学園黙示録〜転生者はプロの傭兵   作:i-pod男

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ようやくパソコンを返却してもらえました。間に入れるエピソードを忘れていたので、入れます。どうぞ。


無意味な会議

孝達は必要な物を集め終え、それをハンヴィーの中に運んだらしく、武器として使える金属バットやらの鈍器しか持っていない。耳打ちしながらの会話で武器や物資、まだ来ていない他のメンバーの所在を確認し終えると、あさみを紹介した。

 

「あの、中岡さん、父の事は聞いてませんか?宮本正って名前で、公安の係長なんです。何か知りませんか?」

 

「残念ながら、あさ、いえ、本官は交通課に配属されて日が浅いので、公安の事までは・・・・・」

 

「そうですか・・・・」

 

しょんぼりとした麗の肩を孝が抱いて笑いかけた。まあ、死んだと決まった訳じゃないが生存率は極めて低いだろう。生きてる事を祈るしか無いな。

 

「お役に立てなくてすいません。」

 

「いや、新米とは言え現役の警察官がいるってだけでも十分だ。お前一人、じゃ無いよな?」

 

「はい、松島先輩が応援を呼びに出ました。自分よりも経験豊富なので、絶対に戻ってきます!」

 

「おい、婦警さん!今日の会議始めるぞ!」

 

「あ、はいはいはい、今行きます!」

 

「俺も行っておこう。コータ、俺と来てくれ。孝はここに残って皆を待て。いざとなったら・・・・」

 

言わんとする事が分かったのか、孝は表情が険しくなり、バットを握り直すと、頷いた。

 

「滝沢さん、何で僕を・・・・?」

 

「この会議には何の意味も無い。だが先客達はそれを分かっていない。だから・・・・」

 

コータに何をすれば良いか耳打ちした。

 

「成る程。面白いっすね!」

 

おいおい、コータ、凶悪面を引っ込めろ。指名手配のポスターに乗せたらチビは泣くぞ?

 

「だろ?」

 

俺はあさみの後について行き、考え始めた。コイツらは一心会みたいに統治されていない。俺みたいな、いや予測不能であるから俺よりも危険だ。下手をすればここにいる全員が殺されかねない。非常口が使えるかどうか見ておくべきだったな。完全にバリケードがどこもかしこも張ってあったら、俺達は十中八九ここで死ぬ。一応聞いておくか。

 

「あさみ、ここの出入り口に全部バリケードが張ってあるのか?」

 

「一階に複数ある非常口と、後は屋上への階段以外は全部塞いであります。脱出する為の通路が無いと行けませんから。」

 

「そうか。」

 

成る程、メンタル弱くても、ある程度の常識は持ち合わせてると言う事か。完全に駄目って訳じゃ無さそうだな。お、来た来た。ここか。えーと、天辺ハゲの冴えない中年、スキンヘッドのメガネ、老夫婦、頭がイッちまってる刃物を持ったガキ、体育座りで泣いてるガキ、禿げたおっさん、そして若作りしてる三十路過ぎの女。これは絶対助からんな。

 

「助けはすぐにくるっつってたけどよお、外にいる糞共は後から後から湧いて来やがる。その上電力も携帯も使えなくなっちまってる!」

 

「わ、私は別にどうなろうが構わない。妻の週間的な輸血が近いんだ、診療所に行けないかね?」

 

「私もどうにか会社に連絡を取らなければならない!」

 

「あの、でも、えっと、せんぱ・・・松島巡査がここに来るまで待つ様に言われました。だからあさ、いえ本官が自分にやれるだけの事は」

 

「あんたには、俺達を囚人みたくここに閉じ込める権利なんか無い!俺達を守るのが仕事だろう!!」

 

溝は深まるばかりか。マズいな・・・・コイツらは俺達みたいに目的があって行動している集団じゃない。只警察の権力に縋り付いて助かろうとしているだけの、自分で何もしようとしない腰抜けだ。高城邸の避難民と何も変わらない。しかたないな。泣きべそ巡査を少し手伝ってやるか。

 

「だったら出て行け。自分が囚人だと思うなら、非常口は開いてる。残るのも出るのも、お宅らの自由だ。彼女はお前らを救おうと頑張ってる。一人でだ。なのにお前らは彼女に何の助けも寄越さず、自分の手で何かしようとも思わない。恩知らずのお前らよりはよっぽどマシな人間だ。確かに、警察にはこの状況を打破する起死回生の策は無い。だが、彼女を責めても状況が好転する訳でもない。良い大人ならそれ位分かるだろ?」

 

