G・Iの子 作:めーび臼
ゲームの外へ
「父さんたちは、もうゲームの世界から出るの諦めたから」
両親にこんなこと言われた息子だったら、日本ではどういう反応をするのが一般的なんだろう。
ひと昔前だったら普通にグレて不良になっていたかもしれない。グレタ自分の姿を想像すると乾いた笑いが出そうになるが、両親の一言がこの世界では妙に現実的な訳で。
「そっかしょうがないね」
って返すのが俺の精一杯だった。
元日本のサラリーマンとして、この奇妙な漫画の世界に世界に転生して11年。日本だったら小学5年生くらいになるだろう。
産まれてから今までのその間、この世界がハンター×ハンターの世界である事を知り、そして、グリードアイランドの中で育って来た。
グリードアイランドと言うのは、ハンター×ハンターの世界に出て来る多数の念能力者専用ゲームである。
世界一危ないゲームと言われる所以は、人間の超越者である念能力者たちが命を懸けてゲームの中のカードを奪い合うシステムになっている。
発売の最初期に運よくグリードアイランドを手に入れた両親だったがゲームを攻略するどころか脱出する実力もないらしく(本人談)、今ではこの魔法都市マサドラでバーのマスターとして働いている。
そんな両親だったが、グリードアイランドに入れる超越者の念能力者為である。子供である俺にも念能力の基礎をみっちりと叩きこんでくれた。
そして10歳になった今日、両親から言われたのがあの冒頭の言葉である。
なんでも、「通行チケット」のカードが手に入ったらしくG・Iの世界から出てリアルな世界を見て来いというおっ達しを頂いた訳で。
10歳の子供に両親が言うことじゃ絶対ないって思うのだが、そこは念能力者らしくどっかに頭のネジを置き忘れて来た俺の親たちだった。
有無を言わさずって感じで家を出て、今、俺の目の前にはUFOみたいなヘルメットの横からピョンと二束の髪が左右に飛び出した可愛らしい顔だちの女性が立って居る。
「初めましてジバルくん。私はエレナと申します」
「あ。エレナさんとは初めましてですね」
「そうですね。とても大きくなりましたね」
原作知識だが、エレナさんはこのグリードアイランドのシステムの管理をするゲームマスターの一人だ。
当然のように彼女は俺が産まれた事も、このゲームの中で育った事も知っているようだ。
「フョンダとショコラの間に生まれた子とは思えないですね。私にあったのにあまり驚いていないようですし」
「前にゲームマスターのお1人とはお会いしてますから」
そういうと、エレナさんは何かを思い出してフフフって笑う。。多分、彼女は俺が漫画以外で初めて出会ったあの人の事を思い出しているのだろう。
あれは俺がこの世界に転生して3年目。
あの時の俺は元日本人としての記憶が邪魔して、この世界の両親を両親と思えず孤独を感じて一人でいる事が多かった。
そんな時に現れたのがジン=フリークスだった。
彼はちょっとムっとした顔で俺に真剣に訪ねて来るのだ。
「お前、俺たちが作ったゲームが楽しくないのか?」って。
第一声がそれだったから、原作のそれもジンに会えた嬉さより先に、こいつ頭沸いてんじゃないのかって思っちゃったよ。
だって、そうでしょ。3歳の子供が殺人が許容された世界で何を楽しむってんだ。ましてや、俺はプレイヤーが皆持ってる『カード』や『バインダー』を使う事が出来なかったんだから、尚更だ。
でも、その一声をキッカケにジンさんの原作では語られなかった冒険譚や笑顔を聞き見て、やっとここが漫画の中の虚構の世界じゃないって思う事が出来た。
今、思い出せば俺は意識の中で一枚のフィルタごしにしかこの世界を見れていなかったんだろう。
ジンさんの感情いが伝わってくるのを感じて、フィルタごしではない世界を知り、ジバルと言う日本人でない自分が産まれたのだと感じた。
「あ。そうだ。ジンさんと約束したこれなんですけど、エレナさんに渡せばいいんですか?」
俺は自分の指から縄文土器の文様みたいなデザインの指輪を外して、エレナさんの前に差し出す。
「はい。大丈夫です。私が受け取りますよ。ジンとの約束は覚えているみたいですね」
俺は、左手の掌からバインダーを取り出してその中に収納されていた神字で縁取りされた1枚の紙を取り出す。
それは、俺とジンさんの交わした契約の証だ。その契約書を見ながら俺は答える。
