G・Iの子   作:めーび臼

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幻影旅団

 

 「止めろ!殺さないでくれ!」

 

 電話ごしから聞こえる悲鳴に対してその男は眉も動かさずに飄々とした様子で廃材に座っている。

 

 「あ~なんだ。やっぱり噂の出所は分かんねぇ。商人とか大道芸人とか子供が噂してたとか、なんか色々あり過ぎてな。この短時間でヨークシン周辺で爆発的に広まってやがる」

 「そうか」

 「こいつは?」

 「生かすとく利点がないな」

 「あいよ」

 

 電話の向うで木霊する悲鳴とは対照的に電話ごしに会話する二人の男の声は淡々として、あまりにも悲鳴と不釣り合いだった。

 

 右手の親指で携帯電話の通話を切ったオールバックの男はボロボロに崩れた廃屋。屋内には、ステンドグラスから僅かな光が漏れ入るのみだ。

 

 オールバックの黒髪の下にある額には特徴的な逆十字の刺青。

 

 言わずと知れた、A級首の幻影旅団を束めるクロロ=ルシルフルその人だ。

 

 「団長。ハンターたちの所為で集まるのが皆少し遅れてるみたいだ」

 「あいつらなら、問題ないだろシャルナ―ク」

 「あいつらが殺して死ぬかよ。放っておいても日付が変わる頃までには来るさ」

 

 この廃屋の中にいるのは三人。

 

 オールバックの端正な顔立ちの団長クロロ=ルシルフル、中世的な顔立ちの茶髪の好青年がシャルナ―ク、そして、金髪のオールバックの眉のない長身の男がフィンクスである。

 

 結成当時からの二人は団長クロロの護衛として帯同してここヨークシンへ三人で訪れている。

 

 クロロは瓦礫の上からシャルナ―クに手にしていた携帯電話を投げ渡すと、廃屋の影に目を向ける。

 

 その視線につられて他の二人も視線を影に向ければ、影からスッとオレンジの髪の男が姿を現す。

 

 「や♪久しぶり♥」

 「ヒソカ。お前が一番乗りかよ」

 

 嫌そうな声でフィンクスが吐き捨てるように言うが、ヒソカは嫌味に全く気にしていないようだ。

 

 影から瓦礫が退けられて開いたフィンクスとシャルナ―クがいる空間へと歩みよるヒソカはいつもの涙と星を瞳の下に付けている。

 

 奇術師ヒソカは、天空闘技場で旅団員の一人である、念糸使いのマチからの伝言を聞いて約束の時間より少し遅れて到着した。

 

 しかし、同じ幻影旅団に所属しているもの同士ではあるが、シャルナ―クとフィンクスの身体には自然と力が入り警戒する。

 

 それは、この男の作り物めいた笑顔や本音を見せないその姿勢にある。

 

 現に彼は、幻影旅団の団長との殺し合いを望む戦闘狂である。当然と言えるだろう。

 

 警戒を露わにする二人を見てもヒソカは余裕綽綽な様子で口元に笑みを携えたまんまだ。

 

 「外は随分と賑やかな様子だったね♦」

 「あぁどこぞの誰かが要らない噂を流してくれたからね」

 「ふ~ん。じゃあ、来ても意味なかったかな?ね~団長♥」

 

 ヒソカのゾワリと身震いしてしまいそうな流し目にも、クロロは真っ向から受け止めて涼しい顔を崩さない。

 

 だが、その視線に対してクロロではなく、フィンクスが反応する。

 

 クロロを挑発するように禍々しいオーラを放つヒソカに、青筋を額に浮かべたフィンクスの我慢の限界は間近なのは誰の目から見ても明らかだ。

 

 「おい!ヒソカてめぇ!お前が俺たちの情報をながしたんじゃねぇのか?あぁ!」

 「ボクが?」

 

 ヒソカはフィンクスに問い詰められている状況であるにも関わらず、否定するでもなくて曖昧に答える。

 

 そのヒソカの答えにフィンクスの堪忍袋の緒は切れる。

 

 「もう我慢ならねぇ!てめえのその二ヤけた面は元々気に要らなかったんだ。今ここでぶっ殺してやるぜ!」

 「フィンクス!」

 「止めろ」

 

 団長のその声は一触即発のその空気の中でもよく通り、身体からオーラを滾らせる二人の動きをも止める。

 

 ヒソカはその言葉に両手の掌を上に向けて肩を竦ませる。

 

 「でもよ団長!」

 「ヒソカが噂を流したにしては、情報が曖昧過ぎる。俺たちを捕らえようというならもう少し賢いやり方があるさ」

 「でも団長。俺たちが襲撃するのは、俺たち旅団員しか知らないよ」

 

 シャルナ―クの問にクロロは、顎に手を当てて、少し考える。

 

 「今回、噂を流した奴らは何が目的だと思う?」

 「はぁ?!何って俺らがヨークシンに来るって噂でハンター集める為じゃねぇのかよ!」

 「だろ」

 

