物理攻撃なら全て跳ね返せる件について ~仲間を守るためなら手段を選ばない~   作:虎上 神依

10 / 13
第1章 9話 転移者リュウヤ

 少女のネックレス探しの手伝いを申し出てから約1時間、リュウヤ達は休憩も兼ねて王都の中央広場の噴水に腰掛けていた。

 

「こんなに回って手がかりなしか……。すまないな、土地勘が無いばかりに。」

 

「大丈夫大丈夫。君は飽くまでも犯人を見分けたり目撃証言を手に入れる際に重要であって、他は初めから期待してないから。」

 

「おい、今の地味に傷ついたぞ精霊! 確かに事実っちゃ事実だけどもう少し遠慮というものは無いのか!?」

 

「冗談だよ、冗談! イッツジョーク! それに君が居るおかげで捜査もしやすくなっているし、感謝してるって。」

 

 相変わらず挑発的な態度を変えようとしない精霊にリュウヤはムッとなる。

 だが実際問題、捜査は今までに無いほど困難を極めていた。

 この辺りの土地に関しては少女が詳しかったため何とかなった。それに字も本当に何故か分からないがすんなりと読めていた、かつ字の特徴も何処と無く日本語と似ていたため苦労することもなかった。

 これぞ異世界転移物お約束の『なぜか通じる異世界言語』って奴だろう、それが適用されていたことに関してはただただ神に感謝するしかな。もし適用されていなかった完全にこの国で野垂れ死んでいたに違いない。

 なら何故こんなに難航しているのか。情報が余りにも少なすぎるからだ。

 赤髪の少女の目撃証言が今の所5件ほどしか無く、何処に行ったのかも検討がつかないのだ。

 しかもこれに関してはフラグが立っている気配も無く、状況がかなり絶望的な物(人)探しである。

 

 それにリュウヤはこう見えても人見知りではある。そのためか初対面の相手に物事を尋ねるという時点がかなりハードルが高かった。

 コミュ障と言われればコミュ障なのかもしれないがそんな下らないことで駄々をこねるつもりも無いので彼は我慢し、全力で捜査にあたっていた。

 お陰様で多少はコミュニケーション能力が上がった気がする。

 

「それにしても、ちょっと厳しいわね。」

 

「相手は盗人だ、ならば可能性の高いのはやはりスラム街だね。」

 

「スラム街か……、余り行くたくはないわね。」

 

 唯一の有力の情報、それは盗人は基本スラム街の外れで盗品を売りさばいているという噂だ。

 先程仕入れたばかりの情報であるが信憑性は低い、だがやけに筋の通っている話ではある。

 理由は数少ない赤髪の少女の目撃証言者による大まかな情報、それらはいずれも少女が向かっていた先はスラム街のある方向だったという事だ。

 そこから考えると行く先はもうそこしか無いだろう。

 

「行先がわかったんなら後は衛兵に任せるとかじゃ駄目なのか?」

 

「いや、多分そんな事をやっている時間は無いね。盗品を売りさばいているのであればタイムリミットは刻々と近づいている。」

 

「そうか……、確かに売りさばかれたら厄介だ。」

 

「もし売りさばかれたとわかったのなら任せても問題は無いかもしれないがあのネックレスは超強力な力を秘めている、そんな代物が悪人の手に渡りでもしたらこの周辺の国全部滅びるだろうね。」

 

「何それ怖っ!!」

 

「だからこそ今すぐにでも取り返さなくてはならないんだよ。」

 

 だからこそ衛兵に任せればいいのではと思う節もあるしかし、衛兵の詰所はここからはかなり離れた場所にあるらしくそんな所に行っている時間はもう残っていないみたいだ。

 情報によると盗品は基本、夕方に行われるらしい。現在日が段々傾いていて空が赤くなってきている。

 うん、確実に間に合わないね。

 

「そう言えば、まだお互いに自己紹介もしてなかったね。私はフローラ、宜しく!」

 

 少女、もといフローラは笑いながら握手を求めてきた。こうやって異性とか関係なしにコミュニケーションを取ろうとしている所がコミュ力が高い事を示している様な気がする。――平凡な俺とは大違いだな。

 

「俺は超絶ごく普通の人間、天宮竜也! 呼ぶ時はリュウヤで構わない。ヨロシクな。」

 

 そう言って、リュウヤは彼女の握手に応える。そこに先程から空中をフワフワと浮き続けていた精霊がリュウヤの腕の上にちょこんと乗ってくる。

 

「うん、見た目は確かに平凡そうだね。だけどチンピラを無傷で成敗している以上普通とは言えないよ。」

 

「そう言う設定だから問題なしだ! 俺=フツーは絶対的な原理だ、オーケー?」

 