「後から来ておいて、何知った風な口聞いてんのよ!?」

 

「黙ってろ、年増。知った風な口じゃない、知ってるから言ってるんだ。俺も元警察官だし、組織としての内部構造、そしてそのシステム内で出来る事と出来ない事ぐらい分かっている。彼女がやって来た事は、どう見てもお前らの為だ。恨み言を言う筋合いは無いぞ?」

 

「あのーー・・・・」

 

張り詰めた空気をぶち壊す様な声で今しがた現れたかの様に振る舞うコータ。

 

「今大事な会議の途中だと言う事が分からんのかね、君は?!」

 

天辺はげが眼鏡を押し上げてコータを睨む。やはりまだ自分は『大人』、コータは『子供』であると言う認識があるんだな。迷惑な事だ。

 

「いやいや、婦警さんが落とした物を届けに来ようと思ったんですよ〜」

 

余りにも慇懃無礼な言葉遣いとその白々しいトーンで、俺は笑わずにいるのが非常に困難だった。そしてコータは、ここに向かう途中こっそり後ろに回した手で渡しておいたエアウェイトをあさみに差し出した。

 

「落とし物?私が?」

 

「はい、これです。これ、警察官が使ってる銃ですよね?」

 

全員に見える様に両手でそれを差し出した。途端に全員の顔色が変わる。

 

「ああああああ!はい、そう、そうです!スミス&ウェッソンのM-37エアウェイトです!県警に支給されてる銃ですよ!」

 

目尻に涙を浮かべたあさみの顔が突然パァっと明るくなった。

 

「うぉお!すげえ!外にいるクソッタレ共ぶち殺せるじゃねえか!」

 

ハゲメガネ、黙ってろ。一々暑苦しいんだよ。

 

「でも、銃声がなったら<奴ら>が全員音源に向かってきますよね?もし銃を撃たなければならない状況になれば、全員が危険に晒されます。警察の銃は警察官が持つべきですよね?」

 

ニタリとしたり顔で笑うコータは悪の策士にしか見えない。マジで邪悪過ぎるぞ、お前の笑い方は。映画に出たらオスカー級だぜ。

 

「それでは、貴方の判断に任せてこれをお預けします!」

 

コータは最後に敬礼をして、立ち去った。

 

「はい!ご協力感謝いたします!」

 

あさみも涙を拭き、敬礼を立ち去るコータの背中に返した。よしと。これでまあ一時的とはいえ、場は収まった。小室達の所に戻って一部始終を説明すると、小室が怪訝そうな顔を俺に向けた。

 

「本当に銃を渡して良かったんですか?彼女が取れる以上の責任を持つ事になるかもしれないのに。それに万一奪われたら・・・」

 

「それは無い。あそこにいる馬鹿共はまだ今までの生活に戻れると信じ切っている。<奴ら>を殺せば殺人で逮捕されると思って、行動する事を躊躇している。汚れ仕事は必要とあらば射殺の許可が下りる警察に任せるだろう。」

 

「何年も前、イギリス軍の曹長はマスケットじゃなく槍を使った。現代でも、戦場で軍の高官は比較的威力が弱いハンドガンを使う。何故だと思う?」

 

「うーーんと・・・・・自衛の為、かな?」

 

外れだ、孝。

 

「部隊の結束を維持する為さ。命令に逆らう兵士を刺し殺すか、撃ち殺せる立ち場にあると言う事を理解させる為に。今の彼女の立ち場を考えてみてよ。この方がずっと良い。」

 

「そうは思えないわね。」

 

沙耶が普段着姿で腕組みしながらコータを睨み付ける。お、麗と冴子も着替えて戻って来たな。よし。

 

「あの連中、もう気が立ってるんでしょ?そもそも、彼女があの銃を扱えるかどうかも分かってるの?」

 

「彼女は警察官だ、適切な訓練は受けてる筈だぞ?扱えるかどうかは問題じゃない。」

 

「そうですよ!」

 

「でも、もしあいつらが彼女が撃たないと思っていたら・・・・」

 

「それも可能性の一つとして挙げられるわね。誰かに会ったその都度ソイツを助けられる訳じゃないんだから。」

 

「ちょっと待って、静香先生は?毒島先輩が一緒に行動してる筈でしたよね?」

 

「トイレに行ってすぐ戻ると言っていたが・・・・」

 

その時、叫び声が聞こえた。声がした方向に向かって全力で走り出すと、俺は両手にナイフを握り締めていた。トイレの近くにあったのは寝具のコーナー。何が起こってるのかは容易に想像出来た。頼むから間に合ってくれ・・・

 


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