【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】 作:焼き鳥タレ派
こんな話で現実逃避してないで、
とっとと続き書きやがれって話ですよね、すみません……。
展開の都合上、ライアはいないという舞台設定になっておりますことをご了承ください。
──観測基準点
何を観測するのかは“彼女”しか知らない。
どこかの世界のどこかの場所で、“彼女”が何かを探している。
「この世界線はどうかしら。
……う~ん、途中まではいい感じだったけど、世界が“寿命”を迎えちゃったみたい。
隣の
生命体が存続するには致命的な欠陥があるわね。
じゃあ連結してる
まだ“ゆらぎ”すらないじゃない。……ふあぁ、今日はこの辺で切り上げようかしら」
あくびをした“彼女”が目頭を抑え、手を置くと、
コンソールの操作パネルに触れてしまった。デタラメにスクロールする世界線図。
ああ、やっちゃった。だだっ広いから元に戻すの大変なのに……あら、これは何かしら。
世界線とも呼べない世界“点”。活動が見られるのか、崩壊しているのかわからない。
ちょっと覗いてみましょう。“彼女”は操作パネルに指を滑らせ、キーを叩いた。
──城戸鎮守府 深夜
「う~ん、牛丼、ねぎだく……むにゃむにゃ」
真司は執務室のソファでぐっすりと眠りについていた。
その艦娘はそっと執務室のドアを開け、真司に近づく。
そしてペンと紙を持って彼の前にひざを付いた。
彼女は真司にペンを握らせ紙にこう書かせた。“誰でも資材使い放題”。
彼女の脳にシステム変更のシグナルが届く。
用が済んだ彼女はニヤリと笑いながら執務室から去っていった。
バリ……ボリ……
所変わって深夜の資材倉庫。その片隅で資材を食らう何者かがいた。
ああ、食べた食べた。食べたくもないのに。
きっと明日には大騒ぎでしょう。
でも、みんなが望んだ結果なんだからしょうがないわよね。
私が意地汚い女でいればそれでいいんでしょう?
その時、コツ、コツ、と足音が聞こえてきた。懐中電灯のライトが徐々に近づいてくる。
「ふぁ~あ。深夜の巡回当番は大変です」
あらやだ、どうしましょう。まだ騒ぎになっては困るのだけど……
なにか使えそうなものはないかしら。あ、あったわ。あのシート!
他には……そうだわ、あの非常ベル!
彼女は近くにあった資材保存用シートを頭から被ると、
巡回係の三日月が近づくのを待った。そして彼女が手の届くところまで来た瞬間、
三日月に飛びかかった。
「キャア!誰!?何するんですか!」
彼女は両腕を封じるように思い切り三日月に抱きつき、彼女のポケットに何かを入れた。
そしてすかさず非常ボタンを押した。
倉庫内にけたたましい警報が鳴り響き、真っ赤なランプで照らされる。
同時にスプリンクラーから放水が始まり、中は水浸しになった。
「一体なんなんですか!」
三日月が悲鳴を上げる。騒ぎを聞きつけて、他のみんなが集まってくる。
どうなることかと思ったけど、上々ね。
彼女はシートを被りながら駆けつけた多数の艦娘たちが火災、もしくは不審者を探す中、
上手く倉庫から脱出した。そして、シートを脱ぎ捨てると、
暗がりを選んで歩きながら、宿舎の自分の部屋へと戻っていった。
翌朝。
「う~ん、もう食べらんねえ……って、うおっ!もうこんな時間かよ!
