鷲巣/閻魔の聖杯戦争   作:Fabulous

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鷲巣埠頭

(アサシンが殺られた!?)

 

使い魔越しに見た光景にウェイバーは驚いた。聖杯戦争が開幕してまだ間もないというのに既に七騎の一角であるアサシンが金色のサーヴァントに文字通り瞬殺されたのだ。

マスター殺しを主とするアサシンが早々に敗退したのはウェイバーにとって喜ばしいことだがそれよりも金色のサーヴァントは正体についての方が気になっていた。あのサーヴァントの背後から射出された武器の正体も皆目見当がつかなかった。

 

「どうした小僧。何かあったのか?」

 

鷲巣が語り掛ける。

 

「今、使い魔からアサシンが殺られたのを確認したんだよ」

「それはなによりじゃ。労せずして邪魔者が減るのはこちらとしても好都合というもの」

「それはそうだけど……でもアサシンを倒したサーヴァントが異常なんだよ!」

「異常?」

「そのサーヴァント……アサシンをあっという間に倒したんだ。ほんと……あっという間に」

「実力差があったのではないか? アサシンがよわっちいか倒した方が強かったのじゃろう」

 

鷲巣の考えはある種の当たっていた。アサシンは他の六騎と比べればキャスターに続いてサーヴァント同士の戦闘に向いていないとされる存在だ。アサシンがやられたこと事態はそれほど意外ではない。だがウェイバーが使い魔越しにみたあの金色のサーヴァントは別。ウェイバーさ言い知れない不安を感じている。まるで触れてはならない存在だとウェイバーの体が警告しているように。

 

「でもそいつ、沢山の武器を使ってアサシンをあっという間に倒したんだぞ」

「それがどうした。持ってる武器が多いに越したことはないがそれだけ自信がないと言うことじゃ。人間真に頼れるのは己の肉体じゃ」

 

(駄目だ……この老人は恐れるとか不安がるとか全く考えていない。本当に分かってるのかなぁ? これは戦争なんだけどなぁ)

 

「さてそろそろ行くかの」

「へ?」

 

鷲巣は突如そう言い放ち立ち上がる。

 

「ま、待ってくれ。いったいどこに?」

 

ウェイバーが問えば鷲巣は振り返り邪悪な笑みを浮かべて答える。

 

「決まっておろう……わしに弓引く不届き者共がどんな奴等なのか見物に行くのじゃ……!」

「ええええ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「カカカッ、サーヴァントの体は実に動きやすい。わしの若い頃並み、いやそれ以上じゃ!」

「バババ、バーサーカ~、はしゃがないでっ! 落ちるっ落ちちゃうって!」

 

ウェイバーは鷲巣に無理やり鉄橋の上に連れられている。

 

「お~やっとるわやっとるわ。あれが英霊か? 見た目は優男と小娘ではないか」

 

「み、見えるのか?」

「おお、見えるぞ。剣の小娘が槍の優男に追い詰められとる。カカカッ、こりゃ勝負ありかの?」

「剣? 槍? てことはやられそうなのはセイバーか? ならありがたい。最優のサーヴァントが脱落してくれたら僕らの勝率は高くなるはずだ」

「ククク、なんじゃぁ? どんな猛者が現れるか気になっていたがあの様子ではこの聖杯戦争も底が知れるの……む?」

 

鷲巣は突如笑みを止めた。

 

「なんじゃあの空気の読めんデカブツは……!おまけに臆病者じゃと? この鷲巣厳に向かって……!!」

 

「バーサーカー?」

 

ウェイバーは嫌な予感をじはした。だが鷲巣を止めることなど端から無理な話だった。

 

「カカカ、よかろう! 行くぞ小僧、手打ちにしてくれる!」

「うえ!? ちょ、ま、うわ~~~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「新手か……」

 

埠頭は膠着状態になっていた。突如として乱入した自らをライダー、イスカンダルと公言する男によってセイバーは様子見をするしかなかった。

 

 

「セイバー……」

 

マスターであるアイリスフィールが不安げにセイバーを呼ぶ。

 

「アイリスフィール落ち着いてください。例え敵が何人増えようとも貴女を守ります」

「主よ。落ち着いてください。敵の出方がわからぬ以上今は観察に傾けるべきです。はい、お任せください。」

 

 

