オーバーロードVS鋼の英雄人 『完結』   作:namaZ

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ソリュシャン・イプシロン

 この戦いは、敵からしたら意味もない……人ならざる者が一匹だけ人知れず消える。それだけの話――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん……とってもとっても悲しいわぁ。手癖の悪い可愛い可愛い妹の反抗期に戸惑ってしまうもの」

 

「………………シスター冗談キツキツ。顔が極悪」

 

 

 直上からの完璧に決まったアンブッシュを二発の発砲音がソリュシャンの両目から光を奪い。ハンドガンのマガジン全弾を頭部、喉へと追撃を許さず数秒間感覚を狂わせた。

 ソリュシャン・イプシロン種族:異形種(スライム)捕食型粘体(スライム)の種族特性として物理攻撃への耐性を持ち、強弱の加減が出来る酸の分泌も可能である。鉛の弾は排出されず溶け落ちる。

 それでも、完全にソリュシャンの意表を突いたチャンスを人間(ツアレ)を遠くに避難させるためだけに浪費する愚かしく可愛らしい妹に頬が緩んでしまう。

 

 

「見ない間に口が回るようになったじゃないシズ。そんな貴女がどんなふうに歪むのか…………興味なぁい~?」

 

「……三女は口うるさい。少しは慎むべき――――――鏡見たことある?」

 

「ふふふ、本当にらしくない。悪いお口はめっよ。でもそうねぇ……ほんとうに、見ない間に変わったわね……稀有な人生を楽しんでる?ツアレ(人間)

 

 

 捕食者の眼に潜む驚愕の光。脅えるだけ、流されて誰かに自分を託していただけの劣等はもうそこにはいない。

 自ら考え、足掻き、抵抗する者。初めてかもしれないlevelにそぐわない人間の強者。 

 

 

「……お久しぶりですソリュシャン様。私は、これまでの過去(すべて)を受け継ぎ……生きなければなりません。どうか武器を治めそこを通していただけませんか?」

 

「……あぁッ美味しそう。今のあなたのこと、すごく好きよ。セバス様が拾ってきたときはそれこそ邪魔としか思っていなかったわ。何処を見渡しても珍しくもない不幸な人間の女を何故セバス様が気に入られたのかは疑問だけど……今ならわかるわ。あなたこそが、"人の可能性"。私では到底理解出来ない、誰かを思いやれる者(本当の強者)だけがその価値に気付いてしまう」

 

 

 絶対的なカリスマ性など不要。

 今のツアレを見た誰もが、人間はただ生きるだけで素晴らしいと感銘を受ける。

 人間として、一人の女として、子を守る母として、その優しい輝きに、持たない者が群がってくる。

 

 

「祝福するわ。あなたは、私たちが望んでも手に入れることが叶わない幸福を手に入れた」

 

 

 生命力が溢れるツアレ。戦士としての強さなどなく、愛した男の願いと託された想いを強さに変える。

 

 

「羨ましい……嫉妬しちゃうわね」

 

 

 濁った瞳は誰も映さない。でも、ツアレは寂しそうと感じたから。

 

 

「ソリュシャン様。よろしければ一緒にナザリックの外へ行きませんか?」

 

「……優しいのね。先に手を出したのは私なのに。セバス様やシズのようにその"甘さ"につい引かれてしまう」

 

 

 自分とは真逆の人間。ついていけば新しい発見があるかもしれない。

 

 

「えぇいいわ。今日だけはその手を取ってあげる」

 

「いいのですか?」

 

「たまには、らしくないことしてみるものでしょ?」

 

 

 殺意を霧散させ、ナイフを肉体に収納させる。

 分かり合えない存在はいない。どんな種族も理性があり知性がある。

 ゆっくりと歩み寄ろうとしたソリュシャンに。

 

 

「えい☆」

 

 

 シズは容赦なく持ち替えた白色の魔銃(メインウェポン)でソリュシャンの頭を吹き飛ばした。

 

 

