物理攻撃なら全て跳ね返せる件について ~仲間を守るためなら手段を選ばない~ 作:虎上 神依
リュウヤは全速力で走り出すと元の大通りに出る。
だが既にそこにはあの白髪の美少女獣人と狼のような精霊の姿は何処にも無かった。恐らく、あの赤髪の少女を追うために走っていったのだろう。
「チッ、時既に遅しかよ!」
改めて周りを見渡すが美少女の姿は確認できなかった。なにせ、あそこまでの美少女なのだ例え目立たない色の髪の毛をしていようと直ぐに分かるはずだ。
なら答えは一つ、既に何処かの角を曲がったのだろう。これでは彼女の姿は追うことはほぼ不可能、と言う訳でもない。
彼女の目的はあの赤髪の少女を追うこと、ならばあの少女が行った先。即ち、あの路地裏の繋がる場所へと向かうのが普通だろう。
「スミマセン! ちょっとお伺いしたいことがあるのですが……!」
リュウヤはすぐ近くに居たリザードマンっぽい亜人に話しかける。
取り敢えず、情報を得ることが最優先だ。人見知りとかトカゲ嫌いとか言い訳している場合ではない。
「ん? どうした兄ちゃん。」
「あの路地裏は何処に繋がっているんですか!?」
「へ、変なこと聞くなぁ。この先の角を右に曲がってちょっと行った所だぞ。」
「あ、ありがとうございます!」
当たり前っちゃ当たり前の話だ。だが、この国の土地勘がゼロの彼にとってはこんな単純な事であろうとも重要な情報となってくる。
リュウヤは直ぐ様その曲がり角の存在を確認すると、地を蹴り走り始めた。運がよいことに人は商い通り程多くなく走ってもぶつかることは殆ど無いだろう。
ならば、スピードは全速力だ! リュウヤは出すことの出来る限界のスピードまで数秒で加速して走っていった。
追いかけてまでもお礼をしなければ気が済まない。だからこの罪悪感を沈めて、自分を納得するためにも彼はあの美少女を追いかけなければならなかった。
「――あの兄ちゃん足速いな……。」
男のリザードマンはそう呟いたがその声がリュウヤに聞こえることは絶対に有り得なかった。
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「駄目だ、全然見つからねぇ!」
リュウヤは一人、街のど真ん中で再び彷徨っていた。相変わらず、周囲から物珍しさ故に多くの視線を集めていた。
だが、そんな事を気にしている余裕など彼には存在しなかった。彼が探している人、美少女と精霊が一向に見つからないのだ。
もうこれは完全に見失ったと言わざるを得ない状況だった。
あれから色々な人に尋ね、彼女の居場所を探ろうとした。
だが、やはり決断が遅かったせいか彼女に追いつくことおろか彼女が向かう先までも見失ってしまった。
これだから俺は……、全く何と情けない野郎なんだ!
リュウヤは自分の愚かさを嘆いた、しかしどうこうしたって時が戻ることはない。ならばこれからの事を考えなければ……。
現実逃避中の彼が再び捜索に戻ろうとしたその時――
「うわああああん!! お父さああん、お母さあああん!!」
あの時とほぼ同じ、かすかではあるがそんな声が耳に入ってきた。恐らく迷子にでもなってしまったのだろう。
だが、ここでこの子に構っていたらあの美少女と会うことはもう出来なくなるだろう。
究極の二択問題だ、さてどちらを選ぶか。
「……。」
一人、子供の声のする方を見て考えた。
確かにここで彼女を探した方が結果的にはリュウヤの良い方向に傾くかもしれない。
だが、彼の頭の中で『それ』は引っかかっていた。
あの時、彼女だって急いでいた。それなのに彼女は人助けと情報収集という名目でリュウヤを助けた。
彼女にとって収穫は赤髪の少女の特徴だけであって、犯人を見逃してかつリュウヤの治療に関わった事を考慮すると損得でいえばぶっちぎりの損だろう。
そう、それが結果的にリュウヤを動かす原動力となったのだ。
善行をすれば必ず自分に返ってくる。いっちょそれだけを信じてやりますか。
「全く、面倒だな。」
いつもの決まり文句を呟くとリュウヤはその泣いている子供の元へと向かった。
子供は通りの端でメソメソと泣いている。外見からして5,6歳で人間の男の子といった所だ。
「僕、大丈夫か? お父さんやお母さんとはぐちゃったのかい?」
リュウヤは子供のそばに駆け寄ってしゃがみ込み、目線の高さを合わせて話しかけた。子供は泣き続けながら小さく頷く。
「そうか、ならこのお兄ちゃんも一緒に探してあげるよ。」
「……、本当?」