ランサーも警戒突然の襲来に警戒する。セイバーにとってひとまず良い状況だった。ライダー乱入前にランサーの魔槍によってつけられたこの傷では十全な戦いは出来ない。時間を掛ければ掛けるほど不利になってしまう。このままでは敗北の危険があったがライダーの乱入によってひとまずランサーと距離を置ける。

 

ライダー以外が沈黙していた所沈黙の原因のライダーが口を開く。

 

「ガハハハ!どうだ、余の同胞となり共に聖杯の栄光を分かち合わぬか?」

 

その場のライダー以外全員が呆れたように思えた。聖杯戦争のルールを無視した無茶苦茶な提言。セイバーも当然ランサーも受け入れられるはずもない。

 

「その提案には承諾しかねる。俺が聖杯を捧げるのは今生にて誓いを交わした新たなる君主ただ一人。断じて貴様ではないぞ、ライダー!」

 

「私もブリテン国を預かった王としていかな大王の臣下に下るこは出来ない」

 

「ふ~む。けんもほろろだのぅ。それにしてもブリテン国の騎士王がこんな小娘とはのう!」

 

「その小娘の剣、受けてみるか?」

 

その言葉はセイバーの琴線に触れた。生前から気にしていることを面と向かって言われては決して気持ちの良いものではない。

 

「こりゃあ怒らせてしまったか? いやすまんすまん。セイバーとランサー、お主らの剣劇は実に見事であった。このイスカンダルもつい惹かれてしまったぞ。称賛しよう! ……しかしだ。おいこらぁ! 闇に紛れて覗き見しておる連中よ! 聖杯に招かれし英霊は、今此処に集うがいい! なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものとしれぃ!」

 

ライダーの言葉にセイバーはもしや自らの切嗣の策が見破られているのではと警戒するがライダーは英霊に興味がるようだ。現にライダーは離れた場所からの狙撃は考えてもいなかった。

 

  きけい

 

きけい

 

「……ぃ…………きけい……」

 

セイバーたちが集う埠頭に誰かの声が響いた。

 

「な……何? この声は…」

 

気のせいでは無いことがアイリスフィールの怯えによって証明される。

 

 

直後轟音と共にセイバー達の中央に何者かが降り立った。

 

「聞けい」

 

何者かが威圧を持って語る。

 

「聞けぇい、愚民ども。わしの名は鷲巣厳。貴様らの支配者じゃ……」

 

空気が凍る。

 

「貴様らガキ共に告げる。これは宣戦布告であり最後通牒じゃ――――」

 

「この戦争はわしが勝つ。貴様らこの先誰につくか‥‥心して決めいぃ!!

 

 

 

 

沈黙が訪れる。ライダーの時のような呆れではない。セイバーもランサーもそれまで陽気だったライダーまでも笑みを消し、皆押し黙った。語った内容はライダーと似ているが決定的に違うのはこの老人はセイバーたちが欲しいわけではない。ただ己の下にセイバーたちが位置していることが当然のように語っている。理屈ではない……傲慢。この謎の老人から発せられる狂気の風格が単なる妄言ではないのだとをこの場にいる全員が無根拠ながら感じた。

 

セイバーはもう一つ分かった……と言うよりも感じた。……この老人は碌な人間ではない。少なくともセイバーは好きになれない人種。一生友にはなれない。

 

「貴様何者だ! サーヴァントのようだが……」

「言ったはずじゃ優男よ。鷲巣巌。此の場に倣うならバーサーカーじゃ」

「なんと!バーサーカーとな? これは面白い! 理性ある狂戦士とは実に興味深い」

 

セイバーはこの状況を考えていた。現状最も不利なのは手負いの自分だと。

もしこの場で手負いの自分が一斉に襲われたらと剣の力を解放しても捌ききれるかどうか分からない。最悪……自分は敗れ座に帰りアイリスフィールは死ぬ。破綻、敗走、敗北。脳裏にあの日あの丘での無念が呼び起こる。

 

(駄目だ! 私には使命がある。なんとしてもここを切り抜けなければ……)

 

セイバーは人知れず決意を固めた。その時、老人の後ろから人が飛び出した。

 

「バ~サ~カ~?! なに考えてやがりますかぁ! いきなりこんな修羅場に飛び込んでしかも真名もクラスも明かすなんて馬鹿なんで……アイタッ!?」

「いちいち煩いわ! お主は黙って見ておれぃ。」

 