「ええええええええええ!!?シシズさんッ!!?、うそ!?」

 

「……モーマンタイ。ツアレ落ち着いて。騙されやすいにも程がある。ほらあれ」

 

 

 膝から落ちたソリュシャンの肉体が崩れ不定形の粘液へと変貌する。

 

 

「……本体はそっち」

 

 

 ツアレの影に移動していた暗殺者に魔力が籠められた強化弾をお見舞いする。無論麻痺弾クリティカル。

 ダメージで怯んだソリュシャンに弾丸をばら撒いて牽制し、ツアレの手を引き中距離を維持する。 

 シズはツアレの耳元に顔を寄せ小声で話しかける。息がかかってくすぐったい。あと妙に近い気がする。

 

 

「ツアレぷんぷん。顔で判断しちゃいけないけどドSは絶対に信じちゃ駄目だよ。とくに一目で信じちゃいけない極悪顔は」

 

「……シズさんなんかソリュシャン様と話すときと口調違いません?」

 

「…………ソンナコトナイヨ。あとぷよぷよに様付け不要。所詮四つ揃えて消える存在」

 

「ぷよ?」

 

「……そのままの君でいて。それで、どうする?ツアレは死んでほしくない思ったから二度見逃した。でも、次からは本気で殺しにくる……厳しい」

 

 

 シズlevel46、ソリュシャンlevel57――――――level差11。

 ガンナーなどの遠距離型で構成されているシズと、スライムの特殊技能と合わせた暗殺特化で構成されているソリュシャン。level差はあれど得意分野に持ち込めば勝負はどうなるか分からない。

 事実、不意打ちと予測を超える反撃で二度完全に封殺した。でも、それもここまで。狙撃手として潜伏しながらではなく互いの姿が認識できる戦場では、狙撃手も暗殺者(どちら)も不向きだがツアレの存在と手数の多さからソリュシャンに部がある。

 その上で、シズはツアレに委ねている。

 

"ツアレはどうしたいの?"

 

 

「私は――――――」

 

 

 ただの人間は、最善を絶対に得られない。どこかで失敗する。納得できない。後悔するのが人間。

 だからもう――――――無力を嘆きたくない。

 

 

「ソリュシャンを倒します……そうしなければ地上に上がれないのなら。お願いしますシズさん……一緒に戦ってください!!」

 

「……うん!!まかせんしゃーい」

 

 

 ツアレは知っている。人と異形種は分かり合える。

 level差40以上の数値では語れないフレンドパーティー。ルールの先にある感情が紡いだ友情の炎。そんな二人を人型に復元しながら見つめるスライムは嘘偽りなくその温もりを称えた。

 

 

「うつくしい……すごいわ、なんて言うのかしらこの感情。……そう、例えるなら自分が絶対に手に入らないモノを自分以外の誰かが当然のモノとして胸に宿している……そんな心境ね

 

 

 邪悪あれ。人を、生命を弄べ。

 誰かの苦しむ姿を餌にする捕食型粘体は、信頼し合う絆を前に、"いいものだ"と感傷に浸る。故に――――――

 

 

「二人仲良く溶かしてあげる。美しく、尊いものが醜く歪み絶望する瞬間こそが、私にとっての宝なんですもの」

 

 

 "いいもの"をグジュグジュに溶かし一つとする。

 

 

「私を思うなら、混ざり合いましょ。溶け合って蕩け合って離れられない関係になりましょうね」

 

「……お断りだぜベイビー。ゼリーはゼリーらしくプルプル震えてな」

 

 

 白色の魔銃を構える妹の姿に、キャラが違うだろと笑ってしまう。

 

 

「フフフ、あなたやっぱり変わったわね。まるで――――――」

 

 

 宣告なしの銃撃。スライムでは意味をなさない急所攻撃。それでも人型故に聴覚、視覚は耳と目に依存する。

 最大限に警戒し、来ると分かっていたソリュシャンの左半分が弾け飛ぶ。

 

 

