鷲巣/閻魔の聖杯戦争   作:Fabulous

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鷲巣周辺

鷲巣巌(わしずいわお)

 

昭和の妖怪。政財界のフィクサー。日本の闇の帝王。様々な呼び名があるこの男について記したい。

 

鷲巣は1912年、旧帝国大学を卒業し22歳の若さで現在の警察に就職する。そしてその後瞬く間にその抜け目の無さと狡猾さで頭角を現し上司同僚後輩を圧倒し出世街道を邁進する。ここまでならまさに成功者、輝かしきエリートの半生だが鷲巣巌の異様さはここから始まる。

 

50歳で警視長クラスにまで昇りつめた二年後、1942年突如警察を退職。警視総監に昇進するのも最早時間の問題とまで持て囃された男の早すぎる引退に当時は皆不思議がったが、後々考えればその理由は単純明快にして効果的。

 

 

 

 

 

 

 

鷲巣は予見した。この日本の滅びを……!

 

 

 

 

 

 

 

1942年は当時戦後真っ只中ながらも日本中が大本営による戦勝報告に酔いしれ誰もが日本の勝利を、連合国の敗北を信じて疑わなかった。だが……

 

 

鷲巣は一早く見限った。

 

 

その年の1942年6月

後にミッドウェー海戦と名付けられた日米大戦の分水嶺。その大敗北によって鷲巣はアッサリと見限った。スパッと。

 

公的機関から離れ一民間人となり戦後、必ず起こるであろう戦犯追及。特別高等警察時代の悪行の数々、市民への言論弾圧、その責任から自分だけは免れるように……。

この動きは戦況が悪化するたびに政治家や軍人、警察・司法などあらゆる日本の権力者達の間で日増しに増加していったが鷲巣はただ一人、誰にも分からぬ時期にそっと、ひっそりと常人の計りを越える神がかり的な卓越した先見性をもって実行した。

 

そして何よりも、仮に鷲巣と同じ時期に日本の敗戦を予見した者が他に居たとして果たして鷲巣と同じ決断が出来ただろうか。一度人生の大部分を消費して積み上げた人生の結晶でもある地位や名誉を捨て去ることが出来るか? 不可能である。常人は例え己の決断が正しいと思っていても目の前の利益や損失のため大抵は決断を保留する。だが歴史を見ればそうした権力者たちがどうなったかは明らかである。

 

そして市井の人間となった後も鷲巣はその能力をいかんなく発揮した。

 

戦後、鷲巣はまだ世界でも稀な企業コンサルタント会社を起業した。企業が他企業に経営方針を指南してもらい金を払う。そんな発想は当時鷲巣以外誰も持ってはいなかった時代に誰もが「何を馬鹿げたことを」と鷲巣を白い目で見た。しかし……

 

 

鷲巣が起業した経営コンサルタント会社「共生」はあたった。

 

 

共生がコンサルティングした企業は皆躍進した。それも通常、コンサルティングと言っても売り上げの1割も上昇すれば大成功であるはずが鷲巣が入れ知恵した会社は前年比の2割から3割という考えられない業績アップを成し遂げたのである。だがこれには裏がある。

 

鷲巣は警察時代または様々な企業と接しているうちに入手した政治家や官僚の表に出ていない不祥事の数々を使いこれから何処が開発されるか、どんな法律が施行されるか或いは解除されるかなどの企業家にとって値千金の情報を権力者達から時に強請り、時に懐柔し、インサイダー取引をして利益を上げていたのだ。

 

しかし通常こういった輩はどこの国にもどんな時代にもいるブローカーという奴であり、金は手に入るがいつ検挙されてもおかしくない日陰者である。だが鷲巣がそこらの企業ゴロと違う所はコンサルタントをした企業の顧問に就任し非合法の沼から抜け出し自らの立場を合法にしたことだ。これによって鷲巣は毎年コンサルタントした企業からその収益の上前を堂々と撥ね続けた。

 

そのほかにも鷲巣は当時すでに用済みとされた軍需工場や鉄くずを大量に買い取った。元の持ち主たちは処分に困った不良債権を買ってくれるということで二束三文で鷲巣に売りさばいたが後にそのことを後悔することとなった。1950年 朝鮮戦争勃発による空前の軍需産業の復古と鉄の価格高騰により鷲巣は莫大に利益を出した。一部では鉄屑集めのための違法な海賊行為を指揮していたと言う情報もあるが定かではない。