「ジンさんとの契約では、この世界から俺が出る時にジンさんの依頼を一つ受ける事になってます。ジンさんから何か聞いていますか?」
俺の言葉にエレナさんは一度頷くと、乗っている半球状の乗り物の中から1枚の手紙を取り出した。
「では、ジンからの伝言をお伝えしますね。よお!ジバル。無事に生きてこのグリードアイランドを出る実力を身に着ける事が出来たんだな。それでだな。お前と約束した依頼の件なんだがな、俺も色々考えた。考えた結果、その中で一番難しい物を選ぶ事にしたぜ!」
エレナさんの声だけど、俺にはたった一度、会っただけのジンさんの声がそこにいるみたいに聞こえて来た。
きっと、ジンさんはこの手紙を書いている時は満面の笑みだったに違いない。
その笑顔を思い出して笑いそうになるが、今は真剣にジンさんの依頼を聞く時である、無理に笑わない様に我慢した顔が面白かったのかエレナさんにクスクスと笑われてしまった。
「すみません。ジンの手紙の続きを読みますね」
弛緩した空気を元に戻すように2・3回咳払いしたエレナさんはまた手紙に目線を落とす。
それに合わせて、俺も背中に力を入れて姿勢を正して、聞く態勢になる。
「ジバル、お前の依頼はだな。この世界を世界で一番楽しめ!っだ」
俺は依頼の曖昧さに思わずキョトンとしてしまった。この依頼には全く答えがないじゃないか。確かに契約は依頼を受ける事で、成否の結果は契約には含まれてないけど。
「いいかよく聞けよ。これはめちゃめちゃ難しいぞ!外の世界にも見たくない物はいっぱいあるしな。だけどな、それ以上にでっかい世界とまだ誰も見た事がないような景色がたくさんあるぞ。だから、お前はそんな世界を世界で一番楽しんで俺にいつか俺にも教えてくれよ」
俺はジンさんの伝言を聞いて、精神年齢はもう中年を超えて来ているかもしれないのに、体と同じ10歳の子供みたいにはしゃいで思いっきり笑ってしまった。
「あぁあと、お前は俺たちが作ったゲームの中で育ったんだ。だからな。えっとな……まぁなんと言うか、俺は外の世界に居るからよ。会えるのを楽しみにしてるぜ、息子よ!」
俺は息子って単語に思わずハッとしてしまった。俺がジンさんたちの息子?エレナさんを見ると、聖母のように慈愛の満ちた表情で笑っていた。
「以上がジンからジバルくんへの伝言です」
俺はまだ言葉が出なかった。エレナさんとは初めて会ったし、ジンさんにしても一度しか会った事がないのに。そんな俺を息子って読んでくれるのか。思わず胸の奥がジーンと熱くなってくるのを感じる。
「名残惜しいですけど、時間がありません。ごめんなさい。これからの事を説明させてもらうわね」
「あ。はい」
思わず、出かかった鼻水を服の袖でぐいって拭うと、エレナさんを見上げる。
「ジバルくんは、この世界で産まれたから外に帰るポイントが決まってないの。言ってる意味分かる?」
あ。そうだよな。俺はこのゲームの中で生まれ育った為に帰る場所がないのか。
あ、あれ?ひょっとして俺ってあの原作知識にある悪名高い流星街の捨て子と同じ立場なんじゃないだろうか?
「そんなに悲しそうな顔をしないで下さい。貴方がこのゲームの中で育った子としては初めて外に出る訳なので、今回は特別に私が好きな場所にお送りします!」
「え!?本当ですか!!」
俺は意気込んでマサドラから出て来たのに、もしかして何も出来ずに出戻るというなんとも閉まらない結末が頭に過ってしけた顔になった。
その表情がエレナさんの救いの一言を聞いただけで、10歳のこどもらしくぱぁっと笑顔になる。
「はい。ジバルくん行きたい場所はございますか?」
そうだなぁ。エレナさんの話を聞いて、俺は顎に左手を当てて考え込む。
はっきり言って原作の知識があるものの今、ゴンたちがどこにいるのかも、何歳でなにやってるのかもわからない。
それに身分どころか自分が世界で何物かも証明出来ない状況だと、俺の知識ではハンターライセンスを取るくらいしか思いつかないがそれがどこで開催されているのかも分からない。
「あの天空闘技場ってありますよね?」
「はい、ございます」
「なら。そこまでお願いできますか?」
「分かりました。また会えるのを楽しみにしてます。では、よい旅を」
そう言うと、エレナさんは俺の見慣れないカードを一枚取り出すと微笑みを浮かべてカード名を呟く。
その瞬間に俺の視界は真っ白な光に包まれていた。