こっそり、その様子を見てみよう!
なんだかんだで、とりあえず初の出撃を行うべく、俺達は現在、準備に取り掛かっていた。
「と言っても、俺はほとんどする事が無いんだよなぁ……」
「ああ、全くだ。それには私も同感だよマスター」
と、俺の独り言にわざわざ返してくれるアーチャー。
いや、本来なら編成やら装備やらを俺が考えて決めなければならないのだが、現在の我が鎮守府は駆逐艦三隻のみ。それも全員が生まれたての初期状態なのだ。
必然的にその三隻で出撃。そして装備もへったくれもないので、三隻共に最初から持っていた主砲と、吹雪、朝潮は魚雷を。浜風は爆雷をそのまま装備して出撃する事となっていた。
それで、出撃前の装備の点検を妖精さんに頼み、それが終了次第、海へ出る予定なのだが、如何せん、その間は非常に暇なのである。
ちなみに、キャスターは何かする事があるとの事で、一足先に港に行っている。そのまま合流するとの事だ。
「かといって、ここで無為に時間を潰すのは私の性分に合わないのでね。悪いがマスター、少し辺り一帯の調査に向かわせてもらう。おそらく、出撃の時間には間に合わないだろうが、キャスターが居れば問題ないだろうからね」
言うや、アーチャーはもたれていた壁から離れると、颯爽と司令室から去って行った。
よっぽどジッとしているのが嫌だったのだろうか、すごく足取り軽やかに見えたのは、俺の気のせい……?
「……………暇だ」
アーチャーが居なくなった事で、これで完全に司令室には俺一人。
する事もなければ、暇つぶしすら出来ない。暇過ぎても地獄とよく聞くが、実際に体験してみればよく分かる話だな。
「……アーチャーが街でも見つけてきたら、ゲームでも買おう」
まあ、街があったとして、ゲームを売っている店があればの話なのだが。可能性×可能性という、なんとも神頼みにも程がある希望を胸に、俺は待つだけという責め苦を耐えるのだった。
「……『エ○ヤの伝説』売ってたら買おう。絶対に」
「あいや待たれい!!」
「ファッ!?」
ボソリと独り言を零した瞬間、突然扉がドガンとけたたましい音を立てながら開かれる。
あまりの凄まじい不意打ちだった事もあり、素っ頓狂な声が出てしまうが、だってしょうがないじゃないか!
いきなりこんな事をされては、驚くに決まってるし。
「ご主人様! そんな時代遅れのゲームなんか買わず、もっとタメになるゲームをプレイすべきです! たとえば、そう! これなんて如何です!?」
そう言って、無駄に鼻息荒く俺に何かカセットのようなものを差し出してくるキャスター。
というか、港で合流するって言ってなかったっけ?
「ああ、それでしたら、思ったより早く仕上がったので、どうせならご主人様と一緒に行きたいな~……なんて思ったり?」
上目遣いで、瞳を潤ませてこちらを見つめるキャスター。
あざとい! さすが良妻狐巫女あざとい!
とまあ、キャスターが戻った理由は置いといて、差し出されたカセットに視線を送る。
見た感じ、携帯ゲーム機のカセットのようだが……?