三日月ちゃん起こしてよ~……あれ?」
時刻は既に9時を回っている。
いつもは三日月が朝食時の7時には起こしてくれるのだが、その姿は見当たらない。
「三日月ちゃんどこ行ったのかな。……とりあえず飯食いに行こう」
真司が執務室のドアを開けようとしたら、ドアノブが回り向こう側に開いた。
そこには厳しい目をした長門が立っていた。
普段と違い、ただならぬ雰囲気を放つ彼女に気圧される真司だが、とりあえず挨拶した。
「お、おはよう。三日月ちゃん見なかった?」
「……その事で話があって来た。三日月なら今、座敷牢で拘束されている」
「牢屋!?なんでだよ!三日月ちゃんが何したってんだよ!」
「それについては彼女を交えて話したい。付いてきていただけるだろうか」
「行く行く!何が起こってんのか知らないけど、
三日月ちゃんが捕まらなきゃいけないようなことなんかするはずないし!」
「ありがとう。ではこちらへ」
真司は長門に案内されて、艦娘訓練施設の隅にある座敷牢へ移動した。
そして、真司は座敷牢で囚われの身になっている三日月と再会した。
三日月は悲しそうな目で真司を見上げた。格子を隔てて呼び合う二人。
「三日月ちゃん!?」
「真司さん……」
真司は格子を掴みながら長門に問う。
「どうしてこんなことになるんだよ!なんで三日月ちゃんがこんな目に!?」
「どうか落ち着いて欲しい。
結論から言うと、彼女には資材の盗難容疑が掛けられている」
「盗難って……何を」
「調べたところ、資材保管用倉庫からボーキサイト400がなくなっていた。
当時現場にいたのは三日月だけだ」
「違います!シートを被った誰かに押し倒されて、それで……!!」
「悪いが今は黙っていてくれ。提督に分かっている限りの事実を伝えなければならない」
「はい……」
力なく座り込む三日月。
「な、なんか証拠でもあんのかよ!
三日月ちゃんの言うとおり、変なやつがいてそいつが犯人かもしれないじゃん!」
「残念だが、彼女のポケットからこんなものが見つかった」
長門は真司に茶色い鉱石の欠片を取り出してみせた。
「ボーキサイトの食べカスだ。
犯人はいくらかその場で食べて残りは持ち去った可能性がある」
「いや、それは……あ!おかしいじゃん!
みんなって勝手に何かの量とか数字とか変えられないって聞いたんだけど。
三日月ちゃんが自分でボーキサイトどうこうできるわけないよ!」
長門は少し顔を反らし、苦々しい表情を浮かべた後、話を続けた。
「それに関しては提督、貴方にも共犯の疑いが掛かっている」
「え、俺……?」
「失礼とは思ったが、貴方が眠っている間に執務室を調べさせてもらった。
まだ不確実な容疑の段階で公表し、混乱を招くのはどうかと思い、
私の方で預かっているのだが……」
彼女は、今度はビニール袋に入った油性ペンを見せた。
「これがなんなんだよ……」
「三日月のポケットから合わせてこんな物も見つかった」
次は1枚のメモを。
これもビニール袋に入っており、“誰でも資材使い放題”と書かれている。
「提督権限発動の痕跡もある。
不審なシステム変更をキャッチしたから提督の執務室に確認しに行ったところ、
そのペンを見つけたというわけだ」
「なんだよ!俺、こんなもん書いた覚えないし!
大体俺の字じゃないし、とにかく知らないよ!」
「……提督、この世界を構成する物質は、全てデータの塊だ。
複数人で物質組成を分析したが、インクの成分もこのペンと一致しているし、
ペンに付着した指紋も、提督のものと同じだった」
「え……」
「提督、このようなことは言いたくないのだが……」
長門が歯切れの悪い口調で切り出した。
「“再起動実行”という提督権限を使えば、失ったボーキサイトはともかく、
ペンやメモの証拠品は新品同様に復元される。
もし、提督主導で物資の私物化があったとなれば……」
「もみ消せってのかよ!変な疑い掛けられたまんまで!」
「どうか落ち着いて。私も提督を信じたい。だが、ここまで証拠が……」
「俺はいいよ。でもそんなことしたら、
三日月ちゃんが盗んだって認めることになるじゃんか!」
「真司さん……」
「待ってて三日月ちゃん、こんなこと絶対間違いだから!
