【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第14話 A Kind of Win

帰宅するなり美穂は玄関で崩れ落ちた。出迎える者は誰もいない。

雨に打たれながらどこをどう歩いて帰ったのかは覚えていない。

ポタポタと髪から床に雨粒が落ちる。美穂は這うように風呂場へ向かった。

一人で住むには若干広すぎるマンション。姉が遺してくれた遺産。

しかし、必要最低限の家具、家電、そして男を騙すためだけの

ブランド物の服や化粧品しかない寒々とした家だった。

何とか風呂場の前で立ち上がると、服を脱いで洗濯機に放り込む。

風呂場に入りシャワーのレバーを「温」に倒す。シャワーから勢い良く水が吹き出し、

徐々に冷たい水から温かい湯に変わっていく。

 

「……」

 

温水が雨に濡れた体を温めていくが、美穂の心は暗いままだった。力が欲しい……。

浅倉に惨敗を喫した屈辱は力への渇望へ変わっていった。

どうすれば、どうすれば強くなれるの!?美穂は考える。

……そうだ、いつもどおりにやればいいのよ。あれなら私でも!美穂はシャワーを止め、

バスタオルで体を拭くと、体に巻いて部屋に戻った。

そして、いつもの“仕事着”に着替えると、ノートパソコンを開き、

“艦隊これくしょん”を検索した。

 

 

 

 

 

──霧島鎮守府

 

 

今度はパソコンから艦これ界に入った美穂。

執務室にログインすると、ちょうど布巾でデスクを吹いていた鳳翔と会った。

 

「あ、お帰りなさい提督。ご無事だったようでなによりです……」

 

心配そうに声を掛けてくる鳳翔。お帰りなさい。最後に聞いたのは随分昔のことだ。

いや、今はそれどころじゃない。

 

「ただいま。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、

ここに来てるライダーって浅倉と北岡以外には誰がいるの?

さっきはワタワタしてたし、いきなり浅倉とぶつかって聞きそびれちゃってさ……」

 

「そうでしたね。まず、仮面ライダー龍騎こと城戸提督と……」

 

そして、美穂は現在ログイン中のライダー達の情報を手に入れた。誰にしよう。

できれば一番強い奴がいいんだけど……。

とりあえず秋山って奴にチャレンジしてみるか。

 

「ねぇ、一応他のライダー達の顔も見ときたいんだけど、会わせてくれる?

あ、誤解しないで。別にライダーバトルふっかけに行くつもりじゃないから。

そりゃ、いつかは戦うことにはなるんだけどさ、

こっちが不意打ち掛けられてもいやじゃん?警戒するに越したことはないから、ね」

 

「わかりました。ではさっそく桟橋の方へ行きましょうか」

 

「お願い」

 

美穂達は転送クルーザーに乗り込むと、秋山鎮守府へ向かった。

鳳翔が不思議な音声コマンドを入力して舵を握ると、世界が真っ白になり、

秋山鎮守府のデータのダウンロードが開始された。

間もなく、同じような光景が白の世界に描かれ、秋山鎮守府への移動が完了。

 

「じゃあ、行ってくる。顔を見に行くだけだから、すぐ戻る。待ってて」

 

「どうぞ、行ってらっしゃい」

 

鳳翔に見送られて、美穂は本館へ向かった。

ドアを開けて中に入り、執務室のある2階へ。トトトト、と階段を上り、

執務室の前で立ち止まりノックをする。

 

“……誰だ”

 

少しの沈黙の後、返事が帰ってきた。

 

「あ、あの。あたし、霧島美穂っていうんだけど、仮面ライダーなの。

あ!でも勘違いしないで!別に戦いに来たわけじゃないの。

ただちょっとお願いがあって……」

 

……どうかしら。警戒して中に入れてくれなかったらどうしようもない。

 

“入れ”

 

やった!美穂はドアを開けて中に入った。

中には長い黒の皮のコートを来た男が立っていた。

男は警戒感を隠そうともせず美穂を見ている。

 

「お前か、ここに来るなり浅倉にライダーバトルを挑んで返り討ちにあった無鉄砲は」

 

「知ってんの!?」

 

「ここじゃ重要事項は全鎮守府の間で筒抜けだ、覚えとけ」

 

「あはは、そうなんだ……」

 

「それで、用件はなんだ」

 

「それなんだけどさ……」

 

がばっ……

 

美穂は突然、蓮に抱きついた。

 

「あたしを守って!神崎の口車に乗せられてライダーバトルなんて始めちゃったけど、

こんなに怖いことだなんて思わなかった……」

 

「……」

 

手は動かさず指先だけを気取られないよう器用に這わせる。

 

「ミラーモンスターは自分でなんとかする!でも、きっと浅倉はあたしを殺しに来る!

あなたが最後に勝ち残ったら、私が棄権する。だからお願い!」

 

最後の仕上げ!いよいよコートのポケットに指を差し込もうとした瞬間、指を掴まれ、

強引に顔の前に持ち上げられた。

 

「きゃっ!」

 

「仏の顔も三度までだ。俺は仏じゃないし気が短い。二度目はないと思え」

 

「ふん。なにさ、偉そうに!あとちょっとだったのに……」

 

蓮は美穂の手を放り出した。美穂はふてくされて床を蹴る。

 

「今度のライダーはスリか。神崎も何を考えている。

言っておくが、カードを盗んだところで本人以外は使えんぞ。

特殊な方法を使わない限りな」

 

「え、そうなの!?で、何?特殊な方法って」

 

「わざわざスリの片棒を担ぐと思うか?

知りたきゃ浅倉に聞け。方法を見つけたのはあいつだ」

 

「んー!……もういい、あんたなんか知らない!」

 

バタン!

 

見切りをつけた美穂は去っていった。

蓮はやれやれ、といった様子でソファに身を預けた。

 

 

 

「鳳翔、次は城戸鎮守府お願い!」

 

「秋山提督とはどんなお話を?」

 

「いいの!どうでもいいあんなケチなやつ!」

 

「はぁ……それでは、次のアルゴリズムナンバーに直接転移しますね」

 

鳳翔は再び舵を握り、城戸鎮守府へクルーザーで転移した。

 

 

 

 

 

──城戸鎮守府

 

 

美穂は、今度は真司に同じ手口を試みようと執務室のドアを叩いた。

 

“はーい、誰?”