更には戦後日本に多く出回ったとされる偽札にも関与しているとされ、その金を使い様々な働きかけをしたとされている。

 

同時に共生は当時誰も見向きもしなかった新興企業の経営権を違法・合法問わずに尋常なスピードで手に入れ、己の傘下に加えた。そしてその後それらの企業は日本の復興と発展の基盤となるインフラ整備技術やトンネル掘削技術等を開発しまたも鷲巣に莫大な利益を与えた。

 

そしてその有り余る強大な資金と影響力を持って政界にも鷲巣はその魔の手を伸ばした。

鷲巣は当時まだ一介の中堅議員に過ぎなかった田中角栄の才能にいち早く目を付け資金面での強力なバックアップを行った。その鷲巣の支援によって角栄は持ち前のカリスマで民衆の心を掴み鷲巣の金で政治家の心を掴んで離さなかった。それにより角栄は当時地方と都心の格差の原因の一つでもあった人口・経済格差を打開するために後にその功罪の意見が別れる日本列島改造論を掲げた。角栄は日本全国の交通網、インフラを整えることによって日本の物流や人の流れを活発にし、日本経済の発展に寄与したがその中に鷲巣の意志が加わっていたことは間違いないだろう。

 

このことから鷲巣は戦後の日本の状況を巧みに利用し利益を出した怪物と言えるが彼が日本に与えた功績も大きい。

日本が経済復興するに辺り、その基盤を支えた労働力……人口の急激な増加に対応するための建設業の推進は急務であった。しかし大口の建設受注のためには入札を勝ち取るために多額の予算を計上する必要があった。それは平時の現代ににおいては当然の措置だがまだ戦後の傷が癒えていない当時の日本では入札は建設業者を疲弊させ復興の足枷となっていた。

そこで鷲巣は前述の企業コンサルタントによるインサイダーや談合によって日本の建築産業を不毛な価格競争で疲弊させることなく安定して利益と公益を生み出した。多くの建設業者もこれに賛同し巨大な談合システムが生まれたと言われている。これは筆者も戦後と言うどん底から這い上がる途上であった日本にとっては必要悪だと認めざるをえない。

 

当時世界最強の国によって徹底的に国土を破壊しつくされた極東の敗戦国が戦後の奇跡の経済復興を成し遂げた破滅と復活の時代。それまでの権威・権力が崩れ去り誰も知りもしなかった個人や企業が大宰相や世界的大企業に躍進した疾風怒濤の時代。

鷲巣は駆け抜けた……欲望の海を。

敗戦という絶望的状況……誰もがうなだれ明日への希望を持てなかった時代に鷲巣は決して諦めず、決して屈せず勝利し続けた。

そして積み上げた。金を。無限に等しき圧倒的金の城を己の手で築き上げ日本を影から操るフィクサーとなった。

 

晩年の鷲巣は当時世間を騒がせた多くの若者が血液を抜かれ殺されるという吸血殺人の容疑者として一部マスコミや警察関係者の中で疑われていた。そのことが鷲巣の死に関与しているかは謎であるが筆者はさらなる調査をしようと考える。

 

最後に、鷲巣巌は当然ながら死亡したとされているが彼を知っている関係者の多くは口々に「とても想像できない」と語っているあたり、彼の悪魔的なカリスマをうかがわせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上がバーサーカーに関する現在収集できる情報の限りです」

 

「そうか……ありがとうマイヤ。引き続き頼む。」

「分かりました」

 

 

ここはセイバー陣営の拠点であるアインツベルン城、そのブリーフィングルームにセイバー含め全員が揃いマイヤから埠頭で出会ったバーサーカーの報告を聞いていた。

 

「それで……つまりあのバーサーカー……鷲巣……巌? ……は危険なの切嗣?」

「情報からして単純な戦闘力で考えればどうと言う事はないだろうさ。恐らくキャスター的な立回りを得意として正面からの力押しを苦手とするタイプだ」

「ですがアーチャーの宝具を凌いだ事実は注意すべきだと考えます切嗣」

 

