学園黙示録〜転生者はプロの傭兵   作:i-pod男

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The Choice is yours

暫く沈黙が続いた。

 

「これから先って・・・」

 

「そこに行き着くのは当然だぞ、宮本君。我々は現在、より大きく、力のある集団の元に合流した。選択肢は二つのみ。飲み込まれるか、」

 

「分かれるか、ですか。」

 

色鮮やかな着物に身を包んだ冴子の言葉を孝が引き継ぐ。まあそうだろうな。俺や静香は兎も角、沙耶は両親との再会を果たした。冴子もコータも親は海外にいる。言ってしまえば他の奴らの親探しに付き合う必要は無い。それにここはちょっとした要塞だ。<奴ら>が人海戦術で攻めて来ない限り、簡単に陥落はしないだろう。

 

「でも、そんな必要あるのか?街は荒廃する一方だけど、お前の親父さんは手際が良い。お袋さんも凄いし。」

 

「ええそう。自慢のパパとママだった。これだけの事をたった二日位でやってのけたんだもの。」

 

沙耶の目には涙が光っているのが見える。恐らく孝も見えているだろう。

 

「でも、それが出来るなら・・・・」

 

「何故真っ先にお前を助けに来なかったか、そう言いたいのか?」

 

俺はシガーケースから葉巻を一本取りだして火を点けた。

 

「甘ったれるなよ、沙耶。確かに、百合子さん達は学園まで助けには来なかった。だが、お前はまだマシだろ?両親は手も目も届く所にいて、<奴ら>になっていないんだ。」

 

ただで<奴ら>になる程弱い人じゃないし。葉巻の煙をゆっくりと吐き出して俺は更に続けた。また説教臭い事言う破目になるとはな。ガラじゃ無いってのに。

 

「冴子やコータ、そして俺も、家族は海外にいる。安否を確かめる術など、ありはしないんだよ。無傷で両親に会えるだけお前は遥かにマシだ。再開出来た事を、お前だけを置いて死ななかった事を喜べ。ありがたいと思え。感謝こそすれ、恨み言を言う権利はお前には無い。」

 

そんな時、大量のエンジン音が聞こえた。外を見ると、黒い高級車を筆頭に大量のトラックが正門を通って来た。

 

「百合子さんの旦那のお帰りか。」

 

「って事はまさか沙耶の親父さん・・・・?」

 

「ええ、そうよ。高城家現頭首にして、憂国一心会会長。己の掟で全てを決めて来た男。私のパパ、高城壮一郎よ!」

 

ドアが開き、鋭い目付きの男が上下がマッチした日本の軍服らしき物に身を包んだ巨漢が、左手に刀を引っ下げて出て来た。威圧感がこっちまで来てる。生粋の武人ってのは、ああ言う人種か。周りの同じ服装をした男達が百合子さんの後ろで整列し、頭を下げていた。葉巻を吹かしている俺はさぞ暢気に見えただろう。

 

「この男の名は、土井哲太郎。高城家に仕えてくれた旧家臣であり、私の親友でもある。しかし今日、救出活動の最中、仲間を救おうとし、噛まれた!」

 

フォークリフトで鉄の檻に入れられた<奴ら>に成り果てた土井と言う男が避難した住民の前に現れた。反応は様々だったが、一番多かったのが『恐れ』だ。檻を破ろうと動くその様は、住民を数歩後ずさりさせるには十分な効果があった。

 

「正に自己犠牲の極み。人として最も高貴な行いである。しかし、今や彼は、最早人では無い。唯只管危険な『モノ』へと成り果てた。だからこそ、私はここで友として、そして高城の男としての義務を果たす。」

 

檻が開き、高城壮一郎に向かって土井が襲いかかる。日の光を受けてぎらりと光った刃はぶれず、土井の首をバッサリと何の躊躇いも無く叩き斬った。胴から離れた首は宙を舞い、噴水の中に軽い音を立てて着水した。虚ろな目が皆を見渡し、水が徐々に赤く染まって行く。

 

「これが、これこそが、我々の『今』なのだ!素晴しい友、愛する家族、恋人だった者であろうと躊躇わずに倒さねばならない。生き残りたくば、戦えっ!!!!」

 

その声は、群衆、更には空気も震わせるには充分だった。あの覇気に逆らえる様な人間はそうはいないだろう。それに、あのやり方は原始的且つ典型的だが、実に効果的だ。特に、受け入れようとしない現実からの逃避行をしている輩には。何が起こっているか、何をすべきかを包み隠さず有り体に見せる。

 

「刀じゃ・・・・効率が悪過ぎる・・・・」

 

「あ?」

 

「効率が悪いんだよ!日本刀の刃は骨に当たれば掛けるし、三、四人も切ったら役に立たない!」

 

「それは人によりけりだろ。俺は鉈位しか使った事が無いから何とも言えないが。でも、見せ物としては充分効果はあった。実用性に関しては経験者の冴子に聞け。刀を持たせたら、それこそ時代劇並みに凄い物が見れるんじゃないかと思うぞ?なあ?」

 

俺は期待大で冴子の方を見やる。当然まだ葉巻は持ったままだ。

 