少年……少年が現れた。話を聞く限り彼はあの老人…バーサーカーのマスターなのであろう。

セイバーは気が重くなった。状況によっては彼を斬らなければならない。セイバーは大義の為ならばどんなことをしてでも聖杯を勝ち取らなければならない。だがその為に幼い命を犠牲にすることに。

 

 

「余が一瞬気圧されるとはただならぬ男よ。お主! 余の臣下にならぬか?」

 

またも空気の読まぬライダーの言葉。だが今は少しでも謎のバーサーカーについて情報が知りたいところでありその呆れる行動は実際は皆がありがたかった。

 

「わしを部下にするだと? 冗談も大概にせい。わしは使う側、それ以外は使われる側じゃ! わしは王! 帝王なのだ! 王は常に世界の頂点に君臨する存在であり誰の下にもつかぬ!!」

 

「はっはっはっ! 我が強いの~益々気に入った。余の好敵手ダレイオス三世もきっとお主のように断るのだろうな」

「戯け。そんなどっかの無能と一緒にするな」

 

その時場に謎の声が響いた。

 

「なぜそこに君がいる?ウェイバー・ベルベット君」

 

またも突然、謎の声が辺りに響き渡る。

 

「ヒッ!……」

 

老人のマスターが悲鳴を上げ老人の背後に隠れた。

 

「成程。バーサーカーかね? 君のサーヴァントは? なぜ君のような未熟な魔術師がこの聖杯戦争に参戦したのかは知らないし知る必要もない。ま、おおかた君ご自慢のあの愚かな議論にも値しない世迷い言を証明するためだろうが……しかしどうなのかね? そのサーヴァントの屑のようなステータスは? 口は聞けるがとてもマトモではない。君も一応私の教え子の一人だが全く恥ずかしい限りだよ。さっさとサーヴァントを自害させて時計塔に帰りたまえ。私が凱旋した後、私に一瞬でも逆らったことは不問にしよう。破格の待遇だと思うが?」

 

ライダーとバーサーカーのマスターは知り合いのようだ。しかしあまり良好とはいえない関係のようなのは見る限りだが。

 

するとライダーが興を削がれたように不機嫌になり己のマスターに語る。

 

「マスターよ、あまり若いやつをネチネチ謗るものではないぞ。余の時代もそういった者は優秀でもいづれ恨みを買って失脚するか死んでしまった」

「黙れライダー。この現状の責任の大半はお前にあることを忘れるな。そしてそんな愚かの極みをわざわざ許可したやった私にもな」

「やれやれ。余のマスターはあまりこういったことを好まんのだ。セイバー、お主のマスターは美人で気立てがよさそうだのう。どうかな? お主もわしの下に来んか?」

 

「生憎だけど私には夫も娘もいるわ」

「なんと! かぁ~~っ。先を越されたか。幸せ者だのう、お主の夫は。」

 

 

セイバーやはりライダーのことが好きになれなかった。

 

 

 

「ぼ‥‥僕は!」

 

突如、意を決したように少年がライダーのマスターに向けて叫ぶ。

 

「僕はもう自分でチャンスは捨てないって決めたんだ! 先生……いやッケイネス・エルメロイ・アーチボルト! 僕は貴方を倒して貴方より僕が優秀だって世界中に知らしめてやる! そっちこそ、今ここで僕に負けを認めるなら僕が時計塔に凱旋した時に悪いようにはしないぞ!!」

 

 

「貴様ッ……いいだろうウェイバー。ならば私も容赦はしない。魔術師として相手をしてやろう。但し、四肢の二・三本は失う覚悟をしたまえ」

 

「……そ、そんな脅しはもう怖くない。ここは教室じゃない! 戦場だ! 貴方こそ、自分の命を賭ける覚悟が無いならとっとと帰って自分のテリトリーで思う存分バカな奴等に教鞭を振ってろ!」

 

「うむ。よく言った小僧」

「おお、お主中々胆力があるのう!」

 

なぜかバーサーカーとライダーが同時に称賛した。

 

「ライダー、貴様どちらの味方だ……っ」

「ガハハハッ! そう言うな。余は勇気ある若者を称賛したまでのこと。おのが意思で戦場の最前線まで来る者はそうは居ない。どんな歴戦の戦士でも足が竦むものよ。それをこの少年は敵である我ら、総大将たるマスターに啖呵まで切るとはそれだけで見どころ大ありだ!」