「ああ、二人で探せばきっと見つかるはずさ! おっとその前にこのアメでも舐めると良い、美味しいからな。」
偶々リュックサックの中に入っていたアメを一つ取り出し、子供の手に握らせた。
だが、子供はそのアメを見ても浮かない顔をしていた。
「これ……、何?」
「あ、そうか、この世界にはアメは無いのか……。それはあれだ、無くなるまでしゃぶって食べるお菓子だ。美味しいぞ。」
リュウヤはアメの袋を開けて中身を子供に優しく手渡した。
子供は怪訝そうな顔をしながらも恐る恐るとそのアメを口の中に入れてしゃぶり始めた。
「……、美味しい。」
「だろう? さてとじゃあお父さん、お母さん探しと行こうじゃないか!」
「うん!」
何とか子供の笑顔を取り戻し、ホッとする反面これまでにやったことのない大きなミッションに彼はプレッシャーを抱えながらも立ち上がった。そして優しく子供の手を握ってあげる。
先程までの美少女探しは情報があった、しかし見つけることは出来なかった。
そして今回は情報なしでの人探しだ、はっきり言って難易度ルナティック、ほぼ不可能。
だけど、やると言ったからには絶対にやり遂げるつもりだ。平凡を極めしもの、諦めることなど絶対に許されない。
それに――
思い出したくもない過去を回想しそうになりリュウヤは無意識に頭を抑えた。
そう、あれだけは思い出したくない。最悪にして最低な黒歴史だ。あれを思い出すことも繰り返す事も絶対にあってはならない。
だから、諦めるわけにはいかない!
「お父さんはどんな人なのかな?」
「……うーんと、緑色の髪の毛でカッコイイ人!」
「そうか、分かった。頑張って探してみるよ。それと――」
――緑色か……、そう言えばチンピラから助けたあの男の人も緑だったな。
リュウヤは横にいる子供を軽く持ち上げると自分の肩に乗せた、所謂肩車というやつだ。
子供あやしにおいて定番な行動であるが今回はそれが目的ではない。
「うわぁー! たか~い!」
「お兄ちゃんの上からお父さんを探すんだ、そうすれば早く見つかるだろう?」
「うん! ありがとう、お兄ちゃん!」
多少口ごもりながらも子供はそう元気に答えた。アメを舐めているのだから仕方があるまい。
そしてリュウヤは子供が元気になったことに胸を撫で下ろすとともに自分の目の前の光景に条件を満たす人が居ないか探し始めた。
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それから子供の親を探すこと30分、似ている人はいくらかいたようだが父親、母親らしき人は見つからなかった。
「お父さん、お母さんいるかい?」
「……ううん、いない。」
「そうか。安心しろ、このお兄ちゃんが絶対に見つけてやるからな!」
肩に乗っているため顔を見ることは出来なかったが子供の元気が段々と無くなっているのが分かった。
このままではいつ泣き出すかわからない。やはりここは敢えて移動しないという手を取った方が賢明なのかもしれない。
昔、自分が迷子になった時にやった対処法だ。そう、相手も探しているのだから動いてはすれ違って逆効果。そのため、敢えてその場に待機することによって相手に見つけてもらう事が出来る。しかし、これは相手もその場に待機していた場合は更に面倒なことになる。
だが、今回探しているのはお父さんとお母さん、即ち二人だ。なので相手が余程の馬鹿でなければその場で待機していた方が良いということになる。
それなら早速実行しよう……。
「なあ、僕――。」
リュウヤが言いかけた時だ。
「だ、誰か! 助けてくれぇ!」
かすかにそんな声が聞こえてきた。しかも、数時間前聞いた声と全く同じのが。
……、これはデジャヴ、デジャヴなのか? 俺はある時間をループする特殊能力でも持っているのか?
で、でも流石に同じ人じゃ……、無いよね。
「ねぇ、お兄ちゃん。」
「ん、どうした?」
「……、今助けてーって聞こえた。」
「ああ、そうだな。」
「その声お父さんに似てる……。」
「はあ!?」
リュウヤの脳全体を何やら嫌な考えが走り抜けていった。
完全にデジャヴだよな……、これ。
だけど、どちらにせよ。放っておくという選択肢は存在し得ない!
「あっ、そっちは……!」
「ああ、普通なら入っちゃいけない場所だ! だけど、助けを求められた以上入るしか無いんだ。だから少しだけ我慢してくれ、僕!」
「う、うん!」
リュウヤは戦う覚悟を決めると肩車をしたまま路地裏へと走っていった。
ヒロインまさかの離脱。
だけどこの流れが一番展開的に良いのかも……。
それと本日3回目の投稿だね。