岸波白野の提督業務   作:キングフロスト

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EP.5 アタシはアイドル!!

 

 しばらく待つ事、三十分。

 キャスター達がようやく帰還し、入渠という名の入浴を済ませて、俺達は鎮守府玄関口へと集まっていた。

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

「それでは行ってらっしゃい、皆さん」

 

 俺が出発の合図を出すと、浜風が手を振りながら、俺達を見送ってくれる。

 誰が街の探索へ行くかを決める際、浜風は自ら留守番を名乗り出たのだ。どうやら、自分より幼いであろう吹雪や朝潮を優先したらしい。

 見た目通り、浜風は大人びた性格をしているな。駆逐艦のお姉さん、といった感じか。

 これから増えるであろう駆逐艦達の良き姉役を担ってくれるとありがたい。

 

 見送る浜風に軽く手を振り返し、アーチャーの先導で俺達は山道へと進み行く。

 

「それにしても、まさか街まで完備とは。ムーンセルもご主人様に何をさせたいんだか」

 

「確かに理由も目的も分からないが、おかげで食料には困りそうもないんだ。街がある、ならば交易も行われているだろう。街とは人が住むためだけではなく、流通もその役割の一つなのだからね」

 

 キャスターがぶつくさと自分の事ではなく、俺のために文句を言っているが、別に俺には不満はない。

 本当なら俺は聖杯(あそこ)で分解されて、終焉を迎えていた筈だった。だけど、またこうして自我を保ったままに、新たな世界に生きている。

 それだけで俺には十分過ぎる程の幸福だ。たとえ、また戦いが待っているとしても。

 

 それよりも、今は街だ。

 アーチャーの言う通り、街なら住居だけでなく、何かしらの店が有ってもおかしくない。

 聖杯戦争時は食事こそ出来たが、別に生きる為に必要という事もなかった。だが、この世界も同じとは限らない。

 俺やサーヴァントなら電脳体故に大丈夫かもしれないが、吹雪ら艦娘はどうか分からないのだ。

 なら、いっそのこと食事を必須な項目として捉えて考えた方が楽だろう。

 

「街……どんな所でしょうか? そこには何があるのでしょうか? 私、気になります!」

 

 朝潮ちゃんや、そんなどこぞの気になる娘のような事を言って……。うんうん、目をキラキラさせてアーチャーに付いて行っている辺り、とても可愛らしい。

 子どもというのは未知なるものへの好奇心が凄いというが、なんとも微笑ましく感じる。

 というか、三回戦で対戦相手だったあの子達を思い出すな……。うっ……思い出したら泣けてきた。

 

「うわっ!? ど、どうしたんですか、司令官!?」

 

 俺が急に泣いたので、キャスターとは反対側の俺の隣を歩いていた吹雪が、慌てながら心配したように聞いてくる。

 

「いや、ちょっと思い出し泣きを……」

 

「そ、そうですか……。あの、大丈夫ですか?」

 

 吹雪は未だ心配そうにしており、アーチャーの後ろにくっ付くように歩いていた朝潮も、同じく心配した顔でこちらを見ていた。

 いけないな。あの子の事を思い出すと、つい感傷的になってしまう。キャスターは分かっているのか、黙って俺に付き添ってくれている。流石は良妻を自称するだけはあるな。

 吹雪達を心配させてしまっているし、気持ちを切り替えよう。そうだ、楽しい事を考えるか。

 

「大丈夫。それよりも、街に着いたら何をしようか?」

 

「はい! 私は図書館という所に行ってみたいです!」

 

「えっと、じゃあ私は浜風ちゃんに買って帰るお土産屋さんを探そうかな?」

 

「はいはーい! (わたくし)、呉服店に行きたいでーす!」

 

 いやいや、大人でしょうにキャスターさん。もっと自重して下さい。

 

「君達……調査に行くのだという事を忘れないようにな」

 

 あ、アーチャーが呆れている。流石にハシャぎ過ぎたみたいだ。

 

「山道を抜ければじきに街が見えてくる。今のうちに調査の方針を決めておくぞ。探索は二人一組で行い、万が一はぐれてしまった場合は街の入り口まで戻り、そこで待機する。組み分けは……マスター、朝潮君。キャスター、吹雪君。そして私の三組だ」

 

「ええ~!? なんで私とご主人様が一緒じゃないんですぅ~!?」

 

 不満爆発とばかりにキャスターが、アーチャーへと異議を申し立てるが、俺もそれは疑問に感じた。

 どういった意図で、この組み合わせにしたのだろう?

