ウェイバーは瓦礫の山に立っていた。辺りには焦げ臭く嫌な臭いが漂い周りを見渡せば瓦礫はここだけではなく遠く彼方まで至るところで山となり、所々で火災のような煙も上がっていた。
(ここはどこだ? 僕はどうしてここに……)
ウェイバーは誰か人はいないか声を上げたが返ってくるのは乾いた風の音のみだった。目の前の崩れかけたビルの上には焼け焦げ煤けた日本国旗が力なくたなびいている。
(ここは日本なのか? だけどこんなまるで中東かどこかの扮装地帯のような場所が現代の日本にあるわけがない。それこそ大昔の世界大戦でもない限りは……)
大きな風が吹いた。国旗は吹き飛びビルは嫌な悲鳴を上げ軋みコンクリートが節々で崩れ落ちてきた。不安になりとにかくここから離れるため足を踏み出した時になにかに躓き転んでしまう。瓦礫かなにかと思ったがそれにしては嫌に弾力があった。見ればそれは黒く焼け焦げた人のような物体だった。
「うっ……うわっ!」
悲鳴を上げてウェイバーは慌てて飛び退く。だが飛びのいた先にも死体がありウェイバーは吐き気を感じた。よく見れば周りは様々な死体が山ほど転がっていたのだ。焼け爛れた死体、欠損した死体、ガリガリに痩せ細った死体、それらの死体は老若男女問わず瓦礫と同じくらいゴロゴロと散乱している。そしてそれらにカラスやネズミや虫達が群がり食い荒らしている。そこに死者の尊厳など無くただひたすら残酷に自然の摂理が罷り通っている。ウェイバーは自分が地獄にいるのではないのかと思った。耐えきれずパニックになりその場から走り出すがどこまでいっても瓦礫と死体の山が積み上げられていた。辛うじて女性と分かる死体や子供の死体が目に入り、ウェイバーはもうこれ以上この狂気の世界を直視できず天を見上げた。
空は青く美しかった。
「うわあぁ!」
悪夢から覚めたウェイバーは勢いよく跳ね起きた。
(なんだったんだ今の夢は……夢にしてはやけにリアルだったけど……)
「やっと起きたか小僧。」
ウェイバーが振り向くとそこにはかなり不機嫌そうな顔をした老人が立っていた。ウェイバーはそこで自分が気絶する前のことを、目の前の老人がその原因だということも思い出した。
「な!? お前! さっきはよくも僕を打ったなぁ!」
「知るか! 礼儀のなっとらん貴様が悪いわ」
ウェイバーは頭を抱えた。
(最悪だ……この傍若無人な老人が僕のサーヴァントなんて……いくら令呪あるとはいえ本当にやっていけるのか? いや、慌てるな。まずは状況整理だ)
「え、えーと。さっきの非礼は謝るよ。改めて僕の名前は……」
「それは先ほど聴いた。次」
ウェイバーは驚いた。こんな滅茶苦茶な振舞いっぷりなのに聴くところは聴いているのかと。
「な、ならひとまず契約をしよう。サーヴァントとマスターの……」
そう提案すると老人は心底嫌そうに顔を歪めた。
「ふん! いいか小僧。確かに貴様はわしのマスターだがくれぐれも勘違いするなよ。お主がわしの上に立つことはない。今も昔もこれからもだ!!」
ウェイバーは返答に困った。つまり老人はマスターとサーヴァントの関係は認めるがウェイバーに従う気はないと言っているのだ。
(どうする。令呪を使うか? いやいや、貴重な令呪だ。それは短絡的すぎる考えだ)
「わかった。おま……貴方の意思は尊重するよ」
「まあよい。ところで小僧。いくつか聞きたいことがある」
そこで老人はウェイバーに今は西暦何年なのか、ここはどこなのかを聴いた。