「……むぅしまった」

 

 

 同時に人型は崩れ流動型となり瓦礫、装飾品の隙間へ消える。

 スキル:気配遮断にスライムとしての伸縮性は一度見失うと心底厄介。見渡しがいい九層の豪華な通路も、細々とした城が買えるアイテム(邪魔な障害物)が暗殺者にとっての絶好の狩場となる。

 

 

(プレアデスはlevel差はあれど種族レベル職業レベルの構成で短所と長所をカバーし合うチームになっている。こうも一方的に負かされるのは理屈が合わない。アイテムにより強化。バフ。装備品……全部か。これほどの強化が可能とすれば宝物庫しかない。対シズ戦術があてにならない。最悪なのは世界級アイテムを最深部から拝借してた場合だけど……)

 

 

 退くという選択肢を消しているソリュシャン。否、逃げない。潜伏したまま一度装備を整えに戻ることも可能だが、今のシズはそんなことをすればさっさと地上に行くだろう。

 

 

(仕留めるしかない一撃で。使える手段を全て行使し何もさせず殺す)

 

 

 空間に作用する魔法やアイテムはどうしようもないが、他者と戦いながら連絡がとれる伝言(メッセージ)、周囲一帯の転移魔法を封じる次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)など阻害系が多数を占める。空間そのものを攻撃する反則級の技はあるにはあるが、効果範囲が狭く防御不可能な斬撃と認識すれば回避は容易い。

 

 

(弾丸は物理攻撃に部類されるけど、付属されている力が厄介。魔力弾、 徹甲榴弾、拡散弾、属性弾、状態異常弾、斬裂弾、捕獲用麻酔弾、ペイント弾……弾丸の種類を変更するには必ず弾倉を変えなくてはならないデメリットが存在する。今込められている弾は状態異常弾。弾倉数二十発。残り七発。肉体を複数分裂させ弾切れを引き起こせば……)

 

 

 シズのスペックは把握している。強化されたとしても戦い方(ベース)は変わらない。ソリュシャンは冷え切った回路が静謐に答えを導き出す。

 だが、なんだ――――――この払拭できない違和感は。この当たり前すぎて気にした事もなかった矛盾を指摘された感覚。

 この正体を明確にしなければ致命傷となる。

 スライム形態ソリュシャンは、液体のすべてが耳であり目であり急所でもある。構成上スライム形態は防御力と攻撃力を犠牲に隠匿性、素早さが大幅にアップする。

 

 

(『存在の棄却』は情報収集特化型ではないシズには発見不可能。細く長く張り巡らした私が360度から観察。細かな仕草も見逃さない。隙が生まれた瞬間……)

 

 

 人型形態へ一瞬で変態しその命を刈り取る。

 だからだろう。暗殺者として最も行ってはならない失態。違和感の正体に気付くのが遅すぎた。

 シズの銃口が七度火を吹き、一切の誤射なく隠れていた障害物ごとソリュシャンを焼き払った。

 人型に瞬時に変態したソリュシャンは、隠匿が無意味であると悟る。

 

 

「シイィィィィィィィィズゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウッ!!」

 

「ペイント弾(゚∀゚)キタコレ!!」

 

 

 そう言ってシズは空弾倉をソリュシャンに向け投げた。

 

 

「邪魔だ!!」

 

 

 左手の甲で弾いた空弾倉が衝撃で爆発する。親指と人差し指を除く指が蒸発し消し飛んだ。

 

 

「どうして?て顔してる。難しいことじゃない。銃本体の薬室に一発分仕込んでただけ。弾切れを偽造した。

そう……弾は20発じゃない21発あった!!」

 

 

 どや顔(無表情)を決めて一息で新たな弾倉を挿し込みボルトを前後に動かし弾を発射する準備が整う。魔銃に取り付けられている装飾品(ボルトアクション)をついやってしまうシズ。この動作かっこいいよね。※やる意味はない。

 

 

「麻痺弾……倍ブッシュだ」

 

