オーバーロードVS鋼の英雄人 『完結』   作:namaZ

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ゼファー・コールレイン

 ゼファー・コールレインは、油断や慢心などの強者の特権などには一片も懐かない。

 自分は何処までいっても塵で屑で人でなしだから。所詮能力を持たない人間より優秀と言うだけの組織に扱き使われる氷山の一角。

 馬鹿真面目に正面から一対一、多数を相手に優雅に、かっこよく勝利を勝ちとるなんて出来ない。

 物語の登場人物のように愛と勇気と友情でどんな逆境も逆転する。そんな英雄譚。

 柄でもないしそんな頭のネジが外れたおかしい連中にはなれない。

 勝算もないのに、愛のため?勇気があれば?友情の絆の力?よくそんな目に見えない不確定要素の塊を信頼して命をかけれるものだ。

 最後まで笑顔でなら勝ち?

 負けたら終わりだろ。

 そもそも役割が違う、力を示せって言う神様や悪魔とか、出来る奴と出来ない奴が居るってこと理解してんのか?

 人類皆に同じ基準値求めて、人間の勇気や底力を見せろとか何様だよ。

 自分は元々世界を一変させられる力を持っていながら、自分より弱い生物に自分のような力を示せってそもそも道理が合わない。

 なら、自分ができたから、弱い昔から強くなったから、だから人に同じ理を説くのか?

 いやいや無理だろ、農家のおっさんとかに愛と勇気と友情で勇者になってくださいとか無理があるだろ。

 心のあり方なら弱者でも強者に勝てるって奴とかいるだろ、そいつは知らないんだな、本当の強者を。

 幸せだろうな、本当の恐怖も強者も弱者も何も知らないまま生きてる奴って。

 自分がどれだけ分不相応な考えで生きてるか知らずに死ねるんだからな。

 

 故に、世界の命運をかけた魔王軍との戦いとかぶっちゃけ嫌だ。何で知らない誰かのために命を懸けて戦う必要がある。どれだけ頑張っても所詮歴史に名を連ねるのは表舞台で勇敢に戦った英雄とその仲間たちだ。

 暗殺しか取り柄のない、人間失格な野郎はそもそも英雄譚にお呼びじゃないんだよ、場違いなんだ。

 故にゼファー・コールレインは常に最悪の最悪を想定している。もしかしたらとかの楽観は、先の卑怯な手の数々で実力を発揮させずに殺した美姫ナーベに相応しいだろ。実力は圧倒的に彼方が上だった。

 そして美姫ナーベの仲間と思われるメイド。あの踏み込みからの右ストレートは避けきれなかった。同じく型にはめなにもさせずに殺さなかったら負けていたのはゼファーの方だ。

 英雄(化け物)のような奇跡や覚醒など起こせない。

 女神(アストレア)のようにどんな環境にも適応できる万能でもない。

 普通に相手の実力が上なら負けるしかないのがゼファー・コールレインという男。

 だから、この結果は予想外で予測不能。

 人の形にまんまと騙された彼の落ち度。

 どれだけ人の形に似た皮を被っていようが、その本質は異形の化け物。

 知るよしもないが、首が元々取れるデュラハンに、全く意味のない攻撃を繰り出してしまったゼファーに、その犯した過ちを罰する"鉄拳制裁"が炸裂する。

 

 

「ガハァッ!!」

 

 

 合わせて迎撃したはずが、まるで露を払ったかのようにするりと抜き手が胸へ刺さった。

 内臓を抉るような一撃はあばら骨を叩き折り、左肺を圧し破壊する。酸素も吐かせ堅実かつ効果的に余力と体力を削り落とす。

 のみならず、当然その程度で済むはずもなく――――――

 

 

「……は?」

 

 

 ゼファーは困惑する。パターンに嵌った自分が嬲られる未来までハッキリ想像出来た。その隙は致命的で取り返しのつかない負けが確定したはずだったのに。

 

 

