G・Iの子 作:めーび臼
「おっっと!!ジバル選手またしてもデコピン一発で相手を場外までふっ飛ばした!!」
「強い!最近の子供はどうなっているのでしょうかぁ!!ジバル選手までも100階層に到達です!」
あれから二回戦い、俺は無事今夜の宿を手に入れてベッドに向かって飛び込んだ。
いや~。ビジネスホテルよりいい部屋なんじゃないのこれ。ついサラリーマン時代の出張した地方のホテルを思い出してしまった。
「ブック」
やっぱり違和感があるな。俺はエレナさんに返してしまった指輪があった場所を左手で撫でながら考える。
育った環境が環境だけに「ブック」と唱えてカードを収納しておくバインダーが出ないのなんとなく、気持ち悪く感じる。
ジンさんと会ってから七年間、ずっとあったもので空気と同じくらい当たり前のものになってたもんな。
移動するにも呪文を唱えれば一瞬なんて事もない。代わりに自分が持ってるカードを四六時中狙われるなんて緊張もなくなった訳だけど。
だけど、あの緊張感は外の世界でこそ持ってなくちゃいけないんだよな。
数は少ないとは言え、本物の化け物級の念能力者が潜んでいるんだから。
まぁ考えるのは、心配してもしょうがないか、投げ出していた体を両手で跳ね起きさせて床に着地した時に備え付けのテレビが不意に電源が立ち上がる。
映し出されたのは、明日の対戦時間が映し出されていた。
「マジかよ!?まさかここに彼がいるってことは……」
シャワーを浴びて寝ようと思ったが、調べなきゃ。
俺は自分の荷物を持って、部屋から出た。
☆
「さぁここまで無敗でこの天空闘技場を昇って来た新鋭が登場です。今日はここ難関の100階層クラスで一体どんな戦いを見せてくれるのでしょうかぁ!!デコピンのジバル選手です!!」
ここからは天空闘技場のワンフロアに一面の試合になるのか、今まで以上に客の視線を感じる。声援も格闘マニアでない人も多く、声援も好意的なものからそうでないものまで様々だ。
「そのジバル選手に相対するのは、こちらも破竹の勢いで闘技場を駆け上った小さな拳法使い、その体からは信じられない程のタフネスを発揮するズシ選手だ!!果たしてこの神童たちの初対決はどちらに勝利の女神が微笑むのかぁぁ!!!」
会場に響く観客のボルテージを煽るアナウンスを聞きながら目の前の対戦相手を見やる。
俺よりも少し小さい身長に坊主頭に勝気そうな顔だちの少年が背筋に一本の定規を差し込んだようにシャンとした立ち姿は、小さいながら武人のそれでだ。
拳の神に仕えているようなクレリックコスチュームの審判が俺とズシの間に立って、互いにリングの中央に歩みよる様に手で促す。
「オス!!自分ズシっす。宜しくお願いします!!」
な、なんて礼儀正しい子なんだ!!現代日本ではこんな素直な子あんまり見ないよ!おじさんは!!?
はッ!ついつい心の中のおっちゃんが外側に出そうになってしまった。
「よろしく、ズシくん。えっと心源流(しんげんりゅう)だっけ?」
「おぉ知ってくれてるんすか!!」
ズシくんはキリっとした表情からパッと明るくして、嬉しそうにしている。
うんうん。自分が学んでいる拳法が知られているってどんな有名な流派でも嬉しいよね。
でも、裏を返せばそれだけ戦い方が研究されて知られてるって事だよ。ってついつい老婆心ながら忠告してあげたくなっちゃうね。
「うん。お互い頑張ろう」
「オス!!」
まぁ正々堂々とは限らないけど。
審判が俺とズシの両方を見やるとお互いにある程度距離を取る。
「それでは、お互い構えて…………始め!!」
審判が大きく開いていた両腕を体の前に交差して戦いの合図を送った瞬間に俺は、人差し指をピッと立てる。
「えってそれなんすか!!ってどわッ!!!」
「クリティカルヒット!2ポイント!ジバル!!」
「おっと開始早々にジバル選手が人差し指を立てると言う不可解な行動を取った瞬間、ズシ選手が動揺!その動揺の隙をついてジバル選手が必殺のデコピンをズシ選手のおでこに当て、場外までふっ飛ばした!!」
凄いな実況のお姉さん。本当はオーラ見えてるんじゃないかってくらいの動体視力だよ。