 

ライダーは大口を開け笑いながら言った。

 

「どうだウェイバーとやら? お主も余の……」

「生憎じゃが勝手な引き抜きは許さん。こんなちんまい小僧でもわしのマスターなのだからな」

「むう~、なかなか上手くいかんな~」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで茶番は終わったか? 雑種共」

 

 

 

 

 

 

またもまたも突如として現れたのは全身黄金の鎧に包まれたサーヴァント。

 

セイバーは剣を持つ握りを強める。状況が把握しづらかった。ライダーの乱入によってひとまずランサーと距離を置けたのは利点だった。ランサーの魔槍によってつけられたこの傷では十全な戦いはできない。時間をかければかけるほど不利になっていく。だがその後のこの状況にまったくと言っていいほど対応が出来ていなかった。

ライダーだけでもややこしいがバーサーカーと黄金のサーヴァントの来襲でもはや訳が分からない。

 

「なんじゃ? あの金ぴかは?」

「あ、あいつだ! アサシンを一瞬で倒したサーヴァントだ!」

 

「我を差し置き王を称する不埒者が一夜に三匹も湧くとはな……」

「難癖付けられてもなぁ。イスカンダルたる余が王と名乗って何が悪いというのだ?」

「新の英雄はこの我ただ一人。有象無象の雑種が王と名乗るなど片腹痛いわ!」

 

セイバー嫌な予感がしいつでも動けるように脚に力を込めた。

黄金のサーヴァントが鷲巣に目を向けた。

 

「なるほど。何が出るのか些か興味があったが己の分を弁えぬ狂犬であったか。王を名乗り更にはこの我を支配するなどと……そんなことは神にも出来ぬこと。下らぬ。我を侮辱した罪、万死に値する。その命をもって償うがよい!」

 

突如アーチャーが激昂し後方に無数の光が現れる。そこから何かが現れる。武器だ。刀・剣・斧・槍などが光から現れバーサーカーに向けられる。

 

「そこの無様なマスターも同罪である。精々散り様で我を興じさせよ、狂犬」

 

無数の武器が放たれ一瞬でバーサーカーが立っていた地が爆発し粉塵が舞う。誰もが直後の凄惨な光景を想像した。

 

「フッ、悲鳴も上げずか。つくずく下らん。いつの世も道理を弁えぬ狂犬は怒りを通り越し哀れであるな」

 

「バーサーカーが……やられた?」

 

アイリスフィールが驚嘆する。それも当然だ。爆発点からあのバーサーカーが逃げた動きはなかった……あのクラスの攻撃を仮に防御したとなれば何かしらの魔力的兆候があるはずだ。だがこの場にいる誰もがそんなものは感じなければ見てもいない。しかし、

 

「やれやれ。確かに無様じゃ。この程度で気絶するとは……なさけない。」

 

「なに?」

 

アーチャーの眉間が寄る。

 

その場の全員が驚いた。あの攻撃でマスターともに鷲巣はほぼ無傷であった。

 

「おい金ピカ。いきなり攻撃とは礼儀を知らんやつじゃのう。大体なんじゃその格好は、全身金ピカでデラデラしてて見てるだけで煩いわ。これだから最近のガキは腹が立つのじゃ!」

 

明らかにプライドが高いアーチャーに対しておよそ言ってはいけない言葉。見下しの暴言。

 

「狂犬が! 我を侮蔑し挙げ句見下すとは!! その血肉一つたりともこの世に残ると思うな!」

 

 

後方の光が更に巨大化する。そして先程とは比べられぬほどの宝具がバーサーカーに放たれた。

 

セイバーが驚愕している間に刀剣がバーサーカーに迫る。このまま行けば直撃だ。回避せねば死は避けられない弾幕。セイバーは思った。余程の武芸者でもない限り回避は不可能だ。あのバーサーカーがその可能性もあるが後ろで気絶しているマスターを庇って更に無事回避するのは難しい。恐らく、セイバーが知る限りはランスロット卿でもない限りは深傷を負うか死ぬかのどちらかであった。

 

「きゃあ!」

 

衝撃にアイリスフィールが悲鳴を上げる。

 

「セイバー!一旦離脱しましょう! バーサーカーがやられたら次は私達かも知れないわ!」

 

