スランプに陥った沙綾を救う有咲の話。

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思い思いにありさあやへの気持ちをぶつけて書きました。


この気持ちは何?

 始まりは些細なことだった。

 先週。しっかり者の彼女にしては珍しく、体調を崩して練習を休んだ。

 ただそれは、今週になって、今日になっても続いてる。

 

 

「沙綾、こないね」

 

「まだ体調治ってないんだろ?」

 

 

 沙綾はもう、一週間も顔を見せてないし、連絡もしてない。

 学校にも風邪って言ってるみたいだし。

 さすがに、こんな長いあいだ見ないと、心配になるな。

 

 

「でも、香澄ちゃん。沙綾ちゃんのお母さんに会って話したんでしょ?」

 

「うん。風邪だから、治るまで顔は見せられないって……」

 

「じゃあ、待ってあげようよ。あんまり慌てて騒いじゃうと、沙綾ちゃん、気にしちゃうかも」

 

 

 さすがりみ、大人の意見だな。

 ……でも今回は、何か違う気がする。

 なんかこう、煮え切らないっつうか、紗綾らしくないっつうか……。

 それに休む前の日、様子が変だったし。

 

 

「今日の練習はこれくらいにしとくか?」

 

「そうだね。そうしよう」

 

 

 珍しくたえが一番最初に賛成したな。

 まあそりゃそうか、たえも同じメンバーとして気にならないわけないか。

 

 

 

 

 

「また明日。バイバイ」

 

「おう。お疲れー」

 

 

 最後までモタモタしてた香澄が、これもまた珍しく元気なさそうに帰っていく。

 

 

「このままじゃ、マジでヤバイんじゃねぇの……」

 

 

 誰もいなくなった蔵で、一人でそう呟いた。

 これってよくある、解散の危機なんじゃ。

 ……いや考え過ぎか。でももし解散なんかしたら……。

 せっかく香澄にもらった、この居場所がなくなる。

――ポピパがなくなる!

 そうすれば、またあの一人の日常に逆戻り。

 

 

「そんなのぜってぇ嫌だ!」

 

 

 いつもの自分じゃ言わない言葉だと、言った後に気づいた。

 それになんだ、この胸のザワザワてか、モヤモヤする感じ。

 

 

「行ってみるか……」

 

 

 

 

 

「……来ちまった」

 

 

 我ながら、こんな時間に来るとはなぁ。

 今あたしは、沙綾の家の前。パン屋の方の入口とは違う、もう一つの玄関の前にいる。

 夕食の時間なんてとっくに過ぎた、夜九時。明日にしようか悩んだけど、いや普通は明日にするべきだけど、何故だかいま沙綾に会いたいと思った。

 沙綾寝てるかな? 怒ったりしねぇよな。いやいや、それ以前に家族に迷惑か。

 

 

「やっぱ明日に―――」

 

 

 心残りだけど、別に明日は休みだし。

 なんて考えて引き返そうとすると、横から声をかけられた。

 

 

「有咲?」

 

「沙綾!?」

 

 

 沙綾が両手にビニール袋を持って現れた。

 こんな時間に買い物か?

 

 

「あ、これ? 母さんがパンの材料買い忘れちゃって、それでね。……」

 

 

 もしかして、沙綾のお母さん、また体調崩してたり……。

 それでこれなかったのか?

 

 

「とりあえずうち入る? パンとメロンジュースくらいは出すよ」

 

「いいのかこんな時間に、迷惑じゃねぇか?」

 

「純と紗南は寝てるけど、母さん達はパンの仕込みしててまだ起きてるから、大丈夫」

 

 

 

 沙綾の言葉に甘えておじゃました。

 あたしは沙綾の部屋に案内される。

 初めて入った沙綾の部屋は、私の散らかった部屋とは大違いで、今時の女子高生の部屋と違った感じっつうか、落ち着いた雰囲気の部屋だ。

 でも女子高生らしい、可愛いぬいぐるみとかも置いてある。

 

 

「はい、お待たせ」

 

 

 そう言って沙綾はテーブルにジュースとパンを置いた。

 

 

「い、いただきます」

 

「どうぞ」

 

 

 なかなか本題に入れない。

 それに会った時から気になってたけど、沙綾の表情。少し悲しそうだな。

 

 

「それで、有紗はなんでうちの前にいたの?」

 

 

 沙綾のことだから、会った時から察してそうだけど、あえてあたしが言うまで待ってくれてるのか?

