G・Iの子 作:めーび臼
センリツがクラピカに駆け寄って行くが、それを気にしている訳にはいかない。
俺の流した噂の所為で、今この時もなんの罪もない人々がコルトピがコピーした飛行船によって命を落としているかもしれないのだ。
俺は、空から目を切って屋上の出口へ向く。そこには、俺が蹴飛ばしたクラピカが。
「待て!貴様どこへ行く気だ」
腹を押えたクラピカが屋上からマンションへと入る入り口の前に立ち塞がる。その目は獲物を狙う猛禽類のようにギラギラと煌めく。
「クラピカ!そこを退け!」
だが、そんな言葉だけでクラピカが納得して退いてくれる訳もない。
だからと言って、ここでクラピカと言い争いをしていても……。
「お願いだ、退いてくれクラピカ。こんなとこで争っている間にもたくさんの人の命が奪われて行ってるんだ!」
「貴様の言葉など信用が出来るものか!貴様は飛行船を見てコルトピと言ったな。なぜ蜘蛛の一人を貴様は知っている!?」
「それは……」
ここで、漫画の中にここの出来事が描かれていたなんて言っても信用されないだろう。
「クラピカ!その子何か隠しているわ!」
ここに来てセンリツの能力か!
センリツの言葉を聞いたクラピカは自らの瞳に指を差し込むと、彼が瞳の虹彩を覆い隠していた黒のコンタクトを外す。
その目は紅い光にはゾッとする程に冷たい。
「貴様は大人しくしていろ。ジバル、君は拘束させてもらう」
クラピカが右手の具現化されている鎖をジャラリと鳴らして構える。
どうしたら分かってくれるんだ……。俺はただ今あそこで俺の所為で命の危険に瀕しているかもしれない人を助けたいだけなのに。
「どうして……」
クラピカが俺に向かい、構えたまますり足で少しずつ近づいて来る。
「どうして行かせてくれないんだ!」
この時、俺は少なからず冷静ではいられなかったんだと思う。
罪悪感から来る焦りは俺の胸を圧迫して、考える前に体を攻め動かしてしまった。
俺は精孔を感情任せに開き、クラピカの隣を駆け抜けるが、それは叶わなかった。
走る為に振った右腕に金属の冷たい感触が触れたと感じた瞬間に、視界の先はマンションの屋上の灰色に覆われ頬に衝撃が走る。
「カハ!」
衝撃に肺から息が無理やり吐き出される。
「なぜ旅団の一人の名前を貴様が知っている!?やはり、貴様は蜘蛛の仲間か!」
「違う!」
背中に捻り回された腕がギリギリと絞られ、押し付けられたクラピカの膝が背中に食い込む。
背中に感じる鈍い痛みよりも、俺には今もヨークシンから濛々と上がる煙の方が俺には痛い。
「離してくれ!頼むよ。お願いだから、俺を行かせてくれよ……」
痛みなんかじゃない、自然と涙が屋上に押し付けられた頬を伝う。
だが、今の感情が昂ったクラピカに俺の涙はなんの訴えにもならなかった。
しかし、ここのいるもう一人の人物には違った。
「クラピカ……その子、本当に幻影旅団と関係あるの……その子の心音は哀しみ、焦燥、罪悪感、犯罪に加担している人の心音じゃないわ」
「センリツ、君の能力はとは絶対か?」
「いえ、流石に絶対とは言えないわ」
「ならば、私はこの子供を信用する事は出来ない」
仲間であるセンリツの言葉でさえも、今のクラピカには通じる事はなかった。
このまま、俺は目の前で人々が死に行くのに、ただこうして黙って見ているしかないのか……嫌だ。そんなの嫌だ!
