G・Iの子   作:めーび臼

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ハンゾー

 慣れている筈だった。

 

 グリードアイランドの中は殺伐としていて、人の死なんて有り触れていた。

 

 親父の店に来ていた常連客がある日突然、顔を見せなくなったら頭の中で「あ~そういうことなんだ」って勝手に思ってた。

 

 でも、今のこの状況は違う。

 

 違い過ぎる。だって、この飛行船が当たって穴が開いたビルやそのビルから落ちたコンクリート塊。

 

 被害はビルとかの建物だけじゃない。

 

 あの時、幻影旅団が襲撃する前はここに普通に人々が楽しそうに笑って歩いていたんだと思う。

 

 そんな事は簡単に想像出来るくらいは、俺だってこの街で過ごしたし、俺とハンゾーの大道芸を見ていた人々の顔はキラキラと輝いていた。

 

 裏でマフィアが仕切って居たって、平和な街を壊したのは俺だ。

 

 俺の起こした行動の結果が、路上で降ってきたガラス片に当たってケガを負った女性であり、あそこで砕けたコンクリートに押し潰された手は人の死体なんだ。

 

 俺は口を右手抑える。

 

 胃から競り上がってくる気持ち悪さは手で押えた程度で抑えられるもんじゃない。

 

 「なんだ。ジバルは初めてか。あんな念使えるから、それなりに経験あるんだって勝手に思ってた」

 

 俺の隣に立つ靴が目に入ってその靴の先を見上げる。

 

 目に映ったのは血なまぐさいビル風に吹かれる金髪と釣り目気味の生意気そうな目。

 

 キルアくんの目はゴンくんと話している時の温かい色は全くない。

 

 そこにはただただ冷たく現実を見る冷静で冷たい瞳がある。

 

 そうだった。

 

 この子は楽しそうに笑っていても、この子は何人もその手で殺しているんだな。

 

 育った環境が違う、人を殺すのは当たり前、俺には想像も出来ない。

 

 他人を殺してなんで笑えるんだろう。

 

 彼の記憶をコピーしたって彼を理解するのは無理だ。

 

 「ゴンはどんな困難な状況でも絶対に諦めないよ。どんな酷い事を自分にしたって、そいつを許しちまう器がある。ジバルと一緒に居たハンゾーだって、ゴンを立てなくなるまでボコボコにしてるんだぜ。でも、あいつはその事を全く恨んでない。絶対に俺には無理。俺ならいつか殺してやるって死ぬまで恨んじゃうね」

 

 なんでここでゴンくんの話を?

 

 「取り合えずさ。ゴンみたいになんも考えずに動けよ。慣れるしかないだろこんなのは……」

 

 きっと励ましてくれるんだろ。

 

 取りあえずは動けか……。

 

 なんで?なんて考えずに動けか。

 

 ここまで来た意味もなんも考えず、兎に角目の前で動けないケガしている人を助ける。

 

 悩むのは、その後でいい。納得じゃなくて、諦め。そんな風に感じる響きがキルアくんの声にあった。

 

 「俺も助けるの手伝います……いや、助けます。一人でも多く」

 「じゃあ、早く行こうぜ」

 

 キルアくんの言葉に動かされてからは、正直はっきり覚えていなかった。

 

 埃に塗れても、手が濡れても、とにかく動いた。

 

 考える隙がないくらい。

 

 バカな考えが心に入り込まないように無理やり必死になる。

 

 浮き沈み、浮き沈み、浮き沈む。

 

 気が付いたら、ゴンくんの周りには幻影旅団を捕まえる為にこの街に集まったブラックリストハンターの念能力者まで集まって、一緒に傷ついた人を助ける為に手伝いを始めている。

 

 これも、ゴンくんの一つの力なんだろう。

 

 彼に協力せずには居られない。無理でもめちゃくちゃでも自分の信念を押し通していってしまう。

 

 俺をここまで引っ張って来たみたいに。俺が率先して動かなきゃいけなかったのに。

 

 やっぱり根本的に、彼は俺とは違うんだ。

 

 いくら念能力なんて、大きな力を持ったって一人じゃなんも成せはしないんだ。

 

 ジンさんだってグリードアイランドを作る為に仲間が必要だった。

 

 一人で進んで、それで全部上手く行くはずなかったんだ。

 

 念能力者たちの協力で、ヨークシンの街の混乱は普通より早く収まったんだと思う。

 

 ケガした人も居た、死んでしまった人も居た。

 

 でも、今俺の目の前にいるゴンくんたちの雰囲気はそんな深刻な感じじゃない。

 

 助かった人は、ゴンくんたちに感謝の言葉を掛ける。だけど、その言葉に素直に俺は、答えられない。

 

 無理だ。

 

 俺はそれが見て居られなくて、一人ゴンくんたちに何も言わずその場を離れる。

 

 俺にはあそこで、あの雰囲気を分かち合うなんてことは許されてないんだ。

 