 ああ、こう言う時の話のふり方、検索しとくんだった。

 それに自分のコミュ力が嫌になる。

 

 

「沙綾! ……体調はもういいのか?」

 

 

 なにはぐらかしてんだよあたしは! 言えっての!

 

 

「うん。もう平気かな」

 

「じゃあ、明日の練習くるんだろ? みんな待ってんぞ」

 

「あ。う、うん」

 

 

 

 この返事は、たぶん来ないって返事だ。

 中学の時、自分も使ったことがあるからわかる。

 

 

「連絡くらいくれてもよかったろ」

 

「ごめん。心配するかと思って」

 

「しないほうが心配するだろ。いつもの沙綾ならそれくらい……」

 

 

 そうだ。いつもの沙綾ならそれくらいわかるはずだ。

 

 

「ごめんね。……あはは、たぶん風邪で頭回らなかったのかも」

 

「そうか。……明日待ってるからな。パンとジュースごちそうさま」

 

 

 あたしの勝手な思い込みで、明日来ないって決めつけて迷惑をかけるわけにもいかないしな。

 

 

 

 

 

「……来ねぇな」

 

 

 今日も、あたしの隣の、電子ドラムには誰もいない。

 今日も沙綾からの連絡も、何もなかった。

 

 

「今日も休みなのかな?」

 

「かもしれねぇな」

 

「みんなの音、寂しそう」

 

 

 そういうおたえの音も、あたしから聞いても明らかに元気がなかったな。

 

 

「じゃあ、今日も練習はこれくらいにしとくか?」

 

「やる! 私まだやる!」

 

 

 香澄はやる気まんまんだった。

 

 

「そうだね。やろう!」

 

「うん」

 

「よし。じゃあ行くぞ~」

 

 

 結果その日の練習は、一日やりきった。

 

 

 

 

 

 気づけばまた、沙綾の家の玄関の前にいた。

 あの胸の感じは、昨日よりも酷くなって、耐えられない。

 でも理由はなんとなくですらわからない。

 

 

「こ、こんばんわ」

 

 

 あたしがドアをノックすると、誰かが気づいた。

 声からして、たぶん沙綾のお母さんだと思う。

 

 

「沙綾に会いに来てくれたのね。たぶん二階の自分の部屋にいるわ」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 

 時間は昨日と変わらないのに、沙綾のお母さんはそれ以上何も言わなかった。

 私は昨日沙綾に連れられて行った部屋までの道のりを、何を言うかしっかりと考えながら、自問自答を繰り返して歩いた。

 

 

「沙綾。その、こんな時間に悪いな」

 

 

 ほんと、自分は何をしてるんだと思うけど、これも自分の為だ……。

――え? 自分の為?

 なんであたし今、自分の為なんて思ったんだ?

 

 

「ごめん。今は、そっとしてほしいかな」

 

「沙綾?」

 

 

 今沙綾の声震えてなかったか?