 

 謎の決め台詞とともにソリュシャンの額へ向けトリガーを引いた。

 これで終わり。弾倉の中身にそれぞれ別の弾を装填されていたルール違反を見抜けなかった頭のお堅い軟体生物の負け――――――

 

 

「………………いたい

 

 

 切り裂かれた(クリティカルダメージ)のはシズの方。人型かスライム形態でしか選べなかったルールを超越し、肉体の一部分のみを流動化させることに成功。それにより、顔を左右に割り、腕を人間の稼働力を上回る動きであり得ない軌道をえがきシズの白い肌を裂いた。左手をナイフに持ち替え応戦するも、接近戦ではやはりソリュシャンに分がありシズだけ生傷が増えていく。互いの攻撃は致命傷にならないギリギリ回避。だが。

 

 

「無駄が多すぎるわよシズ。ロマンもカッコつけも効率の無駄。そもそもロングレンジで仕留めきれなかった貴女が悪いのよ?……ほらまた」

 

 

 ツアレの動脈を狙った伸びた腕が振るう二対のダガーにナイフを割り込ませ弾き返すが、腕の付け根から放出された暗器針が右足の甲を貫通し地面に縫い付けられる。

 

 

「ムムムピーンチ激ヤバメ」

 

「スキル:影縫い。十秒間だけ縫い付けた対象の動きを阻害する。十秒って短いようで長いわよね。十秒もあればシズとツアレの細切れ料理の下ごしらえが整うもの」

 

「お腹壊しそう……止めた方がいいかも」

 

「あら心配してくれるの?でも大丈夫、料理は私が食べたら完成だから」

 

 

 駆け寄ろうとしたツアレの足に伸ばした触椀を絡めさせ転ばせる。

 

 

「――――――あうッ、し、シズさん!!」

 

「だぁ~め。デザート(ツアレ)メイン(シズ)より先に主張してどうするの?バランスのとれたコース料理が台無しですわ」

 

 

 右手首を締め上げ骨が折れる鈍い音がツアレの耳まで響く。魔銃を落としたシズの肉体が、上質の絹のような肌にずぶずぶ沈んでいく。

 

 

「シズさん……シズさんッ!!」

 

「ん。シズと呼ぶことを許可する。出来ればちゃん付けで」

 

「余裕そうねシズ。でも安心して、メインを平らげたらデザートはゆっくり楽しむ方なの。貴女が溶けきる前にはツアレと会わせてあげる」

 

「サービス精神が憎い。大丈夫……ツアレ。自分を信じて」

 

「………あ」

 

 

 伸ばした手は虚空を掴み。

 

 

「ご馳走さま」

 

 

 最後まで諦めない意志が、魔銃を掴んだ。

 

 

「ソリュシャン!!」

 

 

 銃口を上げ引き絞ったトリガーは、虚しくも間に挟み込まれたソリュシャンの小指に邪魔をされた。

 どれだけ力を込めようがその小指一本で魔銃が固定されている。

 

 

「……そんな」

 

 

 これがlevel差。種族としての絶対的格。ツアレの攻撃で傷付くことはあり得ない。厄介なのは手にした文不相応な武器だけ。

 ツアレが構え、標準を合わせ、トリガーを引く。弾が発射されるまでに欠伸をしながらでも回避が間に合う。

 

 

「チャンスを上げるわ」

 

 

 ねっとり絡めとる声が、ツアレの精神を絡めとる。

 

 

「マガジンに装填されている残りの弾は十二発。ショートレンジ戦でシズは二発麻痺弾を私に命中させたわ。この意味が分かるかしら?」

 

 

 頬を伝う汗が舐めとられ皮膚が焼ける。下唇を噛み締め痛みを堪える。

 これは死の恐怖。それも優しい即死ではない。死を容認されない死。愉しく可笑しく遊ばれる痛みの恐怖。

 

 "大丈夫……ツアレ。自分を信じて"

 "愛してる、ツアレ"

 

 