絶対俺が無実を証明してここから出してあげるから!」
そして真司は再び長門に向き合う。
「……長門。俺、再起動なんかしない。
正しい方法でこの娘がやってないってこと証明する!」
そう叫んだ真司の目をまっすぐ見据える長門。
「方法は、あるのですか?」
「ない、ないけど……そうだ、裁判だ!
全ての国民は裁判を起こす権利がある……って編集長が言ってた!
とにかく北岡さんに頼んで三日月ちゃんの弁護をしてもらう!」
「……なるほど、わかりました。では、これが役に立つかと」
長門は一枚の資料を差し出した。ライダー鎮守府の各資材の在庫状況。
真司は、初めは何の役に立つのか分からなかったが、
眺めているうちにあることが閃いた。
「これは……そういうことか!ありがとう長門!」
「では、ご武運を」
「三日月ちゃん、あとちょっとの辛抱だから。もう少しだけ我慢してて!」
「はい、真司さんが信じてくれているだけで、心強いです。待ってますね」
「それじゃ、いろんなとこ周らなきゃいけないから!長門、クルーザーお願い!」
「承知した」
そして真司と長門は座敷牢から桟橋へ移動した。各ライダーの鎮守府を巡るために。
──北岡鎮守府
「で、なんで俺がロハで仕事引き受けなきゃいけないわけ?」
金が無い真司に対する北岡の反応は冷たかった。ただでさえ守銭奴の北岡が、
いきなり来てタダで弁護しろと言われたのだから当然とも言える。
「お願いしますよー、……ほら、これ!
俺達ライダー全員に容疑が掛かるかもしれないんですよ!」
真司は長門から受け取った資料を見せた。頭脳明晰な北岡は瞬時にその意味を読み取り、
「……はいはい、わかったよ。やればいいんでしょ。報酬は各資材1000でいいよ。
貧乏な城戸君にうちの通常報酬期待するのも酷だしね」
「ありがとうございます!」
──秋山鎮守府
「……そういうわけなんだよ~俺達全員の問題なんだから出廷してくれよ、な?」
「……」
事件概要を聞いた蓮は、資料をひったくって目を通す。そして真司に突き返した。
「犯人はお前のところの艦娘で間違いないだろう。
部下に寝首をかかれるとは、とんだ間抜けだ」
「こんのやろ……まぁ、とにかくサンキューな!!」
蓮との約束を取り付けた真司は、やけくそ気味に礼を言って最後の鎮守府へ向かった。
──第一浅倉鎮守府
「なぁ……これ見てくれよ、な、な?」
「失せろ……」
真司は浅倉に資料を見せようとするが、浅倉は座り込んでぼんやりと床を見るだけだ。
「頼むよ!ライダーが有罪でお縄になったら、ライダーバトルもできなくなるだろ?」
「全員、ぶっ殺しゃ、いいだろうが……」
「提督、よろしいでしょうか?」
見かねた足柄が浅倉に話しかけた。
「もし提督が勝訴を勝ち取ったら、わたくしがお祝いに
購買部でカップ焼きそばを1ダース買ってプレゼントします。
どうか、ご協力いただけませんか?」
「……さっさと終わらせろ」
「やった!ありがとう足柄さん、浅倉もサンキュ!」
──城戸鎮守府 多目的ホール 控室
翌日。
城戸鎮守府本館の北西にある大きな多目的ホールで裁判が行われることとなった。
本来は作戦会議やその他諸々の打ち合わせに使われるのだが、
今回の不測の事態を受けて、急遽裁判所として代用することが決まった。
既に4人のライダーと城戸鎮守府の長門が控室に集まっている。
三日月と4人全員、つまり自分自身の弁護を担当することになった北岡が
事件概要に目を通した。
「なるほど?出たとこ勝負になるだろうけど、俺の腕なら問題ないよ」
「本当ですか、北岡さん!」
真司が嬉しそうに立ち上がり、すがるように北岡に駆け寄った。
「座れ鬱陶しい。“問題ない”のは結構だが、まともな手段で勝てるんだろうな。
ここでは買収も脅迫もできんぞ」
蓮がはしゃぐ真司に文句を付ける。
「お前とは頭の出来が違うんだよ。まぁ、見てなよ。
ほんの1時間もあれば勝訴の幕を掲げられる」
「また有罪にしやがったらただじゃおかねえぞ……」
浅倉がぼそりとつぶやく。
「今回、このような事態に陥ってしまったのは私も不本意ですが、
私は提督方を信じています。もちろん、三日月も……」
各鎮守府の“長門”代表として付き添っている城戸鎮守府の長門が
部屋の隅で控えている。その時、ノックの音が聞こえた。
“失礼します!”