 フィンクスとクロロの会話を聞いていたシャルナ―クは何か思いついたように、ポンっと左手の上に右の拳を乗せる。

 

 「噂流した奴は、ヨークシンを襲わせたくないんだね」

 「そう。それに方法が他力本願過ぎる。恐らく、俺たちがヨークシンを襲う事を知っても、単独、もしくはそいつのグループでは対抗出来ないっ感じか」

 「はっクソ弱い野郎って事か」

 「まぁ、そいつは戦う力がないんだろうな。だが、そんな噂だけでマフィアが念能力者のハンターを雇い入れてるのは少し気になるな」

 「確かに」

 「噂を流した奴の思考は、ヒソカとはかけ離れ過ぎてる。ヒソカなら、そうだな。協力者は少数で確実に自分で戦える状況を作るとかそんな感じだな。違うか?」

 

 団長に目を向けられたヒソカは笑顔のままに肩を再度竦ませた。

 

 「そうね。団長の言う通りだと思うわ。マフィアはもっと明確な意思に従って動いてそうだわ。末端の人間には何にも知らされていないみたいだけど」

 「パク!それにコルトピも」

 

 シャルナ―クが現れた女性を見て喜びの声を上げた。

 

 パクと呼ばれた胸元がざっくり開いたスーツ風の洋服に身を包んだ鷲鼻の女性がパク=ノダ、そして、伸ばし放題の髪が床に着いてしまいそうな男がコルトピだ。

 

 「団長久しぶり」

 「あぁ」

 「団長から依頼されてた物は手に入ったわ」

 

 パク=ノダがクロロに報告すると、コルトピが懐から一本の鍵を取り出す。

 

 その鍵を見たクロロは、ふっと口元を緩め笑う。三人の会話を楽し気に聞いていたヒソカは瓦礫に座り、パクたちと話すクロロの推理を聞いてペロっと真っ赤な舌を出して舌なめずりする。

 

 ヒソカはゾワゾワと歓喜に身を震わせる。その顔は楽し気な笑顔の下で凶器的な笑みを内心で浮かべているだろう。

 

 彼の股間が怪しく光る幻視が見えそうだ。

 

 シャルナ―クとパク、そしてコルトピが何か話始める中、またこの廃屋に新たな足音が響く。

 

 その足音を隠そうともしない大胆な行動は敵対行動を取らないと言う意思表示ではなく、その人物がただそう言う事に関して無神経なだけだろう。

 

 「おう!団長着いたぜ!ちっと邪魔する野郎が多くてよ!時間に間に合わなかったぜ!」

 

 現れた大柄の男はまるで、獅子を擬人化したみたいに野性的な雰囲気を醸し出し、白い歯を見せて笑う。

 

 「着いたかウボォーギン」

 「あぁ団長!今回の獲物はなんだ?!」

 「ウボォー落ち着きなよ」

 

 シャルナ―クが毛皮をそのまま身に着けたような服装のウボォーギンを諫めが、ウボォーギンはギラついた目でクロロに向けたまま一切反らす事はない。

 

 その真っすぐな瞳に答えるようにクロロが立ち上がる。

 

 そのなんと言う事はない一つの動作だけで、ここに集まった、フィンクス、シャルナ―ク、パク=ノダ、コルトピ、そして、ヒソカの視線を集めてしまうカリスマがクロロ=ルシルフルにはあった。

 

 「まだ全員集まってないが、まぁいいだろう。予定とは違うが問題はない」

 

 彼の言葉はどこか凄みがあった。旅団の誰も言葉を発しないのがそのいい証拠だろう。

 

 「俺たちの目的はヨークシンのドリームオークション」

 

 「そして、そのオークションを取り仕切るマフィアの地下競売が明日開かれる」

 

 「俺たちが狙うのはその全部だ。地下競売のお宝丸ごと掻っ攫う」

 

 クロロ=ルシルフルが言葉を言い切った瞬間に廃屋に残ったガラス窓を割れんばかりに笑い声と言うには大きすぎる声が震わせた。

 

 その大声は、クロロ以外の旅団員たちが耳を塞ぐくらいの騒音だった。

 

 「怖いかウボォーギン?」

 「いいや嬉しいんだよぉ!嬉しくたまんねぇ!思わず身体が震えて声が出ちまった!」

 

 手で耳を塞いだシャルナ―クが少し困ったような表情で言う。

 

 「でも、団長それだと世の中のマフィア全て的に回す事になるよ」

 「関係ない。俺が許す」

 「邪魔する奴は♥」

 「殺せ。邪魔する奴は一人残らずな」

 

 それだけ命じると、クロロは団員たちに背を向けて歩き出す。

 

 クロロの背中の逆十字を見つめる幻影旅団の旅団員の顔はマフィアを敵に回す事を微塵も恐れていない、むしろ目標が定まり充足しているようにさえ見えた。

 

 ヨークシンドリームオークション、マフィアによる地下競売前日の夜はそれぞれの思いを乗せて更けていく。

 

 

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