(シズ……セバス。私に踏み出す勇気を)

 

 

 怯える村娘。そんな平凡な言葉がツアレの本質。だが、その人生(すべて)が人間の意思と信念を作り出すなら――――――ツアレは絶対に止まらない。

 そんな矛盾を兼ね備えた、灰色ではない。光と闇の感情を併せ持つ彼女に、ソリュシャンはご馳走を我慢する子供のように己を自制する。

 

 

(我慢。我慢すればするほど、食材とスパイスは極限に美味しくなる)

 

 

 恐怖と焦りをツアレから感じる。そんないとおしい姿を脳裏に刻み込む。この美しく美味しそうな全てが溶け落ちる様を想像しながら。

 

 

「…………あと一つで、麻痺にかかる?」

 

 

 極めて冷静な分析に涎が垂れた。

 

 

「えぇ、ええそうよ。蓄積された毒が効果を及ぼすにはあと一発足りない。でも装填された弾が全部麻痺弾とは限らない」

 

 

 ヒットしたモンスターにマーキングを施す事が出来るペイント弾に不意を突かれた。徹甲榴弾には拭えないダメージを負った。どれも全部シズが使用して初めて意味がある。

 無駄な抵抗をしてくれ。足掻きもがいて希望の花を枯れさせろ。

 

 

「いい?チャンスは十二発。全て撃ち終わるまで私は攻撃しない。でも時間稼ぎなんて興醒めだからチャンスは10分。10分間私は三メートル以上離れないと約束するわ。麻痺の効果があと10分で無効になるから丁度いいでしょ?」

 

 

 固定したトリガーから小指を離した。

 

 

「さあ怯えなくていいのよ。このチャンスを――――――」

 

 

 撃った魔銃の反動で肩に衝撃が走ると同時に、乾いた音が響く。

 小指を離してすぐにトリガーを引き絞り発射された弾は七発。

 実銃より反動が軽減された魔銃でもツアレの筋力、シズの見様見真似の持ち方は銃口がぶれた。

 狙いにくい頭を捨てた発砲七発は胴体へ吸い込まれる。

 

 

「そこまでシズの真似をしなくてもいいのに」

 

「……うそッ」

 

 

 そもそも動く必要がないのだ。銃口の発射方向。トリガーを引く動作。弾の軌道と発射タイミングの事前情報があるのに弾が通過する箇所だけ穴を開けれない理由はない。

 続け様に二発火花が散るが結果は同じ。

 

 

「残り三発。時間はたっぷりと九分あるわよ」

 

 

 ツアレは考える。所詮教養など作物や簡単な料理。メイドのしての作法しか持ち合わせていない。ツアレが思い付く作戦など想定済みだろう。

 なら、(弱者)にしか出来ない奇策でサディストをあっと言わせよう。

 

 

(勝てない……ううん、違うそうじゃない。勝つ必要はない。最優先は生き残ること。自分を信じ貫くこと。だから――――――)

 

 

 全力で前へ駆け出した。そして乾いた音が響く。

 ソリュシャンの足元を狙い着弾した弾丸が爆発し瓦礫のショットガンが炸裂する。

 

 

(爆破弾と斬裂弾。裂かれた地面の角度が偶然にも私に偏っていたから破片の大半が飛んできたけど、細かな粒は当たり所が悪ければ人間は死ぬ。この程度ダメージにならないけど視界が塞がれるわ。もしかしてそれが狙い?)

