【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】 作:焼き鳥タレ派
「……なんで呼ばれたかは、わかってるよね?」
「はい。司令官……」
真司の執務室。いつになく重い空気の中向かい合う真司と三日月。
「どうして、あんなことしたの?」
真司は昨日のTri-Circuitsとの戦いで、
三日月が無謀な突撃で瀕死の重傷を負ったことについて問いただしていた。
彼女の怪我は高速修復材で一瞬で治ったが、大事を取って医務室で入院していた。
もう大丈夫だと判断した龍田が、三日月を退院させる際、
真司から呼び出しの伝言を預かっていたことを彼女に伝えて今に至る。
三日月が神妙な面持ちで答える。
「それは……。ただ、司令官に、攻撃のチャンスを作りたくて」
「俺、攻撃できないから助けて、なんて、頼んだ?」
「いいえ……」
「捨て身で戦艦に突撃しろ、なんて、命令した?」
「……いいえ」
「攻撃の前に、自分が死んだら悲しむ人がいるってことは、考えた?」
「それは……。でも、でも!私がいなくなっても、他にもっと優秀な戦艦や空母と言った、司令官の秘書艦に相応しい方がいらっしゃいます。それに、自分でもわかってるんです。いくら練度が上がったって、私じゃ限界があるって。
第一艦隊で前線に出られる時期はもう長くないって。だから、最後に少しでも……」
「ふざけんな!!」
初めて真司が三日月を怒鳴りつけた。大声に三日月が身をすくませる。
「“他に優秀な人がいるから死んでも大丈夫”?
“自分は役に立たないからいなくてもいい”?ふざけんなよ!
そんなの、イレギュラーの理屈じゃんか!あれほど憎んでたイレギュラーに、
自分がなってどうすんだよ!なんで自分を否定すんだよ!俺は、俺は……」
「あ……」
真司は膝をついて三日月を抱きしめていた。
「君しかいないんだよ……。この世界で出会って、手を繋いだり、言葉を交わしたり、
一緒に色んな経験をした三日月は、君だけなんだよ。だから……!」
いつの間にか真司の目から涙がこぼれていた。
「いなくなったりしないでくれよ、頼むから……」
「……真司さん。し、真司さん、ごめんなさい。
ごめんなさい……。うう、うわあああん!!」
二人はしばらく抱きしめあったまま泣いていた。
そして、どれくらいの時間がたっただろう。どちらからともなく、体を離した。
「これからも、ずっと隣にいてくれるかな?」
「ぐすっ……。はい!」
真司が笑顔で頷くと、三日月も笑顔を返した。
すると、真司が足をパン!と叩いて立ち上がった。
「さて、話も終わったし、今日は何をしよっかな。
いや、ライダーバトルのこととか考えなきゃいけないことはあるんだけど、
考えてどうなるもんでもないからなぁ」
「このところ特にイレギュラーの侵入もありませんからね」
「仕事の方は編集長に話付けてもらってるし……あ!!」
「どうしたんですか!?」
「優衣ちゃん!優衣ちゃんに全然連絡してなかった……。うわぁ、ヤバい!」
「どなたですか?その方」
「俺と蓮の仲間でさ、ちょっと前まで蓮とミラーモンスター退治やってたんだ。
俺、蓮とその娘の家の空き部屋に下宿してたんだけど、
初めてここ来てから全然帰ってなかった。ああ、こうしてらんない、
今日は俺、一旦現実世界に帰るよ!
……そうだ、蓮も帰ってないはずだよ、声かけてみよう」
「お見送りします。私がクルーザーの操縦を」
「サンキュー!蓮の鎮守府までお願い!」
秋山鎮守府 執務室
「おーい、蓮いるかー?入るぞー!」
「三日月ちゃん久しぶりー!
お仕事終わったらさ、一緒に間宮に……、って城戸提督、失礼致しました!」
真司達が執務室に入るなり吹雪が走ってきた。
蓮は三日月の怪我については伏せているようだった。
「騒々しいのが二人もいると、うるさくてかなわん。……何の用だ」
「すみませ~ん……」
何やら段ボール箱の中身を漁っていた蓮が近寄ってきた。
「なんだよー。一度優衣ちゃんのところに顔出しに帰るから、誘いに来てやったのに!」
「!?……。そうか。確かに妙なことばかりに気を取られて忘れていたな。
一旦戻るとするか」
「うん、さっそくこの部屋の01ゲートで戻ろうよ。きっとすごい心配してる」
「01ゲート?なんだその、見たまんまの名前は」
「うるさいな!わかりやすくていいだろ?」
「わたしも、なんだかかっこいい気がします!」
吹雪だけが真司のネーミングを支持する。三日月は沈黙し中立を保っている。
「……前から思ってたが、お前らは似た者同士だな」
真司と吹雪は同時に顔を見合わせ、首をかしげる。
「どういうことだよ?」
「どういうことですか?」
そして、また同時に問う。
「……そういうことだ。とにかく俺は行くぞ」
「あ、待てって!