 そう思うと、居ても立ってもいられなかった。

 それだけで、あの胸の感じが、増す。

 

 

「沙綾、開けるぞ」

 

 

 沙綾の返事返ってくる前に扉を開けて部屋に入る。

 

 

「……沙綾、泣いてんか?」

 

「勝手に入って。まったく有咲は……」

 

 

 ベッドに腰掛けて、スマホを両手で持っていた。

 

 

「っておい! それ曲のデータじゃんか!」

 

 

 沙綾の持つ、濡れたスマホの画面に映るのは、ポピパでネット共有してる沙綾用の個人音楽フェイル。

 そしてそのフェイル名の上に表示されているのは削除の二文字と、はいといいえ。

 

 

「どうしたんだよ!」

 

 

 つい声を大きくして 聞いちまった。

 沙綾の肩が小さくビクッて動くのがわかった。

 あたしは静かに、沙綾の隣に腰掛けた。

 

 

「私……ドラム叩けなくなっちゃった」

 

「はぁ? 何言い出すんだよ急に」

 

「スランプ……って言うのかな?」

 

「……それで休んでたわけ?」

 

「うん。……最初は、本当に体調が悪かったんだけど、気づいたらうまく出来なくなってた」

 

 

 スランプ……自分にも経験がないわけじゃない。

 だけどあたしの時は、ひたすら練習してたら気にならなくなったし……第一ドラムのスランプなんてどうしたら……。

 

 

「ファイル消そうとしてたのは?」

 

「迷惑――」

 

「じゃねぇ! 迷惑なんかじゃねぇ!」

 

 

 その言葉は、最後まで言って欲しくなくて、あたしは途中で、自分の声でかき消した。

 そんな言葉、沙綾の口から二度と聞きたくない。

 

 

「だって、もしかしたらこのまま叩けないかもしれないんだよ?! ネットやテレビでも、スランプ起こしてバンド解散なんて、聞かない話でもない! もしもそれでポピパが解散なんてしたら」

 

「しねぇしさせねぇ!」

 

「でも――」

 

「でもじゃねぇ! もう一人で抱え込まないって約束しただろ?」

 

「言おうとしたけど、言えなかった」

 

 

 そんな顔するなよ。こっちも悲しくなるだろ。

 なんで頼ってくれなかったんだよ。

 

 

「……それに、いつからなんだよ。スランプになったの」

 

「正確には、風邪で休む前の練習の時、あの時からちょっと変だった。いつもみたいに楽しく叩けなかった」

 

「じゃあ、あんとき元気なかったのは」

 

「うん。そういう事になる、かな」

 

 

 それは一週間前のことになる。

 

 

 

「あーお腹すいたー!」

 

「香澄お前さっきから音外してたから、もっかいな」

 

「ええ!? そんな~!」

 

 

 たくこいつは。相変わらず自分の世界に入りやすいんだな。

 

 

「まあまあ、有咲、みんなも疲れてるみたいだし」

 

 

 そうやっておたえも香澄を甘やかすんだからさ。

 

 

「そんじゃ、お菓子食べるか」

 

 

 あたしがそう言うと、周りのメンバーはソファーに座って用意してたお菓子を食べだす。

 

 

「ん? 沙綾はいかねぇの?」

 

「えっ。あ、うん。今行くよ」

 

 

 なんか変だ。いつもなら沙綾も揃って香澄を甘やかすのに。

 

 

 

 あの時既に、沙綾はスランプだったってことか。

 

 

「あんとき言えば、皆力になったと思うぞ? それにスランプなんて気の持ち用だろ」

 

「そう思って叩いて見たんだけどね……」

 

「ダメだったのか」

 

 

 どうすりゃいいんだ。

 こんな時、香澄なら何をする?

 あいつなら……。

 

 

「あ、あたしは、沙綾のいないポピパなんて嫌だかんな!」

 

「有咲?」

 

「あんとき言ったろ? 他の誰かより、山吹さん……沙綾が良いって」

 

「有咲……」

 

 

 こんな気持ち初めてだ。

 ヤベぇ、心臓バックバクじゃんあたし。

 逃げてぇ、今すぐ逃げてぇ。

 

 

「それに、沙綾がいないと香澄がしょぼくれるし、他のみんなだって心配しちまって、演奏どころじゃないんだよ」

 

 

 沙綾と話してると、いつもの自分を保てなくなりそうだ。

 

 

「それは、有咲も?」

 

「はっ? あ、いやそうだけど……」

 

「じゃあ、有咲も私の為に悲しんでくれたんだね。でも、今日来た理由は、ほんとにそれだけ?」

 

「な、何言ってんだよ! それだけだよ! それに当たり前だろ!? 私たちはその、仲間であって、その、友達なんだし」

 

「っふふ。顔真っ赤。可愛い」

 

 

 なっ! また笑顔でそんな事言いやがって! ペース乱れるだろ!