「キャスター、それってもしかしてゲーム?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いて下さいましたとも!」
俺の問いかけに、それはもう、たいそう嬉しそうにその手に持ったゲームについて語り始めるキャスター。
「そう、今サーヴァント界で最も有名と言っても過言ではないゲーム……これこそは、株式会社ナインテイルが贈る傑作! 『スーパータマモ2』あいた!?」
あっ……体が勝手に、キャスターの頭にゲンコツを落としていた。
というか、何かにあやかろうと魂胆が見え見えというか、乗っかる気満々というか……。
「いったーい! 何するんですかご主人様~!」
自分の頭をさすりさすりと撫でながら慰める駄狐。
一つ疑問なのだが、あなた日本出身の英霊ですよね? なのに、捻りも無ければ何の関係もない横文字タイトルに便乗しようというのは如何なものか。
「いやですね、何を隠そう
「……ちなみに聞くけど、内容は?」
「はい! 前丸出しの赤暴君に攫われたご主人様を、プリティーでキュートな良妻巫女狐タマモちゃんが救出に向かうという王道のアクションアドベンチャーものでして」
はいアウト! まるっきりただのパクリです。
インスパイアどころか、ちょっと設定弄っただけじゃないかそれ。
「それだけではございません! なんと、シリーズ展開も熱い大ヒット作なのです!」
いや、だってさっき『2』とか言ってたしね。なんとなく予想はついてたけどさ。
「まさかとは思うけど、まだ他にも続いてるのか、それ?」
「そうですね~……家族揃って遊べるタマモパーティーや、ゲームで気軽にスポーツを楽しめるタマモテニス、タマモゴルフ、タマモストライカーズなどなど。他にも、キャラクターが紙のようにペラペラな『タマモストーリー』というRPGなどもありますねぇ」
「ねえこれ全部パクリじゃん!? オブラートにすら包まれてないんだけど!?」
うう……、頭が痛くなってくる。
というか、こんなパクリゲー誰が買うんだ。
「あ、そうそう! ご主人様にオススメなのは、最近発売されたばかりのこちら、恋愛ゲーム『鯖プラス(狐)』! しかもなんと! 登場する女の子は全て
思わず二度目のツッコミを入れてしまった。
もうすぐ初めての出撃だっていうのに、何なんだろうこの茶番……。
「イタいですご主人様~! もっと優しくしてください~!」
ブレないキャス狐さんマジパネェっす。
「おふざけはこの辺までにして、それで? キャスターは何を準備してたんだ?」
一人で何かしていたのだ、多分呪術で何かしていたか作っていたのだろうが、一体準備とは何の事なのか。
やはり気にならない訳がない。
「それは港でのお楽しみというコトで。そろそろ出撃準備も終わる頃合い、駆逐艦のどなたかが呼びに来る手筈となっておりますので、優雅に待つと致しましょう」
口元に指を添えて、ちょっぴり妖艶に、内緒の仕草を見せるキャスター。いや、これは魅せに来ているな。
やはりこの狐、あざとい。
「ところで、アーチャーさんはどちらへ? いえ、別にお邪魔虫が居ないに越した事はありませんけど。もうすぐ出撃だというのに、どこをほっつき歩いてんですかねぇ?」
と、キョロキョロと室内に視線を巡らせるキャスター。そういえば、伝えていなかったな。
「アーチャーなら、周囲の探索に出たよ。出撃には間に合わないだろうから、自分抜きで進めてくれて構わないそうだ」
「ほうほう……なるほど。確かに、鎮守府の近辺がどうなっているのかは確かめておいた方が良いでしょうし、アーチャーさんらしい賢明な判断かと。でも、そうなると残念ですねぇ。せっかく開発した呪術の試験台にしようと思っていましたのに」
さらっと怖い事を言ってのけるキャスターさん。アーチャー、この場に居なくて正解だったかも……。
それから10分と経たずに、準備を終えたらしい吹雪が司令室に戻ってきた。
「司令官、出撃の準備が整いました! いつでも行けますよ!」
との事だ。
早速、俺はキャスター、吹雪と一緒に、俺達が初めてこの世界に来た時に立っていた海岸線へと向かう。
どうやら、あそこが出撃に使われる港となっていたらしい。
港へ着くと、既に朝潮、浜風の二人は海の上に立っていた。どうやって海上を移動するのか気になってはいたが、艦娘は海上でも普通に立てるようだ。
吹雪も海へとジャンピングダイブするかのごとく飛び込むと、他の二人と同じように沈む事なく海面へと着地した。
「さて、これでいつでも出撃が出来るって事だけど……」
そうなると、俺はその間は何をしていれば良いのだろう?
見送りには来たが、皆が帰るまで再び待機するのだろうか……?
「
「わっ!?」
いきなり隣で奇声を上げたキャスターに、俺は思わずビクッとなってしまう。
いや、誰だってそんな事をされれば驚くのは当たり前だ。
「フッフッフ! 『出撃の間、俺は何をしてればイイんだろう……?』とセンチメンタルに、お預けを言い渡されるのではと不安なそこのご主人様に、良妻である
得意気かつハイテンションに、キャスターがピョンピョン飛び跳ねる。それにより胸が……その、凄い事になっていますが……?
