訳がない。

 

「まあ、可能性の話ですので、やってみない事にはなんとも……。まず、海の上に立てなければ無理な話でもあるのですが」

 

 海の上に立つ、か……。人間なら無理でも、艦娘なら話が変わる。何故なら、彼女達は『軍艦』だ。人の姿をしてはいるが、その本質には船という性質がある。

 船なら、海の上を往ける。人の姿をしていようと、彼女らは軍艦なのだから。

 この辺りが、矛盾しあっているような気がしないでもないが、元がゲームだし是非も無いよネ!

 

 なんて、思ってはみたものの、あの子達が人間じゃないなんて、とてもじゃないが思えない。

 キャスターやアーチャーも、厳密に言えば人間ではないけれど、その在り方は人間とほとんど変わらない。

 チラリとアーチャーから説明されている艦娘達を見やる。熱心に耳を傾ける彼女達の姿は、人そのものだ。心が無いとは到底思えない。

 

「……俺達と同じように、彼女達も生きているんだな」

 

 ムーンセルの仮想空間で生み出された存在であろうと、彼女達がNPCやAIと同じような存在だろうと、今ここで生きている事に変わりない。

 かつて、記憶には無いはずだが、遠いどこかで、そんな存在と俺は会った事があった気がするからだ。

 何回戦目だったかは忘れてしまったが、いつか見た桜の花びらが、それを教えてくれていたのだと信じて。

 

 艦娘も生きている。ならば当然、俺は提督として義務がある。

 

「出撃……誰一人と、沈ませないようにしないとな」

 

「はい……」

 

 改めて誓わねば。仲間はきっとどんどん増えるだろう。それだけ、俺の肩には命の重みが掛かってくるはずだ。その全てを、提督である俺が責任を持って導かねばならない。仲間を一人として失わない為にも。

 

 決意を固めた俺の傍らで、寄り添うようにキャスターがそっと肩を並べてくれていた。キャスターだけではない、頼れる兄貴分のアーチャーだって居てくれる。

 一人で悩まずとも、共に悩んでくれる仲間もいる。不安なんて、それだけで何処かへ行ってしまうというものだ。

 

「しんみりするのはここまで。さあ、出撃だ!」

 

 俺は勢いよく上に向かって手を伸ばしながら声を張り上げた。それに対し、こちらの様子をまるで掴めていなかった他の四人はギョッとした顔で、俺の事を奇怪なものでも見るかのような視線を送ってくる。

 

「び、びっくりした~……」

 

「いきなり大きな声で叫ばれると、驚いてしまいますよ、司令官!」

 

「君はたまに予想もつかない行動を取る事があるが、これからは注意した方が賢明だ。彼女らのように幼い艦娘も居るのだし、今後そのような主の姿が悪影響を与えないとも限らんからね」

 

 ……何故、俺は説教されているのでしょうか?

 

 アーチャーの遠回しですらないダメ出しに、それなりにへこみながらも、俺は出撃の旨を伝えるのであった。

 




 







「ところで、余の出番はまだなのか……?」
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