 

 

 なんと健気で可愛らしい抵抗だ。煙の動きと影が銃口の動きを教えてくれる。

 回避の必要はない。最後の弾丸が発射されると同時に一歩ソリュシャンから距離を積めた。胸の狭間に魔銃を飲み込むと銃口が背中まで飛び出し、弾は明後日の方向へ消えていく。

 

 

「はい全弾はずれ。それは反則よ」

 

 

 手に隠し持っていた弾丸をそのまま手ごとソリュシャンへ沈めようとしていたツアレの手首を優しく受け止めた。

 

 

「――――――くッ!!」

 

 

 いい奇襲だ。ツアレのlevelが30以上ならこれで決まっていた。

 

 

「悪い子ねぇ。でも安心して、貴女の胎児が成長するまで溶けながら生き続けるの。竜と人間の赤子……どんな味なのかしら」

 

 

 絶望しろ。私の中で断末魔を奏でろ。

 

 

「でも罰は必要よね?」

 

 

 没収した弾丸を右手の平へ力任せに埋め込んだ。

 

 

「~~~ッ!!?」

 

「凄いわ。悲鳴も上げないなんて」

 

 

 弾を没収した際確認したが種類は麻痺弾。level差関係なく三発撃ち込まないと効果を発揮しない。

 

 

「涙を流さないで、これから生きるのに無駄な水分を消費するのはいただけないわ」

 

 

捕食型粘体は捕獲に特化している。ツアレは沈む。始まりの混沌は溶解の檻となり獲物を絶対に逃がさない。

 

 

「ご馳走さま」

 

 

 自分にないものを他者で補い。三人の心と体は混ざり合い一つとなる。内部の状況を詳細に知ることが出来るソリュシャンは、もがき苦しむ二人を観察する。全身を溶かされる激痛は、娼婦で味わった暴力の比ではない。心を殺して耐えるなどそんな次元の痛みではないのだ。

 

 

「ありがとう……これで私は私から変われる気がする」

 

 

 三人で生きていこう。最後は動かなくなっても、肉体が死んだだけ。溶けた血潮と魂は永遠の檻に閉じ込められる。人はそれを()()と呼ぶ。

 ナザリック反逆を企てた二人はプレアデスが一人、ソリュシャン・イプシロンが捕食した。

 なら――――――次は?

 

 

「……アインズ様」

 

 

 至高の御方。魔導王。死の支配者。至高の四十一人ナザリック地下大墳墓統治者。アインズ・ウール・ゴウン――――――モモンガ様。

 

 

「あの凛々しいお顔を……絶望に染め上げたい」

 

 

 にったり歪んだ欲望こそが異形種の素顔。ツアレとシズ、極上だからこそ次は至高を。

 

 

「少し消化を速めに。ほらもっと叫びを感じさせて」

 

 

 ああ楽しい。愉快でたまらない。スライムには存在しない絶頂すら感じてしまうほどに私はたぎっている。

 ソリュシャンの中でもがいていたツアレの指が偶然にもシズの指と重なり――――――

 

 

「ああああああああああああああ!!!??」

 

 

 ツアレとシズのダメージ全てが、ソリュシャンに置換された。

 

 

「アガガ、うぇッ!!」

 

 

 あまりの痛みとダメージが、強制的に異物を排出させた。

 そして、致命的な変化。

 

 

「か、体が動かない!?なぜ麻痺状態に――――――ツアレぇ!!」

 

「賭けだったんです……恐いし死ぬかもしれない。抵抗して殺されたらそこで終わり。でも、貴女が条件を提示してくれた。貴女から勝負を持ち掛けてくれた」

 

 

 無傷の二人が、ソリュシャンを睨み返す。

 

 

「シズを「シズちゃん」…………シズちゃんを助けるにはどうしても一度接触する必要がありました。ソリュシャン……私は痛いのは好きじゃないし死にたくもない。でも、絶対に死なないなら大切な人のために痛みは我慢すればいい。私の演技なんて警戒させるだけ、抵抗しなければ怪しまれる。だから、痛いのが嫌だから全力で反撃したんです」

 

 

 矛盾なんてない。普通の人間に、命が助かるなら片腕を犠牲にすればいいなんて最善の選択は出来ない。覚悟を決めても絶対に躊躇するのが普通の人間。

 最善を最善として実行する人は、訓練を受けたか、実戦経験者か、最初から頭のおかしい馬鹿(超人)だけ。

 

 