「なるほど。あれからそんなに時間はたっとらんのか……ならあやつもどこかに……」
ウェイバーはただ黙って見ていることしかできない。そもそもこの老人は誰なのか? 身に付けている衣服は西洋風の洋服であり素人目にも高級品だと分かる。恐らくそれなりの身分と財力を持っていたと推測できる。見た目は老人だが全身から大物然としたオーラを放ちまるでマフィア映画や日本のサムライムービーに登場する悪の黒幕のような印象だ。明らかにマッケンジー夫妻のような老人とは掛け離れている。
「おい小僧。そう言えばお主の望みはなんじゃ?」
「小僧小僧言うな!」
「あ?」
「あ、いや、言わないで下さい……」
既に上下関係が逆転した状況で老人から問われたならば答えなければならない。
「ぼ、僕の望みはこの聖杯戦争を勝ち抜くことだ。そして僕を馬鹿にした奴等を見返して最悪な人生を逆転させる。」
(そう、これが僕の決意。例え殺されてもやり抜くと決めたこと。後戻りは出来ない)
「それだけ? それだけなの??」
老人は拍子抜けしたように呟き、ウェイバーに語気を荒げて語る。
「もっとあるじゃろ! この戦争がそう何度もない機会なのはお主もわかっておるじゃろ! 恐らく貴様の人生で一回か二回有るか無いかの大チャンス! しかもせっかくこのわしを喚んでもう勝利確定のこの布陣で望む願いが馬鹿共にチヤホヤされたいだけなのか!?」
「い、良いじゃないか!どうせ貴方に僕の気持ちなんて分かるわけないだろうけど、僕にとっては命懸けなんだよ!!」
「カッ! 小さい小さい小さい小さい!! まあわしを喚んだのだ。クズではないのは確かじゃが、それにしちゃ随分矮小な望みじゃのう。世界征服ぐらい望んでもバチは当たらんぞっ」
「そんなの望んでないよ。僕はただ……」
「あ~いいいい、凡人はすぐ当たり前のことをいう。それだからいつまでたっても変われんのだ。」
「うっ……」
老人の言葉は無茶苦茶だがウェイバーの胸に突き刺さる。凡人と言われたことを否定したかったがウェイバーにそれを否定するだけのものがないことが悔しかった。
「だ、だからを貴方を召還したんだ! 僕は勝って証明したいんだ!」
ウェイバーは自分が情けなかった。この老人がどんなサーヴァントなのかは分からないがウェイバーより優れた存在なのは嫌でも分かる。ウェイバーは思う、老人は想像も及ばない壮絶な人生を歩んだから英霊として存在しているのだろう。彼にしてみればウェイバーの願いなんて取るに足らない小さなことのはずだ。
「勝つ? そりゃその通りじゃ。勝って初めて己の優位が決まる」
ウェイバーは意外だった。まさかこの老人がウェイバーに対して肯定的な意見を言うとは思っていなかった。ウェイバーはてっきりこの老人は人を人とも思わない独裁者のような英霊だと思っていたが案外まともかもしれないと認識を改めた。
「さて、まずは暫くの間のねぐらじゃ。おい小僧、貴様わしを迎える準備はしているだろうな?」
「え? いやあの……」
ウェイバーは正直困った。この冬木での拠点は確保しているがあくまでも暗示を駆使した居候であり戦争をする為の拠点ではない。それに暗示も未熟でボロが出ては暗示を掛け直している現状だ。そこにこの異様な老人が現れたらどう取り繕えばいいやらいいのか分からない。
そのことを伝えると……
「わしに霊体化してコソコソ隠れろと言いたいのか……!」
案の定な返答だった
「仕方ないんだ。僕が居候している家にはこの戦争とは関係のない人達が住んでいるんだ。あの人達をこれ以上巻き込めない……っ」
