G・Iの子 作:めーび臼
「で、十老党の一人と知り合ったと……めちゃくちゃだ……」
壁に背中は預けたクラピカは呆れたようにこめかみを左手で揉みながらそう呟く。
あぁこいつはゴンたちの中で、緋の目と蜘蛛が絡まなければ一番常識的な奴だったな。
まぁ俺もジバルに連れまわされて間近で見ていないと、今のクラピカみたいに頭を抱えたくなっちまうよ。
「まぁどこまでがあの小僧の考えだったかなんてわからんがな」
「なんて子供だ。ゴンたち以上にめちゃくちゃな子供がいるなんて」
あいつの場合は自分がマトモだって思ってるところがまたあいつの厄介な所なんだけどな。
「それで、クラピカ?お前はどうする?」
「あぁここだけの話だが、蜘蛛は必ずオークション会場に現れる」
クラピカの確信を持った言葉に俺の片眉がピクッと反応する。
この町にはかなりの数の念能力者が流入して来ている筈だ。
いくら悪名高い幻影旅団と言えども、簡単に会場に近づけるとは思えない。
だが、クラピカの言葉には確固たる自信が伺えた。
「なぜ言い切れる」
俺はクラピカの目を見て問う。
目の色で嘘を伺う術を持つ俺にちょっとの事で嘘は通じない。完全に嘘を真実と思い込めるなら、まぁ分からんがな。
「あの子……ネオン=ノストラーダの占いは100%の確立で当たる」
「100%?」
いぶかし気に聞く俺にクラピカの瞳は微塵も揺らめかない。
「そういう念能力者だ。オーラ操作は出来ないが、発(はつ)のみが発現している。世間一般的に言えば超能力者と呼ばれる人種だよあれは」
「超能力者ね。確かに、稀にいると聞くが、それも自覚のない念能力者って訳か……」
超能力者の由来も念か……。
知れば知るほどに念と言う物の多様性には驚かされる。
念は戦闘に役立つ能力と言う訳でもないのは、ジバルの契約の能力で知っている。
ジバルの能力やネオンは戦いそのものを避けたり、暴力になる前に決めてしまう事さえ可能だろう。
全く、どこに念の罠が潜んでいるかも分からんと言う訳でもあるわけだ。
「ネオンの占いでオークションに参加する何人かのマフィアに死を予告する結果が出た」
「だが、蜘蛛が来るとは限らんだろう」
「…………」
全く……。その顔にはクラピカがネオン以外の情報源があるって言っているようなもんだろう。
その顔は奥歯を噛みしめ、その端正な顔を歪めている。
「あぁ。いい。その顔だけで分かったよ……」
「すまん」
「そんな顔するなよ!お前みたいなイケメンがそんな顔してたら、心配した女が集って来て大変な事になりそうだぜ」
俺がおちゃらけてそう言うと、微笑みと言うより苦笑をこっちに向ける。
まぁこっちの顔の方が苦虫を噛み潰したみたいな顔よりは、まだマシだな。
「フフ。相変わらずよく喋るなハンゾーは。我々ノストラードも今回は参加しない。なんとかネオンが欲しい物の一つはハンゾーたちのお陰で確保出来てはいるからな」
そうかノストラードは参加しないか。
ジバルの奴もあのオークションに参加するのを頑なに嫌がっていたし、ジバルも旅団の襲撃に確信があるんだろう。
「だが、我々も会場の外は見張る……勿論奴らに隙があれば私は……」
こいつが蜘蛛の話をする時はクルタ族特有の瞳が赤く灯る筈だが、今は黒いままだ。
おそらくコンタクトかなにかを付けているんだと思うんだが、赤く光る代わりにその目には暗い光がコンタクトごしに見えた気がした。
復讐者。
闘争の中に身を置いた俺も復讐の念に憑りつかれた者は数多く見てきたが……こいつにはゴンたちと縁を紡ぐ事が出来たんだ。
まだ引き返せると思うが、俺の口から言ってこいつには響かないだろうな。
そんな時に扉の中からこちらに近づく足音が聞こえた。
俺とクラピカはすっと黙る。
カチャリとした音がドアから鳴ると、見知った黒い髪が現れる。だが、その表情はいつも知っている笑顔でも、嫌に大人っぽい真剣な表情でもなかった。
「ジバル……どうした真っ青じゃねぇか!奥で何かされたか!?」
俺は仲間の尋常ではない様子に頭が冷え、体に自然に力が入るのを感じる。
「あ。待ってハンゾー違うんだ。ただちょっとな……」
ジバルの右手には強く握りしめられた紙がクシャクシャになっている。
「よくないのか?」
「あぁ。だが、オークションでじゃないと思う……こんな展開……」
ジバルが何か言おうとしたが、視界にクラピカが映って口を閉ざす。
俺もその視線を見て、ここでは言えない事だと感じて、それ以上は問いたださない事にした。
その代わりに、俺はクラピカにニカっと笑いかける。
「悪いなクラピカ!家のお子様は体調が優れんみたいだから、ここらで失礼させてもらう!またどっかでな!」
一言も発さないジバルはなにか考えているように眉根を顰めている。
また何か考えているんだろう。しかし、その顔はどこか焦っているように見える。
まぁここじゃ、まともに考える事は難しいだろう。
せめて、人も監視カメラもない安全な場所が今のジバルには必要だ。
そう考えた俺は、ジバルの肩に手を置いて廊下を歩くように促した。
「ハンゾー。君たちもまだこの街に?」
「あぁオークションが終わるまでは取りあえずな、そういう契約なんでな」
ジバルが十老党と契約した内容は公に出来ない事も多々ある。
この業突張りは、十老頭に自分の能力を結構高く売り込んだからな。
その代わりに自分の能力の契約で情報や行動を縛られているんだから、駆け引きとしてはどっこいって感じだったけどな。
契約がないとこの生意気な奴は、見張ってないとどこで何してるか分からんし、いつの間にかどっか行っちまうか分からん。
「そうか。蜘蛛には注意しろよ」
「あぁそっちもな」
俺とクラピカは別れの挨拶を交わして、ジバルの背中を押して廊下を歩き出す。
また厄介ごとな匂いがしやがる。
この空気は久しぶりだな。