地獄の第八層までの直通ルート。深淵の壁を三人を抱えアスラは直角に駆け上がる。右腕で乱暴ながらも負担にならない抱えられかたをしたペストーニャ。
左手で首襟を掴まれ運搬される逸脱者二人。無論、当然の如く昇りきる前に七層へ投げ捨てられた。
生傷がない箇所を探す方が難しい両者は、痛みに耐えながらも受け身で衝撃を緩和する。
「クソッ……可憐な乙女にこの仕打ちとは紳士ではないな」
「まったくだ嫌になる。私の予測を越え、こうも想定外が続くとは。我々が誘いにのった時点で死ぬことは確定されていた。結果はどうあれ穴に落ちるとね。更に閣下以外に我々より先に下の階層へたどり着いていたのも驚きだよ。いやはや……完敗だ」
「珍しいな貴様敗北を認めるか」
「そうだ。私個人は大敗した。力及ばず、無惨に地べたを這いずる敗者だ。だが、そう――――――ご覧の通り私達は勝利した。私個人ではなし得ない、誰も欠けることなく皆の勝利を実現したのだ。軍とはそういったものだろ?一人一人が最善を尽くし出来うる限りの手を選びとった。故に、この余韻を分かち合おうではないか。この勝利は決して一人で勝ち取ったものではないのだと」
「やっぱ気色悪いな」
誰かこいつの折れず曲がらず真っ直ぐな根性を腐らせてくれ。
「おうおう元気で結構。ペストーニャ頼まれてくれるか?」
「お任せです……わん」
アスラに下ろされたペストーニャは二人の側に屈み込み治療を開始する。
この中で一番の重症のチトセに暖かな光が包み込む。窮地から打倒までこぎ付けたその手腕。怪我の治療まで助けられているが、その眼は少しでも可笑しなことをすれば切り捨てる準備を完了している。
「まさか人外に助けられるとはな。嗚呼勘違いしないでもらいたい。別に殺すつもりはない。助けられたんだ恩を仇で返すのは性に合わんよ。彼奴を救いたかったんだろ?大切な仲間達を救いたかったんだろ?その結果私達も救われた。だがな、納得がいかんのだよ。何故アインズを裏切る。これまで仕えてきて状勢が不利になると人間の味方か…………違うな。治癒魔法が星を通じて感じるよ。お前は私が出会ってきた中で二番目に誰も殺せない優しい奴。ならば尚更分からない。何故異形の仲間ではなく我々を治す」
この第七層にもまだ息のある死に体が幾つか転がっている。放っておけば死ぬ。なのに助けない。矛盾してるだろ。何故同じ仲間を先に助けない。私とギルベルトを治癒したら確実に息を引き取る傷だ。
「目が覚めた……自覚してしまったせいですかね。私はナザリック地下大墳墓のメイド長でした。至高の御方に仕えることが何よりの幸せ。機嫌を損ね、失態を晒そうものなら自ら命を絶つ。皆それが当たり前でした。ですが……突如私達の根幹にあった定めが砕け散り、喪失感と解放感に襲われました。そこからは組織としてではなく一個人として行動しなければと……今まで押さえ込んでいた
「それは効率が悪いな。何かを成そうとすれば当然失敗をすることもある。組織全てが常に完全無欠の仕事をしろとはそれは無理がある。だが、ヴァルゼライド閣下なら」
「話が進まん黙れ」
予測できていたとしても、満足に動けないギルベルトは溝に突き刺さる拳を潔く受け入れる。致命傷から瀕死に変わっただけだ。
「グッ……分かってはいても痛いなこれは」
「うむ、凄いものだ。此処までの治癒魔法の使い手は初めてだ。では次にソレを頼む」
ぷれいやーに仕えるえぬぴーしーの変化。チトセとギルベルトは一つだけ心当たりがあった。
――――――世界の揺らぎ。
ソコから、えぬぴーしーは暴走を開始した。
この言い方には語弊があるな。正確には、やりたいことをやり始めた。
騎士道に通じる忠誠心の塊みたいな奴が、世界の揺らぎと共に勝手に自分の都合を優先し始めた。
(嗚呼笑えるよ。これではまるで……いや、洗脳そのものじゃないか)
それもたちの悪い。一見自由で"えぬぴーしー"として平等で、何をされようが何を見ようが"ぷれいやー"を心の底から
「それで、どうだったのだ?崇拝していた感覚とやらは」
「至高の御方が神であり全て。かの御方のお声、一挙手一投足、御方の関係する全てが私達の幸福。命令を与えられ、お声一ついただいたらそれは何にも勝る祝福」
苦痛ではなく幸福を。ナザリックの"えぬぴーしー"全員が
そう生まれ、そう作られ、逆らうことなどあり得ない