「知るか! そんなこと! わしは行くぞ。逃げも隠れもせずに堂々と正面玄関から家主に了解を取って見せる!!」
「えぇぇ!?ちょっと待てよ~!」
それから二人は強引にマッケンジー夫妻宅に連れられ玄関から帰宅した。もちろん霊体化もせず老人はマッケンジー夫妻と対面しウェイバーはもう一度暗示をかけ直さなければと覚悟したが驚いたことに老人は言葉巧みに夫妻と打ち解け暫くここに住まわせてもらうことを了解させた。
「どうやったんだ?」
部屋に上がるとウェイバーは老人に夫妻の説得方法を聞いた。マッケンジー夫妻は良い人達だが馬鹿ではない。
「話をしただけじゃ。これくらいの交渉も満足に出来なければ王にはなれんぞ。わしはあやつらとここにいる間同年代の気の合うお話し相手に成ったのだ。くだらん」
と、何だか分かるようで分からない答えが返ってきた。
そしてウェイバーは今更ながら老人の真名もステータスの確認もしていないことに気付いた。
「あの、そろそろ貴方の真名とかクラスを教えて欲しいんだけど……」
「真名? クラス? ああそういえばそんな決まり事があったな……そも名を隠し合うなどくだらんわ!盗人でもあるまいし、このバーサーカー、鷲巣巌の名を知られて困ることなどわしにあるかっ!」
(なるほど鷲巣巌か……鷲巣巌? 全然聞いたことがない……)
「て、バーサーカー!?」
「なんじゃ人を指差して無礼なやつめ、わしがバーサーカーで悪いか」
「いやだってバーサーカーだろ!狂戦士!制御不能の暴力の英霊!」
「それがどうした。わしはバーサーカーだが鷲巣巌に変わりはない。それで十分じゃろ。」
ウェイバーはまたも頭を抱えた。
(バーサーカー。通りで無茶苦茶で暴力的で魔力の消費も激しい訳だ。名前からしてこの極東出自の英霊だが僕にはさっぱり覚えがない。日本の歴史に詳しくはないがこちらでは有名な英霊なのだろうか?)
気を取り直してウェイバーはステータスを恐る恐る確認する。
(頼む! ヘラクレスやクー・フーリンクラスなんてはなから望んでないけどせめて戦えるステータスであってくれ……!)
鷲巣巌 混沌・悪 バーサーカー
「勝手に覗くな!」
「あべっ!?」
突然ウェイバーはいつの間にか鷲巣が取り出した杖で脳天を叩かれた。
「おい小僧! 何度も言わせるな!わしに対する無礼は許さんぞっ!」
「う、うぅぅなにも叩かなくたっていいじゃないかぁっ」
「か~~~! 甘い! 甘すぎる! だからお前は舐められるんだ!」
「それは関係ないだろ!」
「あ!?」
「いえっ……あるかもです……」
(これじゃどっちがマスターでサーヴァントなのか分かったものじゃない……僕、マスターなのに……)
ウェイバーはまたも、泣いた。
「男がメソメソ泣くな!」
死後の世界が在ろうが無かろうがわしにはどうでもよかった。
わしはどこに行こうとも王だからだ。人間共の位などとっくの昔に頂点に立っておった。神仏も魑魅魍魎の輩共も少し時間はかかったがわしの下に屈した。
王
わしが王なのだ。それこそが理なのだ。今までもこれからもずっとそうであるのだ。
あの男に出会うまでは………
人生最大の屈辱。あの屈辱は生涯忘れないっ!! 決してっ……!!
英霊、聖杯……知るかそんなもん。だがあやつとまた再戦が出来るなら何でもよいっ! 他の英霊どもなんぞ所詮馬鹿かツキに見放された運無しの輩共じゃ。ならわしが勝つしかないではないか。さあ! わしの準備は出来ておる! 早くわしを召喚しろ! マスター共!