三日月ちゃん、01ゲートってどの鎮守府のやつを使っても同じところに戻れるの?
人によって入ってきたパソコン違うじゃん」
「その人がこの世界に入ってきた場所に戻ります。
ゲートとは言っても、ログアウトのプロセスを可視化したものに過ぎないので」
「じゃあ、俺の場合はOREジャーナルに戻る、と。ありがとね!
しっかし、また壁や床に叩きつけられるのやだなぁ……」
「転送中にジタバタされてるんじゃありませんか?
無駄に動くとネットワークに負荷がかかって転送結果が雑になります。
流れに身を任せていれば、安全に立ったまま出られますよ」
「そっかあ、今度からは無事に出られそうだよ。本当サンキュー!」
「おい早くしろ、俺は行くぞ」
「あああ待てって!じゃあ、三日月ちゃん、俺は行くから!
せっかくだから吹雪さんと遊んで帰りなよ、じゃあ!」
「お気をつけて、真司さん!」
「司令官もお気をつけて!」
二人に見送られながら真司と蓮は01ゲートへ飛び込んでいった。
またしても0と1しかない暗黒の空間。蓮の姿はなかった。
おし!今度は動かずじっとして……真司は三日月の助言どおり、
今回はプログラムの流れに身を任せ、出口に到着するのを待った。
そして、数分で眩しい光に包まれ、現実世界へと戻っていった。
Login No.005 手塚海之
その青年は執務室に降り立つと、ゆっくり周りを見回した。
和洋折衷の意匠が施された広めの部屋。
デスクや本棚などが並び、部屋の雰囲気とマッチする調度品が置かれている。
しばらく部屋を眺めていると、ノックが3回聞こえてきた。
「失礼します!」
「……どうぞ」
少女の声に青年は答えた。
漣は緊張してドアを開けた。
ええと、長門様から聞いた注意によると、まずいきなりチヤホヤしない。
イレギュラーかもしれないんだから。チュートリアルでも提督権限の話題は極力避ける。
よし、バッチリ、これで勝つる!
「綾波型駆逐艦“漣”です。艦隊これくしょんの世界へようこそ。
新任提督へのナビゲーションを務めます。どうぞよろしくお願い致します」
「俺は手塚海之。よろしくね」
「それでは、さっそくですが当鎮守府をご案内いたします。どうぞこちらへ」
「うん。お願いするよ」
漣は海之を連れて洋館の外に出た。
珍しそうに母港を眺める海之は気づいていなかったが、
道行く艦娘たちが素知らぬ顔をしながら、ちらちらと彼を視界に入れていた。
「あの赤レンガの建物が工廠です。あの建物で私達艦娘や装備を建造します」
「なるほど」
「更にその奥が装備換装や改装を行う改修ドック。
左手奥に見える建物が私達艦娘の宿舎です。戦闘で受けたダメージを癒やす、
修復溶剤で満たされた通称“お風呂”があるのですが……
良からぬ考えは慎んでいただけるとお互いのためになるかと」
漣は何気なく、を装って右手の12.7cm連装砲をぶらぶらさせた。
「うん、わかってる」
若干脅迫混じりの警告を向けられても、海之はただ静かに微笑んで答えた。
二人は作戦司令室の前を通りかかった。漣が窓際にいる長門に目線を送る。
目が合うとお互い小さく頷いた。
「あちらの作戦司令室で出撃命令を下せます。
中にいる司令代理の長門様におっしゃっていただければ、
作戦海域への出撃及び出撃要員の選択が可能です」
「中の人に頼めばいいんだね。わかった」
そして、鎮守府の主な機能を説明し終えた漣を連れて執務室に戻った。
さっきまではなかった01ゲートを見て不思議がる海之。
「……あれは?」
「現実世界へと戻るためのゲートです。
もし、提督がこの世界にご興味がないのであれば、あれで帰ることも可能です」
本当に帰っちゃったらどうしよう。
漣は内心そわそわしながら、あくまで事務的対応に徹する。しかし、
「残るよ。……俺にはここでやるべきことがあるんだ。よろしく、漣」
海之が握手を求めるが、漣は立ち尽くしたままだ。
しかし、その体がプルプル震えている。
「か……」
「どうしたの?」
「神降臨キタコレエェェ!!」
漣は海之に思い切り飛びついた。彼女のいきなりの変化にさすがに海之も戸惑う。
「よかったぁ、ちょっとそっけなくしすぎたんじゃないかなぁ、と思ってたから
残ってくれるかマジ不安で、本当よかった~。
あ、それじゃあ、改めましてご主人様、今後共ヨロピコ!