「心臓を潰すつもりだったのですが……視線がこうもズレると外れますか」

 

 

 そんな戦略的なことなど心底どうでもいいと、切り落としたはずの首を拾い上げ、元の位置に固定する。

 生物として有り得ないその光景は、怒り、悲しみ、喪失感が入り雑じる瞳とは正反対に、それでも化け物なんだと嫌でも訴えかける。

ゼファーがミンチにしたメイドを見る瞳は、正に人間とそう変わらないのに。

 

 

「やめろよ、そう人間らしいとヤりにくいんだよ。人じゃないんだろ?化け物なんだろ?首がとれてくっつく時点で人じゃないのは明確だけど、二人揃って人間臭いんだよ」

 

 

 美姫ナーベも、この首メイドも、人が想像する巨悪の怪物組織とは思えないほど人間らしい。それが決して、人間に向けられる感情ではなかったとしても、仲間や同僚を思う気持ちはコイツらでも一緒なんだ。

なら、余計に――――――

 

 

「中途半端は駄目だ。殺さないと、殺される」

 

 

これは仇討ち、復讐、純粋な殺意による殺し合いだ。戦いを始めればもう止まることのない殺し合いが開始される。

 

 

「そんなの真っ平ごめんだ。俺は生きなきゃいけない」

 

 

 彼方に理由があるように、ゼファーにも理由がある。故に、構ってられるか。肺を潰された状態でまともな戦闘が出来るはずないだろ、常識的に考えて。

 片腕がもがれようが、肺を潰されようが、武器も、四肢を引き裂かれようが、気合いと根性で立ち上がる英雄とは違う。

そんな頭のおかしい思考回路を身に付けた覚えもない。

 

 

「じゃあな、付き合いきれんわ」

 

「逃がすと思っているのッ!!」

 

 

 逃走を図ろうとするゼファーに対し、当然怒りを爆発させるユリの姿に、ゼファーは安心した。

 

 

(ちゃんと怒れて仲間思いなんだな。ああ~そっち側の方が俺も楽できそうだ)

 

 

 何処へだって行ける実力がある。その気になればゼファーは暗殺者としてもっと厚遇してくれる組織があるかもしれない。だけど。

 

 

(んなこと本心から思うわけないだろ。嫌だねー働きたくねえよ。女と酒と金を無料で恵んでくれる人とかいないかなマジで)

 

 

 そんな軽い現実逃避を済ませ、この状況を改善する一手を決める。

 

 

「助けてくれ、露蜂房(ハイブ)」

 

 

 ――――――ふふふ。もう、仕様がないわね。

 

 

 結界はとうに消失している。ならば、この都市を埋め尽くしている機械蜂が半壊状態の建物の隙間から大量に侵入するのは当然の理。その隙にポーションを胃に流し込み、破壊された肺を回復させる。

 

 

「……不器用で姉妹のなかでも天然が凄い子で、誰より優しくて、アインズ様と最も時間を共にした自慢の妹だった。それを……こんな、こんな死にかたッ!!」

 

「うるせー化け物。そりゃおまえらの視点から見た都合のいい妹だろ。ありゃ人に何の興味にも懐かない、塵としか考えない屑だ。けどよ、おまえは違うだろ。お前みたいな奴も居るんだなって俺は安心したよ」

 

 

 それでも、そんな彼女でもあるナザリックに属するすべての下僕に言える共通点。

 

 

「そんなにもアインズは素晴らしいか、一人残らず死ねと命令されればはい、お望みのままにってか」

 

「当たり前よ!」

 

「アインズ以外の優先順位が圧倒的に低いんだなお前ら、見てて吐き気がする」

 

 

ゼファーは薄々気づいてきた。コイツらの共通認識、絶対的なルールが。

 

 

「そこの頭が屑過ぎて破裂した妹の方がアインズ様より大切って宣言するなら、残ってやる」

 

 

 ――――――無論嘘だ。

 

 

 ユリは、五体のすべてを使い機械蜂を駆除する。血が滲むほど拳を握り締め、辛そうな顔で。

 

 

「ナーベラルは大切な妹。僕なんかより大切な姉妹。けど、アインズ様と比べるなど、それこそ死罪ッ」

 

(やっぱ一人残らず頭がおかしいわ。幸せだろうよ、支配者様に仕えるのが何よりの喜びで?言葉ひとつで天にも上るってか?)