「………………………………………………」
「……………………………………永いわっ!」
「おい!如何なっておる! 全く呼ばれんぞっ! いつまで待てばよいのじゃ! わしじゃぞ! この鷲巣巌がサー何とかになって力を貸してやろうというのになぜ誰もわしを呼ばんのだ!」
「ウぐぐぐぐっ‥クソっ!だいたい‥なんだこの世界は! 座という物らしいが一面、瓦礫……! 死体……! 辛気臭すぎるわ! 共生や! わしの屋敷でよいじゃろう~~~!」
「岡本! 山田! 田中! 酒井! 鈴木~~! 出てこい! わしはここじゃ~~~!」
しかし当然鷲巣は依然独り。生前彼に仕えた者達の姿は影も形もない。
「……だんだん……腹が立ってきた。そもそもなんでここでまたにゃならんのだ。言うなれば座というのは選手の控室兼家じゃろう?ならもっと待遇を良くすべきはずじゃ。屋敷や執事やワインやステーキやその他娯楽類当然完備すべきはずじゃ‥っ!」
鷲巣は沸々と怒りが込み上げる。
「出てこい!わしをこんなところに押し込めた不届き者め!許さんぞ!」
しかし無情にも返ってくるのは風の音ばかり。返答も反応もなにもない。
鷲巣はもう我慢の限界だった。
「ぬう。いつ来るか分からんお呼びなどもう待ってられんわ! こうなったら自分から現世に行ってやる。」
どこかに出口は無いものかとあたりをキョロキョロと見渡す鷲巣。
「しかし閉じ込められたことは何度もあるがこんな閉じ込められ方は初めてじゃ……脱出方法が分から……なんじゃ?」
その時鷲巣は気づいた。誰かが何かを呼ぶ声に。
「なんじゃこの声は……? わしを呼んでいるのか?」
声は更に大きくなる。鷲巣は体が声の方向に引かれる感覚を覚える。
「おおお! 遂に来たか! 召喚! わしを召喚する者が現れたか……っ!! まったく待たせおってからに!まあ良い、長いこと待ったがこれとは比べ物にならぬほどわしは待ったことがあるからの~~~!」
座から離れ、声の元に行く鷲巣。しかしここで思いもかけず鷲巣、ブレーキ。
「な、なんじゃ!? なぜ止まる? どうゆうことじゃ!…ん?」
見ると鷲巣の周りには鷲巣同様声の元に引かれる存在が無数にうごめいていたっ!!
悪霊、物の怪、亡霊、英霊、神霊までもその大小に関わらず声の元に我先にと集う烏合の衆。
「おい! 待てっ…そこに行くのはわしじゃ! 散れ!有象無象共!!」
(冗談じゃない。ここまで来て折角舞い降りたチャンスを不意にできるか!!)
しかし亡霊達も負けずに鷲巣を蹴落とそうとする。彼らもチャンスを掴みたいのだ。
「お前らなんか死ね! もう一回死ね! わしの邪魔をするな!」
間隙を縫い亡霊の一体が先んじる。
(不味い! このままではっ!)
鷲巣は駆ける…!声の元へと。誰よりも早く‥誰をも押し退けて駆けずる…
遂に亡霊に追い付く鷲巣。そして……パンチ……ッッ!
「ヤメローシニタクナーイ!」
「退け!!」
鷲巣は亡霊を押し退け声の元にたどり着く。
「待っておれ! わしが行く! 誰かは知らんがお前が召喚するのはこのわしじゃ~~~!!」
「大丈夫かこいつ?」
わしの目の前にはわしに吹っ飛ばされて気を失ったガキがのびておる。こんな明らかにひ弱くて人生舐めくさったガキがわしのマスターなど考えたくもない・・・ないが・・仕方ない。
「ん?これは…」
わしは自分の立っている場所に描かれている魔方陣を見る。血じゃ。血で描かれておる。小僧の近くには鳥が死んでいる。不愉快だ・・・わしが鳥風情の血で召喚などど・・・
ふと小僧の方を見る。腕に真新しい手当てをした跡があった。
「ん~~?こいつまさか自分の血で……」
それを証明するように魔方陣の中央から小僧の魔力を強く感じた。
「ククククッ、なんじゃ、クズかと思っとったがこいつ中々狂っておる……」
前言撤回じゃ、見どころはある。ほんの少しじゃがな。
現在の鷲巣はワシズではありません。75歳児です。
それとランスロさんはクビです。すまない、本当にすまない