G・Iの子 作:めーび臼
なんなんだこの状況?
一言で俺の気持ちを表すのなら、この一言に尽きると思う。
だってそうだろ、俺の事をまるっとさらっと無視して眼の前ではヒソカの地獄でも召喚する気かってくらい禍々しいオーラとこちらは研ぎ澄まされた武人のトゲトゲとしたウイングさんのオーラがぶつかり合っているのだ。
ヒソカが現れるまでロビーでワイワイしていた人たちは、二人の威圧感に恐れをなしてとっくに逃走済みだ。
ガランと閑散になってしまったロビーには、俺の前の凶悪な笑みでオーラをぶつけ合う二人と倒れて動かないハンゾーしかいない。
てか、ウイングさんってヒソカに対抗出来るくらいに強いの?
まぁ今、行われているオーラの陣取り合戦を見る限りヒソカに一蹴される程弱いなんてことはないね。
てか、ウイングさんにも勝てる気がしない。どうして、俺の前で念能力者のトップランカーがいるのがまだ理解出来ない、ボクはただの心は大人、体は10歳児の転生者です。どうぞよろしく。
いかん、胃に穴が開きそうな展開に少し現実逃避してしまっていた。
「心源流の師範代が僕になんか用かな?」
「君に用はないんだ。僕は弟子を負かしたジバルくんに用があるんだ。と言う訳でヒソカさんは退出して頂きたいですね」
あれ~。ウイングさんってこんなヒソカと舌戦を繰り広げるキャラでしたっけ?
俺はゴンくん達を厳しいながらも優しく見つめる、そんな先生的な人だと記憶している訳なんですが。
「ふ~ん。他人の話に割り込んじゃいけないって習わなかったのかな♥」
ヒソカも煽る。てか、それを言うならそこにゴミみたいに転がっているハンゾーが先客だぞ。
「ジバルくんが君との会話で迷惑そうにしてたのでね。ね、そうですよねジバルくん?」
こっちに振らないでくださいウイングさん。
いや、そんな優しそうな顔されてもってヒソカも不気味に俺を見て笑ってんじゃねーよ!
どっちも怖いわ!
俺は思わずため息が出る。もう。なんだよ。俺の中のシリアスさんも二人のオーラにとっととトンズラ決め込んだわ。
俺は、左手を犬がお手をするように掌の上に向けて呟く。
「ブック」
するとグリードアイランドの外だが俺の掌からバインダーが現れる。
出現したバインダーはグリードアイランドのシステムの本でなく、日本の会社のオフィスでよく見る黒いプラスチックの表紙のA4の紙が収納出来るサイズの物だ。
ヒソカとウイングさんが若干警戒しつつ、俺の手元を見つめる中でバインダーから一枚の契約書とハガキ大の紙を取り出す。
そして、ハガキ大の紙をヒソカとウイングさんに見えるように翳(かざ)すと口を開く。
紙は栗色のウェーブした髪を風に揺らして微笑む三十を少し超えたくらいの美人と言える女性が写った写真である。
「ショコラ=ストーン。俺の母親だ」
まぁそうだよね。いきなり他人の母親の写真を見せられながら紹介されたらキョトンってなるよね。
「さっき言ったよね。さっきの念のハリセン、えっと『クレイジー・イン・ラブ(行き過ぎた過剰な愛)』は俺の母親の念能力だって」
二人がさっきの俺の言葉を覚えている事を目で確認してから話を続ける。
「彼女は俺の父親フォンダと出会う前は”絶海の怪力クイーン”って呼ばれていたらしい」
うん。分かるよウイングさん、俺も父さんから話を聞いても信じられなかったくらいだしね。
でも、悪さをすると雲が近づいてくるんじゃないかってくらいの”たかいたかい”でお仕置きされた時に信じざる負えなかったよ。軽くトラウマを患うくらいの体験でした。
「母さんは天然の念能力者で父さんと出会うまで、その怪力を恐れられて彼氏の一人も出来なかったそうだ。だけど、出会ってから父さんにベタ惚れで今でも一途に愛し続けているよ。流石、単純一途な強化系って感じだろ」
あ。しまった念能力の性格診断ってヒソカの独自の物だったっけ。思わず漏れてしまった原作知識にヒソカの顔が面白い物を見つけたように笑みが深くなり、目が細まる。
言っちゃったものはしょうがない。気が付かないフリして話を続けよう。
「母さんのベタ惚れ具合は凄まじくてね。父さんの浮気防止用に発(はつ)を一つ作ってしまうくらいの入れ込みようだ。目の前で父さんがかわいい女性をチラって見ただけで『クレイジー・イン・ラブ』が発動させられて母親に失神させられる光景を見る子供の気持ちが二人には分かる?ちょっとした女性不信になるかと思ったわ!」
あかん。思わず熱が入って語尾が強くなってしまった。
一度、ゴホンとワザとらしい咳(せき)をして、白けた場を整える。