「潜在意識。この忠誠心は愛と言ってもいい。私達は心の底からかの御方を愛することに疑問すら抱かなかった。でも……それは幸せなのかもしれません」
至高の御方の役に立つ。与えられた役目を全うする。それだけで心の底から溢れ出る官能的快楽。
「自由とは……役目もない不確定な未来とは……こんなにも辛いのですね……」
幸せだったのだ。それだけで満ち足りたのだ。
だからこそ――――――気持ち悪い。
「私を信頼して下さいなど言いません。利用して使い潰しても構いません。それで傷ついた人々が……子供たちの未来に光があるのなら、私は罪を背負い生きていきます……わん」
「いいだろう。私が使ってやる。この私が、お前の命を保証しよう。誰にも渡さんし、殺させはしない。貴様が救った先を見せてやる」
多くが死に、多くが傷付くだろう。もしかしたら、ナザリックの世界征服の方が血が流れないのかもしれない。
それでも――――――
「はい!お願いいたします……わん!」
もしも、もしも罪が赦される日が訪れたなら――――――私の幸せをさがしてみよう。
ギルベルトの治療も終わり、改めてメンバーを確認する。悲しいことに攻略時よりバランスのとれたパーティーとなったことに嘆きを覚えるチトセ。
今頃総統閣下は予想の遥か彼方まで覚醒したとして、我々はやっと並んだと見るべきか。それよりもペストーニャの横で瞑想している問題児。
「ストレイド、暫く見ない間に見違えたな。肉体のポテンシャルは越されたか。所でお前好みの闘争が絶賛下で繰り広げられているわけだが……参加表明は自由だぞ?」
「ハッ、そうしたいがアレは俺の求める闘争とちとかけ離れすぎだ。成立しない勝負になんの価値がある。まあこの際成り行きだ。あんたらに付いていくとするよ」
「それは願ってもない事だがどうもらしくないな」
「俺だって死にかけりゃ反省もする。熱くなった体も思考も冷めたんだ。ああどうヤられたかは聞かんでくれや黒歴史だ」
「なんにせよチームに加わるなら賛同しよう。さて、今後だが――――――」
ナザリック攻略は使命。それを踏まえた上で今後の行動選択をする。一度地上に戻って更なる戦力要請をするのもよし。このまま最深部まで行くのもよし。だが、下のアレが片付かない限り降りる行為は不可能。ペストーニャはナザリックを裏切り、罪に汚れた身の上だが、これ以上戦力としてナザリック攻略に荷担したくはないとのこと。
ペストーニャとアスラの意見を取り入れ、最終的判断を私とギルベルトが結論を下した。
「地上までの安全を確保する。異論はないな?無論、下での沙汰が決着しだい穴から便利にショートカットだ」
「表層から第十層までなら、第七層から一度綺麗に掃除をする必要がある。敵味方無差別のランダム転移は未だに混乱と統率力の消失を浮き彫りにしている。更に下からの挟み撃ちを心配する必要がない分上へ上がることだけを意識すればいい。最も効率のいい展開としては、仲間割れが複数起きていれば一網打尽が可能という点だ。当初とは逆の攻略、ギミックもトラップも機能停止。待ち伏せも無いとなればこれ程簡単なものはない」
「ハ、異論はないぜ。やるならちゃっちゃとやるか」
「下の階層で待ち構えている魔神クラスの化け物が第一層のスケルトンと同じ場で待ち構えていたら爆笑ものだな」
「マーレの件もありますし、無いとは言い切れませんね……わん」
ヤるならば迅速な蹂躙。一匹たりとも逃がしてはならない。遺恨となり脅威になる前に叩く。
物語は終盤戦――――――人が奏でる道筋は誰にも分からない。
戦闘の破壊痕により瓦礫と化した廃墟を一人の少女が優雅にステップを刻む。世界に穿たれた全てを呑み込むかのような深淵を好奇心から顔を覗かせ、理不尽に死んでいった元同胞を哀しみながら愉快に笑う。少女は下等な生物が理不尽に蹂躙されるのも好きだか、それ以上に強大な存在が無様に転げ回る様も好きなのだ。
少女は口角を歪ませ腹の底から嗤い残念がる。絶対の神であるアインズ様が敵の靴底にスリより無様に媚び命乞いする様を是非とも拝見したかった。
「まーしょうがないっすね~。命あっての物種っすから」
美しくそびえ立っていた
「……今まで有難うございました。私、戦闘メイプレアデスが次女ルプスレギナ・ベータは本日を持ってお暇させていただきます。私を産み出してくださった創造者に感謝を。アインズ様……貴方にお仕え出来たことは最高の喜びです。本当に……ほんとうに、ありがとうございましたッ!!」
