岸波白野の提督業務   作:キングフロスト

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EP.6 新生・鮮血魔嬢

 

 アイドルを自称する少女に抱き付かれ、俺はどうしたものかと途方に暮れる。

 ほろびの歌はともかく、俺の事を知ってるようだし、邪険に扱うのも気が引ける。容姿もアイドルを名乗るだけあり、超絶美少女だ。

 美少女は正義と誰かも言っていたので、歌はともかく(大事なことなので二回言った)、丁重に丁寧に接するように心掛けよう。

 

「何度も出て来て恥ずかしくないんですか?」

 

「ひどっ!? アタシに対する扱いひどっ!?」

 

 あっ……。つい口から出てしまったというか、口が勝手に動いたというか。

 初めて会った筈なのに、もう何度も会った事のあるような既視感を彼女からは感じる。

 こう……腐れ縁、的な?

 

「でも、子豚もこの変な世界に居るって分かって、正直安心したし嬉しいわ! アタシはアイドルだけど、アイドルである前に一人の女の子だもの。一人ぼっちとかノーサンキューよ!」

 

 グリグリと甘えるように頭を押し付けてくる少女。だが、角の事を忘れていないでしょうか?

 さっきから、肩にその角が当たって痛い。たまにブスッと刺さるので、なお痛い。

 

「あの、司令官。この方とお知り合いだったのですか……?」

 

 おっと忘れていた。少女とのあまりに衝撃的な邂逅で、朝潮が居た事さえも頭から抜け落ちていたようだ。

 その朝潮は、かなり心配そうに俺と少女とを交互に見ていた。

 彼女の疑問はもっともだ。だって俺もそうだし。見知らぬ少女の筈が、少女は俺を知っていて、その上俺は彼女を知らない筈なのに知っているような気さえしてきている。

 俺が覚えていないだけで、彼女とは何らかの縁があったのかもしれない。

 

「知り合い……なのか?」

 

「ちょっと!? アタシ達、何度も()り合った仲じゃない! 最後なんか一緒に行ったじゃないのよ!」

 

「やりあった……? 一緒に、イった……?」

 

 朝潮が少女の言葉に、怪訝な顔をしている。

 いや、端から聞いたらかなりいかがわしい言葉に聞こえなくもないので、朝潮がそういった方面に(さと)くなくて助かったというか……。

 

「何よ、まさかホントに覚えてないっていうワケ?」

 

 目の前の少女は途端に、不安そうな声色で聞いてくる。だが、本当に俺には心当たりがないのだ。

 しかし、気になるのは先程の少女の言葉。“サーヴァント界”と口にしたという事は、彼女は英霊なのかもしれない。

 

 うーん、対戦者の中に、彼女は居なかった筈だが、一体どこで縁が有ったというのか。

 

「悪いけど、やっぱり分からないな……」

 

「……そう。なら、仕方ないわね」

 

 少女は何かを悟った顔で俺から離れると、佇まいを正し、改めて俺の正面に立つ。決意したその顔付きは、凛とした少女特有の逞しさを感じさせる。

 

「じゃあ、改めて名乗ってあげる。だから───今度こそ、忘れないでね……?」

 

「……ああ」

 

 約束。

 たとえ記憶はなくても、心や魂には思い出が刻まれているのかもしれない。不思議と彼女には、親近感を抱く自分がいるのだから。

 

「クラス・ランサー。サーヴァント界において最も優れたアイドル、それがアタシ! エリザベート・バートリー!! 月の裏側の事件を経て色々と反省して成長した、新生・鮮血魔嬢よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ~、なるほどね。そりゃそうよね。子豚だけなワケないわよね」

 

 開口一番に、エリザベートはそう言って溜め息を吐く。

 というのも、デスソングの原因を見つけた俺達は、合流する為に朝潮に空へ向けて主砲を撃たせたのだ。

 砲撃と共に打ち上げられた煙幕により、遠くからでもアーチャーやキャスター達に俺達が居る場所を伝える事が出来る。

 

 それから間もなくして、予想通りアーチャー達がここへと駆け付けたという訳だ。

 そして、エリザベートの先程の言葉が、他のサーヴァントを視認したが故に出て来たのである。

 

「げっ! なんでエリザベートさんが!? というか、あの破壊歌謡ショーはあなたが犯人だったんですね!」

 

「ふむ、納得した」

 

 あれ? アーチャーとキャスターは、彼女の事を知っているのか?