 

明るい青年の声が帰ってきた。

 

「あたし、霧島美穂っていうの。仮面ライダーファム。

でも、バトルしにきたわけじゃないの。ただ、ちょっと会いたくて……。

正直、もうライダーとの戦いで疲れちゃったの。

あたしが浅倉に負けたの、もう知ってるんでしょ?あれで限界見えちゃったっていうか、

ライダーバトルから降りたいなって思ったの。

でも、方法がわかんなくて、とにかく相談できる人が欲しいの」

 

さっきは事を急ぎすぎた。今度はもうちょっと慎重に距離を詰めよう。

 

“それがいいよ!やっぱライダーバトルなんて……あ、今開けるから”

 

“真司さんダメです!簡単に信じちゃ!”

 

あれ?中にもう一人いるみたい。子供の声だったけど。

でも、城戸って奴より勘がいいみたい。

 

「本当なの!もうライダーバトルから逃げたいの!あたしを助けて!」

 

“ほら、まだまだライダーバトルをやめたい奴がいるんだって!”

 

“あ、待って……”

 

ガチャッ

 

ドアが開いた。そこにはブルーのジャケットを来た青年がいた。

奥には黄色い瞳の女の子が。

 

「あー、俺、城戸真司。とにかく中入んなよ」

 

「お邪魔しま~す」

 

「真司さんたら、もう……」

 

真司が美穂を執務室に招き入れる。三日月が彼女を訝しげに見ている。

う~ん、肝心のライダーは騙せそうだけど、

この娘はちょっと気をつけたほうがいいかも。

 

「そこ座ってよ。冷蔵庫から緑茶持ってくるから、缶だけど」

 

「気を使わないで」

 

美穂が対面式のソファに腰掛けると、

真司が給湯室から冷えた缶のお茶を二つ持ってきて、ソファの前のテーブルに置いた。

いつの間にか緊張していたせいか、喉が乾いていたので、一気に飲み干してしまった。

三日月が真司のそばに立つ。

 

「じゃあ、肝心の話なんだけど……君はなんでライダーになったの?

ほら、ライダーバトルから降りるってことは、その願い諦めるってことじゃん。

それって、大丈夫なの?」

 

「大丈夫、あたしの願いは“使い切れないほどのお金が欲しい”だったんだけど……

今はもうどうでもいい。こんなこと続けてたら命がいくつあっても足りないわ」

 

「そうだよ!それが正しい選択だよ!

実は俺、この殺し合いを止めるためにライダーになったんだ。

他にも同じ考えのライダーがもう一人いる。

大丈夫、絶対君をこんな戦いから脱出させるから!」

 

「美穂でいいよ。それで、どうすればそんなことできるの?」

 

「えーとそれは……これから一緒に考えよう!」

 

「あの、真司さん……」

 

横の女の子も苦笑いだ。よかった、頭は良くないみたい。

女の子引き剥がせば仕事は楽そう。

 

「ああ!でもアテがないわけじゃないんだ!ライダーバトルから降りたっていうか、

生きて脱落した奴がいるから、その例を参考にしよう!」

 

「本当?ああよかった!」

 

秋山って奴が言ってた、カードを奪う特殊な方法とも関係がありそうね。

とりあえず真司ってやつをここから連れ出そう。

こう向かい合ってちゃポケットも探れない。

 

「ねぇ真司さん。話の前に外、行かない?

正直、この部屋の空気、職員室みたいで息が詰まるっていうか……」

 

「そう?俺は平気だけど……あ、俺も真司でいいよ。じゃあ、外散歩しようか。

三日月ちゃん、悪いんだけど、しばらくここ頼めるかな?

執務室が空っぽじゃ、いざという時困るだろうからさ」

 

「へ?私がですか?」

 

急に置いてきぼりを食らうことになり、キョトンとする三日月。

 

「うん、何かあったら俺の携帯に掛けてよ。番号は教えたよね。

ここの電話でも通じるって試したし」

 

「えええ!?ちょ、ちょっと待って……」

 

「行きましょう、行きましょう!行きたいところがあるの!」

 

上手く行ったとばかりに嬉しそうな笑顔でグイグイ真司を引っ張る美穂。

真司も引きずられるまま執務室から出ていった。ぽつんと取り残される三日月。

後には静寂が降りるのみ。

 

「……」

 

だが、彼女の背中に闘気らしきものが湧き上がる。

彼女は黄色い眼をカッと見開き、デスクのノリ・ハサミ・色紙といった文房具を

かき集めた。

 

 

 

甘味処・間宮。

艦娘たちの疲労を癒やすパフェやモナカ等を提供している茶屋。

真司達は店先の長椅子に並んで腰掛け、三色団子を食べていた。

 

「……で、そいつは浅倉にカードもモンスターも奪われたんだけど、

同時に契約モンスターに食われる心配もなくなったわけ。

まぁ、代わりに野良のミラーモンスターに対抗することもできなくなったんだけどね」

 

「ふぅん、そんな裏ワザがあったんだ~」

 

真司は美穂に芝浦淳がライダーでなくなった経緯を説明していた。

なるほどね、この世界のシステムを上手く使えば新しいカードを手に入れられるかも。

 

………

 

そんな二人の様子を、茂みの中から窺う者達がいた。

色紙を切り貼りして作った木の枝を、冠のようにして被りながら、

怪しい動きはないか見張っていた。

 

「あーもう、間宮なんて私も連れてってもらったことないのに!」

 

「あのさあ、めったにわがまま言わないお前の頼みだから協力してやってるけどよぉ……

コレ、かえって目立たないか?っていうか、オレたち一体何やってんだ?」

 

隣の天龍が話しかけた。彼女も同じ変装を押し付けられている。

 

「真司さんがあの人にあんな目やこんな目に会わされるかもしれないんです!