すかさずセイバーが忠告をする。しかし衞宮切嗣はセイバーを一別することもなく話を続ける。

 

「注意すべきなのは奴の宝具とスキルだろう。戦法もその二つをメインに挑んでくるはずだ」

「大丈夫なの?」

「勿論。幸いバーサーカーは何の神秘も持たない近現代の英霊……おまけに情報も時間を掛ければ精度は高まるはずだ。それにマスターもバーサーカーを制御しきれていないようだったから漬け込める部分は幾らでもある。根城さえ突き止めれば直ぐに作戦に取りかかろう」

「分かりました。」

 

「さて、セイバー達に接触したキャスターも気掛かりだが……とは言えまずはライダーだ。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの根城が確認できた。例の作戦で行く」

 

「切嗣っ! 私はあの作戦は反対です! あのような手段では…」

 

「準備が整い次第出発する」

 

セイバーの意見を切嗣はにべもなく切り捨てる。そこにある感情は読み取れない。

 

 

 

 

 

 

「…くっ!」

 

セイバーは歯噛みしていた。切嗣はセイバーを徹底的に無視をしている。これではマスターとサーヴァントと信頼関係など築ける訳がない。切嗣はセイバーのような英霊を切嗣は嫌悪している。世界平和を望む切嗣からすれば日々戦いに明け暮れていたセイバーは善であれ悪であれ侮蔑の対象であった。しかしそれにセイバーは怒っていた。……これではまるでセイバーの人格など不必要だと言っている様で理不尽に感じていた。

 

「……ごめんなさいセイバー。切嗣のことが気に障ったなら私が代わりに謝るからどうか責めないであげて頂戴。あの人はこの戦争のために全てを……」

 

「分かっています。アイリスフィール。気遣い、感謝します」

 

 

皮肉なことに切嗣と希薄な関係の分、アイリスフィールとの関係は益々強まっているとセイバーは感じている。セイバーは最初アイリスフィールがホムンクルスだと知り適正なコミュニケーションが取れるのか不安だったがそれは直ぐ様杞憂に終わった。アイリスフィールは造られた人間とは思えないほど聡明でそれでいて人間味に溢れていた。そして愛する娘と夫の為その身を捧げサーヴァントであるセイバーを今のように労ってくれる。不義と思いつつもセイバーはマスターが本当にアイリスフィールだったらと想像してしまっていた。アイリスフィールの存在は確実にセイバーの心を癒している。自身でもおかしいと思いつつも在りし日のギネビィアのように感じていた。

 

「アイリスフィール……私は貴女に出会えて幸せです。本当に感謝します。必ずや聖杯を貴女に捧げましょう」

 

「ありがとうセイバー。今はまだ無理かもしれないけど貴女の純真な思いはきっと切嗣に届くわ。私も出来る限りの努力をするわ」

 

 

アイリスフィールが自分のの理解者になってくれたと思っているセイバーは、ならば騎士としてその恩に報いようと剣を握りしめた。

 

「ところでセイバー。私は日本の歴史に詳しくないからバーサーカーについて説明を聞いてもよくわからなかったの。セイバー達サーヴァントは座で英霊についてある程度学べるのよね?」

 

「はい、その通りですアイリスフィール。ランサーやライダーの正体がディルムッド・オディナや征服王イスカンダルでありどういった人生を歩んだか、私はそれなりに学習しています」

 

「なら、セイバーはバーサーカーのことも……」

 

「申し訳ありません……学習といっても全世界の余多いる英霊を完璧に記憶しているわけではないのです。ですのでバーサーカーについては正直私も詳しくはありません」

 

「そう……残念ね。」

「力に成れずすみません。アイリスフィール」

 

私が謝罪の意を伝えるとアイリスフィールは慌てて訂正する。

 

「ごめんなさいっ、そういう意味じゃないの……」

「お気持ちは有り難く受けとります。アイリスフィール。大丈夫です。次こそは戦果を上げます」

 

「ありがとうセイバー。でもね……埠頭で出会ったバーサーカーは悪人に見えたけど情報の限りだと日本の復興のために尽力した良い人? なのかもし……」

「それはありません」

 

セイバーは即答した。それだけはセイバーの直感が示していた。

 