「麻痺弾は咄嗟でした。シズちゃんがポケットに忍ばせたソレを捨てればよかった。破壊してもよかった。……でも最後まで"ああこの人らしいな"って傷つけて絶望させるのが好きなんだって」

 

 

 その痛みが、麻痺弾の効果を思い出させた。

 世界級アイテム:ヒュギエイアの杯。ツアレと一つとなったセバスからの贈り物――――――効果は等価交換。

 他人の怪我は視認すれば等価交換可能だが、自分の怪我、他人の怪我を他人へ等価交換するには接触する必要がある。状態異常も含めて。

 

 

「貴女は強かった。捕食されて正気を保てるか……でも失敗を積み重ねたのは貴女。捕食したのも、麻痺弾を私に使用したのも。態々二人とも殺さなかったのもソリュシャン・イプシオンの意志」

 

 

 ツアレの指にシズは五指を重ね、魔銃を支える。

 

 

「氷結弾、徹甲榴弾のスライム特攻弾……やっちゃえ」

 

「人間は弱いから……侮っちゃいけないんです!!」

 

 

 ツアレの意志で絞られたトリガー。排出される薬莢。シズに吸収される反動。二十発全てがソリュシャンへ命中した。

 凍らされ氷の塵となり、紅蓮の炎に焼かれる。皮肉なことに溶解させてきた自分が溶かされる現実に、不思議と悔しさはなかった。

 ソリュシャンだって死にたくはない。

 もっともっと人間の苦しむ様を養分にしたい。

 それなのに、一度取り込んだ二人を勿体無いと思ってしまった。

 

 

"あぁ……また、何度でも食べてしまいたい"

 

 

 愛情などない。何処までも捕食者としての欲望。

 ソリュシャンは最後まで、獲物を弄る妄想に耽り――――――溶けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツアレの手で、ソリュシャンは少量の水溜まりを残して溶けてしまう。

 心に覚悟した。自分の意志で恩人の命を奪った。

 level差56を覆した奇跡はツアレを苦しませる。

 

 

「――――――ぁ」

 

 

 膝の力が抜ける。外傷のない肉体は無事でも、精神が疲弊しきっている。英雄との対峙。仲間との別れ。愛する人の死。恩人の殺害。

 どれだけの想いを繋ぎ継ぎ、前へ突き進もうと、ただの少女でしかないツアレの精神はとうに限界を越えている。

 極め付けは想像を絶する溶かされる恐怖。誰であろうと耐えれるパラメーターを超えている。

 否、人間の枠組みならば一人だけ知っているが、あれは例外(英雄)だ。

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 指の長い体格のいい男性に抱きかかえられる。身長差から顔は見れないが、赤ん坊を気遣うかのような優しい想いが何故か伝わってくる。

 彼は危害を加えない。そんな説明がつかない確信がツアレを安心させる。だから状況や周りを観察する余裕が生まれた。キョロキョロ見渡してもシズちゃんがいない。

 

 

「気疲れは後々響きます。どうぞ精神安定のポーションです。飲めますか?」

 

「……はい」

 

 

 瓶を傾け飲ませてくれる気遣いを素直に従い、液体が喉から胃に伝い精神に作用する。

 

 

「……落ち着きましたか。どうですか?一人で立てますか?」

 

「は、はい……もう大丈夫です。あ、あの!シズちゃんは?」

 

 

 正面から男性の顔を確認すると、ツルリと輝く顔にペンで丸く塗りつぶしたような黒い穴が三つ。帽子を深く被った軍服姿はナザリックでも見たことがない。

 

 

「説明が難しいのですが……私がシズで、でも意識はシズだったのです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






おそくなりすいませんでした!!
鎧武とオーズ観て。BO4面白くて。オーバーロード12、13巻読んで。そもそも書き始めが遅かったですね。

星辰伝奏者をスフィアリンカーと変更しました。
めぬさんありがとうございます!!

パンドラのことを詳細に書こうとしたら今日中には終わりそうにはなかったので、詳しい説明は次回します。

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