「問題ありませんとも! サービスですよサービス。アーチャーさんも居ない事ですし、他は女性だけ。ですので、ご主人様はどれだけ見て頂いても構いません!」
この駄狐、前からではあったが、風俗面で問題大だな。
それに、本人はそう言っているが、
「ハ、ハハ、ハレンチな……!!?」
「…………、」
ほら見たコトか。朝潮と吹雪なんて顔を真っ赤にして慌てふためいているし、浜風は浜風で、何故か俯いてこちらに背を向けてしまっている。
彼女らが軍艦であろうとも、見た目相応にまだ子どもなのは疑いようがない事実。
風紀を乱すような真似は謹ませる必要がある。
「とりあえずキャスター、後でお仕置きね」
「がびーん!? な、なにゆえですかご主人様ー!!?」
理由の説明は後に回すとして、キャスターの提案というかプレゼントというのが気になるな。
それをまずは聞くとしよう。
「で、そのプレゼントっていうのは?」
「ぐぬぬ、まだ納得いきませんがこれもまた愛の鞭と思えばこそ! 興奮してきたぜ、グヘヘ……!」
話を聞いていない駄狐の頭にチョップを落とし、強引に話を元に戻させる。
「いったーい!? なんか今日はご主人様に攻められてばかりのような……コホン。えっとですね、プレゼントというのはコチラです」
はい、とキャスターに手渡されたのは、何も変哲のない単なるメガネ。
俺は受け取ったメガネを、何か細工が無いかと眺め回すが、これといって妙な点は見受けられない。
「これがプレゼント……?」
俺が不思議そうにメガネを見つめていると、キャスターは自信たっぷりといった様子で、俺の手からメガネを取ると、俺へとそのメガネを掛けてくる。
「実はこのメガネには仕掛けがありまして、メガネを掛けた状態で
キャスターが手を離す間際、フッとメガネの縁に触れた瞬間、右側のレンズのみ視界が切り替わり、何故かそこにはメガネを掛けて佇む俺の姿が映し出されていた。
「こ、これは……!? え? という事は、今右目に見えているのが、キャスターから見た視界なのか?」
「はい。と言っても、
しないよ!? なにその俺が覗きを平然としているかのような言い方は!?
というか、したらしたで有無を言わせずに、あの恐ろしいキャスター唯一の物理スキルが飛んでくるに違いないので、間違ってもそんな真似はしない。
「あ、でも
「いやいや、しないよ? 合意の上で、とかそんなの無いからね?」
キャスター相手に、ツッコミが俺一人だとかなり疲れる。よくこれで聖杯戦争を一緒に戦い抜いて───戦い、抜いて?
そこら辺りの記憶がどうにも曖昧だ。だって、アーチャーも居るし。
サーヴァントが二人……本当に?
本当に俺の契約していたサーヴァントは、アーチャーとキャスターだったか?
それに二人同時にサーヴァントを従えていただろうか?
分からない。記憶がゴチャゴチャになっていて、正しい判断を下せない。
でもまあ、今はそれについては考えないでも良いだろう。ともあれ、この世界でのサーヴァントはアーチャーとキャスターだ。そして新たな仲間である吹雪達だって居る。
今は目の前の事に全力でぶつかるのみだ。
「ところで、このメガネが出撃中だけ使えて、他の誰かと視界を共有出来るという事は……」
つまり、
「流石はご主人様、ご明察です。ひとまず用意出来た呪符は5枚ですので、駆逐艦のお三方に呪符をお渡しすれば視界の共有が可能となります」
やっぱり……。
ん? じゃあ、残りの2枚は?
「1枚は戦場全体を見渡せるように、飛行タイプの式神に仕込んであります。もう1枚はこの通り、
うーん、なんだか予想出来るのだが、まさか……。
「……もしかして、キャスターも一緒に出撃…なんて、無いよな?」
「いえ?