 

「テメーらの方が家畜以下だろ。自分の考えでちったあ生きてみろや!!」

 

 

 ああ駄目だ。コイツも終わってる。ましに見えるコイツでさえこれなら、もう、終わってる。

 面倒な、さっさと逃げればいいのにこんな話をする理由。

 

 

「最大脅威で最大の弱点発見。けど、この情報意味あんの」

 

 

 ゼファーにとって有利な状況による余裕。露蜂房(ハイブ)の機械蜂がこの都市の情報を伝える中で、このメイドより強い存在がいない事実。何より、時間さえあれば露蜂房(ハイブ)だけでこの都市すべての敵を倒すことができてしまう事実。

 ならば。この都市に、露蜂房(ハイブ)とゼファーに敵う敵がいないなら――――――

 

 

「なんでありんすかこの虫は、邪魔よ」

 

 

 そいつが突き出したランスの衝撃だけで、一画の機械蜂が消し飛んだ。

 

 

「これはどのような場面でありんすか?」

 

 

 そいつが引き連れてきた異形の軍勢が、機械蜂を焼き払う。露蜂房(ハイブ)の蜂の一機一機は大した攻撃力を持っていないが、膨大な数の暴威がそれを補う。その数は兆を超える機械蜂群の軍勢。数え切れない量の究極。その内の十や百が減ったところで総体は揺るがない。蟲の群れは本能的におぞましく、相手にすれば戦意を保つことも難しい。痛みも快感に変える露蜂房(ハイブ)の毒は、蓄積されるごとに筋肉は重く弛緩し、中枢神経は痙攣する。針が刺さる存在ならば、アンデッドだろうが魂を汚染する。

 故に、針が刺さらず元々骨しかないスケルトンが露蜂房(ハイブ)の天敵。

 

 

 ――――――まあ、それ以前に。

 

 

「この間抜け面を殺せば、この虫は消える?」

 

 

 ――――――こんな化け物、どうしろってんだ。

 

 

 深紅の鎧のフルプレートに身の丈以上のランス。精気を感じさせない白い肌と、小さな唇から覗かせる牙が、彼女が吸血鬼だと物語る。

 恐怖で身体が震える。この吸血鬼は、彼の人生で最も強い強者。

 誰も勝てない。万能も英雄もコイツに劣る。

 そんな化け物と、ゼファーとほぼ互角の眼鏡メイドと異形の怪物たち。

 

 

「いっそ、気絶でもしちまえばな……」

 

 

 呟いてみれば、なんて魅力な選択だろう。気を失ったまま殺してくれれば眠るようにこの世をおさらば出来る。もっともその場合、蘇生され拷問ぐらいされるだろう。否、彼が捕まればローブル聖王国の関与がばれてしまう。

 それだけは――――――

 

 

「死ね」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 唯振りかぶっただけのランスの横薙ぎは、ゼファーの左腕を肩から先を完全破壊し、衝撃だけで左半身すべてに深刻なダメージを刻み込む。なすすべもなく吹き飛ばされた身体は、壁を貫通し、粉々になった瓦礫が体を塵屑のようにミンチにしながらようやく止まった。

 

 

「……はっ?」

 

 

余りの呆気なさに、吸血鬼――――――シャルティアは困惑するが、一刻も早くアインズ様の命令を遂行しなければならない。

 

 

「ウルベルト様、アイテムを使わせていただきます」

 

 

 ウルベルト・アレイン・オードルが製作したアイテム。第十位階魔法最終戦争・悪(アーマゲドン・イビル)を六重で発動できる魔像を発動した。

 召喚された一万体の悪魔。大地を、空を多い尽くす悪魔たちは正に人類の存亡をかけた最終戦争。

 