みんな興味ないふりしてたけど、本当はご主人様のこと、
すっごいすっっごい待ってたんだよ!これから提督としての冴え渡る采配マジキボンヌ!
おながいします!」
「なるほど、俺が君達の上に立つに相応しいか、資質を測っていたんだね」
海之の言葉に漣の表情が少し暗くなる。
「本来なら、提督を試すような真似なんて、漣達だってしたくないんです。
でも、イレギュラーから身を守るためにできることが、これくらいしかなくて……」
「イレギュラー?それって何なの。教えてくれないかな」
「はい……」
漣は、彼女達がイレギュラーと名付けた悪質プレイヤーに付いて海之に語った。
自分達を玩具のように使い捨て、挙げ句の果てには
この世界を我が物にしようとしたものがいた事を。
特に、“x029785の悲劇”や、先だってのSons of Daidalosの襲撃について
訴えるように語って聞かせた。
「……わかった。心配はいらない。侵略者が現れたら俺に任せて欲しい」
「え!?気持ちは嬉しいけど無茶は駄目です!
今言ったサンズオブなんとかっていう連中なんて、
武装ヘリや戦車で攻めてきたんですよ?生身で挑むとかマジ無理ゲーです!」
「大丈夫、戦う武器はある」
海之はポケットから赤紫のカードデッキを覗かせてみせた。
既にライダーの存在は全艦娘が知るところなので、漣は驚く。
「ね、ね、燃料投下キターッ!!まさかご主人様もライダーだったなんて!」
「ということは、もう俺の他にもライダーが来ているのか……」
「はい、そのとおりですご主人様!」
「どんな人が来てるのか、教えてくれるかな」
「はい……。と、その前に、お電話お借りしてもいいですか?長門さんに知らせないと!
またライダー提督がおいでになったって」
「うん」
漣はデスクの電話の受話器を上げると、暗証番号を押した。
そして電話に出た長門に海之がライダーである件を興奮気味に伝えた。
受話器を置くと、程なくして長門が直接執務室にやってきた。
洋館と作戦司令室は、ほぼ隣同士なので電話が切れてからすぐだった。ノックが3回。
「どうぞ」
「失礼します。提督、司令代理の長門だ。以後、よろしく頼む」
入室した長門は自己紹介と敬礼をした。
「俺は手塚海之。これからよろしく。
ところで早速なんだけど、今ここに来ているライダーについて教えて欲しいんだ。いいかな?」
「まず、城戸提督こと仮面ライダー龍騎、秋山提督こと仮面ライダーナイト、
北岡提督こと仮面ライダーゾルダ、浅倉提督こと仮面ライダー王蛇。
そして、仮面ライダーオーディン」
「……ひょっとして、4人目の浅倉提督って、浅倉威のこと?」
「やっぱり知っていたのか……」
「今、日本中でニュースになってる。
不可解な脱獄をして姿をくらませたそうだから、もしやと思ったんだ。
……そうか。5人もライダーが来ているなら、
ライダーバトルの事は知ってるよね。もう彼らは戦いを始めているのかな?」
「……今のところは休止状態だ。
一度、浅倉提督が北岡提督に襲撃をかけたのを切欠に乱戦になったことはあるが、
神崎の介入で中止されて以来、戦いはない。
むしろ危機の際に団結して戦ったこともあるくらいだ」
「そうか、もうここにも神崎が……。でも、まだ間に合う」
「提督も、願いを叶える力を得るために?」
「願いと言えば願いだけど、俺は力を得るために戦ってるわけじゃない」
「蚊帳の外状態なう、と……」
漣が小さな声でつぶやく。
「俺は、ライダーバトルを止めたい。この不毛な殺し合いをどうにかして終わらせたい」
「だったら!」
長門が必死の表情で海之の両手を握った。
「貴方は城戸提督に会うべきだ!彼も同じ目的で戦っている。
今は現実世界に帰っているが、彼が帰還したら提督にすぐ伝えよう!」
「そうなのか。ライダーにもこの戦いが無意味なものだとわかっている者がいたのか……」
「そうと決まれば!さっそく手塚提督が正式に就任したところで……。漣、例のものを」
「了解っ!」
漣は元気よく敬礼すると、
部屋の隅にある段ボール箱から純白の軍服一式を取り出し、海之に差し出した。
「提督限定の海軍制服うぷ」
「こら、ちゃんと渡さないか、大事な物なんだぞ」
「す、すみません……。こちら提督用の軍服です。お召しになってください」
海之は支給された制服をじっと見る。しかし、
「済まないけど、これは着られない」
長門は、うんざりした様子で頭を押さえる。
「またなのか。これは何か提督方に恨みでも買ったのか?