 

 

「か、可愛くねぇ! つかからかえるならこいよな!」

 

「……私てっきり、香澄が来るかと思ってた」

 

「まぁ、いつも通りなら、そうだよな」

 

 

 な、なんだよ急に。

 

 

「香澄だったら、また喧嘩してたかも」

 

「間違いねぇな。香澄とならなりかねない」

 

「有咲だから、こうやって話し合えたと思う」

 

 

 心臓の鼓動が早くなる。あたしは沙綾に何かを期待してるのか?

 沙綾に?

 何を、何を期待してるんだよ。

 

 

「来てくれたのが、有咲でよかった」

 

「お、おう……」

 

 

 ま、まさかな……そんなわけ。

 ……でももしかして。

 

 

「ありがとう。有咲」

 

 

 そう言って沙綾は、精一杯の笑顔をあたしに見せる。

 そして気づく。

――これは、ガチなやつだ。

 理由なんてどうでもいい。

 私は今……。

 

――沙綾に恋してる。

 

 きっとこの胸のざわめきも、モヤモヤも、沙綾に会いたかったのか。

 これがネット小説で言ってた、乙女の恋心ってやつなのか?

 

――でも沙綾はどうなんだ?

 確かに香澄にべたべたされたら満更でもない様子だったし、そっち系なのか?

 いやでも、それくらいのスキンシップなら、範囲内なだけなのか?

 わからねぇ。

 せっかくこの感情の答えを見つけたのに、今度は沙綾の気持ちがわからねぇ!

 

 

「私、がんばるよ。応援してくれるよね。有咲」

 

「お、おう当然だろ! みんなで応援するに決まってる!」

 

「そうじゃなくて。有咲個人としては、私の事応援してくれる?」

 

「え?」

 

 

 それはつまり……そう言う事でいいのか?

 いや、いいのか?

 ほんとに?

 もしも違ったなら……あたしは……

 

 

「そんなの、応援するに決まってんだろ!」

 

 

 でも、この気持ちは本物だ。

 偽りなんかじゃない。

  

 

「そっか。嬉しい」

 

 

 だから、もしこの一言で

 

 

「……沙綾!」

 

 

 全ての関係が崩れてしまっても。

 

 言わずに後悔する方が、もっと嫌だ。

 

 

「んー? なに?」

 

「あたし沙綾が好きだ!」

 

 

 だから、言った。

 

 禁断の言葉を。

 

 しっかりと。

 

 聞こえるように。

 

 返事は……。

 

 

「……うん。私もそうだよ」

 

 

 ……やった。

 同時に、よかったとも思った。

 

 

「で、でも、友達なんかじゃなくて、その、もっと……上の関係な意味で」 

 

「うん。わかってる」

 

「嫌々とかじゃ、ないよな?」

 

「うん、違うよ」

 

「じゃあ……!」

 

「私も有咲が好きだよ」

 

 

 沙綾からの返事は、すげぇすんなりとしてて、スッキリしてた。

 そして、ぼっちだったあたしが、ポピパに出会い、しばらく。

 初めての恋人ができた日だった。

 

 

「きょ、今日はそれだけだから! 明日の練習は絶対に来いよな! 顔出すだけでもいいから」

 

「うん。わかった。絶対行く」

 

 

 昨日とは違って、迷いなんてない言葉だ。

 

 

「待って有咲」

 

 

 立ち上がって行こうとしたら、沙綾に手を掴まれた。

 びっくりもしたし、ドキッともした。

 

 

「な、なんだよぉ」

 