 

「四千の悪魔はスレイン法国、残り六千の悪魔はアーグランド評議国へ行くでありんす。最後に――――――恐怖公」

 

「御呼びで」

 

 

 恐怖公の概観は体高30cmほどの直立したゴキブリ、ただし顔面は正面を向いている。身に付けている衣装は貴族を思わせる。

 

 

「邪魔な虫を消し次第、眷属を無限召喚しそれぞれの都市に放て」

 

「承った。いやまさか我輩が外に出れるとは夢にもおもわかなった。――――――眷属召喚」

 

 

 恐怖公を中心に、最大体長1mから手のひらサイズまでの様々なゴキブリが無限召喚される。

 

 

「さてと、ユリ。もう殺したでありんすか?」

 

 

 シャルティアがユリに視線を向けると、ゼファーの四肢を砕き、捻り、肉達磨と化したそれ(汚物)を見下ろしていた。

 

 

「……申し訳ありませんシャルティア様。今、終わらせますので」

 

 

 ゼファーが生きているのは、ユリが殺さないように痛め付けたから。その身体は、もって五分で命を落とす。だが、そんな時間を待つ気はない。

 

 

「ナーベラル、貴女の仇は討ちましたよ」

 

 

 その拳がゼファーの頭をザクロに変える。死は免れない。英雄譚もこの男には何の意味もない。

 そう――――――逆襲劇を。

 この状況を打開する逆襲劇を。

 

 

「死ね」

 

 

 そんな都合のいい逆襲劇など起こらない。

 故に、ゼファーは終わる。

 そんな気力も力ももうないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の恋敵(しんゆう)に、何してくれてんのさ」

 

 

 弱虫で臆病な錬金術師(アルケミスト)が、親友を助けるべく、立ち塞がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“Das beste Schwert, das je ich geschweisst(ああ、苦しい。なんと無駄な徒労であろうか),

 nie taugt es je zu der einzigen Tat!(心血注ぎ、命を懸けた、我が最高の剣さえ) ”

“Ja denn! Ich hab' ihn erschlagen!(竜を討つには至らぬのか)”

“Ihr Mannen, richtet mein Recht!(然り! これぞ英雄の死骸である!)”

“Ihr Mannen, richtet mein Recht!(傍観者よ、我が栄光を認めるがいい!)”

“Her den Ring!(宝を寄こせ!)” “Her den Ring!(すべてを寄こせ!)”」

 

 

 悪名高き傭兵団強欲竜団(ファブニル)頭領、ファヴニル・ダインスレイフ。

 まるでオペラの指揮者であるかのように、勢いよく両腕を左右に広げた。喜悦に犬歯を剥き出しにしながら、舌なめずりする竜の様にこれからの戦いを歓迎している。

 視線に映っているのはあくまで自分の興味だけ。大欲漲る悪意の竜は、敵の到来に想いを馳せる。

 

 

「審判者(ラダマンテュス)と女神(アストレア)から勅命の依頼。最初は疑ったぜ、鋼の英雄(ジークフリート)と敵対する俺に何の用かってな」

 

『彼らとは仲が悪いのかい?』

 

「天敵(しんゆう)だ」

 

『何だそりゃ、とてもそうとは思えないね』

 

「いいかツアー。俺の信念は"自らこそ英雄に討たれた邪竜であり、同時にいずれ英雄を滅ぼす魔剣である"だ。そう、英雄が魔剣(俺)を生み出した。邪竜(俺)を討ち取り奴はこの世に生まれたのだからッ」

 

 