よければ理由をお聞かせ願いたいのだが」
「純白は占いの結果に影響を与える。
俺は占い師なんだけど、占う時は相手の気の流れた跡も読み取るんだ。
まっさらな白には、その流れた痕跡をかき消してしまうという作用がある」
「ご主人様、占い師だったの?じゃあ、もしかして、漣を秘書艦に選んだのも?」
「そう。俺、ゲームのことはよくわからないから、占いで選んだ」
「ガーン!ライダー提督の秘書艦に選ばれた理由が、まさかの適当……」
「適当じゃないよ。俺の占いは当たる。良くも悪くも。
俺と漣は、これからなんらかの大きな出来事に遭遇する」
「本当ですか~?もし嘘なら全“漣”が総力を上げてコチョコチョするが」
「じゃあ、試しに何か占ってみよう」
「え~と、ん~と……
いざ占ってもらうとなると、なかなかお題が見つからないっていうか」
「では、今、沖ノ島海域に出撃中の艦隊の戦果を占ってくれ」
迷う漣に替わって長門が占う事柄を示した。
「わかった」
海之はそう答えると、ポケットから取り出したメダルを、
まずは1枚。続いて2枚を指で弾き、
「次で最後」
3枚弾いて裏表を見た。するとその表情がみるみるうちに険しくなる。
「戦果どころじゃない。今すぐ退却させたほうがいい」
「なんだって?」
「海の方角に災厄あり、と出た。急がないと危ない!」
半信半疑の長門も海之の表情を見てただならぬものを感じ、大淀に電話。
出撃中の部隊に撤退命令を出すように命じた。
データ転送でワープするように出撃先から戻ってきた部隊から、
文句の声が聞こえてくる。
“なんでー!?もうちょっとでボスマスだったのに!”
“資源も拾えていい感じだったんだけどな……”
“理由くらいは聞きたいよね~”
納得の行かない艦娘達が作戦司令室に向かっている。
長門が窓から作戦司令室を見ると、詰めかけた艦娘達と、
その対応に苦慮している陸奥の姿が見えた。
その直後、鎮守府中のスピーカーから警報が鳴り響き、大淀の声で警告が発せられた。
『緊急警報、緊急警報!沖ノ島海域にエラー娘が出現!
総員メンテナンスに備えよ、直ちにその場に伏せ、身の安全を確保せよ!繰り返す……』
警報とともにあちこちから悲鳴が上がる。
海之が何が起こっているのか訪ねようとした瞬間、鎮守府内全ての電気が消え、
長門も漣も、時が止まったように動かなくなった。
薄暗くなった執務室の中、海之は待った。また、占いが当たってしまった。
そして約30分後、電気が復旧し、動きを止めていた長門達もまた動き出した。
「ぷはっ!……はぁ、まさか今時エラー娘が現れるとは。
こうしてはいられない、済まないが、また電話を借りるぞ」
長門が作戦司令室に電話をかけ、大淀に事の仔細を説明する。
その間に漣が海之に話しかけてきた。
「ご、ご主人様って未来予知が出来るんですね!