その時は二人がかりで止めましょう!」

 

「言ってることが曖昧すぎて意味わかんねえぞ。根拠は?」

 

「勘です!」

 

「おいおい、大丈夫か?今日のお前変だぞ……」

 

「シッ、お静かに!何か動きがあります!」

 

腹を満たし、控えめな甘さの団子で満足した真司達。

しばしお茶を飲みながら休んでいると、美穂が間を詰めて、真司の肩に頭を乗せた。

これには真司もいささか動揺する。

 

「ど、どうしたんだよいきなり……」

 

「ありがとね。やっぱりさ、一人でライダーバトル続けるのって結構しんどかったんだ。

でも、真司がこうして味方になってくれて久しぶりにほっとした気持ちになれた」

 

そして美穂は真司の腰に手を回す。

 

 

「……フフフ(ガチャリ)」

 

「こらこらこらこら、砲の安全装置を外すんじゃねえ」

 

 

「バトルが終わるまでここで暮らすことになると思うんだけどさ、

いろいろ困ることがあると思うの。その時は助けてくれる?」

 

ジャケットのポケットに手を近づけると、今度は指先だけを動かし、中を探る。

 

「ま、まあ他のライダー助けるのも俺の使命っていうか……」

 

目を泳がせてたじろぐ真司は、思わず団子の串を落としてしまった。

そして、拾おうと視線を落とした瞬間、カードデッキをつまみ出そうとする手が見えた。

すかさず払いのける真司。

 

「きゃっ!」

 

「なんだよ、そういうことかよ!人のデッキ盗むライダーなんか初めて見たよ!」

 

「うるさい!お前に何がわかる!」

 

 

「ふふ、やっぱり。真司さんはあんな人に騙されるわけないって信じてました!」

 

「お前な……」

 

急に揉めだした二人を不敵な笑みで眺める三日月。だったらこいつはなんだったんだ。

外した紙細工の冠を見つめて複雑な表情を浮かべる天龍。

 

 

「わかんねえよ!こんなことまでして勝ち残って何がしたいんだよ!」

 

「お姉ちゃんを生き返らせるためだよ!

そのためなら、あたしはどんなことだってする!」

 

「生き返らせるって……お姉さん、亡くなったのか?」

 

「お姉ちゃんは、浅倉威に殺されたんだ!!」

 

「え……」

 

「だから強くならなくちゃいけない!あたしのデッキにはろくなカードがない……

だから浅倉を殺せなかった!新しい力が必要なんだ!」

 

「美穂ちゃん!」

 

「放っといて!」

 

美穂は呆然と立ち尽くす真司を残して走り去ってしまった。

 

 

「帰ろうぜ、三日月……」

 

「……ありがとうございました。天龍先輩は戻っていてください」

 

「これ以上どうするってんだ!?」

 

「あの人と話がしたいんです!」

 

三日月もまた美穂を追いかけて茂みから飛び出した。

 

 

 

 

 

あてもなく全力で鎮守府を走り回った美穂は、

いつの間にか海岸の砂浜に座り込んでいた。

 

「バトルの途中放棄は、ライダーにあるまじき行為だ」

 

「!!」

 

音もなく、そばに神崎士郎が立っていた。

鏡の中ではなく、現実世界に実像として現れていた。

 

「勝てない……こんなデッキじゃ浅倉を倒せない!

ねぇ、どうしてあたしのデッキはこんなに弱いの!?

ただの剣と、目眩ましにもならない盾、雑魚しか倒せないファイナルベント!

他の奴らは凄いカード沢山持ってるのに、どうして私だけ!」

 

「お前の欲望がその程度、ということだ」

 

「その程度って……浅倉とその弁護士北岡を殺して、お姉ちゃんを生き返らせる!

これより強い欲望があるのかよ!」

 

「姉を蘇らせる、という行為は家族を亡くした自分だけでなく、

命を落とした対象にも利益をもたらす。二人に対する憎しみも同じことが言える。

自分にとっての仇は姉にとっての仇でもある。

両者に共通しているのは、欲望が等分されているということだ。

だが、他のライダーは違う。皆、自分自身の利益のためだけに、

見ず知らずの他者を殺してでもライダーバトルを勝ち上がろうとしている。

お前にその覚悟はあるのか」

 

「それは……あ、あるさ!望みを叶えるためなら、どんなことでもやってやる!」

 

「その言葉が本当ならば、誰でもいい。ライダーを1人倒せ。

どんな手を使っても構わん。それができたら、お前に強力なカードをやろう」

 

「本当!?」

 

「これが手に入れば、昨日のような体たらくを晒すこともなく、

間違いなくライダーバトルの頂点へと大きく前進するだろう」

 

神崎はコートから1枚のカードを取り出し、眺める。

黄金に輝く鳥の胴体が描かれたカード。

美浦もそれを見つめていたが、次の瞬間、カードに飛びかかって奪おうとした。

しかし、その手に掴んだはずのカードに触れることなく、美浦は砂浜に転がった。

 

「う……なんで」

 

「俺に実体はない。力が欲しければ、戦って奪い取れ」

 

それだけを言い残し、神崎は姿を消した。

砂にまみれた美穂は、しばらくじっとしていたが、やがて何事かを決意し、

桟橋へ向けて走り出そうとした。

しかし、彼女の前に悲しげな目をした少女が立っていた。

 

「神崎の言葉に乗っちゃだめです」

 

「あんたに何がわかるのよ……!家族もいない軍艦のくせに!」

 

「わかりますよ……。私も大事な人達を理不尽に奪われことがあります。

犯人を殺してやりたいと思ったこともあります。でも……できなかった」

 

「だったらあたしの気持ちもわかるでしょう!!放っといてよ!」

 

「けど、今の大切な人が言ってくれました。

“人を殺すことなんて勇気じゃない。殺さなかったことが勇気なんだ”って。

貴方が仇を倒せなかったのも、貴方の優しさが思いとどまらせたんです」

 

「うるさい、綺麗事なんか聞きたくない!あたしは戦わなきゃいけないんだ!

今もお姉ちゃんは冷たい棺桶で待ってる!

浅倉と北岡を倒して、新しい命を持って帰るんだ!」

 

叫ぶように言い放つと、今度こそ美穂は転送クルーザーへと走っていった。

 

「美穂さん……」

 

 

 

息を切らせて美穂はクルーザーに乗り込んだ。砂だらけの姿に鳳翔は驚く。

 

「一体どうされたんですか!?」

 

「……なんでもない。私の鎮守府に戻って」

 

「わかりました……」

 

 

 

 

 

──霧島鎮守府

 

 

そして彼女は自分の鎮守府に戻り、01ゲートの前に立っていた。

 

「それじゃあ、ちょっと向こうに忘れ物しちゃったから一旦戻るね。

ついでにいろいろ準備もしたいし」

 

「はい。それではお帰りをお待ちしてますね」

 

……ゲートを潜ろうとして一瞬立ち止まる。

例え任務だったとしても、“待ってる”という言葉が美穂の胸に響いた。

お姉ちゃんがいた頃は気にしたことなんてなかったのに。

そうよ、その当たり前を取り戻すためにあたしは戦うんだ!

