G・Iの子 作:めーび臼
ジバルたちが幻影旅団の噂を流してから一週間後のヨークシンシティー上空。
上から見下ろしたヨークシンシティーは、海に突き出したコンクリートの半島の上に無数の高層ビルが雑然の並んだ光景に地球に住む物が空から見下ろしたらアメリカ、ニューヨークのマンハッタンを思い出す風景だろう。
そこに、白とグリーンの鮫を連想させる二基のプロペラを翼に搭載した飛行船が空から近づいて来た。
その内部に居るのは、地方出身でありながら急速にマフィアンコミュニティー内で発言力を付けて来ているノストラードファミリーの面々とその護衛の念能力者たちだ。
そのヨークシンシティを見下ろしながら喋る三人の念能力者が飛行船の展望室に居た。
その三人の中の一人である小柄な奇形の女性であるセンリツが飛行船の内部のドアが開く音に振り向けば、青いクレリックみたいな民族衣装を身に纏った金髪の男が入って来る。
「帰って来たわ、クラピカ」
原作を読んでいる人なら主要キャラクターの一人クルタ族のクラピカはよくご存じだと思う。
幻影旅団に一族を皆殺しされたクラピカは、クルタ族の仇を討つために生きる復讐者である。
そのクラピカは三人がいる窓際にゆっくりと歩みよって、眼下に広がるヨークシンシティを見下ろした。
クラピカが眼下を見下ろす中、もみあげよ髭が鼻の下で繋がった厳つい見た目のバショウが呟く。
「さて俺も 済ませておこう 大と小 荒野にトイレはなかりけり」
「お下劣」
字余りの俳句を詠んだバショウとそれに冷たくツッコむヴェーゼの会話が流れる中でクラピカは自分の心の中の復讐の刃が震えるのを必死に押し込めていた。
その様子を心音で相手の感情を読み取るセンリツ気づき、チラリと盗み見る。
クラピカは、ここヨークシンに蜘蛛が来る事を確信していた。
ここヨークシンが彼に取って蜘蛛を殺せる狩場になるか否かは、まだ確定してない未来である。
飛行船から降りたノストラードファミリー一行は、飛行場から高層マンションが立ち並ぶ都心へと移動する。
移動するバショウが運転する車中で、クラピカは流れる荒野の景色を見ながら一緒に乗り合わせた二人の会話を聞いている。
「凄腕の占い師だとよあの子は」
「おいおい。依頼主に対してあの子呼ばわりは止めてくれないか?」
助手席に乗り込んでいたクラピカは後部座席を占領している一人と一匹をチラリと見やる。
そこに居るのは、愛犬を連れたネオン=ノストラードの護衛の一人であるスクワラだ。
スクワラは額にホクロのある色黒の男で、今回はクラピカ達が来る前からヨークシンに先に入って情報収集を行っていた。
「あぁすまなかったな。それにしてもお嬢様の顧客は暗黒街の顔役も多いのだろう?大したもんだな」
「まぁな。ぶっちゃけノストラード家の生命線なんだよお嬢様は。あの子の占いがあったおかげで家の組はここまででかくなった」
「あぁだからはボスはネオン様を失う事を異常に恐れているってことだな」
「その通りだクラピカ。あんたらを雇うのに高い金を払っているんだ。しっかり頼むぜ」
スクワラは真っ白な大型犬を撫でながら、ファミリーの先輩としてクラピカたちに言う。
「まぁそれよりも先輩さんよ。ヨークシンの町の様子はどうだった?」
バショウの言葉にスクワラは愛犬を撫でるを止めて、膝の上で両手を組んで真剣な表情を作る。
「あぁそれなんだがな。一つ商人たちの間で妙な噂が飛び交ってる」
「妙な噂?」
「あぁ俺が調べた所。全く根拠がない噂話程度の事だ」
「なんだよ。もったいつけるなよ」
スクワラは一回ふ~っと長い溜息をついて息を整える。
「ヨークシンのオークションを幻影旅団が狙っている……そんな噂だよ」
蜘蛛の名前が出た途端にクラピカの心音が跳ね上がる。
確かにクラピカは確かな筋から蜘蛛がヨークシンに来る事を掴んでいたが、蜘蛛の噂が商人と言う表の人間に流れて居る事が信じられなかった。
「スクワラ。出所は掴んでいるのか?」
「おいおい。そんな怖い顔するなよ、クラピカ」
「あぁすまん。幻影旅団と言ったら蜘蛛と呼ばれるA級の賞金首の筈だ」
「まぁな。流石にマフィアンコミュニティーに喧嘩を売るような事はしないと思うが、かなり危険な連中だと言われているな」
「マフィアンコミニティーの対応はどうなってる?」
「いつもより厳重な警備になってるよ。それとな、ブラックリストハンターみたいな念能力者たちがヨークシンの町に近郊から噂を聞いて、懸賞金目当てに集まって来てるな」
「そりゃ安心だな。流石に蜘蛛の連中もそうそうバカなマネは出来まいて!」
そう言ってバショウは運転しながら大声で笑うが、クラピカの顔に笑顔は全くなく逆に能面のように感情が消えていた。
ヨークシンシティーのホテル。
そこにノストラードファミリーの念能力者たち総勢9名が暗い部屋の中に集まっている。
面々の前にはプロジェクターからの光が投射された壁に今回ノストラードファミリーが狙うべき品々の画像がスクロールされて行き、その一つ一つを彼らのリーダーであるダルツォルネが説明して行く。
「クルタ族の眼球。通称緋の目。以上、三つだ。今夜九時の競売にはミイラが出品される。我々は競売、監視、護衛と三方に分かれて事に当たる。だが、」
そこでリーダーのダルツォルネ一旦言葉を区切った。