このときのセイバーはバーサーカーについて意図的に考えようとはしたかった。バーサーカーの情報を知りどんな人物なのか……その輪郭を知りはじめ、セイバーの心は言い知れないものが溜まっていくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ガハハハッ!いや実に素晴らしい眺めよ!これほどの高さから町を見下ろすなど生前は叶わなかったぞ!まさに絶景なり!」

 

冬木ハイアットホテル

 

 

 

 

 

 

「喧しいぞライダー。それにまだ話の途中だ。今回の埠頭での貴様の不始末……どう取り繕うつもりだ?」

 

ライダーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは不機嫌だった。その原因は目の前の巨漢…征服王イスカンダル。今回の聖杯戦争の為わざわざ最高峰の触媒を取り寄せ召喚したサーヴァントにケイネスはこれまで散々苛つかさせられていた。ステータス面についてはケイネスは満足していた。だがケイネスが問題としていたのはこのライダーの人格だった。

如何に過去、世界を征服しようとした王であろうとも今は己に召喚された使い魔。主である自分に従って当然であると考えていたケイネスにとって、ライダーは想定外の人物であった。命令には背き己を主張し続け主である自分に苦言を呈する。

 

ケイネスの口調は落ち着いていたが言葉の節々から苛立ちを容易に感じ取れた。

 

「そう怒るなマスターよ。お主もこの景色を観てみろ。よい眺めだぞう?」

 

それに対してライダーはケイネスの心情など素知らぬようにホテルからの夜景を楽しんでいた。

 

「そんなもの現代人はとっくに見飽きている。それに私はそんなもの下らないものに興味はない。」

 

「やれやれ……美しいものは例え見飽きても美しいと感じるのが風情と言うものだろうに……それが分からんとは魔術師と言う生き方は哀れなもんだのう」

 

「ハッ、そんなものに気を取られるくらいならば新たな術式を思考する方が余程この私の心を満たすと言うものだライダー」

 

「あら? 私はこの夜景も素敵だと思うわよ? ケイネス」

 

「おお、奥方どのは分かってくれるか!」

 

部屋に現れたケイネスの婚約者ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリはケイネスの椅子のにもたれながらライダーに賛同した。

 

「ソラウ……た、確かにそうだな。戦争が終わった暁には二人でゆっくりどこか景色の良い所へ旅行など……」

 

「それも良いけど取り敢えずは今後の方針じゃないかしら? サーヴァントはキャスター以外確認できたようだけれど騎士王やあのアーチャーの登場は貴方の想定外ではないの?」

 

「まさか、確かにあのアーチャーは恐らくかなりの神秘を秘めた英霊であろうがそれはライダーも同じこと。ライダーの宝具はソラウに説明しただろう?神威の車輪ならばライダーは高機動かつ圧倒的な魔力で戦場を駆け眼前の敵を薙ぎ倒すだろう。それに例え倒しきれ無くともライダーには奥の手がある」

 

「確かにそうだけどあくまでもライダーへの魔力は私がしてるのよ?残念だけど私は無限の魔力は持ってないわよ?」

 

「そうだぞマスターよ。己の夫人を戦いに駆り出すなんぞ余は快くは思わんぞ?ましてやこのような他を欺くような真似はな」

 

 

「黙れライダー。ソラウ、安心して欲しい。だからこその私だよ。私を誰だと思っている? 九代続くアーチボルト家の後継者であり時計塔の一級講師だよ。如何に御三家であろうともこのケイネス・エルメロイ・アーチボルトを勝ることなどあり得ない。さて、ライダーは最上級の英霊……マスターはこの私。ソラウ、これでもまだ私達の勝利を疑うのかね?」

 

「ええ、分かったわよケイネス。貴方は天才よ。」

 

ソラウのなげやりとも思える賛辞にケイネスは満足げに笑みを浮かべワインを傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こりゃいかんのう……)

 

 

ライダーは心中で陣営の先行きに対して不安を感じた。

 

