オーバーロードVS鋼の英雄人 『完結』   作:namaZ

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俳優

 彼の名は、パンドラズ・アクター。宝物殿領域守護者。ナザリックの財政の最高責任者。

 そんなことはどうでもいいと笑いかけてくる彼は、時間が惜しいとばかり指輪を二つ手渡してきた。

 

 

「これは?」

 

「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン……まぁ便利な移動アイテムと思ってください」

 

 

 そう語る彼の表情は帽子の鍔で見えなかった。

 

 

「第ニ階層死蝋玄室に彼女は居ます。その指輪で地上への出入口までひとっとび!!そのままお好きになさってください」

 

 

色々疑問が浮上する。何故助けてくれるのか。何故シズちゃんだったのか。何故彼の立場からしたら裏切り者である私達に優しくするのか。何故何故何故――――――

 

 

「はい。わかりました。何から何まですいません」

 

 

そんな事気にしてたらキリがない。ツアレがナザリックで学んだことの一つ。弱者であるツアレには疑うことと信じることをしか生き残る道はない。それでも直感、根本的な何かが彼は大丈夫と伝わってくる。

 

 

「いえいえ私がしたいからそうするまでのこと!!それとお借りしていた装備も渡しといてください。私より、お友達から返してもらった方が喜ぶでしょうにィ!!」

 

 

ソリュシャンを倒し魂の強度が上がったツアレは、受け取った装備一式の重量は苦ではなかった。

 

 

「あ、これサービスです。きっとお役に立ちましょう」

 

 

…………苦ではない。

 

 

「ん?渋い顔は似合いませんよ。もしやシズと合流して絆ポイントのやり直しを危惧しておいでで?大丈夫です。先までのシズは私ですが、中身はシズだったのですから」

 

 

――――――ですから大丈夫。お行きなさい。

 

心に響く声が、私の知りたい情報なのだと()()()()が出来た。この不思議な現象は嘘偽りない情報を知ることが出来る事象だと()()()()が出来た。

 

 

「暫くは身を隠す……などせず素直に捕まり下さい。脅されていた。二人で逃げてきた。その際この神器級(アイテム)を渡せば極刑はないでしょう。何かしらの厳罰は下るかもしれませんが比較的に軽くなるはずです」

 

 

急かされるようにさぁさぁと指輪を着けるよう促してくる。だが、手荷物が多く一度置かなければならない。

 

 

「私としたことが……指輪を御貸しください。()()()()()()()()()()しょ()()

 

「ぁ……」

 

 

もう無理だと諦めていた。その声も佇まいも優しい手の温もりも、もう触れることは叶わないと過去のものにしていた。なら、これは――――――

 

 

「……セバス、様ッ」

 

「はい。ツアレ……これを受け取ってくれますね?」

 

 

偽物だ――――――わかってる。

本物じゃない――――――わかってる。

演技だ――――――わかってる。

 

わかってる。それでも……少し、ほんの少しだけ……励まして貰うだけ――――――それだけの我が儘。

 

 

「――――――」

 

 

 彼の瞳と見詰め合いながら、指輪がはめられる。

 落としたアイテムが音を立て散らばるも夢心地で左手の小指にはめられた指輪を噛み締める。

 

 

「知っていますかツアレ。左手の小指の指輪には『願いを叶える』という意味も込められています。貴女は……何を願いますか?」

 

 

 彼の顔で、聞き覚えのある声で、懐かしい仕草で、願いを――――――何を()()のか答えを求めてくる。

 地獄を体験した。

 死を覚悟し、愛する人の手を受け入れた。

 新しい友達もできた。

 毎日が楽しく仕事への喜びで心躍らせる。

 そんな日々を。

 

 

「——————」

 

 

 瞼を閉じる。自分の心を一つ一つ確かめながら、確かな願いを自覚する。

 生きる。生き残る。これは願いじゃない。絶対に果たすべき使命。

 なら、ただの人間でしかないツアレの願いは――――――

 

 

()()()()()()()()()様」

 

 