「まぁ、何が言いたいかって言うと、俺は俺の能力で母さんの念能力を借りてるって訳。これでそこのピエロさんの疑問は解消したんじゃないの?」
俺は力を瞳に込めてヒソカを見る。
うわ~ギラついてるなぁ。俺は瞳を見ただけで草食動物の気分が分かってしまう、そんな気分になる。
「ふ~ん。クロロと似た能力者か。本当に美味しそう♥」
止めろ!俺が子供って事もあってまだ殺されるまでは至らないだろうが、僅かに腰が浮いて体が勝手に逃げようとしている。
よく、ゴンくんはこいつに真っ向から立ち向かおうなんて考えられたな。ウイングさんも俺の近くにスッとよって臨戦態勢を整えている。
だから、俺は思い切ってヒソカに交渉を持ちかけると言う大一番の勝負に出る。
「俺は、自分の能力をピエロさんに発動条件を明かしてもいいと思ってる」
「ちょっと待って下さい、それは余りにも危険だ!」
ヒソカが何か言う前に止めに入ったのはウイングさんだ。
俺も勿論、自分の念能力の条件を明かす事の危険性は十分に理解している。
けど、俺の能力は条件を明かさないと発動しない。
「へぇそれは、君の念の発動条件って事かな♦」
やっぱり、そうだよなぁ。流石経験豊富な念能力者だ。念の特性や発動条件などを熟知している。
そう俺は”ボマー”として知られたゲンスルーの念能力も自分の能力を明かす事を制約に凶悪な力を発揮するタイプだった。
ヒソカに感づかれても、俺はそこから更にヒソカを内心で歯を食いしばりながら煽る。
「ふ~ん。俺の能力が怖いの?俺は戦闘系じゃないからそんなに警戒しなくてもいいよ」
本音を混ぜて煽ってみたんだけど、ヒソカにはあんまり効果はなかったみたいだ。
「そんなに強がらなくてもいいよ♦言ってごらん」
唇を噛みそうになるのを堪えて、それでも笑顔で続ける。まだ負けた訳じゃないんだ。
「言う前に一つ約束をしてもらいたい」
「なんだい?」
「言ったら、俺がこの街にいる間、俺に危害を加えないと誓ってくれ」
「随分弱気じゃない。ボクがうんって誓っても君はそれを信用出来るのかな?」
「だから、こその俺の念能力だ」
母さんの写真と共に取り出した、一枚の契約書をヒソカに見えるように見せる。
「念の名前は『アンブレイカブル・コネクト(絶対遵守の契約)』」
ピクリとヒソカの眉毛が動くのが分かる。
この能力は、転生前にサラリーマンをしていた事で契約って物に馴染みがあるってのも大きいと考えている。
もしかしたら、記憶にない所で俺はナニカと契約してしまって、この世界に飛ばされたんじゃとも想像したが、考えすぎかとそれ以上考えるのは放棄している。
「母さんの念能力を借りる為の交換条件は、母さんの写真を肌身離さず持ち、一日一回愛してるって写真に向かって言う事だ」
分かってる……分かってるから、俺をそんな目で俺を見るんじゃない!
転生前のサラリーマン時代の記憶がある俺にとっては余りにも精神的にきつい契約なんだよ!
「俺の能力は破れない契約を結ぶ事が出来る。別に俺と誰か限定って訳じゃない。俺が仲介して他人同士や団体や団体で契約を結ぶ事も可能だ」
ヒソカなら俺の能力の有用性が分かる筈だ。
ただ、俺の能力は他人に悪用される場合もあるだろうから、俺は否が応でも自分で戦闘力を身に着けるか、守ってもらう契約者を見つける事が先決なんだがまだまだ何も足りて居ないのが現状だ。
そんな状態でヒソカに俺の能力を知られてしまうのはリスクが大きいが、この街に居る間ずっと付け狙われるよりはマシだと思いたい。
「ヒソカには俺の念能力の発動条件を教える代わりにさっきの約束を『アンブレイカブル・コネクト』で契約してもらう。ヒソカが契約しないなら、同じ条件でウイングさんに俺を守ってもらう契約を。いいですかウイングさん?」
固唾を飲んで俺とヒソカの会話を聞いていてくれたウイングさんに問いかける。
事後承諾みたいな交渉になってしまったが、ウイングさんならって思って賭けてみる。
「いいでしょう。私がジバルくんがこの街にいる間は守る契約をしましょう」
そのウイングさんの言葉だけで肩の力が抜けてしまいそうになるが、まだこれは第一条件を満たしたに過ぎない。
それにヒソカに本気で狙われたら、ウイングさんに守られても絶対に安全なんて言えないだろう。
でも、ヒソカの性格なら、
ヒソカは大げさな動作で溜息を付くと、
「いいよ。ボクが君とその契約を結ぼう。キミを殺せない事はないけど、それでキミを殺しても何も面白くなさそうだしさ」
あぁ交渉は成功したけど、完全に目つけられたな……。