黙祷を捧げ、感謝の涙が流れ出す。
皆大好きだった。姉や妹たちも、一般メイドも、階層守護者や他の異業種も、カルネ村のモルモットもルプーは最高に愛している。
「あぁ~湿っぽくなっちゃったっすね。じゃあね大好きな我が同胞たちよ。私は皆様の死に様を妄想しておかずにするけど許して欲しいっすー」
絶対的強者であったナザリック地下大墳墓は新たな強者が終わらせる。その大一番を最後まで観れないのは本当に残念だ。
「いやーでも甘くみてたっすねー。アインズ様でも予測できなかったこの事態は、始めっから詰んでたんすね」
災厄をもたらす子――――――ルベド。
ニグレドの言葉通り、彼女がナザリックに止めを刺した。仮にルベドが敵を殲滅しても元通りにはならない。
「みーんな死んじゃって復活も無理とかほんとなんなんすか!!level59じゃ無駄死に確定!!けど運がいいっすよ私!!なんたって第二層のシャルちゃんの寝室に転移とかこりゃもう
楽しく愉快に人生を謳歌しよう。綺麗な人間賛歌を死ぬ際に醜い白鳥愚歌で染め上げよう。
「人生が輝いて見えるっす!!ありがとう!!ありがとう!!ありがとうおおおおおおおおおおおおおおお!!」
態々力を示して強い人間に関わろうとするから今回みたいな事態に発生する。節度を保ってばれない様に遊べばいい。
時間をかけて村や都市に化け物を誘導する。
毎日……三日に一度は一人の人間で遊ぶ。増えることもあるだろう。
強者が居ないのを確認してから綺麗に掃除するのもあり。
地下に潜ってやばーい陰謀を企てて人間を弄ぶのもいい。
それから、それからそれから――――――
「で、どちら様っすか?」
「あれ、気付いてたの。貴女敵でいいのよね?クリス達しか味方はいないから人間でもアインズ・ウール・ゴウンの配下なんでしょ?……人間とは限らないのか」
新たな人生の羽ばたきを邪魔する人間。黒の軍服を着こんだ化粧など着飾っていない大雑把な、されど風にたなびく金髪と光に反射する翠色の眼の少女は"黄金"ラナーと比較してもその美しさは廃れていない。否、人間を観察してきた観察眼がラナーよりこの女性の方が輝いて見える。
(ちょーとヤバイっすねー。この場にいるってことは、あの三人並の実力者と考えるのが妥当か。逃げるが吉っすね)
無理に戦う必要もない。命を懸けてナザリックを守る、その役目からは解放されたばかりなのだ。だからルプーは涙をこぼす。
「ごめんなさい!!私は改心しました。ナザリックの悪役非道な行いは私も心を痛めていました。けど、私には勇気がなかった!!仲間を売り、裏切りの汚名を被る覚悟が足りなかった……でもッ貴方たちが来てくれた。お願いします。私も人を助けたい。この血で汚れた手でも傷ついた人を助けたいんです。許してなんて頼みません。でも、猶予をください。殺めてしまった人たちに私は償いたいんですッ」
「言いたいことはそれだけ?演劇女優顔負けね。だけどどれだけ言葉を取り繕うが仮面の下はサディスト。強弱が激しくわざとらしいのよ貴女。せめて私を見付けたときから成りきりなさいよ。もっとも――――――」
軍刀を引き抜き、少女は構えた。金属が擦れるような音が静かにこだまする。
「私は最初っから首を撥ね飛ばす予定だ。どことなく似てるのよね、アルと一緒に捕まえた殺人鬼に」
濃密な重圧がルプーを圧迫する。
絶望のオーラと違う素のオーラがルプーの体に重くのし掛かる。
(これマジヤバイ。冷や汗とまんねー)
スキル:獣の勘。自分を害する攻撃を察知する。全ての攻撃を察知する超便利スキルなら万々歳なのだが、そんな便利なものじゃない。
(悪寒が走る程度の効果しかないのに、明確に首元がぞわぞわする。
初手安定の逃亡。戦うなど以ての外。逃走のため、目の前のヤベー奴に対応するため右足を半歩引いた。
"パシャ"
ルプスレギナは理解した。まんまと敵の策略に嵌まったのだと。先程までは無かった水溜まりが絡み付くように皮膚を伝い、彼女の鼻と口から侵入する。
(
「滅びろ」
酸素を取り入れず、激しい戦闘になれば一分かそこらで溺死する。肺にまで侵入を許したらもはや取り返しがつかなくなる。
侵入した水を除去し、攻撃もいなす最適解。
(やりたくないけどやるしかない!!