 脆く儚い小さな命に、炎が宿る。

 腹部をさするその手は、誰が相手であろうとツアレの意志を屈服させるのは不可能。

 この願いは、何をするのか、その答えを確かな形として動き出す彼女に――――――敵はいない。

 瞼を開ける。精神安定のポーションの効果もある。しかし空っぽになりかけていた胸に、溢れる勇気の波動を満たすのはツアレの精神。

 

 

「——————」

 

 

 濁りのない真っ直ぐな瞳でもう一度彼を見詰める。

 彼女の中で納得したのだろう。落としてしまったアイテムを拾い上げ、最後にセバス(パンドラ)へナザリック最後のメイドとして最大限の礼儀に則り深々と頭を下げた。 

 

 

「……お世話に、なりましたッ」

 

 

 誰に言ったのか、相手の思いを知ることが出来るパンドラは、転位するその瞬間まで静かに見送った。

 静謐がこだまする中、"バサッ"っと上着を大きくはためかせ、人差し指で帽子の鍔を軽く持ち上げる。

 

 

「やれやれ…………強い人だ」

 

 

 表情の変わらないのっぺらぼうは何も語らない。悟らせない。でも墨で黒く塗りつぶした双眸は、どこか穏やかだった。

 

 

「気遣い無用とはこの事!!ですがまぁ……もう大丈夫でしょう。その道がどの様な終わりを迎えようと、死するその時まで抗い、また悲しみ続ける。それでも、ええ本当にただの少女でしかない彼女はそれでも止まらない。平凡で普遍的な叶わない願いを叶えるその時まで!!傷つき絶望の果て挫けても()()もがき続ける!!誠にィ素晴らしい!!」

 

 

 観客が居ない舞台(ステージ)で、俳優(アクター)は大袈裟な手振りで存在感を主張する。全てのスポットライトを浴びる主役のようにその動作は観るものを惹き付ける。

 

 

「しかし私は常々思うのです。『運命』などない。あるとしたら、『絶対に死んでしまう』というような、そういう真理法則だけ。それを絶対的な軸として考えるべきなのです」

 

 

 しかし確かに運命としか言えないような動きが、この世に働いている。だが、それも絶対ではなく、少しの状況変化で、ずれてしまうものである。

 だとしたら、『運命』などない。あるのは、『運命っぽいふわっとしたもの』だ。つまり、Aの道を選択した人も、後でそれを振り返って『運命の決断だった』と言い、Bの道を選択した人も、後でそれを振り返って『運命の決断だった』と言うだろう。

 

 

「確かに運命などは存在せず、人は、その時その時の決断によって人生を象っていき、後で振り返って、『あれは運命だった』とか、そうやって人生を美化、正当化するものです。しかし!!それでも確かにその時の自分の魂が、そう叫んだ!!という事実や、そうしないと後悔するという強い気持ちがあったことは間違いなく、まるで、目の前に、灯を持った道標が自分の行くべき道を照らして教えてくれるかのような……自分にとっても最もふさわしい場所へと、誘われるかのような、そういう感覚を得ることは、間違いなくあるのです」

 

 

 しかしこの正体は決して『運命』などというものではなく、『経験の積み重ね』と『条件の重なり合い』である可能性が高い。

 

 

「ええ……しかしそれでも、『運命』があるとするならば―――――運命とは最もふさわしい場所へと貴方の魂を運ぶのでしょう」

 

 

 役者は客観的に己を俯瞰する。自分はどうだ?

 ルベドに変身し、偶然恩恵にあやかり星辰伝奏者(スフィアリンカー)の疑似眷属として現状の全てを知ることが出来た。

 シズに変身し、ツアレと共に行動し侵入者もろとも鏖殺計画を企てていたパンドラは、急遽取り止めたのだ。

 デミウルゴス、アルベドに匹敵する頭脳が知ってしまった情報をもとに計画を再構築。最善の最善を導き出された答えをパンドラはまたもや放棄した。 

 ルールが崩壊した現状。抑制されていた感情、渇望、願いを正直に実行する元NPCたちに、見切りをつけたパンドラ。ナザリックを存亡させる二つの選択を『経験の積み重ね』と『条件の重なり合い』から、劇場(ナザリック)の終演を悟る。

