「……暑い」
「……そうだねぇ」
「……同感」
「……マジで干からびる」
夏休みに入り、練習場である屋上の扉の前。
だが、その屋上のコンクリートは、空から照らされた太陽で蒸し返す感じになっていた。
「ていうかバカじゃないの!?この暑さの中練習とか!」
ですよね、にこ先輩。今日は部活を休みにしましょう!
と、まあ、俺の心の声は絵里に掻き消されるが。
「そんなこと言ってないで、早くレッスンするわよ!」
「は、はい……!ごめんなさぃ……」
それに驚いて、花陽は俺の背中に隠れてしまった。てか、俺の背中で隠れられるか?自分で言うのも何だが、俺の身長とか肩幅とか、全てに関して小さいと思うんだが。
でもまあ――、
「落ちつけ、花陽。絵里は、前の硬ぶつ生徒会長じゃないから」
「そ、そうよ。花陽。これからは先輩も後輩もないんだから、ね?」
とはいえ、絵里は前の硬ぶつ感がまだ強いからなぁ……。
花陽は「……はい」と頷くだけだ。
「そうだ!合宿いこうよ!」
穂乃果の提案は、やはり唐突である。
てか、合宿?
「何でこんな良い事早く思いつかなかったんだろ~!」
「合宿かあ、面白そうにゃー!」
「そうやね。こう連日炎天下の練習だと体もきついし」
「でも、どこに?」
「海だよ海~!夏だもの!」
「いやいや、合宿するにしても、合宿費や食費はどうすんだよ」
「……穂乃果さん、ことりさんのバイト代を当てにはしちゃいけないよ」
俺と竜也で、そう言って釘を刺す。
穂乃果は、「……うぅ」と言葉に詰まる。てか、竜也の言う通り、ことりのバイト代を当てにするつもりだったのか……。
「そうだっ!真姫ちゃん家なら別荘とかあるんじゃない!?」
「アホか!真姫の家が金持ちでも、別荘なんて――――」
「あるけど……」
「「あんのかよ!!」」
ハモる、俺と竜也。
穂乃果は真姫にすり寄り、
「おおー!ホント!?真姫ちゃんお願~い!」
「ちょっと待って、何でそうなるの!?」
そう、声を上げる真姫。
「そうよ、いきなり押しかけるわけにはいかないわ」
絵里がそう言うが、穂乃果は目をウルウルさせる。
「そ、そう、だよね……あ、あはは……」
つーか、皆期待の眼差しを真姫に向けてるのは気のせい?
「……仕方ないわね、聞いてみるわ」
「本当!?」
「やったにゃー!」
そして、俺と竜也は頷いた。
「んじゃ、楽しんでこいよ」
「だな」
「え――っ!翔ちゃんと竜君は来ないのっ!」
「よし、穂乃果さん。オレたちの性別は?」
「え、男の子だけど……」
「そうだな。一つ屋根の下野郎が二人」
「……それがどうしたの?」
穂乃果嬢。俺たちの質問にキョトン顔で返さないでよ。俺らどんな反応をしていいか困るからね。
「『どうしたの』じゃないからね、穂乃果嬢。女子の団体の中に、男子が二人だぞ」
「世間一般ではあまり宜しくないし」
「……うーん、うーん。やっぱり合宿行こうよ!」
「「アホ!今の話聞いてないのかよ!」」
ここは、絵里に聞いてみよう。正しい反応が返ってくるはず。
「絵里は反対だろ。合宿に男子が二人入るんだぞ」
「……別にいいんじゃないかしら」
「「は?」」
又しても、俺と竜也はハモる。てか、返しの反応が違いすぎるだろうが。
「それに、作詞と作曲はいいとして、振り付けはどうするんですか。二人が居ないと先に進みませんよ」
……海未の言葉が正論すぎて、返す言葉がねぇ……。確かに、振り付け担当の俺たちが居ないと、練習が中途半端になるのは否めない。
「ふ、振り付けノートを渡せばいいんじゃねぇか」
ナイス、竜也。その手があったか!