彼女は意を決して0と1の群れに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

──城戸鎮守府

 

 

その頃、逃げ出した美穂を探して真司は鎮守府を走り回っていた。

ほうぼう走り回ってさすがに疲れた。

 

「はぁ、くそ。美穂ちゃんどこ行ったんだろう……」

 

“真司さーん!”

 

向こうから三日月が手を振って走ってきた。

 

「ああ、三日月ちゃん。美穂ちゃん見なかった?」

 

「海岸でお会いしました。その後すぐご自分の鎮守府へ戻られたようですが、

やっぱり浅倉提督への復讐の意志は固いようです……」

 

「そっかぁ、やっぱり俺、甘かったのかな……

ライダーバトルなんて命がけの戦い、生半可な覚悟じゃできない。

頭じゃわかってたつもりなんだけど」

 

「真司さんは間違ってません!とにかく、お知り合いの提督にご相談してみては?」

 

「そうだ……あの様子だと他のライダーにも接触してるかも。

サンキュー、とりあえず蓮に電話掛けてみる!」

 

「待ってください!実は美穂さんが神崎に……」

 

三日月は、美穂と神崎のやり取りを真司に伝えた。

 

 

 

真司は執務室に戻るとデスクの電話を取った。引き出しからメモを取り出す。

ライダーの間ではとうに使われなくなった、

各鎮守府に割り当てられたアルゴリズムナンバー。秋山鎮守府の番号を押す。

5コールほどして、無言で受話器を上げる音が聞こえた。

 

「ああ、蓮?そっちに美穂ちゃん来なかった?ええと、高そうなコート着た女の子!」

 

“スリの女ならこっちにも来たぞ。

……まさかお前、デッキごと盗まれて泣きついて来たんじゃないだろうな”

 

「ちっげーよ!ただ、ちょっとケンカ別れみたいになって探してるんだけど」

 

“お前馬鹿か。ケンカもクソもないだろう。いつの間にライダー同士が友達になった。

元々敵同士なんだから、何をしようが放っておけばいいだろう”

 

「いや、それが……ちょっと事情があってさ」

 

“事情?まぁ、暇だから聞いてやる。話してみろ”

 

真司は美穂の姉が浅倉に殺されたこと、三日月から聞かされた

神崎と美穂の密約について蓮に打ち明けた。しばし蓮が黙り込む。

そして考えがまとまったのか、再び口を開いた。

 

“その女には気をつけたほうがいい。どんな手段を使ってもライダーを殺す気だ。

たとえ変身前でもな”

 

「えっ……どういうことだよ」

 

“銃に毒薬、なんでもいい。変身前ならひとたまりもない。

奴が死に物狂いで力を求めているなら手段は選ばないだろう。現に今、姿を消している。

現実世界で武器を調達しているとしても不思議じゃない”

 

「そんな……」

 

“じゃあな、背中には気をつけろ。

お前も人の心配ができる立場じゃない事をいい加減理解しろ”

 

ガチャン、と電話が切られた。真司は受話器を持ったまま、しばらく動けなかった。

 

 

 

 

 

TEA 花鶏。

 

今日も沙奈子と優衣が、客の少ない時間帯に皿を洗ったりテーブルを拭いたり、

それぞれの仕事をこなしていた。

 

「はぁ~真ちゃんが治ったら、またアマゾン行きたいもんだわねぇ。

蓮ちゃんはちっとも帰ってこないし、アルバイトでも雇おうかしら」

 

「蓮は蓮でやることがあるの。もう少し我慢してあげて?」

 

「我慢我慢ってねぇ?あたしゃもう限界ですよ!紅茶屋なめるんじゃあ、ないわよぉ!」

 

スポンジをシンクに放り出す沙奈子。

その時、音楽を流していたラジオが、突然緊迫したニュースに内容変更した。

 

 

<番組の途中ですが、臨時ニュースを申し上げます。

現在東京都内で強盗事件が相次いで発生、銃砲店及び科学毒物取扱施設が

相次いで襲撃を受けている模様です。犯人は現在も逃走中。

特徴は白いマスクにプロテクター姿、刃物・強奪した銃器を所持しているという

情報が入っております。

現場付近の皆さんは屋内に留まり、決して出歩かないようにしてください。

なお、テロ組織等の犯行声明は出ておりません。先程SATの出動が公式発表され……>

 

 

「あらやだ、怖いわね~今日はお店閉めちゃおうかしら。

あんた達若い子は知らないだろうけどね、日本にも昔テロ組織があったのよ。

日本赤軍とか“狼”とかわけわかんないこと言ってる連中が、

ビル爆破したり身内で殺し合いしてたのよ、本当なんだから」

 

「……」

 

沙奈子がぶつくさ言っている間、優衣の脳裏に嫌な予感が走った。

 

 

 

 

 

──北岡鎮守府

 

 

美穂は本館の隅にある貯水タンクのそばに立っていた。

本来一般人が登ることを想定していないタンクの上に乗るのは苦労した。

バルブを回してタンクを開く。

そして、ポケットから“シアン化合物”と書かれたラベルの茶色い瓶を取り出した。

 

「……」

 

キャップを外して瓶ごと水槽に放り込む。

大丈夫、艦娘は有毒な重油やボーキサイト一杯食べてる!こんな毒で死んだりしない!

美穂は自分に言い聞かせて貯水タンクから降りた。そしてそそくさとその場から離れた。

 

 

 

その頃。北岡は執務室でゴホン、ゴホン、と咳払いをしていた。

 

「ん~、なんか空気が乾いてるっていうか、喉が渇くんだよね。

吾郎ちゃん、悪いけど水一杯持ってきて」

 

「わかりました」

 

吾郎は棚から2つコップを取り出し、給湯室の冷蔵庫からコップに氷を入れ、

蛇口から水を入れた。そして執務室に戻った。

 

「先生、飛鷹先輩、どうぞ」

 

「サンキュー、吾郎ちゃん」

 

「私まで悪いわね」

 

飛鷹は水の入ったコップを受け取る。しかし、その瞬間に違和感を覚えた。

この世界に存在する物は全てデータ。毎日触れている“水のデータ”が何かおかしい。

彼女はじっとコップを見る。物質組成データ分析、結果。H2O。並びに……KCN!?