(聖杯に呼応して現世に舞い戻ったのは良かったが己のマスターがこんな奴とは余も運が無い。能力が有るのは認めよう。だが如何せん慢心が過ぎる。それに聞くところによればこの男は実践経験が殆ど無いと言う。そんな頭でっかちな奴が思い描く尋常な勝負が果たしてこの戦いに本当に有るのか余は甚だ疑問である。戦いとは清々しいものだがそれだけではない。凄惨な地獄が常に後ろに張り付いている。余はそれを知っている。だがこの男は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初戦はまずまずと言った所ですね。時臣師」

 

薄暗い地下工房で男が通信機越しに弟子からの報告を聞いている。

 

「ああ、そうだ綺礼。令呪を一画失ったのは痛いが大方の勢力確認は出来た。あとはキャスターだが……本当なのかね? キャスターのマスターが例の無差別殺人の犯人と言うのは?」

 

「現在確認中ですがまず間違いないかと……」

 

弟子の父が会話に割って入る

 

 

「なんたることだ……神聖な儀式をおぞましい欲望で汚すなど許されることではない」

 

「…はい。時臣師」

「直ぐに対処が必要ですな」

 

「ならばこの私が行きましょう。一応なりとも聖杯戦争を脱落した身ですし似たような経験も有ります。各陣営に通達すればイレギュラーを対処するため私が町に出ても問題ないのでは?」

 

 

「君の献身は嬉しいがそれは困る。あくまでも偽装であるアサシンの脱落を万が一にも君の令呪を他の陣営に知られたくはない」

 

「仰有ることは理解できます。しかしそれでは神秘の秘匿や犠牲者が……」

 

「落ち着きなさい綺礼。申し訳ありません時臣殿」

 

「いえ、さすがは聖職者であり璃正殿の御子息です。それに彼の提案の中の各陣営に通達する……これは使えます璃正殿」

「ん? ……なるほど。確かに使えますな。急ぎ準備をいたします。綺礼、手伝ってくれ」

「どう言うことですか?」

「なに、直ぐに分かるさ息子よ」

 

 

 

ギルガメッシュはすこぶる機嫌が悪かった。一応なりとも臣下の礼をとる時臣の進言を聞き入れた事ではない。原因はあのバーサーカーである。ギルガメッシュは見抜いていた。あのバーサーカーの本質を。

 

(あり得ん……あのような男がいるはずがない)

 

しかし自分で導いた答えにギルガメッシュは納得できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうつもりだ!」

 

男、間桐雁夜は激怒していた。必ずやあの悪魔の館から最愛の女性の娘を救うと誓い、いざ戦いとなったその時に肝心要のランサーが全く言うことを聞かなかったからだ。特に時臣のサーヴァントが現れ奴に復讐するチャンスをランサーは頑として聞き入れなかった。

 

「申し訳ありません、主。ですがあの場でアーチャーに特攻するのは下策中の下策です。主の勝利の為ならばこのディルムッド・オディナ、如何なる叱責にも堪える所存です。だからどうか戦いに於いては俺を信用していただきたい。」

 

「……」

 

 

勿論、雁夜自身も自分の指示が何の戦略性も無いことは分かっていた。だがそれでも時臣に一泡吹かせてやりたかった。自分や桜ちゃんがどれだけ苦しんでいるかを時臣に教えてやりたかった。

 

「……残念だけど信用できないなランサー。令呪を以て命ずる」

 

 

「主!?お止めください!」

 

「俺を裏切ったら……死ね……ッ」

 

 

「主? 何故……」

 

ランサーは、令呪でマスターの言うことをなんでも聞けと命じられると思った。だがそうではなく、裏切れば己が死ぬと言う誓約。

 

「お前の言うこと全て間違ってるとは悔しいけど思えない。俺は魔術師としてはクズもいいとこだ。だからお前に頑張ってもらわないと俺はなにも出来ず死ぬしかない」

 

「主……」

 

「だから頼む。俺を裏切らないでくれ……俺を勝たせてくれ……ッ……ランサー…ッ!」

 

文字通り血を吐きながら雁夜はランサーに懇願した。

 

「ッッ主! お任せください!! このディルムッド・オディナ、全身全霊で戦い抜き、聖杯を主に捧げます!」

 

 

ディルムッドは満足していた。再び忠義を全うできる機会に……今度こそ主を裏切る事はしないと、今生の主と己の魂に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?旦那戻ってたの?急にジャンヌがどうのとか言って出ていったけど。」

 