すると、ことりが、
「でも、本人たちが教えてくれた方が効率がいいよね」
くっ……。又しても正論すぎて返す言葉がねぇ……。
……こうなったら最終手段?だ。
「じゃ、じゃあ、希先輩はいいんですか?」
「ウチは、別にかまへんよ」
「じゃ、じゃあ、花陽は」
「わ、私も構いません」
「ま、真姫はどうなんだ!?」
「私も、別に構わないけど」
「り、凛は嫌だろ」
「楽しそうだにゃー!」
さ、最後のにこ先輩がNGを出してくれれば。
「に、にこ先輩は嫌ですよね」
「いや、別に私もいいけど。てか、あんたらも来なさいよ」
俺と竜也は、ぐったりと項垂れた。
「「……はい、参加させていただきます」」
こうして、不本意ながらも、俺たちの参加が決定したのだった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
合宿当日、俺はボストンバックを肩に下げ、絵里と共に指定の駅へ向かっていた。
「……結局、俺も参加かぁ」
「でもいいじゃない。竜也と夢見るハーレムよ」
「……まあ、見方によってはだけどな」
でもまあ、ほぼ誰の目から見てもハーレム野郎かも知れんが。
ともあれ、指定の駅に到着しました。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「さて、皆集まったところでやっておきたいことがあるの」
なるほどなぁ。さっき言ってたあれか。
「それは……先輩禁止よ!」
「……えぇ!先輩禁止!?」
てか、穂乃果さん。声のボリューム下げようか。他の人に迷惑かも。
「前からちょっと気になっていたの。先輩後輩はもちろん大事だけど、踊っている時にそういうことを気にしちゃ駄目だから」
「そうですね。私も3年生に合わせてしまいますから」
「……そんな気遣いまったく感じないんだけど」
海未の発言に、そう言ったにこ先輩。
「それは、にこ先輩は上級生って感じがしないからにゃ」
「上級生じゃなけりゃなんなのよ!」
「うーん、後輩?」
「ていうか子供?」
「マスコットかと思ってたけど」
「どういう扱いよ!」
凛、穂乃果、東條先輩の順に言う。
まあ、凛と穂乃果。気持ちは凄い解るが、相手は先輩やで……。
「じゃあさっそく、今から始めるわよ。穂乃果」
「え、はい。いいと思います……絵里ちゃん!」
やはり、穂乃果でもかなりの緊張らしい。まあ、上級生を『先輩』つけしないしなぁ。
「じゃあ凛も!……ことり、ちゃん!」
「はい、よろしくね凛ちゃん。……真姫ちゃんも」
「えっ?」
皆一斉(俺と竜也は除く)に真姫を見る。
「べ、べつにわざわざ呼んだりするもんじゃないでしょ!」
……いつもの、ツンデレ乙。ってやつだ。
まあ、ここまでは良かったのだが、矛先が俺と竜也に向けられる。
「それから、翔太と竜也も『先輩禁止』ね」
「いやいや。俺はお前に『先輩』呼びしてないだろうが」
俺は絵里にいつもタメ語だし、先輩呼びもしてないね。
「それをいうなら、竜也の『先輩』と『さん』つけを取るべきだろ」
「ちょ、翔太。オレに振るなよ!」
いや、ここは逃げるが勝ちなんだよ、竜也さんや。
でもまあ、逃げられる訳がないんだよなぁ……。
「じゃあ、竜君。私のこと呼んでみて。いつも見たいに、『敬語』と『さん』とつけたらダメだよ」
「え、えーと……穂乃果。よろしくな」
「おー!良い感じだよ」
それからの竜也は、先輩たちを『先輩禁止』で呼んで言った。いや、何。こんなにすんなり呼べるもんなの?
でまあ、遂に俺の出番である。
「翔太君は、ウチと、にこっちだけやな」
まあ確かに、にこ先輩と希先輩は、先輩呼びであり敬語もありである。
つってもなぁ……。今呼ばないといけないの?
「……はあ、わかったよ。希、にこ」
「ほな、それでお願いな」
「そうよ。また、先輩呼びはしないこと」
「……さいですか」
それからは、一年組も俺たちの事を名前で呼んでくれた。
「それでは改めて、これより合宿に出発します。部長の矢澤さんから一言」
「えぇ!?にこ……?」
予想外の、絵里からの振りに硬直してしまうにこ。
「えーと……しゅっぱーつ」
「……それだけかよ?」
「考えてなかったのよ!」
この時、にこはアドリブに弱い事が解ったのだった。
ともあれ、μ‘sの合宿がこれから始まろうとしていた。
次回も頑張ります(*- -)(*_ _)