それにしてもやっぱりズシくんは初心だね。あんなくらいで動揺しちゃって。
俺が取った行動はもの凄く単純だ。
念能力者が不可解な行動を取った時に何をするか、原作でもビスケさんの特訓であったように反射で目にオーラを集中する凝を行う。
それを逆手にとって、俺は立てた人差し指の上に多少隠(いん)で見え難くしたオーラでモザイク必須の裸の女性のセクシーショットを描き出したのだ。
これは武一辺倒の性に目覚めたばかりのズシくんには刺激が強かったのだろう、見事に動揺して隙だらけになってくれた。ププ。
観客席にたった一人いた念能力者が俺のセクシーショットオーラを見て、口にしていたビールを吐いて前に座っていた観客にぶっかけているが、それは俺の知ったこっちゃない。
「さぁズシ選手はこのまま終わってしまうのでしょうか!?」
まぁ、これは今のズシくんの念の習得状況を見るって意味合いもあったけど、原作で戦っていたズシよりも修行は進んでそうだな。
ズシは観客席の壁に当たって巻き起こった砂煙の中から立ち上がって俺を睨みつける。
顔が真っ赤だから全然怖くないけどさ。
さて、ズシくんはまだ念の技術を使わずに拳法家としての技術だけで戦っているみたいだな。
まぁ、念能力なんて習得していない人間にとってはバグ技みたいなものだしね。
真っ赤な顔のズシがリングに戻ると、再び構えを取る。
そのズシに向かって俺は声を掛ける。
「念能力者同士だったら師匠も使うの許してくれるんじゃないの?」
「そ、それは!?」
ズシの視線が観客席の方を彷徨っている。多分そこにウイングさんがいるんだろう。
俺もズシの視線を追って観客席を見れば、ニコニコしているちょっと引きつった顔のウイングさんがいた。
多分、だけど俺とズシくんの会話もちゃんと聞こえていたか、唇の動きを読んでいるのだろう。
すっとウイングが立ち上がると、ズボンに隠れていた上着の裾が片方だけだらしなく出ている。
そのウイングは俺とズシを見て、やれやれと顔を左右に振って、一度頷いた。
「さ、ズシくん本気でやろっか」
俺の言葉にズシも惚けたような表情が、口角を持て上がってニっとワクワクを隠せない笑顔になる。
「オス!!!」
転生もしていないこれぐらいの子供にとって全力を出せないってのは、どんな真面目な子だって精神的なストレスになって居た筈だ。
ズシくんの纏っているオーラが先ほどまでとは同じ人物とは思えないぐらい生き生きと流れているのが俺の目にはちゃんと見えている。
「全力でいくっす!!」
ズシくんは右手を地面に構えて、左手を正拳突きのタメのような構えを纏(れん)を行う。
とても、力強いオーラだ。自分のペースを取り戻したって感じかな。
ズシは真っすぐと俺の方に向かって来て正拳突きを放つ。その威力たるや、オーラを纏わずに受けたら体に穴が開いてしまいそうだ。
俺はその拳をどかすようにズシの拳に纏ったオーラよりも僅かに多く移動させて横から押す。
それだけで、俺の顔を通り抜けて行く。
ズシは避けられたことに落胆することなく、左右の手で正拳突きを繰り出し続ける。
俺もオーラの攻防力移動を行いながら、左右の手で捌く。
先に焦れたのはまだまだ子供っぽい精神のズシだった。右拳が俺の顔の右側を通った勢いを利用して、右足を大きく跳ね上げて右のハイキックを俺の側頭部へと放った。
もちろん、俺も黙ってくらってあげない。
腕だけで捌いていた為に俺の体軸はさほど乱れてない、すぐさましゃがんでズシの右足を躱すとフラミンゴみたいに一本足立ちになった足を水面蹴りで刈りとり、オーラを多く回した右足で地面を蹴る。
地面を蹴って得た力に合わせるようにオーラを移動させ、その力とオーラが右拳に到達する瞬間にズシの体に拳を叩き込んだ。
鳩尾に埋まった俺の拳の衝撃に息を止めて攻撃していたズシの口内から息が一気に排出されて体をくの字に折れる。
そのまま、ごろごろと転がって再度場外まで舞い戻って行った。
「クリティカルヒット!!2ポイント!ジバル!」
「またしても、ジバル選手の攻撃を受けてしまった!構えを変えてから今までの試合が別人のような動きを見せていたズシ選手でしたが、それでもジバル選手に届かない!」