「『律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)』」
その言葉を俺が言った瞬間に容赦のない痛みが俺の捻られた肩と膝を押し付けられた背中を襲い、うめき声をあげる。
「なぜ貴様が!?」
怒声だけど、明らかに声は困惑した色が見える。だったら、ここは賭けるしかない。
「使えるでしょ?俺がどうしても信用ならないなら、あんたの鎖を心臓に打ち込め!」
身体を屋上に押し付けられた状態じゃクラピカの顔を見る事は出来ず、彼がどんな表情をしているのかも分からない。
また、飛行船が街に落ちる音がして、爆発音が響く。
だが、クラピカは黙ったままでジリジリとした時間が流れる。
頼む。『律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)』を打ち込まれても構わないから、今はなんとしてでも街へ俺は行かなきゃなんないんだ。
「いいだろう。貴様がどこで私の能力を知ったかは、聞けば分かる」
言葉を切ったクラピカが俺の背中の上でみじろぎしたのを感じる。
彼の心は善性だ。きっと、俺が居なかったら旅団の蛮行を阻止する為にすぐに動いていた。
「ジバル、私に嘘をつくのを禁じる!『律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)』!」
クラピカが念能力を宣言すると、ジャラジャラと鎖が擦れる音が聞こえると背中から体の中へと侵入するなんとも言えない感覚が這いずる。
気持ち悪さに奥歯を噛みしめて耐えても声が漏れてしまう。
「本名は?」
「ジバル=ストーン」
まるで尋問だ。いや、尋問そのものか……。クラピカの質問に一つでも嘘をつけば、その時点で俺の命がなくなる。
「貴様は、幻影旅団のメンバーもしくは関係者か?」
「違う!」
俺は吐き出すように答える。一つ一つの質問に答える時間さえもどかしい。
なんでも答えてやるから、早くしてくれよ。
その後、三つの質問に答えたが、心臓に絡みつく鎖が反応はしなかった。
「これで最後だ。貴様はなぜ私の念を知っている?」
遂に来た。果たして本当の事を言って信じてもらえるのか?
どうする?
考えている間にクラピカは痺れを切らしたのか、背中にかかる圧力が強くなる。
「どうした?答えられないのか?」
聞いただけで背筋に冷や汗をかくくらいの冷たい声。
どうせ誤魔化した所で開放されない、どころか拘束されるだけなら……。
「俺は転生者だ」
「てんせいしゃ?」
あぁくそ。親にも話してないって言うのにな。
「別の世界から生まれ変わって、前世の記憶を持ってる人間の事だよ」
俺は吐き捨てるように説明する、クラピカの声は明らかに困惑しているように聞こえる。
「それがなんだと言うのだ?」
「その別の世界でクラピカとその能力を知った。クラピカの事はハンター試験を受ける時から分かるぜ。船の中でレオリオさんに敬称を付けるかどうかで喧嘩になりそうになっただろ?」
「なに!」
動揺の声が聞こえた。
「操作系ではなく具現化系。五つの鎖に五つの能力、一本は蜘蛛にしか使えない能力、そして、今は、前系統の能力を100%使える」
畳みかけると言うよりは、自分で焦り過ぎて話過ぎている自覚はある。だけど、止められなかった。
クラピカからは物理的な圧力だけじゃなく、背中にに感じるオーラさえも刺々しく重い圧力を放っている。
「貴様……」
「クラピカ!!だめよ!その子は全て真実を話しているわ。心音もそれに貴方の念も何も反応していないじゃない!」
「だが、危険過ぎる!念能力じゃない!こいつの存在が危険だ。もし、旅団にこいつが捕まれば全ての情報が蜘蛛に流れる事になるんだぞ!」
「…………」
そうだった。俺は何回失敗すれば気が済むんだ。パク=ノダに質問されれば、俺が持っている情報が全て蜘蛛に渡ってしまうじゃないか。
なぜ俺は、今まで考えなかったんだ……。
噂を流すにしても、考えを読まれる事についても俺は自分で思っている以上に浅はかで愚かだった。
「もう一度、『律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)』を打ち込んでくれ」
「貴様、自分が何を言っているのか分かっているのか?」
これはクラピカだけの問題じゃない。俺にとっても危険過ぎる問題だ。
なら、今はクラピカの念で保険を掛けるしかない。
「条件は、俺からクラピカとその関係者の情報が漏れたら死ぬ。命を懸ける。俺は命を懸けて、クラピカの情報を守る。どう?まだ足りてない?」