なら、確定された終わりをどう終わらせるのかが役者件脚本家の腕の見せ所。

 新調した台本を広げ、パンドラズ・アクターは裏方として舞台から降りた。

 

 

 

 

「……………………なんと」

 

 

 演技を忘れ、勢いよく上げた顔が固まる。見開いた目は天井の越えた先、見えない第八層の惨状を捉えている。起きてしまった予想だにしない事態に、台本が否定されたのだと『運命』を呪った。

 

 

「即興の舞台はあまり好きではないのですがね。ハァーうむうむなるほどなるほど……我々(ナザリック)の運命の日は、皮肉にも私に選べとおっしゃるので」

 

 

 一つ、シズに成り代わり不意打ちで幕引きを。仲間に変身するのもいい。これを破棄。

 一つ、何故こうなったのか原因を知ったからには、最善的に生き残りを連れて逃亡。これを破棄。

 一つ、ならば神となったルベドを主役に裏方に徹する。………………失敗。

 

 星辰伝奏者(スフィアリンカー)として、ルベドに勝てる存在は居ないと知っていた。唯一、生命を脅かす冥王星(ハデス)も、相性(出力差)ルベド(無限)には絶対に及ばないと結論付けた。

 成長速度、学習速度、経験値の即時適応力。歯車としての精密な計算と、人としての柔軟な思考回路。敵の星を上位互換として自分ようにアレンジするに加え、最終的に無限大出力の完全制御。

 更に更に、水星(マーキュリー)の情報伝達能力は次代の神の座まで指が届いた。

 

 至高の御方をユグドラシルを指一本で消し飛ばせるポテンシャル。

 惑星ビッグバンから宇宙創造※皆死ぬ

 それが実現可能な神が――――――敗れた。

 

 

「表面的な情報だけでは語れない複雑に絡み合った現実は、チェス盤を木っ端微塵に粉砕する!!そぉもそぉも!!ルベドに変身してシズに変身したら意識が乗っ取られるとは予想外にもほどかあります!!?ツアレを助けて満足してくれたから良かったものの……まあ星辰伝奏者(スフィアリンカー)の裏技を発見したことですし」

 

 

 セバスに変身した時のパンドラは、演技などではなくセバス本人。正確にはセバスの感情、行動パターン思考回路からこれまでの全てを変身と共に受信する。例え死者であろうとその情報を知る(継ぐ)ことが出来る。パンドラの変身は、ルベドの恩恵により演技を越えた実物へと昇格されている。

 故に、あの瞬間ツアレを思うセバスの心に嘘偽りはなかった。

 

 

「機械仕掛けの神は急ぎすぎた。明確な敵対者を前に、人々を救うことを優先した」

 

 

 未来を重視した。別に過去を蔑ろにしたわけでもない。ただ、星辰滅奏者(スフィアレイザー)を相手に死者(過去)の声を後回しにしただけ。今を生きるものを優先……そんな正しさもまた敗因の一つ。

 

 

「シズのは『条件の重なり合い』から偶発的事故。ルベドと同じ自動人形であるシズはナザリックの誰よりも星辰伝奏者(スフィアリンカー)との繋がりが近い」

 

 

 私のような人を欺く顔無しが、本来なれる星ではない。

 シズに変身し星の赴くままに自分へと引っ張ってしまったのがパンドラ最大のミス。

 

 

「知識の共有化も確認しましたし、よしとしますか」

 

 

 好き勝手に宝物殿を漁られたのは納得しかねますが。

 『運命』に従うなら私の魂は最もふさわしい場所を理解している。なら、その前に寄り道をしなくては。

 

 

「こういう役は私より相応しい方が大勢いるのですが……私しか適任がいませんし――――――是非もないね!!」

 

 

 シズに変身する前。事前に装備とアイテムを揃えておいたパンドラは、課金アイテム、第七位階以上の魔法が籠められたスクロール、全至高の御方のガチ装備の使い処をシミュレーションする。

 最初で最後の主演を演じきるために、顔無しは信じていない『運命』に願う。

 

 

