G・Iの子   作:めーび臼

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大道芸人と流言

 

 「なんで俺がこんな格好をしないといけないんだ……」

 

 ハンゾーの悲哀の篭った呟きは、眼の前に集まった観客たちの歓声に搔き消されて俺以外の誰にも聞こえていない。

 

 きっとハンゾーは情けない表情をしているだろうけど、白塗りされた上に赤い唇と涙の模様の道化師みたいな化粧をされては、その表情は誰にも分からない。

 

 そのピエロになったハンゾーは器用に愛用の短剣をジャグリングして、ハンゾーの悲哀とは真逆に観客を大いに喜ばせ沸かせている。

 

 ハンゾーを見世物にして、俺は何をしているかって?

 

 勿論俺だってハンゾー一人に働かせている訳ではない。

 

 「いいぞ!小僧!まるで猿みたいなやつだな!」

 

 そう。俺はお猿さんみたいに、手に持ったハット型の帽子でハンゾーのジャグリングで煽ったお客さんから投げられる小銭を側転したり前宙したりしながら、キャッチしている。

 

 所謂、盛り上げに徹して、客の財布から金を絞り出させているのだ。

 

 まぁ二人が何をしているかと言うと大道芸ってやつだ。

 

 ヨークシンにほど近いこの街はドリームオークションの賑わいの余波を受けて、ヨークシンへ行く人々の宿泊地として賑わっている。

 

 その為に広場で大道芸をして集まってくれたお客さんも結構も気前がいい。

 

 うへぇ。いいぞ。いいぞ。

 

 俺はハットに集まる小銭たちに顔がにやけて、本来の目的を忘れそうになってしまう。

 

 このまま修羅の世界で生きて行くよりも、大道芸人として生きていくのも一興かもしれない。

 

 町から街へ街から町へ、旅を続けて行けば美味い物や知らない景色が見られるなぁ。なんて。

 

 まぁお供がハンゾーってのは頂けないな。

 

 やっぱり一緒に旅するならボンキュボンなナイスバデーな美女がいいよね。美女でバニーなお姉さんをアシスタントにしてってててて!

 

 視界の中には銀に煌めく小銭たち。だが、その銀のシャワーの間にオーラで包まれた鉛色の物体が飛んで来るのを確認して、慌ててハットを持ってない左手にオーラを纏わせて人差し指と中指で挟んで掴む。

 

 こ、このニャロー!!

 

 短剣を左手に飛んで来た方を見れば、ハンゾーがジャグリングしながらも頭から湯気が出そうなくらいツルッパゲを真っ赤にして怒っている。

 

 真っ赤なハンゾーに俺は右手で小銭を拾いながら掴んだナイフを投げ返す。、ハンゾーはジャグリングしながら余裕で掴んでそのでっかく描かれた唇を歪ませて化粧の所為で不気味な顔になる。

 

 おいおい。やってくれんじゃないか。

 

 俺が左手で手招きするようにクイクイってどや顔でジェスチャーしてやれば、不気味なピエロ面が更に歪んで挑発に乗ったハンゾーが手首の動きだけでナイフを大道芸のレベルじゃないスピードで投げ返す。

 

 俺は飛んで来たナイフの腹を掬い上げるように小突いて真上に打ち上げ、眼の前に落ちて来たナイフをそのまま右足で蹴りつけてお返ししてやる。

 

 お前が投げた短剣なんか、こんな簡単に返せるんだぞって意味を込めた俺の動作にハンゾーは更に維持になって短剣を投げ返す。

 

 そこからは、俺とハンゾーの意地の張り合いだ。

 

 俺は小銭をアクロバティックに拾いながら、ハンゾーは三本のナイフをジャグリングしながらのお互いの間をナイフが往復していく。

 

 俺たちがヒートアップするにしたがってお客さんのどよめきと舞う小銭の量が増えて行く。

 

 けど、止め時を見失ってる。意地になって熱くなった頭が少し冷静になれば、終わりが見えない事に気づく。

 

 どうしよう?いつまでもこんな事を続けていてもお客さんが飽きてしまうな。

 

 だから、俺はハンゾーにナイフを投げ返した後に指で額を叩いて、ここを狙うように合図する。

 

 ハンゾーも俺と同じように止め時を見失って、どうすんだお前って顔をしているが。

 

 ハンゾーが頷いたのを確認して、俺は躓いてしまったように見せかけて態勢を崩す。

 

 態勢を崩した俺になんの躊躇もなくハンゾーはナイフを投げつける。

 

 ここまでの旅である程度のお互いの実力の確認とその実力に対しての信頼関係が構築出来てるから、ハンゾーも躊躇はない。

 