 その存在理由はクリストファー・ヴァルゼライドを害することであり、そこにすべてを懸けている戦闘集団。

 十年前、滅亡剣(ダインスレイフ)として悪名を轟かせる強欲竜団(ファヴニル)の長は、ローブル聖王国に属する一介の兵士に過ぎなかった。

 あの頃のローブル聖王国は腐っていた。腐敗と賄賂がものをいう貴族社会、国民より己を優先する輩が国を運営していた。そんな貴族の下っ端として働けば、普通の兵士より金が入った。破滅と腐敗をもたらす貴族に彼が属していた理由は、ただ楽に生きたいという欲望、それだけに終始する。

 別に、貧しい家に生まれたわけではない。

 犯罪に手を染めなければいけないほど、生活に切羽詰まっていたわけでもない。

 真面目に努力して働けばそれなりの幸せを得られる境遇だったが、だからこそ簡単に生きられる道がありながら、どうして態々苦労するやり方を選ぶのかが彼には皆目分からなかった。

 例え、その楽な道が他人の人生を踏みにじることで舗装されたものであろうと。簡単なら、気楽なら、それで万事構わない。重要なのは己の利得。嗚呼だって人間そんなもんだろ?

 実際、貴族はとても偉大だった。国そのものが腐っているのだ、上の連中は甘い蜜を吸うのに躊躇などしない。合法的な仕事で汗水垂らして労働するより、よほど良い分け前を貰えるのだから。とはいえ、その収入は犯した悪事の重さに比べれば笑えるほどに少ない雀の涙。もっと欲しいと思ったことは当然一度や二度じゃないが――――――だからといって、のし上がるつもりはない。

 地位や立場が上がれば、危険や責任も増えてくる。自分はただ、巨悪の傘下で甘い蜜を吸えれば結構。危ない橋を渡るなど真っ平御免だから、そこそこの生き方で適度に堕落し、我慢していた。

 そう、要するに彼は何処にでもいる小悪党だったのだ。

 真面目に生きる気のない一山いくらの愚か者。

 根性も、信念も、意思も何もかも欠けたくだらない存在であり、大きな獣が仕留めた食い残しの屍肉にたかるハエの一匹に過ぎなかった。

 全体重をかけて、全存在をかけて、全身全霊をかけて物事に当たる気概がない。そして、それを恥じることさえない人間だ。

 だってそうだろう。真面目に理想や野望を掲げて努力して、必死になるなんて馬鹿のすることではないか。そもそも、努力が報われる保証がいったいこの世の何処にある?

 意志の力で何とかなるなど所詮は夢物語。努力せず、真面目に生きず、ただひたすらに楽を得るのが賢いやり方。つまり自分は勝ち組であるという確信があるだけに、改善の芽は何処にもない。よって心も怠惰になるのは当然であり、自業自得で損をしても自分より下っ端の人間に当たり散らすのが日常になっていく。

 他人の成功にはすぐさま飛びつき分け前を強奪しながら、自分の失敗は別の誰かに押し付けてやり過ごすという――――――その繰り返し。

 そんな半端な人間が何かを成し遂げられるはずもないが、それでも彼が疑いなく幸せだったのは皮肉にも間違いなかった。

 小物ゆえの謙虚さすら無くし始めた男は、使い潰されるのが決定された。言ってしまえばよくある話に、大したドラマは微塵もない。

 

 破滅への秒読みが始まったその瞬間――――――彼に転機が訪れた。

 

 国民を食い物にしていた貴族を、断罪の刃が蹂躙した。

 他の兵士がまとめて斬殺された際、その刃に巻き込まれて傷を受けただけ。命を取り留めた理屈はそれだけのことである。

 そして――――――ああ、それで。

 出血で定かでない意識の中、彼は光へと目を奪われる。

 放たれた戦力はたった単騎(一人)。

 悪を裁く浄滅の祈りに敵無し。

 なんて、圧倒的な英雄譚(サーガ)。

 生まれて初めて目にした本物の光から目を離すことなどできやしない。

 その瞬間から、彼の脳は覚醒した。

 何処までも本気で怒っているのだ。何処までも本気で挑んでいるのだ。こうしている今でさえ、勝利(まえ)へ、勝利(まえ)へとがむしゃらに、何処までも馬鹿正直に限界を超え続けていた。

 全体重をかけて、全存在をかけて、全身全霊をかけて。

 常人を遥かに凌駕する意志の力を滾らせている。絵物語じみた粉砕の意志に身震いが止まらない。

 だからこそ、羞恥の情が猛烈に襲い掛かる。

 自分はああまで真剣に生きたことが一度でもあったか?