 

「いや、知っているというか、彼女と顔を合わせて思い出した、という方が正しいな。実際、こうして彼女を見るまでは全く記憶になかった。ムーンセルによるプロテクトでも掛かっていたのか?」

 

「でもでもー、エリザベートさんの事は思い出したのですが、どんな事があったーとか、そういった細かいところまでは思い出せないんですよねぇ」

 

 どうにも、俺とは異なる症状が二人には出ているらしい。俺はエリザベートに既視感のようなものしか感じないが、二人は彼女を見た事で、彼女という存在のみを思い出した感じか。

 

「へえ~……この人があのとんでもない歌を唄っていたんですか。こんなに綺麗なのに、あんな歌声だなんて、神様も残酷な事をするよね」

 

「歌声……あの歌からするに、音程の問題が異常であるだけだと思うのですが……」

 

 駆逐艦の二人はエリザベートへの印象に対する感想を口にしていた。天は二物を与えずとは言うが、彼女の場合、音程さえきちんと正しく取れれば、まさしくアイドルとして大成する可能性は十分秘めていると俺も思う。

 

「それはそうと、ここって何? 聖杯戦争も終わってるみたいだし、リンもラニも居ないし、ロケーションも地上みたいだし。見た事のない顔も居るじゃない」

 

 エリザベートは並んで話していた駆逐艦達へと歩み寄り、マジマジと二人を見つめ始める。

 二人は居心地悪そうに、視線はあらぬ方へと向けて、目が合わないようにしているようだ。

 

「ここがどんな世界かも知らずに、あんなバカバカしいコンサートを開いていたんですか? これだからトカゲ頭は……」

 

「何よ? アイドルたる者、どこであろうと観客が居るのなら、どこだってステージになりうるのよ。むしろアタシのライブを生で聴ける事をありがたく思うべきでなくて?」

 

 いや、そんな威張りながら言われても、実際は迷惑甚だしいところだったのだが。

 

「だが、これで分かった事もある。彼女の存在により他のサーヴァントも誰かしら、この世界に来ている可能性もある。聖杯戦争が終わった以上、もし彼らが居たとしても戦いになる事はないはずだが……」

 

 そこは自信なさげなアーチャー。断言出来ないのも無理はない。ヴラドとか呂布とか、好戦的かつ話の通じなさそうな英霊だって居るのだ。

 その他にも、戦わなかっただけで、俺が知らない他の英霊だってこの世界に来ているかもしれない。故に、確信を持って大丈夫と言えないのだ。

 

「ともあれ、これで妨げとなっていたものは無くなった。探索を続けるとしよう」

 

「結局、このトカゲ頭を探すので余裕もありませんでしたしねぇ。さっさと探索を終わらせて、ご主人様とデートと洒落込みたいしぃ。ここはサクッと終わらせちゃいましょう」

 

 探索を再開するのは良いのだが、そうなると組み分けはどうするのか。

 エリザベートは俺達の仲間になる気満々なので、このまま共に探索に参加するとの事。ならば、エリザベートには一人だったアーチャーと組んでもらう事になるのだろうか。

 その意見を当の二人に述べたところ、間髪入れずに反対意見がエリザベートから返ってきた。

 

「イヤよ! 変態マッチョと二人っきりだなんて死んでもゴメンだわ!」

 

「やめたまえ! 詳しく覚えていないが、あれは不可抗力だったんだ。だからそんな不名誉な呼び方を吹雪君達の前ではしないでくれないか!?」

 

 ……何があったんだ。この二人の間には、俺の覚えていない部分(きおく)で壮絶なやりとりというか闇があったに違いない。

 でなければ、気の良い兄貴分的な存在であるアーチャーが、変態マッチョなんて呼ばれる筈がないのだ。

 

「マスター、キミは壮絶な勘違いをしていると思う。だが、これ以上は掘り返すまい。話を戻すが、私もランサーと組むのは断らせてもらおう。単独行動の方が慣れているし、何かと都合が良いのでね」

 

「こっちこそ、変態マッチョとコンビなんて願い下げよ。それに、組むなら子豚とね。そっちの狐は、組んだらそこはかとなく小間使いにされちゃいそうな気がするし」

 

「……はてさて、何の事やら? タマモ、わかんなーい?」

 

 アーチャーとエリザベートの意見もある事だし、見張るという意味でも俺達と一緒に行動させた方が良いか。

 また勝手にゲリラライブでも開かれたら、今度こそこの街が壊滅しかねないし。

 