「龍之介……今の私は押さえようのない怒りに燃えています。ついに! ついに! この現世でジャンヌに出会えたと言うのにッッ! 神は私とジャンヌを何処までも弄んでいる!!! ああ!お痛わしいぃ! 今すぐにこの私めがお救いしなければ!! ジャアァアンヌヌゥゥ!!!」

 

「えーと……まぁ頑張ってね。旦那の初恋なら俺も応援するよ」

 

 

「初恋などと! 畏れ多い!! ですが確かに私はあの聖処女と出合い心を奪われました……かの聖処女と共に並び立ち戦った日々は私に無情の幸福を与えてくれました」

 

「ほらぁ!やっぱり惚れてるって旦那。告白まだなんでしょ? アタックしちゃいなよ!」

 

「何と!!?? いや!! しかしぃ!!!」

 

「大丈夫だよ。旦那はお金持ちだし紳士だし意外にスタイルバッチリだよ!そしてなにより趣味が超COOL! 絶対ジャンヌさんもOKしてくれるよ」

 

「ムムムム……しかし」

 

「そうと決まれば最高のシチュエーションを用意しなきゃね旦那♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

ウェイバーは資料を読んで疲れた目を覆い一息ついた。あれから知り合いに会いに行くと言って出てったバーサーカーの言いつけを守るのは少し癪だったが言ってることは最もだったためこの家で出来ることをしていた。

 

そもそもウェイバーは自分のサーヴァントについて知っている事が少なすぎていた為、まずは自分のサーヴァントから情報を集めることにした。

バーサーカーと埠頭から帰る途中で、僕は冬木の図書館でバーサーカーについて調べるためにいくつか関連がありそうな書籍を拝借していた。

 

 

「なに?わしのことを知らん? ならあそこの図書館でも行って調べてこい」

 

と、自分で教えてくれる気はなかった

 

(めんどくさいやつ……絶対友だちいないよな)

 

図書館では資料を探すのも意外に苦労した。英霊になるくらいだから英国人のウェイバーが知らなくても日本ではそれなりに知名度があると思っていたがこれが中々見つからなかった。無難に日本の歴史コーナーを探しても鷲巣巌の名はどこにも無く思った以上に時間が掛かってしまった。やっとのこと見つけたのはマスコミの報道出版物や都市伝説や眉唾物のコーナーだった。本当にこんなところにある本に載っているのかと訝しんだが、あった。

 

 

バーサーカー、鷲巣巌。

現代に近い英霊だとは推測していたがまさか死んでから100年も経っていないとはウェイバーは驚いた。……もう少し長生きしていたらひょっとすると生前のバーサーカーに出会えたかもしれないほどのニアミスである。

 

資料に記載されていることが事実だとしてバーサーカーの人生は普通ではない。極東の島国とはいえ今やウェイバーの自国イギリスを抜き去り世界トップクラスの経済大国である日本の発展の礎を築いた人物なら人類史の偉業と言えなくもなく英霊として呼び出してもおかしくはない。

 

「あいつ……本当に戦えるサーヴァントなのか?」

 

確かに凄い人物なのは理解していた。しかし埠頭で出会ったアーサー王やアレキサンダー大王やあの黄金のアーチャーにバーサーカーが勝てるのか……ウェイバーにはどうしても不安だった。

 

だが……それがどうした。元々ウェイバーは何の計画性もない博奕で始めた聖杯戦争。はなっから優位なサーヴァントを召喚出来るとは思っていなかった。其処は仕方ないと割り切るしかない。割り切ったあとに自分の出来ることをする。それに埠頭でアーチャーから放たれた攻撃をバーサーカーは防いだ。何故……どうやったかはよくわからない。バーサーカーに訊けば、

 

「わしは運が良いのじゃ……カカッ」

 

と笑うだけで肝心なことは何一つウェイバーは教えてもらえなかった。

 

ウェイバーは不安だった……だがその不安の原因が最大の頼りなのだから信じるしかない。

 

「あいつ大丈夫かな……無事に帰ってくればいいけど……ん?」

 

バーサーカーに思いをはせていたウェイバーの所に教会の監督者から緊急の連絡が入った。




ケイネス先生と雁夜おじさんの最期を考えてると楽しいです。

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