「貴方も自分が何を言っているか分かっているの!?」
「分かってるよ!!分かって言っているんだ!俺は!」
勢いまかせかもしれない。でも、ここまで来たら命でも掛けてやる。
それは、自分の噂を流した事でなんの罪もない人への罪悪感から逃げる為だったのかもしれない。
「いいだろうジバル。一度『律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)』を解除して、ジバルが言った通りの制約を掛ける」
「問題ない。やってくれ」
もうセンリツは俺とクラピカのやり取りに言葉も出ないようだった。
クラピカは契約と小指の念能力を宣告すれば、また背中から内臓に入り込む気持ちの悪い感覚に俺はうめき声を上げる。
鎖を打ち込んだクラピカが俺の腕を離し、背中の上から退くや否や俺は這ってクラピカの足元から出る。
そのままクラピカたちに振り向く事もせずに、俺は、屋上のドアを蹴破る勢いで開けて出て行った。
念能力で生み出した飛行船での爆撃がヨークシンの外縁部で行われた為に、東の方から街の中心部へと人々は逃げ惑う。
俺は混乱した人々の流れを下に見て、ビルのでっぱりや商店の屋上を伝い煙が見える方向へとオーラを前回にして駆ける。
『律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)』を植え付けられた左の胸部分のスーツの上着を掴む。
去来する罪悪感に押し潰されてしまいそうになるが、止まれない。
あのマンションの屋上に居た時は、なんとかクラピカを振り切って爆撃地にただ急ぐ事に必死で現実が全く見えて居なかった。
煙を吐くビルが間近に迫った時、もうすぐ自分の仕出かしてしまった結果が露わになると考えると、ここまで全力で走って熱いくらいであったと言うのに背中には冷たい汗が流れる。
指先もピリピリとして感覚が曖昧になり、全身がこれ以上行くなって警告しているように感じて足を止めそうになってしまう。
露店の商品を置いて逃げたのか、木組みされた簡素なテントが倒壊し商品が踏み荒らされて路地を塞いでいる。
迂回するべきかと頭に過るが、あんなテントの残骸ぐらい念能力者の俺であれば飛び越えられる。
ただこの時俺は、自分が思っていた以上に焦っていたのだろう。
いつもなら、スムーズに移動するオーラが焦る体に追いつかずにオーラの移動前に地面を蹴ってしまった。
自分が想定していた高さにジャンプする事が出来ずにテントの幕が足にひっかかり態勢を崩した。
「あっ!」
気が付いた時には、時既に遅く上半身が前に投げ出されて空中をもがく、まるでこの世界に転生する前のような無力感が体を満たしていく。
この体なら、空中で体をが泳いだ状態でさえ地面に手を着いて着地もしくは受け身を取るくらいの事は出来た。
なのに心は焦り、いつもの対応をすることが叶わずに、俺はただ頭を腕で守って地面に衝突しその勢いに呑まれながら体の各所を地面に擦り転がる。
いてぇ。
くそ!こんな所で転がってる時間はないって言うのに。
「ちょっと君、大丈夫?!」
痛みを堪えて立ち上がると、そこにはツンツンと立たせた黒髪の少年が走って来ていた。
彼は、立ち上がる俺を見て「あ!」っと声を上げる。
俺は思わず飛行船の墜落現場に向かうのも忘れて呆然と走って来るゴンを凝視してしまった。
「ジバルくん!」
大きく手を振って駆けて来るゴンくんを見ても、俺には一欠けらの喜びもなかった。
ただなんで君がここに?っていう疑問しかない。
「ジバルくんも、飛行船が落ちて来るの見たんだね」
「あぁ」
なんで?俺はゴンくんを危険から遠ざけたくて……。
「俺たちも飛行船が落ちるの見て、絶対に困ってる人が居るから助けに行かなきゃ!」
待って、待って、待って!
「ゴンくんあそこに行くつもりなの!?危険過ぎる!」
俺の言葉にゴンくんは意外そうな驚いたような顔をする。なんでそんな顔するんだ。
「あそこには蜘蛛、幻影旅団がいるかもしれないんだ!分かるだろ?君じゃ殺されるだけだ!早く安全な場所に避難しないと!」
俺の言葉にゴンくんは、少しムっとした表情になる。
「でも、ジバルくんは行くんでしょ!」
「だって、それは!……」
俺は、言葉に出来なかった。真実を告げたら……。
こんな状況だって言うのに、浅ましい保身が胸の中で渦巻く。
「だったら一緒に行こう。俺たちは念能者だ。絶対に困ってる人を助けられる!」
俺が何か反論する前に、ゴンくんは俺の手を引いて走り出していた。