炎の柱が発生し自分と相手を燃やす。
呼吸器官という内臓へのダメージ、皮膚重度の火傷。んなもん後で
「あの一瞬で自爆前提で私とあの子に対処したのは誉めてあげる。だが、小賢しいぞ」
燃え盛る炎の中。炎耐性がないのか美しかったであろう顔や髪、全身の皮膚を何ら躊躇なく省みず、速度を落とさずに英雄と磨きあげてきた軍刀の一閃がルプスレギナの首を斬り捨てた。
「貴様のそれは私が躊躇、または炎からの退避が前提のものだろ。敵にミスを期待してどうする。どんな攻撃がこようと、死ぬ前に殺すと決めていた私からすれば浅はかだ」
ルプーの浮遊する意識が最後に見たものは、輝く星が時間が巻き戻るかのように元の美貌に戻る瞬間だった。
何故だが分からないけど、その在り方が――――――最高に美しかった。
原初の
遊びでしかなかったゲームから残酷な現実へ落とされた最初の
特殊な訓練も、専門的な知識も、怪我や流血から離れた生活を過ごしてきた彼等は、この世界で生きていた。少しずつ原住民と交流を深め、汗を流し、生きることに精一杯だった筈の彼等はこの世界に"意味"を求めた。
level100――――――神の代名詞。
天変地異の破壊者。
数多のマジックアイテムは奇跡を起こした。プレイヤーは人間の代わりに敵を殺した。可能なら交渉し、物々交換などの流通も行うようになった。それでも、彼等は全てを救う全知全能の神になり得ない。
ゲーマーから神へ。全能感を理性と痛みで子供のように力を振りかざしたい暴走心を押さえ込んでいる。
行き過ぎた殺戮と破壊は調律者の目に止まる。アレラ人外の化け物と敵対せずに過ごす日々はプレイヤーを人類を追い詰めていく。
農業の知識もない。政治のやり方も知らない。人のまとめ方も必要なものも分からない事が多かったが、マジックアイテムで補ってきた。
現実はゲームとは違う。
グループは集団へ、集団はコミュニティーへ、そしてコミュニティーは国になった。
足りないものだらけだ。食料も足りない。力が足りない。組織としての統率力も弱い。
どれだけ神と崇められようが、根本的にこの世界は人類に過酷すぎる。何よりの問題は寿命だ。彼以外は寿命で死んでしまう。それだけは耐えられない。国のない原始的なファンタジーを生き抜いてきたのは皆が居たからだ。
だから、私達は決断した。ワールドアイテムでスルシャーナが生きるこの世界を見守ると――――――希望を夢みて。
私達は遊ぶ人でも興じる人でもない。
祈り人――――――
それこそが、最初の特異点。異界法則。
五人の想いと魂が、ワールドアイテムを触媒に一つとなった事例。直接的な干渉はせず誰もが扱える力を平等に拡散させた。彼らがよく知る皆で遊んで楽しかったユグドラシルを。
そして、六百年の歳月を経て新たな特異点が誕生した。
邪竜はあと一歩で肉体を散らした。
セバスは条件さえ整えば至れたかもしれない。
マーレはもはや論外。純粋な魂を取り込まず残留の欠片は一つとならず、自らを削り他を補強した。復活も儘ならない欠片に引っ張られ、マーレはシステムの虚無へ還っていった。
よって、此れよりは未知の戦い。
肉体を特異点化させ世界へとなった
創生――――――
闇の
到達――――――
永久の
この闘争は英雄譚でも逆襲劇でもない。
異なる法則を特異点とする人間の戦争。
奇跡など起こり得ない。ルールが違う。異界が違う。世界が違う。
異なる想いの方向性に強弱など存在しない。
それでも、最後に勝利を掴む者がいるなら――――――諦めない者。
はい、すいません。次回から本当のゼファー戦です。
皆さん、好きなオーバーロードのNPCは誰ですか?
私は勿論
シャルティア様
パンドラ
シズ
ルプー
の四人ですかね。あ~好き!!
感想、批判、疑問点お待ちしてます。