………。
いや、なんとなく分かっていたさ。あのタイミングでアーチャーを新しい呪術の試験台にしようとか言ってた時点で、予想くらい付けられる。
そのアーチャーが居ないから、キャスターが仕方なく海に出るのだという事も。
「つまりなんだ? 艦娘以外でも海を渡れるような呪術を開発したって事か?」
「はい。まあ人一人を海の上でも歩かせるのには魔力がかなり必要ですので、出来て近海程度なのですが」
途端、難しい顔をして溜め息を吐くキャスター。それをする必要というか、何か懸念でもあるのだろうか。
「この呪術を開発した目的は大きく二つでございます。一つは、敵の侵攻が鎮守府近海にまで及んだ場合の防衛、そしてもう一つが、艦娘以外でもそれが務まるのかを検証するためです」
キャスターが言いたいのは、つまりこういう事だ。
・敵が近海まで攻め込んで来た時、艦娘以外も海に出て迎撃出来るように。
・そして、それがサーヴァントでも可能かどうかを調べるため、これから近海で試してみる。
なるほど確かに理に適った実験だ。
サーヴァントの力が通用する相手かを調べるのは重要な案件と言える。でなければ、サーヴァントが戦えなくては、戦力は艦娘のみとなる。
加えて、もし可能だと実証出来れば、近海程度ならサーヴァントでもなんとか対応出来るので、有事の際は作戦の幅も大きく広がるだろう。
「納得した。それなら、海に出ても構わないよ。その代わり、通用しないと分かれば、キャスターだけはすぐに撤退するように」
「了解ですとも! このキャスター、見事ご主人様の期待に応えてせましょう!」
やる気満々のキャスターに、俺は安心感を覚える。普段はおちゃらけたキャスターだが、やる時はやるので信頼している。
それこそ、不可能でも強引に可能にしてしまいそうな程に。
なんだかんだとキャスターとの半ば漫才にも近い会話を終え、海で待機している三人に改めて声を掛ける。
「みんな、俺は一緒には行けないけど、しっかり見守っているから、安心して出撃してくれ。何かあればすぐに撤退の指示も出すよ」
俺の声掛けに、三人は凛々しい顔つきを以て答えた。
「「「はい!!」」」
元気の良い返事でたいへん宜しい。これなら、これから先も期待出来そうだ。
三人の敬礼を見届けて、キャスターも海へとダイブする。本当に大丈夫なのかと心配になったが、無事に海面に着地出来たようだ。
水面に立つという、人間にはかなり不慣れな状況なので、少しフラついているのが気にはなるのだが……。
「今なら忍者の気持ちが分かるかもですねぇ」
うん。あんな事を言ってるうちは、大丈夫だろう。
「ではマスター。
そう言ってポイッと手渡されたものを受け取ったのだが、まさかの代物に面食らう。
「け、携帯端末じゃないか!? しかも、聖杯戦争の時の!?」
それはもはや見慣れた、聖杯戦争において欠かす事の出来ないアイテム。
連絡用としてだけではなく、アイテムや敵の情報なども取り込める便利グッズだ。
それを何故、キャスターが?
「実はですねぇ、司令室に置いてあったのを拝借して、ちょっぴり改造を施しちゃいまして。ちなみに、今回はご主人様だけではなく、
見れば、キャスターの手にも全く同じものが。
それにしても気付かなかった。司令室にそんなものが置いてあったとは。
「ご主人様が吹雪さんに気を取られている間に室内をちょろっと探索した時に、そちらを見つけて懐に収めましたから、仕方ありませんよ」
それならそうと言っておいてほしい。いや、キャスターがサプライズしたかったのは十分に分かるんだけどさ。
出鼻を挫かれるのは一体何度目か分からないが、ようやく出撃となる。
危険な事なく、全員無事に帰ってきてくれると良いのだが……。
水平線へと消えていく四人の姿を見送りながら、俺はそんな事を考えていたのだった。
一方その頃。
一人鎮守府近辺の調査に出ていたアーチャー。『アーチャー』というクラスが独自に保有するクラススキル、『単独行動』とは、本来はマスターからのある程度の魔力補給が無くても行動が出来るという、潜入や調査といった事に秀でたスキルだ。
故に、彼には独自での調査はたいへん効率も相性も良い。
それが分かっているからこそ、アーチャーは一人で探索に出た訳だが、ここに来て、もう何度目かの驚愕を一人で味わう事となる。
鎮守府は海に面しているが、それ以外はかなりの山に囲まれている。故に、彼は周りの山で最も高い木を探し、そこから周囲を見渡そうと考えた。
「……あれは」
そして思惑通り、最長の木から眺めた彼だったが、想定外のものをその目に捉える事になる。
それもそのはず。月の聖杯戦争には無かったもの。近いもので言えば月海原学園がそうと言えなくもないが、あれはあくまで聖杯戦争用に造られ、範囲も限られたスペースのみだった。
だけど、彼の眼に映ったそれは───
「───街、だと?」
??「ところで、アタシの出番はまだなのかしら?」