「今日はもう泊まって行きなよ。ほら」

 

 

 沙綾はそう言って時計を指差す。

 時間は十一時を過ぎていて、学生が歩くにはマズイ時間だ。

 

 

「だけど……」

 

「有咲はそんな軽い女じゃない? それは恋人の私でも?」

 

「うっ……それは」

 

 

 ダメだ、勝てるとは思えない。

 それに補導でもされたら、それこそマズイ。

 

 

「わかった……」

 

「ふふ。じゃあお風呂入ってきなよ。お湯はもう流しちゃったと思うから、シャワーかもしれないけど、いい?」

 

「ああ、大丈夫。……あ、でも着替えが」

 

「私の貸すよ」

 

「お、おう」

 

 

 

 

 

「っふふふ。可愛い」

 

「可愛くねぇ!」

 

 

 沙綾の服は、一回り近く大きく袖も長く、ダボダボだ。

 

 

「有咲の萌え袖、可愛いよ」

 

「へ、変なこと言うなぁ!」

 

 

 まったく、沙綾はすぐ可愛いとか平然と口に出す。

 

 

 

 それからすぐ、眠くなって、沙綾が布団で、ベッドがあたしで寝ることになった。

 あたしは遠慮したんだけど、沙綾があたしに寝てほしいっていうから、そうしてあげた。

 あたしが沙綾のベッドで寝たかったわけじゃねぇ。 

 

 

「有咲」

 

「なんだよ」

 

「本当に、ありがとう」

 

「っ! う、うるせぇ、早く寝ろぉ……」

 

「っふふ」

 

 

 まったく、油断も隙もあったもんじゃない。

 沙綾ってこんなキャラだっけか?

 

 

「……ん? んんん? ちょっ! は? 沙綾?!」

 

 

 ベッドで沙綾のいる方とは反対。壁の方を向いて寝てたら、急に隣に誰かが入ってくる。

 状況的に沙綾しかいないんだけど。

 沙綾はあたしのお腹に両手を回す。

 片手はとうぜん、ベッドと私の体の間に無理やりねじ込んできやがった。

 

 

「お、おおおま。まだそう言うのは……!」

 

「一緒に寝よ。別に変な事じゃないよね?」

 

「う……ま、まぁ……そうだけど」

 

 

 前におたえもあたしのベッドで一緒に寝てたけど、これは普通のことなのか?

 あたしが疎いのか?  

 

 

「でも沙綾、流石に腕は……」

 

 

 腕をどけてもらおうかと思ったけど、既に寝ちまってた。

 泣き疲れたのか?

 

 

「……まあ、いいか」

 

 

 

 

 

「沙綾ぁー!!」

 

「久しぶりだねぇ香澄。みんなも心配かけてごめんね」

 

 

 さっそく香澄が、あたしの沙綾に手を出してきた。

 それされるだけで、なんかこう、ざわつくんですけど。

 

 

「と思いつつも、自分でしてみたいと思う有咲だった」

 

「思ってねぇ! つか心読んでんじゃねぇよ、なんで読めんだよ!」

 

「おお! 有咲のツッコミに元気が戻った!」

 

「さすが、ポピパのツッコミ担当」

 

「ツッコミ担当じゃねぇぇ!」

 

 

 ったくこいつらは。

 

 

「それじゃあ沙綾も帰ってきたし! みんなで一曲行ってみよう!」

 

「ちょっ香澄!」

 

「有咲。私は大丈夫」

 

 

 沙綾はそう言って、いつもの席につく。

 今日は、キーボードの隣は空いてない。

 しっかりとそこには、沙綾がいる。

 

 

「私、ポピパと……有咲の為にドラムを叩くよ」

 

「な、なななっ!」

 

 

 演奏が始まる前に、近づいてきた沙綾に、そう言われた。

 たぶん顔は真っ赤だろう。

 心臓の鼓動も早くなる。

 

 

「それじゃいくよ! 1、2、3――」


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