「ギルドは攻撃され、家族は血を流す。喧嘩を売られたら報復するのがナザリックの流儀」

 

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを目の高さまで掲げた。

 

 

 ――――――Das Screening wurde gestartet(上映開始)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック逆攻略RTAを実行中の四人パーティー。

 攻略したばかりの第五層はルベドが穿った中央の穴とは関係なく、一体のゴーレムとの戦闘で廃墟とかした。

 第四階層守護者ガルガンチュア。身長三十メートルを誇る巨体は、個体としての強さだけならルベドに次ぐ二番目。

 特殊能力無し、スキル無し。耐久力と攻撃力だけがずば抜けて高いそのステータスは防御を無視した巨体に任せた攻撃を繰り出してくる。

 単純故に強敵。

 チトセの義眼があれば的として狙い放題。

 ないのなら――――――物理攻撃において搦め手なしの敵なら最強の盾となる問題児(アスラ)を主軸に削り切る。

 

 

「■■■■■■■■■■■――――――!!!! 」

 

 

 生物ではない。岩が擦れる確かな断末魔を響かせ、三十メートルの巨体が土崩瓦解。

 勝者である四人は程度の差はあれ衣類も顔も血と泥で汚れ所々血が滲んでいる。

 相性のいいアスラも体の骨は軋み、あばら骨二本は折れている。

 ガルガンチュアは馬鹿だが間抜けじゃない。意味のない攻撃と解れば、地ならし、地割れ、岩盤ちゃぶ台返しなどなど体躯と腕力、質量にものを言わせた力業でアスラを空中へかち上げた。

 それでも、これだけの傷であの化け物を打倒せしめたのはアスラの力あってこそ。

 

 

「音が消えた?」

 

「決着したようだな彼方さんは。問題はどっちが生き残ったかだ」

 

 

 星辰滅奏者(スフィアレイザー)VS星辰伝奏者(スフィアリンカー)

 詳しい詳細など誰一人知らないがそれは関係ない。どんな力で、どうやってなど、後で好きなだけ聞けばいい。信頼、長年の相手を思うからこそ知りたいよりも先に、直接話を聞きたい欲求が強まる。

 

 

「ゼファーに決まっている。さあ待ってろ愛しの人狼(リュカオン)。今迎えに行くぞッ」

 

 

 ペストーニャの治癒魔法は三人の傷を癒す。

 

 

「治癒魔法とは不思議なものだ。神の血もそうだ。即効性の薬物は何かしらの害を人体に与える。だが、どちらにも『それ』がないと冒険者、他国からもそう報告書に記載してあった。しかしそれは本当なのか?治癒の何たるかを解析できれば人類は――――――」

 

「あ、あの……皆さん行っちゃいますよ?……わん」

 

「おっと失礼した。だがもしも我々の国で働くことがあればいくつか協力してほしいことがあると頭の隅にでも留めておいてくれ。お互い――――――生きていれば」

 

 

 皮肉でも冗談でもなく、そんな言葉を吐く眼鏡にペストーニャは苦笑いするしかなかった。

 アスラに抱えられたペストーニャは引力に引かれ穴へと落ちていく。

 先に穴へ落ちた二人も、静謐しかないナザリックは風の音しか響かせない。

 第七層を過ぎ、第八層の惨状を遠目からでも確認できる距離まで自由落下した四人は、それぞれの手段で減速させ速度を落とす。

 信じていたとはいえ実際目にするとは安心感が違う。

 張りつめていたチトセの殺気が緩む。

 

 

「無茶ばかりする。私より他の女を優先して……ばか」

 

 

 胡座をかいて座り込んでいる男が、此方に気付く。

 一仕事を終えたやつの顔は、私の知る何時ものゼファーだった。

 

 

 

 

 

 

 








今年最後となります。
クリスマスに間に合うよう急いで書き上げたので、読みにくい点、誤字などありましたら報告のほどよろしくお願いします。
正直、書きながら眠い……って状態なので分かりにくい所ありそう(>_<)

それと、なんだかんだツアレがここまで活躍するの初めてかもとか思ってます。作者もビックリなツアレ主人公 の風格。
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