「じゃあ、俺達の組にエリザベートが追加で加入。他はそのままで各自調査を進めよう。集合時刻も予め決めておこうか。それじゃ今から3時間後、街の入り口に集合で。さっきみたいに緊急時には合図を送り合おう」

 

 俺の号令に、各々が返答の後に去って行こうとする。しかし、俺はある事を忘れていたのに気付き、背を向けて歩き出していたアーチャーを呼び止める。

 

「なんだ、マスター? 何か言い忘れていたのか?」

 

「そんなとこだ。ほら、これ」

 

 言って、俺はアーチャーの分の端末を投げ渡す。受け取ったアーチャーは、マジマジと手にした端末を眺め、何かぶつぶつと呟いた後に、一段落ついたように一息ついた。

 

「解析してみたが、これは聖杯戦争の際にマスター達に与えられていたものと同じようだな。何故これを私に?」

 

「それはアーチャーの分だよ。俺だけじゃなく、キャスターも持ってる。今回はマスターとサーヴァントの両方に端末が配布されてるらしいんだ。だから、アーチャーにも。ついでに言っておくと、キャスターが改造してるっぽい」

 

 キャスターの改造と聞き、アーチャーはいかにも嫌そうに、胡散臭いといばかりにしかめ面になる。

 うん、その気持ちすごく分かるよ。

 

「まあいい。何かあればこれで連絡が取れるという訳だな。では、先程のように緊急時のみは上空へ何かしらの合図を送り、平時には端末で連絡を取り合おう」

 

 アーチャーは端末をしまうと、そのまま一気にジャンプで屋根に登り、屋根伝いで探索へと向かって行った。

 よし、俺も探索を始めるとしよう。

 

 

 

 

 

 

「第一目標として食料品店を探そうか」

 

 俺は二人にまず探索での簡単な目安を提示する。当然ながら、俺のチョイスに疑問符を浮かべる二人だったが、もちろん意味があっての事だ。

 

「闇雲に街を見て回るのもいいけど、何か確固とした目標があった方がやる気も出るだろ? 食料に関しては、生きる為に必須───多分だけど──だし、今後も鎮守府に仕入れられるように確保しておきたいからさ。安くて品質の良い店を探して、見つけたらチェックしよう」

 

「それもそうね。アイドルは栄養管理も大切って聞いた事があるし。それでいいんじゃない?」

 

「私も異論ありません、司令官」

 

「うん。それ以外でも何か目に付いたものがあれば言ってくれ。三人も居るんだ、そうそう見落としたりはしないだろうから」

 

 おー! と掛け声を上げて、俺達は街中を歩き始める。聖杯戦争の時には無かった、街という一個の世界は、俺にはとても新鮮に映った。

 それは朝潮も同じだったようで、張り切ってはいるが、やはり目をキラキラとさせて嬉しそうに周囲に目を向けている。

 反面、エリザベートは至って普通で、街の探索というよりも、この状況自体を楽しんでいるといった様子だ。

 

 街にはやはりというか、そこに住む人々が居るもので、老若男女を問わず色々な人の姿が見られる。地上にある街も、こんな感じなのだろうか?

 

「………。それにしても、食料品店がまるで無いわね。さっきからあるのは花だの本だの家具だのばっかり。やっぱり市場に集中してるのかしら?」

 

 エリザベートが街並みへの感想を述べるが、確かにその通りだった。今のところ、食べ物を扱う店はまるでなく、食事処のようなものも一切無い。

 賑わう市場でも見つかれば、一発で問題解決なのだが……。

 

「もしかしたら区画毎に、扱う品も違っているのかもしれません。この辺り一帯は雑貨などのエリアなのかもしれませんね」

 

 先程から目に入ってくる店のラインナップから、朝潮が分析を踏まえて意見を述べてくる。

 一理あるな、偉いぞ朝潮。

 

「………っ」

 

 思わず頭を撫でてしまったが、顔を見るに嫌がってはいないらしい。これで嫌われたらどうしようかと、一瞬ハラハラしたがセーフだったか。

 

「スーパー的なものでもあれば、値段に目をつむるとしたら万事解決なんだけど……」

 

「スーパー? なにそれ美味しいの?」

 

 おっふ……。まさかその、『○○? なにそれ美味しいの?』という言葉を生で耳にする時が来ようとは。

 いや、エリザベート・バートリーが生きていた時代はモロにあのヴラド三世と同じ年代だったはずだし、知ってる方が普通はおかしいんだけども。

 ……でも、アイドルは知ってるんだよな、この子。うーん、謎だ。

 

