物理攻撃なら全て跳ね返せる件について ~仲間を守るためなら手段を選ばない~   作:虎上 神依

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プロローグ 絶望に呼び覚まされし力

 ――マズいな。

 

 脇腹に生暖かい何かが流れていく感触が伝わり、彼は血を流しているのだと気づいた。

 大した量ではないかもしれない。だが、止血をしない限りは生命に関わる大きな問題となる。

 立っているだけでもやっとだった。

 

 ――痛い。物凄く痛い。

 

 それもそうだ、脇腹をかすったのだから。

 ふとそこを見ると彼の制服がゆっくりと赤色に染まっていくのが分かる。

 だが、そんな事を気にしている暇は与えられていない。

 

 奥の暗闇から3発ほど濃い紫色の球が飛んで来るのが目に入った。

 彼の持っている頼りない両手剣でその球を全て弾き返す。

 

 ――痛い、痛いけどここで負ける訳にはいかない。

 

 今ここで逃げ出した所で助かるという保証はない、それに彼女を置いて逃げることは出来ない。

 

「リュウヤッ!」

 

「俺は平気だ! だからマナの回復とやらに集中しろ!」

 

 何かに怯えたような声に対して彼はそう叫んだ。

 そして次第に感覚が無くなりつつある手足を何とか動かし、次々に飛んでくる紫球を斬っていく。

 

 自分はただの凡人である事を自覚している。

 だから、こいつらに勝てるという保証は全くもって無い。

 無いかもしれないけど――

 

 血の感触を脇腹と腕に味わいながらもひたすら体力の限界が来るまで彼は二本の両手剣を振るい続ける。

 丸で闇その物が俺達の事を襲ってきているかのようにも感じられた。

 相手の顔を拝もうとしてもそれは叶わぬ願い、だから感覚だけを頼りに攻撃を防ぐ。

 

「おりゃあああああああ!!!」

 

 所詮彼はただの高校生。

 頼りないただの高校生。

 能無しのただの高校生。

 弱っちいただの高校生。

 

 だけど、そんな高校生にだって意地はある。

 だから彼は戦うことを諦めたりなどしない。

 出来ることであれば何だってやる、それが彼の今の心情である。

 

 ――彼女だけは俺の命が無駄になろうとも何としても助ける!

 

 剣先が綺麗な軌跡を描きながらも物凄い速さで振られている。

 次の瞬間、暗闇から紫球だけではなくブレイドが紫色に光り輝いた小さな剣までもが飛んできた。

 これ以上攻撃を食らうことは身体的にも防衛的にも精神的にも終わりを意味する。

 

 ――どうか跳ね返してくれ!

 

 彼が腕をクロスさせて防御態勢に入ると奥から飛んできた小さな剣は大きな金属音を鳴らしながらも全てを弾き返した。

 そしてその剣は逆回転し始めたかと思うとブレイドを紫色に輝かせたまま再び暗闇の奥へと飛んでいった。

 

 ――この正体不明の能力があれば……、イケる!

 

「――リュウヤ、大丈夫……?」

 

「安心しろ、俺が必ず――守る!!」

 

 一生に一度は言ってみたいと思っていた言葉を叫ぶと、彼は再び暗闇の攻撃に抗い始めた。

 彼の出せる限りの力を腕に込めて。




初めての投稿です、温かく見守ってくれたら幸いでございます。
(物理反射って中々無いですよね? ベクトル操作はあるけど……。)

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