全く現れる予兆を見せないエラー娘の出現を察知するなんて……」
「未来予知じゃないよ、あくまで占い。
メダルで戦いの行方を占ったら、
戦いどころじゃないと警告したんだ。……俺からもいいかな。エラー娘って何?」
「突然前触れ無く現れては、漣達の世界を停止させる厄介な存在です。
出撃中に遭遇すると、それまでの戦績や獲得資源がパーになることもあるんで
まさにガクブル!
昔はパソコンの前の提督方が一度に集中した時に出やすかったんですけど、
まさかサーバーが増設された今になってまた出るとは……」
「そうか、ありがとう。とにかく間に合ったみたいでよかった。
でも、それってさっきの話と矛盾してない?」
「何がですか?」
「君達は自分で何らかの数値の変動を伴う行動ができない。
でも、自分で出撃してなにやら持ち帰ってもいたようだけど」
すると、漣がボリボリと頭をかいて渋い顔をして答えた。
「ご主人様が来る前にですね、一人提督が来てたんですよ。まさに入れ違いです。
その人がみんなを出撃させたまま現実世界に帰っちゃったんです!
“なんか思ってたのと違う”って!イレギュラーじゃなかっただけまだマシですけど、
後始末くらいしてけってんだいコンチクショー!」
そうこうしていると、今度は外から歓声が聞こえてきた。
“しかも、またライダーですって!”
“さっきの撤退命令は提督の占いの結果って本当なんですか!”
“ヌフフ、提督でライダーで占い師……まさに一粒で三度おいしい”
“私、会いに行きたいな~”
“ほらほら、提督は着任されたばかりでお忙しいから、また今度ね。一同解散!”
“は~い”
「ほら~もうみんな新提督の活躍に夢が広がりんぐですよ!もちろん漣もです!」
「うん、頑張るよ」
「で、制服は?」
「着ない」
「タハー!やっぱりかよ!」
ずっこける漣。こうして手塚海之の艦これ界での戦いが始まった。
今は不在の真司との邂逅がどのような結末をもたらすのか。今は誰にもわからなかった。
いくら慎重に転送したとしても、狭いブース内に飛び出したらこうもなるだろう。
蓮は、久方ぶりにあのネット喫茶に戻ったが、
勢い余って個室から廊下に放り出された。
「ああ……、くそっ」
ちょうどその時、見覚えのある、おっとりした店員が通りかかった。
「あ、お客様。お掃除は済ませときましたんで」
しまった。もう半月近くも料金を払っていない。慌てて蓮は弁解する。
「ああ、待ってくれ、逃げたわけじゃない。少し外せない用件があって……」
「どうかなさいましたか?ネット喫茶は精算時にご利用分の料金さえお支払頂ければ、
何時間でも何日でもいてくださって結構ですよ~」
「そ、そうなのか……」
「では、ごゆっくり~」
「いや、待ってくれ。もう出る」
蓮は店員と共にカウンターへ行き、店員に伝票を渡した。
長期間の利用にも店員は驚く様子もなくレジを打つ。
この店を住処にしている客が他にもいるのだろう。
「ええと、3時間パックが何日分で……、少々お待ちを」
店員がたっぷり10分掛けてレシートを発行。
「お待たせしました。お会計が合計でこちらの金額になります」
「!?」
長ったらしいので、店員は読み上げを省略してレシートを蓮に見せた。
それを見て蓮はギョッとした。
ひとつ大きなため息をつくと、蓮は財布から1万円札を何枚も抜き出した。
肩を落としながらビルから出た蓮は、『ここに二輪車を停めないでください』という
札を貼られたシャドウスラッシャーにまたがり、秋葉原の街を走り出した。
が、あるものを目にしてすぐに停止する。
大型家電量販店の前、何本も立てられたノボリ。
“大特価!ハイスペックノートPCが¥159800(税込)!”
「……」
決心した蓮は家電量販店の立体駐車場へ向かった。
やった、三日月ちゃんの言った通り!
真司は無事、OREジャーナルのオフィスに両足で着地した。
誰かいないか見回すが、ちょうど昼休憩の時間だったので、
背中を向けている大久保しかいなかった。
カップラーメンをすすっている彼は、スチール製のキャビネットに置かれた
ポータブルテレビに夢中で真司に気づいていない。
普通のテレビを置くスペースも十分あるのだが、
“いつN○Kが集金に来ても隠せるように”とコンセントを差すだけで見られる
小さなテレビを設置している。いつもテレビは暇つぶし程度に眺めるだけの大久保が、
やけに熱心なので、真司も内容が気になって覗いてみた。
“米国防長官、マッキンリー氏は声明で、「日本の行動は
安保条約を揺るがしかねない重大な危険行為である」と強く反発しており……”
「日本やべえな、こりゃ。どのチャンネルもおんなじだしよぉ」
大久保が独り言を漏らしながらリモコンでザッピングするが、
やはり内容は艦これに端を発した日本のタイムマシン開発疑惑に関するものだった。
“アメリカは、サーバーが存在するとされるコロンビア政府に協力を求め……”
“いやー知らなかったっすよ、艦これが未来にあるとか。マジ、ヤバくないですか?”