「入ってくれ」
ドアが開き、グレーの軍服を着た小柄な人物が入室した。
「間もなく開廷の時間であります。裁定場へお越し願います!」
「わかった、ありがとう」
長門がそう言うと、小柄な人物は退室した。少々驚いた様子の北岡が長門に尋ねる。
「ねぇ、長門さん。この鎮守府には男の子もいるの?」
「ああ……北岡提督、彼女も艦娘です。名を“あきつ丸”と言います」
ドアの向こうから“うう……”と嘆く声が聞こえてきた。
「あっちゃー、ごめんよあきつ丸さん!
髪型!髪型がボーイッシュだから間違えただけだからね!」
“結構です……”
力ない返事に、見えなくてもトボトボと去っていくのが目に浮かぶようだった。
逆に感情のボルテージが上がる者が一人。
「いつまでもバカやってんじゃねえ、さっさとしろ!
この辛気臭せえ部屋はイライラするんだよ……!」
「はいはいわかったよ。それじゃ、行くとしますか」
──多目的ホール 黒鉄の間
このホールで最も広い黒鉄の間で裁判は行われる。
裁判官が着く長いテーブルの前に、検察官、弁護人のテーブルが
向かい合うように設置されている。
低い仕切りで区切られたスペースには30席ほどの傍聴席が設けられているが、
今日は仮面ライダーが被告とあって既に満席となっている。
傍聴券のために前日深夜から並んでいた暇人達がライダーの出廷を
今か今かと待っている。程なくして法廷の入り口に“入室禁止”の札がかかり、
奥の扉からインテリ組から選ばれた裁判官・戦艦霧島が入廷し着席した。
普段の服装に短い黒のケープを羽織っている。
カンッ!
木槌を鳴らし、開廷を告げる。
「ア、アー。マイクテスト……よし。
これより、ボーキサイト盗難及び不正流用事件についての裁判を行います。
弁護人、検察官、被告人は入廷してください」
法廷の左側のドアからライダー勢が入廷し、
北岡は弁護席、浅倉、秋山、真司、三日月は被告人席に着いた。
そして右側のドアからは、眼鏡をかけ、銀髪を後ろでまとめた艦娘が入廷した。
「コホン、では改めて裁判の開始を宣言します。
なお、本件は弁護人が被告を兼ねている特殊な事案であることを申し添えておきます。
弁護側、検察側、準備はよろしいですか?」
「弁護側 北岡秀一、準備はできています」
「検察側 練習巡洋艦・香取、準備完了です」
両者の準備が整ったところで、改めて霧島が裁判の進行を始めた。
「それでは被告人、氏名と職業を」
「駆逐艦・三日月です……」
そしてライダー達もそれぞれ自分の氏名と仮面ライダーである旨を告げた。
発言内容は4人ともほぼ同じだから面倒なので省略する。
「では、検察官。本件の説明をお願いします」
「わかりました」
香取が起訴状、つまり事件のあらましを述べ始めた。内容は次の通り。
“11月4日深夜、資材倉庫から何者かによってボーキサイト、数400が盗まれた。
当時倉庫内には被告人三日月しかおらず、
突然鳴り出した非常ベルの音を聞きつけた他の艦娘たちに取り押さえられた。
また、やや時刻を遡り、不審な提督権限の発動を感知した戦艦・長門が、
執務室に提督を尋ねたところ、
権限の内容を記した際に使用したと思われるペンが発見された。
なお、本件には他鎮守府の提督も共謀している可能性がある”
「……以上が事件の概要です」
「ありがとうございました。貴方達には黙秘権が与えられます。
自分にとって不利な発言を拒否しても不利益にはなりません。
被告人は罪を認めますか?」
「違います!私はただ当番の巡回をしてただけで、
何か布を被った誰かに押し倒されたんです!きっとその人が犯人なんです!」
「そうだよ、なんで三日月ちゃんがそんなこと!あ、俺も違うから!」
「お二人とも静粛に。それでは否認する、ということでよろしいですね」
「ああ!当然だよ!」