「私も見た事はないので、詳しくは分かりませんが、食料のみならず、雑貨や日用品なども一通り取り揃えている便利なお店と聞いています」

 

 あ、朝潮も行った事がないのか。いや、よく考えれば朝潮は今日生まれたばかりな上に、知識があるとしても軍艦時代にスーパーがある訳もなし。当然と言えば当然だった。

 

「まあ、幸いこの街は近代化の進んだ街だし、某RPGよろしく中世ヨーロッパの街とかじゃない限りは大丈夫だと思うよ。多分」

 

「多分って……イマイチ信用しきれないわね。そこは言い切りなさいよ」

 

 痛いところを突いてくるな。だけど、この世界はムーンセルが作り出した仮想世界だ。あまり自分の中の常識で測るのは良くないだろう。

 

「とりあえず人に聞いてみて、それっぽい所を目指す感じで。ほら、朝潮もエリザベートも聞き込みに行った行った!」

 

「了解です。朝潮、出ます!」

 

「ま、いいけど。そうと決まれば、アタシの溢れ出るアイドル力でサクッと情報を引き出して来てあげちゃう! 期待して待ってなさい、子豚!」

 

 二人はそれぞれ、別々の方向へと進み、早速道行く人々へと話しかけ始める。

 さて、と。俺も情報収集に行くかな。待ってるだけは性に合わないし。

 

 あ、ちょうど目の前に学生服を着た女子───というか、月海原学園の制服だな、あれ。

 もしかしたら、この街に学園がそのままに存在してるのかも。彼女はその生徒だろうか?

 ここでは普通に学校として機能しているのかもしれない。

 

「あの、ちょっといいかな」

 

 急に同郷の仲間を見つけた気分になり、気付けば俺は彼女に声を掛けていた。

 

「……私、ですか?」

 

 声を掛けられて、辺りを確認した彼女は、それが自分へのものだと気付いたようで、俺に視線を向けてくる。

 茶髪のロングに、少しウェーブの掛かった、可愛い女の子。でもどことなく愛想が無い表情のせいで、可愛いけどクラスで三番止まり、といった印象を受ける。

 

「そう、君。ちょっと聞きたいんだけど、スーパーとか食料を売ってるような店がどこにあるか教えて貰ってもいいかい? この街には来たばかりでさ。何がどこにあるかとか、まだ何も知らないんだよ」

 

「……そうなんだ。……、」

 

 俺の言葉に対し、彼女は何かを見定めるような目で見つめてくるが、ちょっと恥ずかしいというか、ドキドキするんだけど……。

 

「そうだね……、なら交換条件。私も家具とかを売ってる店を探してるの。それを教えてくれたら、教えてあげてもいいよ」

 

 おっと。交換条件ときたか。だが幸いにも、ここに来るまでに家具屋なら前を通ったばかり。運が良かったな、ホントに。

 

「それなら、さっき見つけたばかりだ。……あれ? 君はこの街に住んでるんじゃないのかい?」

 

 今更ながら、彼女の探し物に疑問を抱く。この街の住人なら、街のどこに何があるかくらいはある程度は把握してそうなものなのに。

 

「私もつい最近この街に来たばかりだから、そんなに詳しくないの」

 

 なるほど、なんというか、リアルだな。元々住んでいる人だけじゃなく、外からこの街にやってくる人も居る、と。

 まるで本当の人間の営みみたいだ。

 

「そっか。えっと、家具屋だったっけ。それなら、この通りを10分程歩いた所にあったよ」

 

「ん。ありがとう。じゃあお返し。スーパーなら、街の北側。今居るのが街の西部だから、あっちの方に行けば大丈夫。けっこう大きいから、見ればすぐに分かると思うよ」

 

 ふむ、けっこう距離があるな。でも、これで大まかな方角は把握出来た。あの二人を呼び戻して、向かうとしよう。

 

「どうもありがとう。連れが居るから、じゃ、俺はこれで。縁があればまたどこかで」

 

「うん。さようなら」

 

 彼女は小さく手を振って、教えた通りの道を歩き去って行った。

 それにしても、可愛い子だったな……。

 

「っと、それよりも朝潮とエリザベートを呼びに行かないと」

 

 第一目標の食料の仕入れ先も、これでどうにかなりそうかな。

 

 

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