飛鷹は考える前に北岡に飛び掛かり、コップを払いのけた。

まさに北岡が口を付ける瞬間だった。床に落ち、砕けるコップ。

北岡も吾郎も突然の行動に戸惑っている。

 

「ど、どうしたの飛鷹?」

 

「虫でも付いてましたか?」

 

「違う!水に青酸化合物が入ってる!今すぐ水道を止めて!」

 

「なんだって!?」

 

「いいから!艦娘に効くかどうかなんて試すわけにいかないでしょう!?」

 

「先生、俺、行ってきます!」

 

それ以上の追求をやめ、吾郎が貯水タンクを目指して走っていった。

 

「しかし、なんだって青酸カリが……いや、考えられるな」

 

「例の、提督を恨んでる人……?」

 

「他に考えられない。いよいよ本気で俺を殺そうとしてるってことかな」

 

 

 

 

 

……なんで?なんでこの世界に一般人がいるのよ!!

窓から聞こえる喧騒を立ち聞きしていた美穂の心臓が激しく鼓動する。危なかった!

もし、あの人が飲んでたら、あたしも浅倉と同じになってた!

足早にその場から立ち去りながらも美穂の顔色は青くなる。

今度は、もっと慎重にやらないと。大丈夫、今度は巻き添えなんか出さない。

そうなってるんだから……

 

「つ、次。城戸鎮守府、お願い」

 

「大丈夫ですか、随分顔色が悪いようですが……」

 

鳳翔が彼女を気遣う。だが、今の美穂にはそれを受け取るだけの余裕がなかった。

 

「いいから、さっさとして!!」

 

「……すみません、出過ぎたことを」

 

彼女は済まないと思いながらもシートに倒れ込むようにもたれるしかなかった。

そして白の世界が城戸鎮守府に塗り替わる。

 

 

 

 

 

──城戸鎮守府

 

 

「城戸、思った通りだ。もう奴は行動を開始してる。北岡側の長門から警告があった」

 

「そりゃ北岡さんは無事だったけど……どうしてこんなことになるんだよ!」

 

「何度同じことを言わせれば気が済む!いずれ倒すやつなど気にするな!」

 

いた!秋山と真司だ!二人が本館のすぐそばで話し込んでいる。

北岡の暗殺には失敗した。経緯は知らないが

貯水タンクに毒を入れことがばれた。チャンスよ美穂。二人ともライダー。

結局はライダーバトルで潰し合うことになるんだから、今殺したって同じこと……!!

さぁ、やるのよ!

 

美穂は担いでいた長いキャリーバッグを下ろした。そして中身を取り出す。

美穂はキャリーバッグから、銃砲店で奪ったライフル銃

“ブローニング X-ボルト ハンター”と弾薬類を取り出した。

ずしりと手に食い込む重さに尻込みしそうになるが、気持ちを奮い立たせ、

店員から聞き出した発射手順を開始。

 

まずは安全装置が掛かっていることを確認。

そしてチャージングハンドルを引いて薬室内にゴミが入っていないか確認する。

続いて四角いマガジンに、紙箱に入った弾薬を1発ずつ慎重に装填。

一杯になったマガジンを銃底に差し込む。

そして再びチャージングハンドルを引いて初弾を装填し、安全装置を解除。

これで発射準備は完了だが、美穂はライフルを持ったまましばらく次の行動に移ることができなかった。

 

カードデッキでの戦いは慣れているとは言え、

このような具体的な形をした殺人兵器を手にしたのは初めてだった。

何度も深呼吸をする。大丈夫、あたしならやれる。もう覚悟は決めたんだから!

 

美穂は銃身が揺れないよう手頃な石にかけて固定し、スコープを覗き込んだ。

でも……どっちを撃てばいいの。秋山は抜け目がなさそう。

銃口を向けたら気づかれるかもしれない。なら真司しかないけど……。もう一度深呼吸。

何も考えるな。この距離なら弾も狙い通りに飛ぶ。

スコープのレティクルを真司の頭部に合わせる。後はトリガーを引くだけ。

そう、引くだけ。しかし、その指は震え、動いてくれない。

 

ポン……

 

その時、いきなり肩に手を掛けられ、思わずトリガーを引きそうになった。

振り返るとそこには小さな姿。いつか会った少女だった。

 

「驚かせてごめんなさい。でも、そこから先に進んだら、あなたは一生後悔します」

 

「またあんたなの!?わかったようなことは言うなって言われなかった?」

 

 

「いいえ、その娘の言うとおりです。今ならまだ間に合います」

 

 

鳳翔が落ち着いた歩調で歩み寄ってきた。

 

「なによ、なによ、あんた達!そんなにあたしの復讐の邪魔がしたいの?

姉を殺されて泣き寝入りしろっていうの!?」

 

二人に向け交互に銃口を向ける美穂。だが、鳳翔はなおも近づいてくる。

 

「その復讐の相手は提督の人生を棒に振るほど価値のある人物なのですか?

現実世界の刑罰の話ではありません。

死ぬまで呪わしい記憶に苛まれてでも殺す意味があるのですか?」

 

とうとう鳳翔が美穂のライフルに手を伸ばした。

どうしていいかわからなくなり、パニックになった美穂の指につい力が入ってしまった。

 

ズダァァン!

 

強烈な銃声が辺りに響く。狙ったわけではないが、ライフルの弾は鳳翔の胸に命中。

彼女は後ろ向きに倒れ、微動だにしなくなった。

 

「え、え……鳳翔?鳳翔!」

 

恐る恐る近づくが、彼女が返事をすることはなかった。

その目は閉じられることなく、虚ろに空を見つめていた。

死んでいるのは誰の目にも明らかだった。

 

「あ、あ……う、うえええ!」

 

硝煙が放つ独特の臭いと凄惨な光景を目の当たりにし、美穂は激しく嘔吐した。

殺した!ライダーでもないのに!人殺しだ!もうあたしは浅倉と同じなんだ!

悪臭と自己嫌悪から胃の内容物を全て出し切るまで嘔吐する。

そして、とめどなく涙が溢れる。

 

「うう……ああああ!」

 

なんで!?お姉ちゃんの復讐を果たすためにライダーになったのに!

司法に代わって人殺しを裁くために戦ってきたのに、

なんであたしが人殺しになってんだよ!