「では、北岡弁護人は?」
「知りませんねぇ。うちの財政状況に問題はありませんから。
わざわざボーキ400程度ををくすねる意味がない」
「なるほど、問題ない……ですか。まあ、結構です。それでは、最後に浅倉被告。
貴方は罪を認めますか?」
意味ありげな受け取り方をした霧島。最後に浅倉に認否を問うた。が、
「……黙れクソメガネ」
「……一度だけ聞かなかったことにしてあげます。
貴方は事件に関わっているのですか?」
(おーい!焼きそば、カップ焼きそばがなくなるぞ!)
いきなり暴言を吐いた浅倉を必死に軌道修正する真司。
傍聴席の足柄もハラハラした様子で必死に頭を下げている。
浅倉は舌打ちしてから答えた。
「知らん」
「コホン、では検察官。三日月被告の拘束に至った経緯を説明してください」
「かしこまりました。では……」
「お待ち下さい裁判長。今の起訴状には不十分な点があります。
このまま審理を進めるのは公平性を欠くと考えます」
不審な点に落ち着いて異議を唱える北岡。
現実の法廷では、ドラマのように異議申し立ての際に大声を張り上げる者はいない。
「と、いいますと……?」
「ボーキサイト盗難についてはわかりました。
しかし、そこから我々他鎮守府の者が共謀している、という説は
論理が飛躍していると言わざるを得ません。
検察官、何か具体的な証拠でもあるのですか?」
「あら失礼。それに関しては今から証拠品を提出するところでしたの。
しばらくお待ちになって」
香取も態度を崩さず答える。いきなりぶつかりあう弁護側と検察側。
にわかに傍聴席がざわつく。霧島が木槌を叩いた。
「皆さん、ご静粛に。では、検察官。続きをお願いします」
「はい。では、まず検察側はこれらの証拠品を提出致します」
○証拠品
・ペン
真司の執務室に転がっていた油性ペン。艦娘の分析によると真司の指紋が付いている。
・メモ “誰でも資材使い放題”
筆跡は真司のものではないが、提督権限を発動した痕跡がある。
・ボーキサイトの食べカス
三日月のポケットから押収されたボーキサイトの欠片。
・各鎮守府の資材状況一覧
ここ数日の各種資材量が折れ線グラフで示されている。
今はどの鎮守府も各資材1000前後。
・倉庫の見取り図
事件現場となった資材倉庫の見取り図。
入り口から少し奥に、4種の資材がZを描くように、
燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイトと配置されている。
つまりボーキサイトは天井から見て一番奥の右側にある。
「う~ん、ずいぶん色々ありますね……」
証言台の前のテーブルに置かれた品々を眺める霧島。
香取がそれぞれの証拠品について説明を始めた。
「まずペンとメモ。ペンは言うまでもなく、メモの内容を記した際に使用されたもの。
メモはご覧の通り、提督権限で誰でも資材に干渉できるよう
ルール変更した際に書かれたのでしょう。
ボーキサイトの欠片は被告人三日月のポケットから押収され、
逮捕の決め手となったものです」
そこで香取はクイッと眼鏡を直して続ける。
「さて、先程の弁護側の質問にお答えしますが、
まず、こちらの資材状況一覧をご覧ください。
これは各鎮守府の保有資材を示した一覧表ですが……
どこも各資材が1000前後と決して多いとは言えない状況であることが見て取れます。
北岡弁護士、さっき貴方は“財政状況に問題はない”とおっしゃいましたが、
それにしては少々寂しい台所事情だと思うのですが?」
「それは……一時的なものですよ。つい先日大型艦建造に失敗しましてね。
問題ないと言ったのは、私の艦隊運用の実績から考えて
この程度の損失はすぐに取り戻せる、という意味です」
「提督!また私に黙って派手な使い方して!