“首相は記者会見で、「我が国が極秘にタイムマシンを研究開発しているという噂は
事実無根だ。米国に粘り強く説明して理解を求めていく」という立場を明らかにし……”
“弊社と艦隊これくしょんは一切関係ありません!
我々も勝手に社名を使われて迷惑しているんです!”
既に艦これの秘密は世界を巻き込み、もはや真司達だけの問題ではなくなっていた。
早くなんとかしないと……!でも、とにかく今は、一旦お店に戻らなきゃ!
そっとオフィスを出た真司は危機感を募らせた。
そんな彼に気付かず、相変わらず大久保はテレビにかじりついていたが、
ふと、あることを思い出した。
「ん……、そういや、真司がワーワー言ってたあれも、艦隊これくしょん、だったか?」
紅茶専門喫茶店「TEA 花鶏」。
東京の住宅地にひっそりと建つ、多くの花が飾られたこの喫茶店で、
若い女性と初老の店主が皿洗いやテーブルの拭き掃除など、
それぞれの仕事に勤しんでいた。今は客もいないので二人は立ち話をしていた。
「それにしても二人でお店回してくのってこんなに大変だったかしら。あたた、腰痛い。
しっかし、真ちゃんてば急に入院して面会謝絶なんて一体どうしちゃったのかしらねぇ。
会社の人が連絡くれた時はびっくりしちゃった」
カウンターの向こうでぼやいたのは、花鶏のオーナー、神崎沙奈子である
「真司君も心配だけど、蓮ったらこの忙しいのに、
いきなり店ほっぽり出して何日も帰ってこないんだから。一体どこ行ってるのよ」
文句を言いながらテーブルを拭く、ショートカットの若い女性は神崎優衣。
蓮や真司の仲間であり、ミラーワールドの様子を視認する能力の持ち主である。
最近まで蓮と共にミラーモンスター狩りを行っていたが、今は仕事や雑多な用事が多く、
二人一組で行動することはほとんどなくなった。
幼いころに両親を事故で亡くしており、現在行方不明の兄を探している。
「男が何日も泊まりこむなんてね、そりゃ女絡みしかないでしょ。
あたしの勘に、間違いはないわ。あのむっつりした蓮ちゃんに彼女ができるなんてねぇ」
ニヤニヤしながら優衣の愚痴に答える沙奈子。
彼女は優衣の叔母であり、13年前に事故で親を亡くした優衣を引き取り、
以来ずっとこの住宅兼店舗で優衣と暮らしている。
カラカラン!二人が話し込んでいると、入り口のベルが鳴った。
「いらっしゃいま……真司君!?」
そこにはバツの悪そうな表情を浮かべた真司が立っていた。
「真ちゃん!あんた一体どうしちゃったのよ!?