 

「キャスター、君はマスターと組ませたら十中八九、デートだなんだと調査を後回しにするだろう。それに、彼女らは軍艦とは言っても精神年齢は肉体に比例している。保護者と艦娘でペアを作るのが当然だ」

 

 あ、やっぱり俺は保護者枠に入るんだ。

 

「ぐぬぬ……言い返そうにも、図星すぎて反論出来ない自分が憎い……!!」

 

「アーチャー、組み合わせについては?」

 

「キャスターと吹雪君を組ませた理由が大きいな。風紀的観点から見てキャスターは子どもの教育上、非常に悪い見本なので、二人のうちより幼い朝潮君への悪影響を避ける事が目的だ。まあ吹雪君でも、まだ年齢的には許容出来るギリギリのラインだろうがね、キャスターは」

 

 はい、分かりましたとも。アーチャーの中でのキャスターの人物像評価が。

 悲しい程に低すぎる。マリアナ海溝よりも深く低評価を下されているに違いない。

 ……マリアナ海溝? 何故か、俺と決して無関係ではない何か大事件が起きている、といった電波を受信したが、気のせいだろう、うん。

 

「では司令官、よろしくお願いします」

 

「ああ、よろしく頼むよ、朝潮」

 

「え、私大丈夫でしょうか、アーチャーさん!? 今のを聞いててすごく心配になってきましたよ!?」

 

 強く生きるんだ、吹雪……。俺も心配だけど、アーチャーの采配は確かだから、諦めてくれ。

 

「いやいやいや! そんな諭すように言ってますけど、というか(わたくし)の扱いヒドくありません!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『♪恋はドラクル(朝は弱いの)

 

 優しくしてね

 

 目覚めは深夜の一時過ぎ

 

 ♪お腹は空くの

 

 生きてるライフ(トースト一つじゃ足りないの)

 

 ♪Killer☆Killer印のジャムを頂戴

 

 ♪狩りはマジカル

 

 ♪あたしクビカル

 

 ♪チェイテの城から

 

 ♪ガシガシ届け

 

 ♪今夜もアナタを監禁させて♪』(注:超大音量)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ハッ!?

 

 

 あまりの衝撃に、俺の意識は一瞬フェードアウトしていたらしい。

 

 街に辿り着いた俺達であったが、いざ街の中へと入ろうとした瞬間、壮絶な威力を伴った歌声が、俺達の鼓膜へと襲い掛かってきたのだ。

 

 あれはもはやテロ。無差別に聞く者全ての聴覚を破壊しに掛かっている、死の唄だ。

 

「な、なんというデストロイボイス……!? いや、デトロイトボイスだな、これは!!」

 

「デトロイトが言いたかっただけでございましょうこのバトラー!? てゆーか、こんなハデス・メタルをずっと流されていたら、(わたくし)可愛い狐耳(ぷりてぃフォックスイヤー)が壊死してしまいます~!!」

 

 サーヴァントである二人でさえ、耳を押さえて顔を苦痛に歪ませている。この歌には、英霊殺しの力でも宿っているとでもいうのか……!!?

 

「み、耳がー!!?」

 

「………ッッ!!」

 

 言うまでもなく、駆逐艦の二人もこの歌により耳へと深刻なダメージが及んでいた。

 サーヴァントや艦娘とか関係ない。この歌は知性ある者にとっては拷問ソングに他ならない!

 

「ぐっ……! す、スピーカーから流れてるのか!?」

 

 あまりの大音量に、叫ぶように声を上げて話さないと会話もままならない。

 

「そうらしい! ならば、根源であるこの歌を放送している発信源がある筈だ! それさえ止めるないし破壊すれば、この破壊歌謡ショーも止められるだろう!」

 

「調査に来て早速問題発生とか聞いてないんですけどー!! でも止めないと(わたくし)の耳が死ぬ!! なりふり構ってられねー、さっさと見つけてぶっころ転がしてやります!!」

 

 物騒だぞキャスター!?

 いや、気持ちは分かるけど。

 

 この危機的状況を打破すべく、俺達は当初の予定通り、三組に分かれて発信源を探し出す。

 幸い、どの組が見つけても、破壊は容易に実行出来る。耳がイカレる前に何としても解決せねば……!!

 

 

 

 

 

 俺達が捜索する間も、絶えずデスソングはその死の音色を、そこかしこに設置されているスピーカーから垂れ流していた。

 

「耳が痛いです司令官!!」

 

 朝潮が涙目ながらに訴えてくるが、それは俺も同じ。耳の痛みに涙を堪えるので必死なのだ。

 

「……クソ!」

 

 ここまで来るまでの間、この街の住人らしき人達を何人も見た。彼らも俺達と同じように、このデスソングに苦しめられているようだった。

 街の調査をしようにも、これでは捗るものも捗らない。この歌を止める目的が他にも出来たのだ。

 

 この街の人々を救わなければならない……。

 

「思ったのですが司令官! こういったものを放送するなら、発信源は街の中心部に有るのではないかと!! もしくは高い建物かと思います!!」

 

 朝潮が叫びながら意見を述べてくる。

 なるほど、電波塔のようなものか。そういった目印のようなものに当たりを付けて探すのは良い手かも。

 

「よし! ならまずは街の中心部を目指そう! 高い建物はその次だ!」

 

 さて、そこが正解なら良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

『みんなーーー!!! 今日はアタシのライブに来てくれてありがとーう!!!』

 

 

「………、」

 

 居た。

 