だから今すぐ必要ない装甲空母なんてやめてって言ったじゃない!!」
「いやあ、空母なのに重装甲ってところにロマンを感じちゃってさ。
話変わるけど、まるゆって愛嬌があるよね」
痛いところを突かれた上に、傍聴席の飛鷹に怒られる北岡だが、呑気に構えている。
大丈夫かなぁ、と真司は心配になってきた。
「静粛に!弁護人も傍聴人も不規則発言は控えてくださーい!」
霧島が木槌を鳴らす。北岡が咳払いをする。
「なるほど。それで貧しい在庫を補うために城戸鎮守府からボーキサイト盗んだ、
という仮説は理解できました。しかし、まだ腑に落ちない点は沢山あります。
盗難には城戸被告が関わっていたのは明白ですが、それでは彼が損をするだけでは?
それに、たった400盗んだところで劇的に状況が改善するわけでもない。
全員で分ければそれこそ雀の涙です。
自然回復を待つほうがノーリスクで回収できると思いますが?
やはり三日月被告の訴える通り、
我々以外の第三者が犯行に及んだと考えるほうが合理的です!」
おっしゃ、持ち直した!
やっぱこれでもプロの弁護士なんだなぁ、と真司は胸をなでおろす。しかし。
「いいえ、それは不可能です。最後の証拠品を見てください」
北岡が証拠品のテーブルに広げられた倉庫の見取り図を眺める。
倉庫には北の出入り口以外にドアや窓はなく、
少々奥の四方に各資材が配置されているだけだった。
「そう!他の者に侵入は不可能!やはり犯行は当時現場におり、盗まれたボーキサイトと
犯行指示のメモを所持していた被告人三日月しかいないのです!」
ビシッ!と香取が教鞭を北岡に突きつける。
北岡は得意のポーカーフェイスでかわすが、内心焦っていた。反撃の手が見つからない。
さらに事態は悪化する。
「裁判長、検察側にはさらに
当時現場には被告人しかいなかったことを証明する証人がいます。
彼女に証言の許可を!」
「わかりました。検察側に証人の召喚を求めます」
しばらく後、またも傍聴席がガヤつく中、証人が入廷し、証言台に立った。
香取が証人に話しかける。
「では証人、名前と職業を」
「はい。正規空母・赤城です」
長い黒髪に短い赤の袴姿。大和撫子を絵に書いたような姿で赤城は微笑んだ。
“まあ、お美しいわ……”
“さすがは一航戦の赤城さんね”
“私もあんな風になりたーい”
傍聴席から彼女のファンらしき者の声が聞こえる。
しかし、そんな彼女を見て三日月はどこか暗い表情を浮かべる。
気づいた真司が声をかけた。
(どうしたの、大丈夫?)