 何でもいい、あそこまで本気を出し何かを成し遂げようとしたことがあっただろうか?

 

 

 ――――――いいや、ない。

 

 

 そんな事実に、小悪党の魂は強烈な衝撃で揺さぶられた。昨日までの自分自身に燃える怒りが止まらない。

 努力が報われるという保証がない?

 意志の力で何とかなるなど夢物語?

 なんて馬鹿げた勘違いだ。目の前にこれ以上ないほどの実例が、こうして存在しているじゃないか。

 人間は不断の努力で、これほどまでに限界を越えられる。

 人類は意志の力で、何処までも不可能を可能にする。

 その間違いに気付いたから、腹の底から奮起した。もはや怠けるつもりはない。

 

 

 ――――――あの人みたいに、奴みたいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあそうだろ我が麗しの英雄(ジークフリート)よ。俺はそこまで追い付いて見せる。戦争という混乱状態だからこそ、俺の願いは成就する」

 

『ま、約束は守るよ。君たちのお陰で悪神(ぷれいやー)の存在を感知し、先手を打てる。好きにやってくれ』

 

「もとからそのつもりよ。けどよ邪竜(ファヴニル)が、人々を苦しめる悪と戦うとかどうなんだろうな?俺はいつから英雄(ジークフリート)に鞍替えしたんだあ!?」

 

 

心底楽しそうに爆笑する男に、ツアーは諦めのため息をつく。

 

 

『気づいてると思うけど、アレ全部敵だよ』

 

 

遥か先の地平線を埋め尽くす黒い影。そのすべてがアインズ・ウール・ゴウンの無限ポップするアンデッドと召喚された悪魔とゴキブリの軍勢。

 

 

『僕は君の中で見ることしか出来ないけど、頑張ってくれ』

 

「もとからそういう契約だ。文句なんてねぇさ。万里一空意匠惨憺孤軍奮闘流汗滂沱勇往邁進懸頭刺股慎始敬終獅子奮迅一意奮闘刻苦勉励奮闘努力奮励努力ッ!!さあさあ来いやァァァアアアアアアアア!!」

 

 

全体重をかけて、全存在をかけて、全身全霊をかけて。

 

 

『この状況を一人で切り抜けられると本気で思ってるのかい?死ぬよ』

 

「その時はその時だよなァッ!やれば出来るさ何事も!時にはわざとバカやらかすのも一興だろうぜ、クァハハハヒヒヒヒ!恐れず進め、道は拓くさ。勇気と気力と夢さえあれば大概なんとかなるものだ!そうだろう、我が麗しの英雄(ジークフリート)ォォォォオオオオオオ――――――!」

 

 

気合と根性によって数々の不可能を成し遂げた実例を見て、その背中に焦がれ続けた男は、彼が真実本気で怒り、討たんとするに相応しい敵になるのだ。

 

 

「前哨戦だァ!英雄譚(サーガ)は俺を求めているッ!!」

 

 

挑戦者(ひかり)が、本気でその足を走らせた。

 

 

 

 




やっぱり心情とか感情を表現するの難しいですね。
それはそうと、正直前回の話は批判覚悟でかいたのに誰も感想欄に批判書かないじゃないか!!アンチヘイトを書けば批判がくるもんじゃないのかよ!?ちょっと批判が楽しみにしている自分がいるんですよ(光の亡者(関係ない?

そして、邪竜おじさん。
結局こうなりました\(^o^)/
いやー、絶対意見通りするとは言っていない(震え声
これからはバトルフェイズ、書きやすくて執筆が早く進みそうです!

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