「流石にそこまでは・・・・でも、確かに、刀での戦闘は効率が悪いと言うのは決めつけが過ぎる。剣の道では、強さは乗数で表されるのだ。剣士の技量、刀の出来、そして精神の強固さ。この三つが高いレベルで掛け合わされれば何人切ろうが戦闘力は落ちない。」

 

「じゃ、じゃあ、血脂が」

 

「んなもんは拭けば済むだろうが。」

 

コータの銃に対する異常と言っても過言ではない位の執着に、俺も段々と辟易して来た。

 

「お前は銃の方が効率が良いと言うが、俺は百パーそうだとは言い切れない。便利だと言う事は認めよう。ワザワザ受傷のリスクを被らずに相手を殺せる。だが、銃も幾らメンテを重ねようと所詮は人間と言う不完全な生き物に作られた機械仕掛けの武器だ。不完全な者に作られた不完全な物は、時を重ねる内に、いずれは壊れる。」

 

「滝沢さんまで・・・・何でだよ!」

 

俺はキレた。葉巻を投げ捨て、手加減をしながらもコータの両足を払ってマウントポジションを取ると、ESPADA Largeの刃を開いて彼の喉に押し付けた。

 

「ちょ、圭吾!」

 

「滝沢さん、やめて下さい!」

 

「お前らは黙ってろ。口で言っても分からない奴を再三再四諭す程俺も気は長くない。」

 

静香と孝が俺の暴挙に非難の声を上げるが、無視した。

「コータ、いや平野。いい加減に分かれ。戦うと言う事は只銃を扱えれば良いと言う事じゃない。先の先を考慮する事こそ、戦闘員に求められる事だ。銃は弾が無くなれば意味は無い、それ位分かってるだろう?」

 

それを聞いたコータは目を見開いた。まあ、ナイフの刃が喉に押し付けられているからそれ所じゃないだろうが。

 

「それに、緊急時は近接の方が早いんだぞ。今のこの状況が良い証拠だ。銃は抜き、構え、狙い、撃たなければならないが、ナイフや刀はブラスチェック、ジャミング、弾切れの心配も無い。この状況なら、お前が銃を俺に向けるより早く、俺はお前の喉掻っ捌けるんだ。総帥はインパクトの為に銃を使わなかっただけだよ。」

 

ナイフを閉じると、コータの手を掴んで立たせた。

 

「落ち着いたか?」

 

「はい・・・・・すいませんでした・・・・・」

 

「いや、俺もあんな真似して悪かった。」

 

落とした葉巻の灰を携帯灰皿に落とし、最後にもう一服深く吸い込むと、短くなった葉巻を揉み消して屋敷の中に戻った。この状況の歯痒さが、また俺の怒りと言う名の火に油を注いでいる。

 

「俺はどうすれば良い?」

 

当然誰も答えてくれない。最初は静香を守ってリカとの約束を果たせれば良いと思っていたが、俺もマイクロバスを捨ててマンションに向かった時以来、チームの一員となった。傭兵としての自分が、出て来てしまった。金の為に人を虐殺する自分が。誰でも良い、何でも良い、俺の怒りを収めてくれる奴はいないのか?

 

「あいつは・・・・」

 

そんな時、俺は偶々開いていたドアから見えた窓の外でバスに乗っていた紫藤一派の奴の一人が携帯を持っているのを見つけた。見つけた・・・・獲物を!!!!俺は窓を開け放ち、二階から飛び降りると、その生徒の上半身を衝撃吸収に使った。叫び声を上げる前に口を押さえる。馬乗りになってナイフを突き付けると、すぐ静かになった。手に握られた携帯を奪い取って耳に当てる。

 

『どうしたんですか?もしもし?』

 

この声は・・・・この時の俺の顔は誰にも見せられない程邪悪に歪んでいた。ポケットに入っていた音楽プレイヤーには録音機能がついている。スピーカーモードに切り替えた。

 

「よう。誰かと思えば黒のピンストライプ着てた自分の身も守れない貧弱教師じゃないか。そっち側は随分と楽しそうだな、喘ぎ声が聞こえるぞ?車内乱交は楽しんでるのか?」

 

『おや、貴方はバスを皆さんに捨てさせた方ですか。生きていたんですね。』

 

平静を装ったつもりだろうが、声が震えてるぞ?

 

「心にも無い事ほざいてんじゃねーぞ、大根役者。警告しておく。もし、お前が屋敷に近付いて来る様な事があれば、殺す。俺はお前をぶっ殺しに行く。そのボロ車をお前らごとバラバラに吹き飛ばす。必ずだ。偵察に寄越したコイツはもう諦めろ。俺に見つかった時点でもう終わりだ。」

 

『別に構いはしませんよ。あなたがいる場所が安全だと言う事は分かったのですから、彼はもう用済みです。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。』

 

「ではそうさせてもらおう。」

 

通話を切ると、俺は携帯をソイツに返した。

 

「失せろ。」

 

「へ・・・・?」

 

「失せろと言っている。どうせおまえも殺す事になるが、お前だってまだ生きていたい。そうだろ?」

 

無言でソイツは頷いた。

 

「お前がここに来た事は誰にも言わない。五数えるうちに消えなければ殺すぞ。一。二。三。」

 

そいつは脱兎の如く駆け出して姿を消した。

 


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