 俺が転びかけているのを察知したお客さんの悲鳴が上がった。

 

 ナイフは俺の額に真っすぐ伸びて来る間に足にオーラを纏わせ後ろへ飛ぶ、ガリって音が口の中に響く。

 

 お客さんは俺にナイフが突き刺さって、後方に吹っ飛んだように見えてる筈だ。

 

 フフフ。俺は浮かんだ体の腹筋に力を込めて足を振り上げて後方宙返りを決めると、スタッと片膝を着き左手を上げてポーズを決めて着地する。

 

 そして、下を向いた顔を上げて咥えたナイフをお客さんに見せれば、周りに集まったお客さんたちの悲鳴が一転して爆発したみたいな歓声へと変り、俺とハンゾーを包み込んだ。

 

 「やり過ぎだろ……」

 

 ハンゾーの呟きを再度無視して、俺は集まったお客さんの前を走って称賛の言葉とお金を受け取りに行くのであった。

 

 

 

 

 「ほれほれ見てみろよハンゾー。これって10万ジェニーは稼いだんじゃないのか?」

 

 俺が銭勘定をしている横で呆れた視線を送って来るハンゾーにハットの中のお金様たちを見せつける。

 

 飛んで来た小銭の他にも手渡され紙幣もかなり混ざっている。他の芸人がどうかしらないが、大道芸人としては異例なくらい稼いだ自覚がある。

 

 まぁ芸人家業をこれで終わりにして。金を見てもノーリアクションのハンゾーに問いかける。

 

 「で、いいお客さんは居たか?」

 「あぁ。あそこにいる客は多分ヨークシンへ行く商人の1人だろ」

 

 見れば、腹がでっぷりした40過ぎで、頭の頭頂部がツルっと剥げている男がまだ立ち話しているお客さんの間にいるのを見つける。その男は結構な大荷物を持って俺たちのショーを見入っていた。

 

 確かにあの大荷物ならヨークシンに売りに行く商人の線が濃そうだな。

 

 俺とハンゾーは周りの観客に挨拶しながらその商人に近づく。

 

 「どうも。どうも。ありがとう!ありがとう!そこのお父さん凄い大荷物っすね」

 「あぁ。今からヨークシンの競売に参加するんだ」

 

 おおっしビンゴ!

 

 俺とハンゾーはチラリと目を合わせて心の中でニヤリと笑い合う。

 

 「そうなんですね!!いや~ヨークシンって凄い盛り上がりらしいですね」

 「まぁな。毎年大盛り上がりだよ。こんな一商人でも一攫千金の大金を稼ぐチャンスが転がってるんだからな」

 「いや~一度参加してみたいなぁ」

 「君たちならヨークシンでも大道芸でかなり稼げるよ。まぁあんまり派手に無許可でやってると怖いマフィアが出て来るかもしれないけどね。芸をする場所には気を付けた方がいい」

 

 これはいい流れだな。それにしてもマフィアか……。

 

 「そうそう。そう言えば、変な噂聞いたんですよ」

 「変な噂?」

 

 俺が少し声を潜めた為に目の前の禿げた商人は眉根を顰めて苦い顔を作り、脂ぎった顔を近づける。

 

 俺は、ちょっと顔を引きそうになったが、我慢して商人の耳元に口を寄せて言う。

 

 「えぇ。あのA級賞金首の幻影旅団がヨークシンを狙ってるって風の噂に聞きましてね」

 「旅団!?」

 

 幻影旅団の名前に驚き声を荒げる、商人は血の気が引いて顔を青くする。やっぱり旅団の名前は恐ろしい威力を含んでいるらしい。

 

 「そ、それが本当ならヨークシンが荒れるぞ」

 「まぁ俺たちも噂でしか聞かなかったんで本当かどうか分からないんですけど……」

 「あぁありがとう。噂でも耳に入ってるのと居ないのでは大分違うよ」

 「はい。もしあれでしたら、お仲間の商人の方にも確認した方がいいと思いますよ」

 「分かった。ありがとう!」

 「それじゃあ」

 

 俺は商人から離れて行って小声でハンゾーに話しかける。

 

 「上手くいったかな?」

 「ふ~む。80点ってとこだな。まぁ上手く流れるんじゃないのか」

 

 プロの評価が80点だったらまぁ上手くいくかな。この噂が流れれて世間に知られる事になれば、ブラックリストハンターがヨークシンに集まり蜘蛛の連中をヨークシンから散らす事が出来るかもしれない。

 

 蜘蛛が居なければ、ゴンくん達が危険に晒される可能性は遥かに低くなってくれるだろう。きっと。

 

 俺は心の内で上手く行くようにそっと祈るのだ。

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