……しかし、うずくまる彼女の肩に何者かが手を置いた。思わず振り返る。鳳翔だった。

 

「これが一生続くのです。貴方がそんな重荷を背負う必要などないんですよ」

 

「どうして……あんた死んだんじゃ」

 

「いつも深海棲艦から砲弾を浴びている私達です。狙撃銃程度では死にません。

驚かせて申し訳ありませんでした。でも、提督には、手を汚して欲しくなかったんです。

普通の人間にあんなことをしたら、一生後悔します。どうか、わかってください……」

 

「うあああ!ああああ!!」

 

鳳翔の胸に顔を預けて泣き出す美穂。鳳翔は彼女の頭を優しくなでる。

 

「もう、こんなことしなくていいんです。自分のことだけ考えていればいいんです」

 

「でも、あたしは勝たなきゃいけない!今もお姉ちゃんが待ってるんだ。

勝ち残って新しい命を持って帰るんだ……」

 

「休ませてあげませんか?安らかに。

その人は他人から抉り取った命を喜んで受け取るような方だったのですか?」

 

「違うけど……会いたいよ、お姉ちゃん……」

 

その時、バタバタと銃声を聞きつけた真司達の足音が聞こえてきた。

 

「あ、美穂ちゃん!ここにいたんだ!」

 

「……真司さん、この方はもう大丈夫です」

 

少し離れて見守っていた三日月が真司に呼びかける。

 

「よかったぁ~手遅れになる前に見つかって!」

 

真司は膝に手をついて息を吐いた。

 

「だからお前は甘いと言ってる。

……霧島とか言ったな。北岡がお前のことを探していたぞ」

 

美穂が鳳翔の袖をきゅっと掴む。

 

「やっぱり、そうだよね。自分の命を狙ってた、敵だもん。

自分の始末は、自分でつけるよ……」

 

「最後まで聞け、奴はお前を許すと言ってる」

 

「え……?」

 

ザッ、ザッ、……砂を踏みしめる足音が近づいてくる。

 

 

「別に“許す”とか言ってないんだけど?ただ、実害はなかったわけだし、

汚染されたタンクや水道管も“再起動実行”の提督権限で元通りだから、

もう君を訴える理由も証拠もなくなったっていうか」

 

 

北岡が美穂から少し離れたところに立ち、

海を眺めながら、というより美穂から目をそらしながら独り言のように告げた。

 

「私を、許すっていうの?……またあんたを殺しに行くかもしれないのに」

 

「フッ、俺はスーパー弁護士かつライダーなんだよ。おまけに優秀な秘書が二人もいる。

俺をそう簡単に倒せると思ったら大間違いだ」

 

「馬鹿なやつ……悪党守ったり、自分を殺そうとしたやつ許したり、気まぐれね」

 

「そう、俺はその時やりたいことしかやらない、自分大好きなワガママ人間なんだよ」

 

「北岡さん……!」

 

真司が万感の思いで笑みを浮かべる。

緊迫した雰囲気が和やかな空気に変わり、皆も笑顔で二人を見守っていた。だが、

 

 

「ハッ、結局同情に負けて腑抜けたか。バカが……」

 

 

いつの間にか城戸鎮守府に転移してきた王蛇が、気だるげな歩調で北岡に近づいてきた。

 

「話聞いてなかったの?俺は、今、自分がやりたいことしかやんないの。

昔の裁判蒸し返してるほど暇じゃないんだよ、お前と違って」

 

「ほう?じゃあ、今から俺がライダーバトルでその女を殺す。

もし邪魔しやがったら、俺、ここで何やるか、自分でもわかんないぜ?」

 

腕を鎮守府の方へ回す王蛇。大勢の艦娘たちが行き交っている。

 

「……お前最初から気に食わなかったんだよね、そういう無駄に生きてるとこ……!」

 

「ハッ……相変わらず潰し甲斐があるな」

 

北岡は海に向かってデッキをかざし、両腕でポーズを取る。

そしてベルトにデッキを装填。

 

「変身!」

 

北岡はゾルダに変身。突如始まったライダーバトルに一同騒然となる。

美穂も驚いた様子でゾルダに叫ぶ。

 

「何やってるの!?なんであんたがあたしの復讐に……」

 

「どうしてみんな人の話聞かないかなぁ!

俺はただ、目障りなクレーマーを叩き潰したいだけさ。

それより、復讐したいなら今がチャンスなんじゃない?

漁夫の利狙うのもライダーバトルだと思うよ」

 

「手伝ってくれる、の……?」

 

「好きに解釈しなよ。とりあえず変身した方が身のためだよ」

 

「そ、そうね。……変身!」

 

美穂もゾルダと同じく水面にカードデッキをかざし、両腕で羽ばたく翼を描き、

ベルトにデッキを装填。仮面ライダーファムに変身した。

 

 

 

思いがけない展開に見入っていた一同も行動を開始。

 

「城戸、長門に連絡して避難警報を出させろ!」

 

「オッケ!行ってくる」

 

蓮は真司を作戦司令室に向かわせると、自分も海に近づいた。

そしてデッキを取り出し水面にかざす。ベルトが腰に現れると、

右腕を曲げ、体ごと左に振りかぶり、

 

「変身!」

 

ベルトにデッキを装填し、ナイトに変身した。

 

「秋山……」

「なんであんたまで?」

 

予想外の秋山の参戦に驚く二人。

 

「面倒事ばかり起こす面倒な奴の息の根を止めるいい機会だ」

 

「3対1、と。俺は構わないぜ……だが、秋山。一つだけ確認だ」

 

圧倒的不利な状況にも動揺することもなく、王蛇はナイトに問う。

 

「さっさと言え」

 

「お前が俺を殺すのは、ライダーバトルに勝ちたいからか?」

 

「……何が言いたい」

 

「そこの腑抜けみたいに“誰かさんのために”だの、“罪滅ぼし”だの、

くだらねえ理由つけてんじゃねえだろうな」

 

「お前ごときに答えてやる義理はないが、教えてやる。“自分で考えろ”」

 

王蛇はしばらくナイトの目を見つめていたが、やがて軽く笑い、

 

「結局どいつもこいつもおんなじか……やろうぜ」

 

王蛇はカードをドロー、ベノバイザーに装填。

 

『SWORD VENT』

 

王蛇の手にベノサーベルが現れたのを切欠に、他のライダー達も次々武器を召喚する。

ファムもカードをドロー。ブランバイザーに装填した。

 

『SWORD VENT』

 

足元の水たまりからブランウィングがウィングスラッシャーを持って現れた。

ファムはウィングスラッシャーをキャッチ。すかさず構えを取る。

そして、三日月を見て言った。

 

「お嬢ちゃん、あなたの言ったこと、今ならわかる気がする。

復讐のためじゃない、自分の人生に決着を付けるために戦う!」

 

「霧島さん……」

 

「あなたは離れてて。……はああああ!!」

 