「だが、そこを何物かが襲うと言う有力なタレコミが入った。それに加えて一つスクワラが調査した結果、根拠のない噂だが幻影旅団、通称蜘蛛がこの街のオークションに出品される品を狙っていると言う」
ダルツォルネの言葉に全員が息を飲む。
「ボスは競売には連れては行けない。だから、俺はトッチーノ、イワレンコフ、ヴェーゼで競売を参加させる事を考えていたんだが……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺とイワレンコフはともかくヴェーゼは戦闘向きじゃないぜ。蜘蛛相手じゃ」
ピューっとトッチーノのイタリア人っぽい男前な発言にバショウが口笛を鳴らして茶化すと、茶化されたトッチーノは目つきを鋭くして睨みバショウを黙らせる。
バショウも空気を読んで、それ以上は腕を組んだまま何も言わない。
「確かにヴェーゼの念は口を割らせる事には有効だが、直接の戦闘能力は低い」
「そうね。旅団みたいな強盗に私の念では頼りないかも」
ヴェーゼの念能力『インスタント・ラヴァー(180分の恋奴隷)』は唇を奪った相手を凡そ三時間の間、どんな命令でも喜んで従うどMの下僕にする能力の為に接近してキスをしないと効力を発揮できない。
「それなら、私がやろう」
「ちょっとクラピカ!」
具現化した鎖をジャラリと鳴らしてクラピカが手を上げるが、センリツがクラピカの心音を読み取って不安に思った為に止める。
「クラピカ。本当に良いのか?そこは死地になるかもしれないんだぞ?」
「構わない。必ずネオン様の目的の物を競売で落として来よう」
「だめよ。貴方冷静じゃないわ」
「私は冷静だ」
「だって、貴方は……待っていつの間にかこの部屋に心音が二つ増えてる……」
クラピカを止める為に再度クラピカの心音を聞こうとしたセンリツの言葉に対して、ネオンの護衛団の反応は早かった。
「だれだ!!!?」
ダルツォルネと面々が警戒して構えた時にプロジェクターの映像を鮮明に移す為に暗くしていた部屋の明りが、護衛団の誰でもない者によってスイッチを押されて明るくなる。
「俺たちの絶(ぜつ)に全く反応出来ないようじゃ、無駄死にがいいとこですね」
甲高い子供特有の声の方向を全員が向く。そこにはダークグレイのスーツを身に纏ったハンゾー、そしてジバルの姿があった。ジバルは子供らしくないスーツ姿でかっこつけてポケットに手を突っ込んで壁により掛かっている。
ジバルの隣に立つハンゾーはなんで俺がって言う沈んだ表情で布の被った荷物を両手で持っている。
なんでここにハンゾーがいるかって事に疑問を持ったクラピカだが、ハンゾーに対し特に反応することなく身構えまま事態を見守る。
「お前ら何者だ?!」
二人が姿を現してからも警戒を解かない護衛団のバショウから問われたジバルは、スーツの内側に手を突っ込むと一枚の財布に仕舞えるくらいの紙を取り出して、周(しゅう)を用いて紙を強化してからダルツォルネに向かって投げる。
飛んで来た紙を慌ててオーラを操作して纏わせた右手で掴むダルツォルネを見てジバルは内心で溜息をついた。
オーラ操作の流(りゅう)が甘すぎる。
ジバルは心の内で酷評するが、ジバルはオーラ操作だけで言えば達人の域に手が届きそうなレベルだ。そのレベルをダルツォルネに求めるのは少々酷な事だろう。
「契約屋?ジバル=ストーン」
受け取った名刺に書かれた文字を読んで契約屋と言う聞きなれない肩書にダルツォルネは内心で首を傾げる。
「そ。俺は念能力で契約する契約屋だよ。今はゼンジファミリーに雇われてる」
「ゼンジファミリーだと?ここはノストラードファミリーの部屋だと分かって来ているのか?」
ゼンジと言うマフィアは急速に力を伸ばして来ているノストラードファミリーに対抗心を燃やしている、所謂、敵対組織の一つである。
そのゼンジの組織の人間がここノストラードファミリーに乗り込んでくるなど、命を取られても文句は言えない状況だが、当の二人は余裕の表情を崩す事はない。
「あぁ一つ言っとくと、俺たちは雇われているだけで構成員じゃない。それに十老頭のお1人に直接交渉してここに来ているから、そこんとこも忘れないでね」
ダルツォルネは目の前の子供の口から発せられる十老党と言う名詞に頭が痛くなった。
今は幻影旅団の件もあり、それだけでも頭が痛いのに更には十老頭などと言う超大物と繋がりを持つ生意気な口を聞く子供まで現れたのだ。
これならネオンの我儘に付き合ってる方が100倍はマシだとダルツォルネは思う。
「それで、契約屋の少年は何しに?」
名前を呼ばずに少年と言うクラピカの言葉にジバルはちょっとムっとした顔になるが、一々反論していたら時間が足りないと考える。
「ちょっと、貴方たちのお嬢様に占ってもらおうと思ってね」
「なんだと!?」
「あぁ無料(ただ)とは言わないよ。ハンゾー」
ジバルの余りにも傍若無人な態度に呆れから虚ろな瞳になって来ているハンゾーはジバルに言われた通りに手に持った荷物の掛けられた布を取る。
そのハンゾーの手の中にある荷物を見てジバルとハンゾー以外の全員が声を発する事が出来なかった。
スーツ姿のハンゾーが持っていたのは、先ほどプロジェクターが映し出した三つの内の一つに他ならなかった。
特にクラピカの反応は顕著で、目を見開き心音は今までにない速さで鼓動し始める。
ホルマリンの中に浮かぶ二つの眼球。そうその真っ赤に発色したそれは紛れもなく緋の目と謳われるクルタ族の瞳だった。