学園黙示録〜転生者はプロの傭兵   作:i-pod男

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番外編その二です。


番外編#2:時は流れ・・・

あの地獄を生き抜いて十年近く時間が経った。荒廃した世界はようやく六、七割復興していた。電気、水道、ガスも、一時的にしか使えないが、回復した。とは言え、世界が受けたダメージは壊滅的な物だった。数十億の人口が一気に減ってしまったのだ。様々な面のインフラが破壊され、EMPの所為で石器時代に一時的に逆戻りしたとは言え、俺の予想では少なくとも二十年は掛かると思っていた物が半分の時間でここまで来るとは思わなかった。一番驚いたのが、俺やリカ、そして静香が住んでいるマンションがなんと無傷で残っていると言う事だ。通帳やパスポートなどの重要な私物までもがしっかりと保管されたままで残されている。

 

「驚いたな。」

 

「そうね。悪臭もそこまで酷くないわ。」

 

「まあ、あの時、出る前に生モノは全部食っちまったからな。」

 

今の俺達は、SATの制服を着ていた。SAT隊員には当然ながら出動時に制服の着用を識別の為に義務づけられている。だが、俺からすれば一部は大して要らない。精々必要になるのはアサルトスーツ、タクティカル・防弾ベスト、ヘルメット、手袋、無線機、予備弾、そしてメインとサイドアーム程度だ。もし戦場ならおよそ二十キロ前後はある装備を持ち歩かなきゃ行けないがここはもう戦場じゃない。寧ろドイツ連邦警察の特殊部隊GSG9みたいに必要な装備だけを持って行くべきだ。簡易手錠なんて使う事はほぼ間違い無くない。

 

「静香も忙しいわね、相変わらず。保険医どころか本当の医者並みの知識を今は持ってるんだから。」

 

静香は避難してからずっと<奴ら>に噛まれていない普通の怪我や病気の治療、体が不自由な奴、子持ちの奴の介護や包帯の取り替えなどをする日々に追われていた。衛生兵や軍医など医療経験が周りに比べると格段に経験が浅い中、努力だけで今はどこに出しても恥ずかしくない立派な医者になっている。

 

「ああ。本人は俺達に会えないってぼやいていたがな。」

 

サングラスを頭の上に乗っけると、ベランダに続く窓を開けて空気を入れ替えた。幾ら放って置かれたままとは言え、空気が埃で淀んでカビやら何やらが侵食していて不快極まりない。肩にスリングで引っ掛けてあるH&K HK417アサルトライフルを外した。

 

「・・・・・・にしても、長かったな。俺らももう三十路過ぎて、四十歳近くのオッサンオバサンになっちまったよ。はあ、孝は麗や沙耶と、コータはあさみとよろしくやってるし。冴子も早く帰って来ねえかなー。あいつがいると料理が捗るんだが。冷蔵庫も空だしよお。」

 

「あのコ達も治安維持とその部隊訓練で忙しく働いてるんだから文句言わないの。」

 

俺と一緒に簡単な片付けと掃除をしていたリカがブッシュマスターACRのストックで俺の脇腹を小突いた。

 

「いてっ。」

 

「でも、確かにレーションの質は良いとは言えないわね。お腹が膨れるだけであんまり美味しくないもの。」

 

治安維持部隊と言うのは、世界各国の警察組織及び軍が民間人と手を組んで作った物だ。最初は馬鹿な事をして人が死にかけた奴も死んでしまったも多々いた。だが、やがてそんな命知らずな事をする人間は少なくなり、どんどん様になって行く。中でも突出した能力を持っているのが俺達の仲間だ。孝はやはり隠れた素質と言う物があったらしく、リーダーとしての頭角を現し、『切り込み隊長』とすら呼ばれる様になった。格闘等も俺が鍛えてやったお陰で負け無しだ。麗も両親に負けず劣らずの槍の名手となり、『二代目PSの貴理子』と呼ばれたり呼ばれなかったり。コータはと言うと、リカや宮本係長、そして俺の口添えもあってSATには仮入隊と言う形で行動を共にしている。<奴ら>の生き残りを見つけるその都度トリガーハッピーになってしまうのが玉に傷だが。沙耶は奇跡的に脱出に成功した両親や一心会の残党と共に参謀のポジションに収まった。

 

「あ”ー、疲れた。」

 

「そう言う所がジジ臭いのよ、圭吾?お互い四十近くだとは言っても全然そう見えないでしょ?」

 

「そう言ってくれる人間がいるのがせめてもの救いだ。年を食うのは嫌なんだよ。分かるだろう、俺がそう言う理由。年齢と共に、精神も肉体も徐々に衰えてしまう。衰えとは勘が鈍ると言う事。勘が鈍れば、死に繋がる。」

 

「ええ、分かってるわ。十年以上もの間私達はその自然の摂理から完全に外れたモノと戦い続けたけど、何も変わらないわ。人は世に生まれ、歳を取り、子孫を残し、やがて死ぬ。」

 

くっ、ここまで言われるとちょっとなあ。そうに違いないんだけどよお、あーーーーー、納得行かねーーーー。

 

「だよなあ・・・・願わくばこの平和が生きている間は続きます様に、としか言えない。人生にスリルは大事だとは思うが、あれは度が過ぎる。」

 

「同感・・・・あんなの、ゲームの中で十分。」

 

ソファーに腰を下ろした俺達は笑い合うと、久々にキスを交わした。

 

「・・・・・禁煙、するべきかしらね?」

 

どうやらキスの味がお気に召さないらしい。まあずっと葉巻吸ってりゃそうもなるわな。

 

「好きな物をやめるのは大変だぞ?まあ、俺は吸う頻度がホント低いからまだ大丈夫だが。葉巻の代わりにガムとかどうだ、眠気覚ましにも使えるし、顎も鍛えられる。脳の刺激はボケ対策にもなるらしいぞ?」

 

「なぁ〜〜にを言いたいのかしらぁ〜〜?」

 

俺の足の上に跨がると、両肩を強く掴んで来た。これが結構痛い。四十キロ以上の握力はやはりキツいな。それに加え軽量装備と言ってもそこそこ重い。

 

「老後の為って奴さ。分かるだろ?特に静香なんか天然ボケ過ぎるからその内自分の名前まで忘れちまわないか心配になるんだ。あいつも四十近くとは思えないからな。」

 

『滝沢、何やってんだ、おい?』

 

「おお、片桐。元気か?」

 

『まあな。係長のお達しだ、そろそろ戻って来いってよ。塒、大丈夫なんだろ?だったら配給品のビール一本奢ってくれ。』

 

「ああ、分かったよ。ちょっとな、昔を懐かしんでたのさ。リカ、行くか。」

 

「うん。」

 

懐に入れる写真が、もう一枚増えた。リカや静香とのツーショット、三人で撮影した写真、そして今まで生き残る為に力を貸してくれた孝達全員が入った集合写真。少し色褪せてはいるが、くっきりと全員が写っている。

「まだ持ってたの、それ?」

 

「お守りって訳じゃないんだが、側にある方が落ち着くのさ。」

 

俺は小さく微笑むと、その写真を戻し、リカと一緒にメゾネットを後にした。

 


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