ファムは王蛇に向かって駆け出した。

そして長いリーチを活かしてベノサーベルの刀身から離れた距離から刺突を放つ。

命中はしたが、その瞬間、王蛇にウィングスラッシャーを掴まれ威力を殺される。

 

「おい、距離を取れ!」

 

その瞬間、“SHOOT VENTで両肩にビーム砲を装備したゾルダが王蛇を狙い撃った。

着弾の直前、王蛇は掴んだ武器を放り出し、大きく横に跳躍して回避。

爆発でウィングスラッシャーが宙に飛ぶ。

ファムはすかさずキャッチ、ゾルダと合流した。

 

「ねぇ、あたしが奴の目を塞ぐ。あんたは奴を狙い撃って」

 

「目を塞ぐ?何する気」

 

「見てなさいよ!」

 

ファムはカードをドロー、装填。

 

『GUARD VENT』

 

ファムの手に白鳥の翼を模した盾が現れると、

海岸から広場にかけての一帯に純白の羽毛が舞う。

ファムは以前と同じく、アーマーの色を羽毛と同化させて、

王蛇の前を消えたり現れたりする。

 

「……本当にイラつかせるチリ紙だ」

 

王蛇は羽根を消去すべく、“CONFINE VENT”をドローした。が、次の瞬間、

 

『SHOOT VENT』

 

ズガアアアァン!!

 

システム音声と共に雷鳴のような発砲音が轟き、羽根の煙幕の向こうから、砲弾が飛来。

王蛇に直撃した。ゾルダが実体弾を放つ手持ち式の単装砲を装備していた。

 

「がああああっ!!」

 

大ダメージを受け10メートル以上地面を転がる王蛇。

 

「なるほど?こいつは便利だ。楽に蛇男射殺できそうだよ」

 

「油断しないで、多分これ一回きり!奴はカードを無効化できる!」

 

そう。倒れながらも王蛇は改めて“CONFINE VENT”をドローし、装填。

ファムの“GUARD VENT”を無効化した。

辺りを包んでいた羽根が消滅し、状況が露わになる。

ファムとゾルダが互いに近くにおり、少し離れた所でナイトが様子を窺っていた。

そして、彼らの視線の先には、ふらつきながら立ち上がる王蛇の姿が。

 

「ハ……ハハ……面白え。こんな派手な戦いは久々だ」

 

「やっとわかった。あたしが弱かったのはカードのせいなんかじゃない。

あたし自身が弱かったからだ!」

 

ファムはカードをドロー、装填。

 

『ADVENT』

 

クアァーーー!!

 

巨大化したブランウィングが勇ましい雄叫びを上げ、ファムの元へ飛来。

ファムがジャンプし飛び乗ると、そのまま王蛇に突撃。

空からリーチの長いウイングスラッシャーで攻撃を試みる。

 

「手を貸す」

 

ナイトもカードをドローし、ダークバイザーに装填した。

 

『ADVENT』

 

大空からダークウィングが現れ、王蛇に襲いかかる。

王蛇はベノサーベルで上空からの攻撃をさばいているが、

2方向から隙を突かれ、時折斬撃を食らう。

 

「ぐはっ……がっ!ああ、イライラする!」

 

王蛇もカードをドロー、装填する。

 

『ADVENT』

 

シャアアア!!

 

砂浜を這いながらベノスネーカーが突進してくる。

ライダー4人に契約モンスター3体が加わり、激しい乱戦の様相を呈してきた。

 

「……鬱陶しい鶏共をなんとかしろ!」

 

ベノスネーカーが立ち上がり、ブランウィングやダークウィングに毒液を連射し始めた。

毒液が落下した砂浜が、蒸発するような音を立てて白く変色する。

2体の飛行型モンスターがベノスネーカーと戦っている間に、

王蛇はカードを何枚かドローした。

そして、ゾルダもカードをドローし、指先で角をトントンと叩いて見せた。

 

「なぁ、浅倉。お前にこいつをぶちかますの、ずっと夢だったんだよね。

これで永遠にさよならだ!」

 

『FINAL VENT』

 

だが、王蛇は笑っている。

 

「今度は早撃ち対決か?忙しい野郎だ」

 

王蛇はあらかじめドローしたカードを装填した。

 

『FINAL VENT』

 

ガイから奪ったファイナルベント「ヘビープレッシャー」が発動。

王蛇の右腕にメタルホーンが現れ、契約モンスター・メタルゲラスが背後に立った。

その瞬間、王蛇はメタルゲラスの肩にジャンプ。

同時にメタルゲラスがその巨体から想像もつかない猛スピードで、

ゾルダに向けてダッシュを始めた。

メタルホーンの先端が輝き、ゾルダを貫かんと突進する。

 

「やばい!発射まで時間が掛かるの忘れてたよ!」

 

焦るゾルダ。しかし、それを見たファムがゾルダの元へフルスピードで空を滑る。

 

「急いで!ブランウィング!」

 

ドスドスと大きな足音を立て、動けないゾルダを狙う王蛇。

だがその時、上空から巨大な影が降り立ち、ゾルダをマグナギガごと押し出した。

ファムの乗ったブランウィングだった。

直後、2人と契約モンスターを巻き込んでヘビープレッシャーが炸裂した。

 

「ああああっ!!」

「ぐううっ!!」

 

ライダーも契約モンスターも重傷を負ったが、ブランウィングが飛び込んだことで、

1人当たりのダメージが押さえられ、なんとか致命傷は避けられた。

だが、ゾルダもファムも全身に強い衝撃を受け、

とても起き上がれる状態ではなくなってしまった。二人に忍び寄る王蛇。

 

「ハァ……楽しかったぜ」

 

王蛇はベノサーベルを逆手に持ち、ゾルダに突き刺そうと構えた。

瀕死のゾルダにファムは僅かな力を振り絞り、かばうように覆いかぶさる。

乱戦の中、二人から離れてしまったナイトがその様子を目の当たりにする。

 

「心中したいなら構わねえ、俺は全然構わねえ……!」

 

ナイトの脳裏に、自らが言い放ってきた言葉が去来する。

 

 

“もしライダーバトルを止めたら死ぬものがいる、としたらどうするべきなのか”

 

“俺はこの戦いを降りる気はないぞ。

必ず他のライダーを押しのけて“力”を手に入れる”

 

“結局馬鹿が一人増えただけだったな”

 

 

「……」

 

ナイトの葛藤に呼応して、カードデッキに変化が訪れた。

1枚のカードの力が解放されたのだ。

 

 

──浅倉!!