アイリスフィールの提案は最もだ。だがセイバーは何故かあの老人が死んだとは思えなかった。

 

 

「フッ、これで終わりだ。塵になっ……」

 

「最近の若者はキレやすいと鈴木が言っていたがマジじゃのう。わしが若い頃より荒んでおるわ」

「バ、バーサーカ……それはちょっと違うって……おぇ」

「なんじゃようやく起きたか」

 

爆煙が晴れると其処にはバーサーカーが立っていた。傷一つなく。辺りはコンクリートやアスファルトが四散し爆心地の様子だが彼が立っている場所だけは無事だった。

 

 

「ぬぅ。アーチャーの射ち損ないではないな。あやつの宝具かスキルだろうのう。マスターよ、何か分かるか?」

 

「主よ。どうか、どうか落ち着いてください。いま動くのは我らにとって益にはなりません。いましばらくご辛抱を」

 

それぞれマスターと相談をする陣営。アイリスフィールも困惑している。当然だ。アーチャーの強烈な弾幕を回避も防御もせず。しかしあれが偶然とも思えない。少なくととセイバーには出来ない。

 

「しかしサーヴァントになり体力も付いたがこの力も昔以上に冴え渡っておる。これ程とはわしも驚きじゃがな」

 

「狂犬……余程死にたいらしいな。よかろう、この場を貴様の処刑場に……時臣? ……大きく出たな……いいだろう。ここはお前に免じて引いてやろう」

 

そう言うと黄金のサーヴァントは背後に展開していた宝具を収めた。しかしその顔には未だバーサーカーに対する殺意が現れている。

 

「運の良い奴めが……貴様の幸運に感謝しろ。だが忘れるな狂犬。貴様の死は変わらん。我が直々に駆除してやろう。それまで精々怯えているがよい。他の雑種共も有象無象を間引いておけよ。我に挑戦しうる英霊は一人でよい」

 

 

 

そう言放ち黄金のサーヴァントは霊体化して消えた。

 

 

「主よ。申し訳ありません。はい。アーチャーは消えました。この叱責は後ほど。セイバー、我らの戦いはひとまず持ち越しだ。だがいずれ決着をつけるぞ。さらばだ!」

 

「ふむふむ。まあ最初の集いとしては上出来というもの。今日は無理だったが余はいつでもお主らを歓迎しているぞ!ガハハハ!」

「何を考えているライダー。今こそセイバーを倒す好機であろう。」

「戦場の花は愛でるものだぞマスター。それに無理に余を戦わせ早速サーヴァントとの関係が破綻したと奥方が知ればどうなるかのう?」

「ぐぅっ……良いだろう。私に感謝するのだな。ライダー、撤退しろ」

 

ライダー続いてランサーも撤退した。

 

まるで嵐のようだった。傷の痛みも忘れセイバーはいま起きた数々の信じ難い出来事を、受け止めていた。

 

「なんじゃ、皆帰ってしもうた。お前だけか? 残りは」

 

「くっ……手負いとはいえ易々とやれると思うな!…私には救わねばならぬものが……」

 

「帰るぞ、小僧」

 

「な!?まてっ!」

 

「なんじゃ。わしは帰って寝る」

「ふざけるな!サーヴァントなら戦え! 私に情けを掛ける気ですか!」

「お主のことなぞ知るか! わしは帰る! 今日はもう終わり! 終了!」

 

セイバーは頭に血が上るのがはっきりと分かった。

 

「セ、セイバー……」

「止めないでくださいアイリスフィール! どのみち戦わねばならない関係です! バーサーカーを倒しこの傷の失態を……」

 

自分の行いが不合理なのはセイバー自身がはっきりと分かっていた。だが一別もされずに見逃されるのは騎士としての矜持が許さない、この時はその怒りが体を動かしているとセイバーは思っていた。

 

 

バーサーカーに切りかかろうと構えたその時、脳内に久し振りに聞く声が響く。

 

(セイバー、退くんだ)

(切嗣? 何故ですか!?)