(はい、なんでもありません……)
「では、事件当日の事をありのままに話してください」
「わかりました」
■証言開始■
「事件現場、は一番海に近い第三倉庫ですよね?」
「ええ、確かに見ましたよ。三日月ちゃんがあの倉庫に入っていくのを」
「何をしてたのかって?はい、ゆうべは眠れなくて、海を眺めに行っていたんです」
「しばらくすると、突然倉庫から警報が鳴り出したので驚きました」
「もちろん、それまで三日月ちゃん以外に倉庫に入った人はいませんでした」
「私が見たのはこれだけです」
■証言終了■
「ありがとうございました、赤城さん」
「いいえ、どういたしまして」
また微笑みを浮かべる赤城。その控えめながらも堂々とした態度に、
傍聴席からため息が漏れる。まずい。裁判官の心証は限りなく検察側に傾いている。
とりあえず何かしなければ!焦る北岡。
「弁護人、これに対して何か反論はありますか?なければ……」
「待ってください!確かに今の証言は
事件現場被告人しかいなかったことを証明しているのかもしれません。
しかし、今回の犯行の非合理性について全く説明できていない!つまり、動機!
誰も得しないリスクを犯す必要がどこにあるのですか!」
だが、香取はまたクイッと眼鏡を直し、北岡の反論を跳ね返す。
「動機なら、貴方がたが既にお持ちの物にあります。
裁判長、検察側は新たな証拠品を提出します」
○証拠品
・“CONFINE VENT”のカード
王蛇のアドベントカード。ガイから奪った。
香取がカードをヒラヒラさせながら浅倉に問う。
「浅倉被告。貴方は先日、ライダーバトルの最中、
ライダー間でカードをやり取りする方法を見つけたそうですね。
提督権限を利用し、打ち負かした相手からカードを奪う。間違いありませんね?」
「……すぞ」
「はい?」
「殺「なんだって!体調がすぐれない、証言は弁護人に一任すると?
わかりました浅倉さん、私にお任せを。彼はその通りだと言っています、検察官!」」
長引く裁判に苛立ちが爆発寸前の浅倉が再び暴言を吐く前に、
北岡がすんでのところで遮った。香取が続ける。
「つまり、貴方がたが血道を上げているライダーバトルに必要なこのカード……。
物資と引き換えに取引や交換が可能、ということになりませんか?」
一気に傍聴席が騒がしくなる。霧島が何度も木槌を叩く。
「静粛に!静粛に!弁護人、貴方の疑問は解消したように思えますが、どうですか?」
流石に北岡も青くなる。犯行の手口も、動機も全て揃ってしまった。
何か、何か、反撃の糸口はないか!?
北岡はもう一度証拠品に目を通し、素早く思考を走らせる。
その時、北岡の脳裏に不意に違和感が走った。……待て、何かがおかしい。
三日月しかいなかったのなら、こんなものがある訳がない!
──異議あり!
北岡は宙を指差し高らかに宣言した。思いがけない異議に香取も若干動揺する。
「な、何ですか弁護人。まだ何か言いがかりでも?」
「言いがかりではありません!検察側の主張と証拠には、決定的な矛盾がある!」
“矛盾ですって?”
“犯人はあの娘じゃないっての?”
“じゃあ誰が犯人なの?”
カン、カンカン!