 

 

その叫び声に振り向く王蛇。手を止めナイトに向き合う。

 

「お前は後だ、まずこいつらを片付ける」

 

「なら好きにしろ。俺は後ろからお前を斬る!」

 

「何?」

 

ナイトは、カードデッキから思い切りカードを引き抜いた。

背景の嵐が実体を持って吹き荒れるカードを取り出すと、辺りに激しい烈風が吹き荒れ、

舞い上がる砂埃に、王蛇も思わず手で顔をかばう。

そして、ダークバイザーから鏡の破片がはじけ飛び、

蒼い翼のコウモリをモチーフにした盾形召喚機・ダークバイザーツバイに変形。

ナイトはカードスロットに“SURVIVE”を装填した。

 

『SURVIVE』

 

すかさず、召喚機に内蔵された柄を抜き取ると、

鋭い金属音と共に蒼い装飾と黄金の刀身を持つ剣・ダークブレードが現れた。

その時、ナイトの装備に、さらに3つの鏡像が重なり、黄金のフレームに、

ブルーを基調としたアーマーに変形。

コウモリの翼を模した両肩を守るショルダーガード、

そして黒くはためくマントが装備された、

仮面ライダーナイトの最強フォーム・ナイトサバイブが現れた。

 

「ほう……」

 

王蛇が興味をナイトサバイブに移した。

ベノサーベルを持ってナイトサバイブの元へ走る。

ナイトサバイブもダークブレードを構え、王蛇を待ち受ける。そして、両者が激突。

二振りの剣がぶつかり合うが、“SURVIVE”の力を持つダークブレードが競り勝ち、

ベノサーベルを振り抜いた。シャリィィン!という鋭い音と共に

ベノサーベルを押し返し、王蛇の体勢を崩す。

 

「ハッ、いい剣だな。俺にくれよ……」

 

王蛇はカードを1枚ドロー、ベノバイザーに装填。

 

『STEAL VENT』

 

「ぐっ……!」

 

相手の装備を盗むカードの効果で、ダークブレードが引っ張られる。

しかし、ナイトサバイブは両足に力を込め、その引力に逆らい、

ダークブレードを後ろに振りかぶった。

 

「おおおおお!!」

 

そして、王蛇に向けて思い切り投擲した。サバイブ化したライダーの肩力と

“STEAL VENT”の引力が合わさり、銃弾のようなスピードで飛んでいくダークブレード。

さしもの王蛇もこれには反応できず、飛来する黄金の剣の直撃を食らった。

 

「うごぁっ!」

 

全身に衝撃が走り、思わず膝をつく。

それを見逃さず、ナイトサバイブはカードをドロー。ダークバイザーツバイに装填した。

 

『FINAL VENT』

 

ナイトサバイブは、パワーアップしたダークウイング、

ダークレイダーを召喚し、飛び乗った。

バイクのグリップのような両耳を握り、逆立ちをするようにスペースを譲ると、

ダークレイダーの両方の翼からタイヤが現れ、体が頭部を軸に回転し、

バイクモードに変形。そしてシートに着地。

王蛇に向け方向転換すると、先端から、捕縛レーザーを照射した。

命中したレーザーが、王蛇の動きを封じ、

ナイトサバイブのマントが竜巻状にバイク全体を包みこむ。

 

「なんだこいつは……!」

 

ナイトサバイブはフルスロットルで加速、捕縛レーザーで動けない王蛇に突進する。

 

「まだだ……まだだ!!」

 

王蛇は右腕に全力を込めカードをドロー。

次の瞬間、ナイトサバイブのファイナルベント「疾風断」が王蛇に命中。

凄まじい衝撃で王蛇を宙に放り出し、落下した王蛇は変身が解けた。

とどめを刺すなら今だが……どうせ放っておいても死ぬだろう。

それより悪徳弁護士に恩を売っておくのも悪くない。

ナイトサバイブは変身を解いてゾルダとファムに近づいた。

 

「おい、二人共。生きてたらとにかく変身を解け。

アーマーの上から薬を塗っても効かんぞ」

 

「は、はは……もっと怪我人いたわったら?」

 

「お前は殺して死ぬタイプじゃないだろう。霧島、お前はどうだ」

 

「なんで、あたしらを、助けたの……?」

 

息も絶え絶えにファムが問う。

 

「……余計な質問してる余裕があるなら大丈夫だな」

 

しばらくすると、真司が長門や救護班を連れて戻ってきた。

さて、浅倉は助けるべきかどうするか……!?倒したはずの浅倉がいない。そういえば。

 

 

“『FINAL VENT』”

 

“「うおおおお!」”

 

“『ADVENT』”

 

“グゴオオオ!!”

 

 

そうだ。奴はファイナルベントが命中する瞬間、

“ADVENT”でサイみたいな契約モンスターをぶつけてきた。だから直撃を免れた。

……つくづくしぶとい奴だ。蓮は呆れながら北岡と美穂が搬送される様子を眺めていた。

 

 

 

 

 

──霧島鎮守府

 

 

「それじゃあ、鳳翔。お世話になったわね、ありがとう」

 

「どういたしまして。提督のお役に立ててなによりです。ここは提督の鎮守府です。

またお暇ならいつでも遊びに来てくださいね」

 

鳳翔は優しい笑顔で微笑んだ。美穂はその笑顔にどこか懐かしさを感じた。

 

「うん、来るよ。きっと……」

 

美穂は窓に近づき外の景色を眺めた。どこまでも広がる青い海。抜けるような青空。

彼女の心にかかっていたモヤを洗い流してくれるような美しい眺めだった。

 

「……仕事、探そうっと」

 

「提督の新しい生活、陰ながら応援していますね」

 

「ありがとね。あと……お姉ちゃんを迎えに行こうと思うんだ。

冷たい棺桶の中じゃなくて、温かい土の中で眠ってほしいから」

 

鳳翔は何も言わずに、ただ静かに笑みを浮かべた。

 

「今度こそ、それじゃあね。

機会があったら、城戸鎮守府のお嬢ちゃんに言っといて。“ありがとう”って」

 

「確かに、承りました」

 

鳳翔が小さく手を振って見送る。

美穂は振り返り、電子データの海をもう一度眺め、01ゲートをくぐっていった。

 

 

>仮面ライダーファム 霧島美穂 棄権

 

 




いろいろ詰め込みすぎてやたら長くなってすみません
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