「お願いします!」
穂乃果の声が廊下に響く。
昨日、雪穂を『穂むら』に送った時、穂乃果の部屋に上がり、電話で出た結論を聞いた。――絢瀬からダンス指導を受ける方針に決定したようだ。
「私にダンスを……?」
「はい!教えていただけないでしょうか!」
……絢瀬さん。何で俺を見るんでしょうか?てか、『約束だったからね』って、俺にしか解らない視線を送るのは止めてくれませんかねぇ……。
「ええ……分かったわ」
「本当ですか!?」
「あなたたちの活動は理解できないけど、人気があるのは間違いないようだし、引き受けましょう」
……本当、
「でも、やるからには私が許せる水準まで頑張ってもらうわよ。いい?」
「……はい!ありがとうございます!」
こうして、絢瀬の指導の元、μ’sの練習が開始される。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
~屋上~
「まずは、体の柔らかさを知りたいわ。全員、足を開いてお腹をつけてくれないかしら」
絢瀬がそう言うと、各自が座り、足を広げお腹を床につける。
すると、絢瀬は感嘆な声を上げた。
「へぇ、皆柔らかいじゃない。どんな練習をしてたのかしら?」
「翔ちゃんが考えた、オリジナルの練習方法です」
穂乃果は、『オリジナルの練習方法』と言うが、これは絢瀬から教わった練習を僅かに改良して皆に伝えただけである。
それからは、片足立ち10分や、筋トレなど、絢瀬が出すメニューをこなしていった。
「……なるほど。皆基礎はできてるのね。……それじゃあ、今度はダンスを踊って見て頂戴」
ダンスの個人練習時に、俺は絢瀬に、オープンキャンパスで披露しようとしてる曲の振り付けは全て伝えてある。
――――そして、ダンスの練習が開始された。
数分後、一通り通してから、皆が息を吐く。だが、絢瀬の表情はあまり芳しくない。……確かに、皆よくできてる。だが、絢瀬のダンスと比べてしまうと、見劣りしてしまうのは一目瞭然であった。
俺がこういうのはアレだが、オープンキャンパスで
「まずは、園田さんからね。園田さん、貴女のダンスとても綺麗よ。……そう、“綺麗すぎる”のよ」
「綺麗……すぎる……?」
「そうよ。貴女のダンスは、一つ一つの動作が丁寧で綺麗だわ。でもね、綺麗にしようって意識をしすぎて、動作と動作の間に“溜め”が入ってしまってる。それが重なって、全体と僅かにズレがある」
マジか。俺から見れば、海未の動きは完璧に思えたんだが……。流石、バレエ経験者だわ。俺の隣で見てた竜也も『え、そうなの?』って顔だ。
「だからそうね。園田さんはダンスの“繋ぎ”っていえばいいのかしら。そこを意識して見たらどうかしら」
「……はい!ありがとうございます!」
次に、絢瀬の視線が穂乃果に向けられる。
「高坂さんはその逆よ。貴女は、“流れ”に身を任せすぎね」
「えッええ!そうなんですか!?」
「そうよ。確かに、“流れ”に乗る事は重要だけど、一つ一つにメリハリもつけないといけないわね。この曲では、センターなんでしょ?お客さんの目に一番に入るポジションなんだから、細かい所まで気を配る事が重要よ」
「……は、はい!頑張ります!」
次に、絢瀬の視線が一年組に移る。
「小泉さん。西木野さん。星空さんはダンスにキレがあっていいわ。でもそれは、ダンスのキレだけという事よ。上半身……そうね。手の動きが無意識に降りてきてしまってる所かしら。そこをもっと意識して頂戴。ダンスで“魅せたい”なら、体全体で表現しなきゃいけないわよ」
「「「はい!」」」
そして、ことりとにこ先輩。
「南さんとにこは、特に目立った所はなかったわ。……でも南さんは、曲の途中から必死に追いつこうとしてる感があるわ。南さんは、全体的に高めていくのが課題かしら」
「はい!わかりました!」
「……最後に、にこだけど。問題という問題はないのよね。……そうね。強いて言うなら、指先まで意識してみたらどうかしら、今より完成度が高くなる気がするわね」
「指先まで……。わかったわ、試してみるわ」
……いや、マジで勉強になるんだが。てか俺、ノート取ってるしね。
――そして、
「全体的な評価だけど。――――――全然なってないわね。個々にこんなにバラつきががあって、良くここまで来れたわ。って感心するくらいよ。
そう言って、絢瀬は屋上に後にしようとするが――、
「待って下さい!」
「何かしら?」
穂乃果の言葉に、絢瀬は再びこちらに振り向く。
「ありがとうございました!」
「……え?」
絢瀬は、目を丸くする。
「明日もよろしくお願いします!」
「「「「「「お願いします!!」」」」」」
メンバーは、そう言って頭を下げた。
そして俺たちも――、
「オレにもご指導をお願いします。オレもサポートだけじゃなく、皆を指導できるように鍛えてください。よろしくお願いします」
「俺からもよろしく頼むよ。今度は皆で練習しよう、個人じゃなくてさ。それに俺たちは、ひよっこだからさ」
「…………っ」
絢瀬は再び前を向き、何も言わずに、屋上を後にした。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「私たちに改善点があんなにあったとは、やっぱり生徒会長は凄いや」
「まあな。あいつは、バレエ経験者だし」
「あ、そういえば翔ちゃん。なんで、海未ちゃんより先にそれを知ってたの?」
「えーと、あれだ。本人に直接聞いた」
「そっか。……ねえ翔ちゃん。ダンスの練習前、生徒会長が『後藤君。基礎を上手く伝えたのね』って呟いてたけど、どういう事?」
あれだ。ここまでバレてるなら開き直るか。
「……あの基礎練習、絢瀬が俺に教えてくれた練習でもあったんだ。つまり絢瀬は、俺の師匠って所だな」
数秒の沈黙の後、
「「「「「「え――――っっッッ!」」」」」」
「う、うるせぇな!」
「いやいや、普通はこうなるって、あの生徒会長からダンスを教えてもらってたんだぞ」
つーか、あんなキツイ練習があったのに、μ’sはいつものように平常運転だ。
まあでも、絢瀬は的確な指示をくれた。そして、メンバーの最後の行動――――、
「(……つまり、明日全て解るって所か……)」
まあそれからは、指示を貰った所を重点的に練習し、今日の練習が終了した。
そして明日が、μ’sに取って運命の日になるのかもしれない。
さて、絵里加入編もクライマックスですね。