「すごくしょうもない原理だね。そして、ボクはカリフ。こう見えても大精霊の一角だよ、ヨロシクー。」

 

「シレッと自慢混ぜてくんなよ!」

 

 と突っ込みながらも少しカリフの頭を撫でて思っている以上のモフモフ感に彼は感動していた、これならいつまでも触っていられそうだな。

 精霊ことカリフは丸で自分のモフモフ感を自慢するかのように腕を組んで俺の腕の上に仁王立ちしていた。

 

「そう言えば今まで深く気に留めてなかったけどリュウヤって珍しい格好しているよね。それにその髪色や瞳の色のこの国では相当稀な方だけど……。」

 

「それにその背負っているバッグらしきものもこの国には存在しないしね。となると確実と言ってもいいぐらいに異国人だな。一体どこから来たんだ?」

 

 再びあの難問がリュウヤの身に降り掛かってきた。そう、答えようにも答えられないのだ。いや、答えられないのではなく信じてくれないだろう。

 だけどちょっと表現を変えれば……、マシになるかな。

 

「ここから遥かに遠い場所からだ。」

 

「遠い場所? そもそも一体どうやってこの国まで?」

 

「転移してきた。」

 

「「え?」」

 

 二人は目を白黒させてリュウヤの姿を注視した。

 流石に異世界から来ましたイエーイとかは言えないのでちょっと表現を軽くしてみました。けど駄目だったか、転移魔法とか存在すると思ったのに……。

 だが、言ってしまったものは仕方がないな。ここからどう弁解するかが問題となる。いっその事冗談とでも言っておくか。

 そうして彼は口を開こうとした――が先を越される。

 

「転移ってどういう事!?」

 

「いや、待ってフローラ。彼の言っている事は案外本当かもしれないよ!」

 

「あ、あのー。」

 

 リュウヤが小さい声で止めに入るが残念ながら二人には聞こえなかった。カリフは腕の上で飛び跳ねて空中に浮くと考えるような姿勢になる。

 

「でも転移魔法ってこの世には存在しないって話だけど……。」

 

「いや、確かにこの星には存在しないね。だけど、最近わかった話じゃリーサル系の他の惑星4つには生命体が存在するための条件を満たしているらしいんだ。そこから異惑星人がいると仮定する。そしてこれは最近精霊界で話題になっている話なんだけど、宇宙工学において宇宙の定理や法則を成り立たせるために必要なマナがあるらしくてそれがほんの数ヶ月前に定義されたばかりなんだ。そのマナは『時』のマナと『空』のマナと名付けられたんだ。という事を踏まえるとまさかリュウヤは『時』と『空』のマナを操れる異惑星人!?」

 

「いや、何言ってるか全然わからないよ!!」

 

「えっ!? そうなの!?」

 

「そんなんじゃないよ! 第一、俺だって転移した理由が分からないってのにそんな複雑なこと聞かれたって答えれる訳無いだろ!?」

 

 だが、何だかんだ言われながらもどうやら転移したという事で信じてもらえたらしい。

 ともあれこの難問に関しては一件落着、後は転移の方法をどう説明するかにかかっている。

 しかし自分自身転移の理由がわかっていない以上それは無理だろう。なら勝手に解釈してもらうしか無いか――

 いやともかく奴の暴走を止めなくては話が進まない!

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「うむむ、いつの間にかに転移か……。にわかに信じがたけどその髪色や格好からして説明が付くんだよなぁ。」

 

 取り敢えずカリフは落ち着いたもの未だに腕を組んで考察中だった。

 それもそうだ、寧ろ信じて貰えただけマシだろう。

 

「そう言えば、この国に俺と同じ髪色の人はいないのか? ヤケにカラフルだけど。」

 

「うん、私も少しだけ聞いたことがあるけどこの国おろかこの星ではその色の髪の人が生まれた例はかなり少ないの。多分、その色よりも明るい茶色で0.1%といった所かしら。因みに黒色は前例無しね。」

 

「そんなレアカラーなのか俺!? これどっからどう見ても普通じゃねぇな!!」

 

 普通でない=凡人ではない

 それは凡人教のリュウヤにとってはかなりの痛手だった。そもそも凡人を極める必要性というものが一般人からしては全く意味の分からない頭のおかしいことだが、リュウヤにとっては死活問題だという。

 

「ともかく、この話は今度だね。それにリュウヤにもリュウヤなりに事情があるのだろうし、詮索はしないさ。後、いきなり暴走して悪かったよ……。」

 

「ああ、所でそろそろ言ったほうがいいんじゃないか? そのスラム街って所に。」

 

「そうね早く行きましょ!」

 

 こうしてリュウヤ達の休憩タイムは終わり、ネックレス捜査へと戻るのだった。




一日6回投稿ですが何か?
そしてそろそろ第1章の本題に入り始める所。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。