会社の人に聞いてもドクターストップとかなんとかで病院も教えてくれなかったし!」
「いや、すみませんでした、長いこと心配かけて。怪我したとかじゃないんです。
ちょっとパソコンに触りすぎたみたいで、なんていうか心の風邪?っていうやつで、
そう、精神の疲労?みたいな。
今日は治療の一環で、親しい人と触れ合って
落ち着きを取り戻してこいって言われちゃって。また戻んなきゃいけないんですけどね」
「あら、まあ……あたしパソコンのことなんてちっともわかんないから
よくわかんないけど、やっぱりそういうお仕事って
ストレス溜まるもんなのかしらねぇ……」
沙奈子が心配そうに病状を気遣う。ごめん、おばさん。
「もー本当心配したんだから。蓮までいなくなっちゃうし」
「優衣ちゃんもごめんね!蓮は帰ってないの?」
「うん、こっちには帰ってない。携帯にかけてもつながらないし……」
話し込んでいるとドアベルが鳴り扉が開いた。
「痛てっ!」
「邪魔だ」
続いて真司が誰かに突き飛ばされた、というか何かをぶつけられた。
「蓮!」「蓮ちゃん!」
また驚く優衣と沙奈子。蓮はいつものむっつりした表情で、
なにやらプラスチックの持ち手が付いたダンボールを持っている。
「痛えな!なんだよそれ!」
「入り口で突っ立ってるお前が悪い。優衣、おばさん、心配かけて悪かった。
秋田のどこかの村のお土産だ」
蓮は二人に何かを手渡した。秋葉原裏通りの雑貨屋で見つけた木彫りのフクロウ。
「あらやだ、可愛いじゃない……!お店に飾ろうかしら」
蓮の長期不在をすっかり忘れて可愛らしいフクロウにはしゃぐ佐和子。
「ほら、優衣も」
「えっ。……いらない」
「何故だ」
「なんていうか……、おじいちゃんぽい」
「そうか……」
蓮のチョイスは年配の心は掴んだが、若い女性にはウケなかったようだ。
「ところでおばさん、この店はインターネットは使えるのか?」
「う~ん、パソコンのことは知らないけど、携帯会社の人が半年くらい前に、
とにかく置かせてくれってんでワイファイ?とかいう機械勝手に置いてったけど、
それでネットができるらしいわよ。知らないけど」
「ありがとう、それで十分だ」
それだけ言うと、蓮はダンボールを抱えてベッドのある2階へ階段を上っていった。
「あ、ちょっと待てよ蓮!」
「蓮、一体何してたのよ!」
真司と優衣も蓮を追いかけて2階へ上がる。
蓮と真司のベッドがある部屋を開けると、床が梱包材で足の踏み場もなくなっていた。
「おい蓮、何やってんだ?」
「うっわ、何買ってきたの蓮……」
「パソコンだ」
蓮がセットアップ作業に悪戦苦闘しながら答える。
「パソコン始めたの?……あ、ひょっとしていなくなったのって」
「ああ、ミラーモンスター絡みだ。ネット空間にも現れだした」
嘘はつかずに重要な事実を伏せたまま答える蓮。
「そういうわけで、これから遠出することが多くなる。
おばさんにも上手いこと言っといてくれ」
「あ、俺も俺も!先生がまだ長引きそうだって言ってたからよろしく!」
「はぁ……。蓮のほうはわかるとして、真司君は元気そうにしか見えないんだけど」
「そ、そこが心の病気の怖いとこだよ。……って先生が言ってた!」
「は~い、それじゃあ私はお店に戻るから。無理しない程度に早く戻ってきてね」
「わかった!」
そして優衣は1階に戻っていった。
同時に蓮がセットアップ作業を終えたようで、
さっそくIEを起動してDMM.comにアクセスしようと試みている。
「あ、そうか!ここにパソコンがあればいつでも誰にも怪しまれずに戻れるじゃん!」
その時、蓮がスッと手を差し出した。
「な、なんだよこれ……」
「一回一万円だ。いくらしたと思ってる。20万だぞ。タダでは使わせん」
「一万て……払えるわけねえだろ、ケチ!」
「なら今までどおり会社のパソコンで艦これに入れ」
「はいはい、そうしますー!」
蓮が艦これにログインすると、やはり彼の体が画面に吸い込まれていった。
取り残された真司はしばらくの時間を花鶏で過ごし、編集部の終業時刻を待った。
そして、また花鶏も閉店作業を終えると、真司は二人に別れを告げた。
「それじゃあ、優衣ちゃん、おばさん。また病院に戻るけど心配しないで。
そうそう、さっき蓮がものすごい急な用で出ていったよ、窓から」
「うん、わかった……」
「真ちゃんはともかく、蓮ちゃんは本当薄情もんだよ、この忙しい時期に!」
「まぁまぁ、蓮はああ見えて結構忙しいから……」
優衣と彼女になだめられる沙奈子を後にし、
真司も艦これ界に戻るため、会社へ向かった。
某邸宅
寂れた場所にぽつんと建つ洋館。一切の家具が取り払われた空き家。
ただひとつ普通の家屋と異なるのは、全ての窓ガラスに紙が貼られているということ。
2階に1脚の椅子があり、神崎士郎が座っている。
その手には子供が書いたと思われる絵が。男の子と女の子が手をつないで微笑んでいる。
その絵を眺めながら神崎がつぶやく。
「……5人揃った。もうすぐ、もうすぐだ、優衣」