 ゴンくんたちから、離れて一人狭い路地をフラフラと歩く。

 

 何も考えられない。考えたくもない。

 

 頭では、こんなこと現実逃避だってわかってるんだ。

 

 でも、無理だよ。

 

 「ジバルこんなトコにでなにしてる?」

 「ハンゾーか」

 「ハンゾーかじゃねぇ。俺に地下競売を見に行かせといて一人で何してる?」

 

 いつものおちゃらけた声じゃない。どっちかって言うと機械的な雰囲気を持つプロとしての声。

 

 「地下競売どうだった?」

 「幻影旅団は地下競売を予想通り襲った。そこに居たマフィアも皆殺しだ。競売品はボルタスが言った通り、事前に梟がどこかに持ち出しているから奪われてはいないだろう。ボルタスに聞いた、街は飛行船が落ちて酷い状況だってな。まさか、こんな風に街を混乱させて陽動するとは俺も思わなかった」

 「そうか」

 

 俺はハンゾーから情報を受け取っているけど、もうそんなのどうでも良かった。

 

 もう耐えられないんだ。

 

 「ハンゾー、すまん。一人にしてくれ。ハンゾー分かってんだろ?俺が旅団が来るなんて馬鹿な噂を流さなかったら、街がこんな事に……なんの罪もない人が死ぬ、陽動が蜘蛛には必要なんてなかったんだ。俺が殺したんだ。俺の所為で大勢死んだんだ」

 「だから?」

 

 ハンゾーの顔を見る。

 

 その顔はなんの感情も出てない。俺を責める感情さえも。

 

 「だからってなんだよ!人が死んでんだぞ!俺が殺したんだぞ!噂を流さなかったら死ぬのはマフィアだけだったんだ!」

 「なぜ分かる?」

 「分かるさ!俺は知ってたんだ!全部、俺の責任なんだよ!なのに俺には、俺が傷つけた人になんも出来ない!もう嫌だ!こんなの望んでない!俺は、俺は生きるのがツライ!」

 

 ビルの壁に背をつけてズルズルと落ちて行く。顔を手で覆って嘆く。

 

 嘆く事さえ、俺には我儘みたいに感じる。

 

 街にハンターがこんなに居なかったら、旅団はわざわざ攻撃が届かない空から爆撃するなんてしなかった。

 

 ハンゾーだって分かってる。これは、噂を流した為に被害が拡大したんだ。

 

 「甘ったれるなよジバル!てめぇと一緒に噂流したのは誰だ!?」

 「あれは俺が言い出したからだ」

 「あぁジバルが言い出した!だけどな、面白がってその提案に乗ったのは俺だ!いいか、俺が俺の意思で考えて、俺が行動に移したんだ!てめぇが旅団の情報をどこで知ったかなんて知らねぇ!聞けよジバル。てめぇは自分が良いと思う事をやったんだ。俺も自分が良いと思ったから噂を流したんだ。責任がないとは言わせねぇ。だがな、全部が全部お前の所為じゃねぇ!」

 

 ずるい。そんな事言われたら涙が止まらないじゃないか!

 

 今まで、心に蓋をして必死に抑え込んで来た感情が瞳から溢れ出る。

 

 俺だってこんな状況望んでなかったんだ!ただ、旅団が警戒して街を襲われない可能性を少しでも上げたかっただけなんだ!

 

 俺の足の間に挟んだ頭にハンゾーの手が優しく触れる。

 

 「俺は任務で仲間を殺した事だってある。俺の判断ミスで死んじまった奴もいる。だけどな俺は生きるぞ。俺はそいつらの分も生きる」

 「なんで?なんでそんな風に思えるの?」

 「俺には見つけたいものがある。そいつらの為に死んだって、そいつらが喜ばないって勝手に俺が決めてる。ジバル。お前はまだガキだ。お前が負った責任は俺が今半分くらい俺が持つ。今俺が勝手に決めたからな」

 「無理だよ……」

 「お前が無理でも関係ない。俺が勝手にやってんだ。お前は好きなようにしろ!次は上手くいくぞ。まだやる事あんだろ?それをしろ」

 「めちゃくちゃだ。めちゃくちゃ過ぎるよハンゾー」

 

 こんな残酷な事があるだろうか。

 

 俺には罪を感じる資格さえないって言ってるように聞こえるよ……。

 

 俺がやる事。

 

 まだ旅団は金品を奪えてない。

 

 もし、原作通りに事が運んだら、クラピカはウボォーギンを捕らえてしまうだろう。

 

 そしたら、クラピカを通してゴンくん達が旅団と縁を結んでしまう。

 

 それは避けたい。

 

 「ハンゾー。クラピカを追うよ」

 「そうか!それでいい!」

 

 ハンゾーは俺の前に右手を差し出すと、ニカっと笑う。

 

 俺はそのハンゾーのゴツゴツとした手に手を伸ばし掴む。

 

 ギュッと力強く握られた手からハンゾーの力が俺に流れ込んで来るように感じた。

 

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