 フリフリの少しゴスロリ調のドレスを纏い、赤い長髪を分けるように頭からは異形の角が生え、臀部辺りから飛び出ている太い竜のような尻尾。

 背中からはドラゴンの如き翼を羽ばたかせ、巨大なマイク──否、槍を片手に、彼女はそこに居た。

 

『流石のアタシも、目が覚めたらいきなり知らない所に居た時は超焦ったけど、アイドルにはそんなのモーマンタイ! ステージある所にアイドルあり。アイドルある所にアタシあり! だって! アタシこそが! サーヴァント界最大のヒットナンバーを飛ばすアイドル! なんだもの!!』

 

 街の中心を勝手にステージへと作り替え、彼女はそのステージ上で高らかにアイドル宣言をしていた。

 だけど、観客からの黄色い声援などある筈もなく、観客席には倒れ伏す無数の住人達の姿があるのみ。

 彼女は彼らの様子に気付くどころか、盛大に勘違いしているらしく、演説は在らぬ方向へと飛躍していく。

 

『うーん! アタシのあまりに美しすぎる美声に、感激のあまり気絶しちゃったのね!? 有り余るアタシのアイドルとしてのポテンシャルが自分で恐ろしいわ!!』

 

 いや、違うよ?

 キミの歌声がデトロイト過ぎて気絶してるんだよ?

 

「し、司令官、あの方は一体何を言ってるのでしょう? さっきのアレが、美声……?」

 

 呆れるどころか、あの少女の思考回路を前に、朝潮は絶望的な顔になっていた。

 その疑問はもっともだが、世の中には自分で自分の事がまるで分からない人種も居るんだよ朝潮。

 

『さーて! 喉も暖まってきた事だし、次の曲よ! せっかくのライブだもの、この街に居る豚共リス共全員にアタシからのプレゼントとして、声だけだけど生放送してあげてるコトだし、アタシってばさいっこうにアイドルしてるわ!!』

 

 マズい……!

 このまま次の曲に行こうとしている。また地獄の始まりを許してはならない。

 ここで止める!!

 

「させるか! 朝潮、砲撃許可を出す! あの子の後ろのアンプを破壊するんだ!」

 

「了解です! 朝潮、これより街の方々をお救いします!! 主砲、撃てぇ!!」

 

 俺の指示で、朝潮が砲撃した。もちろん、あの少女には当たらないように狙いは完璧だ。

 もしもの事を考えて、装備を付けさせたままにしといて正解だったな。もし治安の悪い街だったら、身を守る術くらいは必要だったし。

 まあ、軍艦の装備は多少大袈裟に過ぎるだろうが。

 

 砲撃が少女の背後にあったアンプに見事直撃するや、連鎖するように繋がっていた他の機械を巻き込んで爆発し始める。

 

『なに!? なんなの!? もしかして興奮を抑えきれないファンが暴徒化しちゃった感じ!? ナニソレ!? まさにアイドルっぽいじゃない!! ………あ』

 

 流石にこちらの存在に気付かれたか、少女の視線が気絶していた大衆から、俺達へと向けられる。

 だが、その瞬間、というか俺を見た彼女は、茫然自失とばかりに、あんぐりと口を開けて固まった。

 しばらく固まっていた彼女だったが、やがてゆっくりと震える口で、

 

『な、ななな、』

 

「な?」

 

 

 

 

『キャーーーーー!!?? 子豚じゃないのよーーーーー!!!???』

 

 

 

 

 アンプは壊れたが、手元のマイクはまだ生きていたらしく、超ヒステリックな叫び声がつんざくように俺の耳へと襲い掛かってくる。

 

 というか、子豚って心外なんだけど。俺はれっきとした人間だ!

 

『キャーーーー!! キャーーーーー!!! 子豚ーーーーーー!!!!』

 

 もはや聞く耳持たず。まるで悪魔の如き姿をした、自称アイドル娘は俺を子豚、子豚と連呼して止まない。

 というか、俺の事を知ってるっぽいな、この子。

 

 だけど、俺は彼女に心当たりはない。見た事も、その声を聞いた覚えもない。

 覚えがあったら、その超絶テロボイスによるデスソングを忘れるなんて有り得ないし。

 

『また会えるなんて!! 愛してるーーーー!!!! 子豚ーーーー!!!!』

 

 こりゃダメだ。話が通じない───いやちょっと待って何故こちらに向かって突進をダメだって角が刺さるから危ないから助けて!?

 

「あわわ……!?」

 

 朝潮はこの急展開について行けていないようで、ただただ慌てていた。

 故に、彼女を止められる者は現状この場に存在せず、やはりというべきか、俺は少女の突進を体で受け止める事となったのだった。

 倒れる俺と、俺に密着するように抱き付く少女。

 

 ……あれ? でも、何故だか前にもこんな事があったような……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むう……ヴィナスが如き至高の歌声が途絶えてしまったか。もう少し、心を傾けていたかったのだが……」

 

 

「私は止まってくれて良かったよ、

 

 

 

 

 

 

 

 セイバー」

 

 




 








「ええい! (オレ)の出番はまだか雑種!!」
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