(もう一度言う。退くんだ)

 

「……くっ……分かりました。貴方に、従います」

 

 

「マスターの女と話はついたようじゃな。わしは帰る。ちゃんと毎日話をする契約じゃからな。帰るぞ小僧。」

「僕ら、いったい何しに来たんだよ……無駄に敵意を振り撒いたんじゃ……」

「相変わらず庶民の発想じゃのう。シャンとせい」

 

バーサーカーはマスターを抱え遠ざかる。後に残ったのは敵のいない戦場で剣を構える間抜けな女。

 

 

「申し訳ありません。戦果を挙げられず。傷までも……」

「いいのよセイバー。貴女が無事なら。……でもどうしたの? さっきバーサーカーを相手にした貴女はおかしかったわ。あんなに取り乱して……いつもの冷静な貴女じゃないわ」

「騎士として、敵に見逃されることは恥辱でしたので……」

 

セイバーの答えにアイリスフィールは一様の納得を得て安心したように頷いた。

 

「そう、ならいいの。次は勝つ。これでいいと思うわ。私達も帰りましょう」

 

 

 

セイバーはアイリスフィールに対する罪悪感を感じていた。セイバーの説明は事実であるが真実ではない。矜持を気づ付けられたことは本当だがそれが怒りの原因ではなかった。どうして自分はあんなにあのバーサーカーに怒ったのか、それが分からなかった。確かに鷲巣は恐らくセイバーが嫌う人種だろう。人を見下し傲慢で不遜だ。相容れない存在、理解は出来ても共感は出来ない。だがそれだけならばあの黄金のサーヴァントもそうだ。しかし黄金のサーヴァントにはあそこまでの激情は抱かなかった。なら何故自分はあのバーサーカーにあそこまで我を忘れたのか……それがセイバーにとって謎であった。

 

 

セイバーにすれば思えばこの時からだった。鷲巣巌。自らの全てを壊した男との最初の出会いは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鷲巣たちは家に帰り次の日を迎えた。今朝は帰りが遅くなったことを夫妻に問い詰められたがバーサーカーが上手いこと言いくるめた。

 

「あれじゃよ。小僧は結局のところ小僧。夜の街に繰り出したい年頃じゃ。察してやれ。お主らには言いづらかろうよ」

「おおそうだったか。ウェイバーも背伸びしたい年頃か」

「案ずるな。わしが監督してやろう」

「鷲頭さんなら安心だ。なあマーサ」

「ええ。鷲巣さんなら大丈夫だわ。それにしてウェイバーちゃんもまだまだ子供っぽいところがあるのねぇ」

 

「説明しておいたぞ。」

「助かったよ。バーサーカー」

 

どんな説明をしたのかはウェイバーは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

「慌てるな、まずは情報収集じゃ。何事も相手を知ることから始まる。何処かの知識人もそんなことを言っておった」

 

「情報か……一応使い魔は放っていいるけど……」

「小僧の未熟な使い魔ではサーヴァントはおろかマスターにもバレるわい。あの癇に障るケイネスとかいう奴なら一発で見抜かれるのが落ちじゃ」

「うぅっ…確かにそうかもしれないけど他に方法がないだろ! 僕には手下なんかいないし冬木に協力者もいない。戦争なんだからマスターの僕が直接無暗に出歩くわけにもいかないし……」

「当り前じゃ! そんなことをしたら今日にもお主は死ぬぞ。ここはわしが行こう」

「え!? バーサーカーが?」

「当然じゃろう。わしはお主よりは強い。そもそもわしに何かあるはずもない。小僧はここで朗報を待っておれ。」

 

ウェイバーは意外だった。このサーヴァントはてっきり全てのことを他人に任せるようなやつだと思っていたからまさか自分から動くなど露程にも想像していなかった。

 

「フンッ!」

「アイテッ!」

 

そう考えているとまたも僕の脳天をバーサーカーの杖が直撃する。

 

 

「ウぐぐぐ……そ、それでバーサーカーが出向くって言ったって当てはあるのか? いくらサーヴァントでも気配遮断スキルは持ってないし他の陣営だってそう簡単に見つかるような拠点には居ないだろうし」

「案ずるな! 当ては……ある。昔の知り合いに会ってくる」

「知り合い?」

「生きていれば100は超えておるだろうがまぁあの男ならば関係ないじゃろう。まさかわしが先に死ぬとはなッ!」

 

バーサーカーが何を話しているのかは分からないがきっと悪いことなのだろう。気持ち悪いぐらいに怒ったり笑っている。

 

 

「ククククッ! 待っておれ臓硯。久しぶりに茶でも飲ませてもらおうか……!」

 

 

 




鷲頭にとってのハッピーを目指します
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