「静粛に、静粛に!弁護人、矛盾とは一体何なのですか?」
「……これです」
北岡は証拠品“ボーキサイトの食べカス”を手に取った。
彼の意図がわからない香取が若干熱くなって問う。
「それが何だというのです!無意味な時間稼ぎは量刑の判断に……」
「気が付きませんか、検察官。この証拠が意味していることが。
そう、当夜ボーキサイトは、倉庫から持ち出されていなかった!」
「まさか!」
「……その通り。ボーキサイトは持ち出されたのではなく、庫内で消費されたのです。
この食べカスは犯人がボーキサイトを食べた際に落ちたもの。しかし、被告人は駆逐艦。
つまり、空母その他艦載機を搭載可能な艦娘でない限り、
ボーキサイトを消費することはできなかった!つまり被告人三日月に犯行は不可能!」
「北岡さん……!!」
突破口を見つけた北岡に目を輝かせる真司。
「では!では他に誰が盗んだというのです!」
「こうなると……先程の証人の証言が怪しくなってきます。
いや、嘘をついていると言っているわけではありません。
ただ、勘違いという可能性が高くなってきた。
ここは何か、証人が確かに現場を見たという担保が欲しい……」
そして北岡はチラリと香取を見る。
うつむき加減で表情はよく見えないが、教鞭を握る手が若干震えている。
なるほど、頭は切れるけど熱くなりやすいタイプだね。
「……裁判長、一時休廷を申し立てます。
当夜の証人の証言を立証する人物を連れてきますので!」
「わかりました。それではこれより30分の……あ」
香取は霧島の宣言も聞かずに飛び出していった。真司が北岡に歩み寄る。
「北岡さん、凄いですよ!よくあんな不利な状況から持ち直せましたね!」
「別に。ただ証拠品を観察して現場の状況と照らし合わせただけさ。
まぁ、この分なら最低でも証拠不十分で不起訴にはなるんじゃない?」
しかし30分後。
さっきの動揺は嘘のように余裕の表情で香取が入廷してきた。
何か仕掛けてくる、と北岡は内心警戒した。
「では、裁判を再開します。ええと、どこまで進んでたのかしら……」
「裁判長!」
議事録を読み直す霧島に香取が呼びかけた。
「先程申し上げた新たな証人を連れてきました。証言の許可を!」
「あ、はい、そうでした。証人を証明する証人でしたね。では、証人は名前と職業を」
腰の刀と眼帯が目を引く艦娘が証言台に立った。北岡は注意深く耳を澄ます。
「オレの名は天龍、軽巡洋艦だ」
「では、事件当日の晩、出会った人物について証言してください」
香取に促されて天龍が証言を開始した。
■証言開始■
「ああ、確かにあの晩、赤城さんに会ったぜ」
「眠れなくてぶらついてたら、倉庫の近くでばったり」
「様子?特に変わったところはなかったぜ」
「確かに夜中だったが、月明かりが眩しい夜だったからな。
近くにいればはっきり見えた」
「他に変わったとこって言えば……やっぱりあの警報だわな」
「スプリンクラーも作動して、倉庫水浸しだったみたいじゃねえか」
「ずぶ濡れのシートみたいなのも落ちてたし」
「こんなところかな。オレからは以上だ」
■証言終了■
北岡は慎重に証言の内容を整理する。
自信たっぷりに連れてきたからこれくらいは予想してたさ。
でも、これで証明されたのは三日月が事件当日現場にいた事だけ。
振り出しに戻ったに過ぎない。でも、何か気になる……。
北岡は天龍に質問をぶつけた。
「証人、貴方がその晩、確かに赤城さんと出会ったことはわかりました。
でも気になることが一点だけ。
最後の方でおっしゃった、“ずぶ濡れのシート”はどこで見かけたのですか?」
「そりゃあ、倉庫の入り口近くに決まってる。
スプリンクラーの水でビショビショだったぜ」
「……それは、今でもありますか?」
「探しゃあるんじゃねえの?昨日の今日だし」
「裁判長、今すぐシートの回収を願います!弁護側はそれを証拠品として提出します!」
「え、はい!あの、あきつ丸さーん!
すみませんが、倉庫まで証拠品の回収に行ってもらえませんか?」
「はい!」
霧島の指示で、出入り口の近くで控えていた、あきつ丸が外に出ていった。
待つこと10分。レインコートを着た、あきつ丸が
息を切らせて濡れた大きなビニールシートを抱えてきた。
「はぁ、はぁ、ありました。第三倉庫の入り口脇に……」
「ああ、ご苦労様でした。……でも、床もずぶ濡れですねぇ」
○証拠品
・ずぶ濡れのシート
倉庫のそばに捨てられていた真っ白なビニール製の資材保管用シート。
「証拠品として受理します。せっかく持ってきてもらったんですし……」
「弁護人、これが一体これがなんだと?」
「なるほど?なるほど、なるほど」
「一人で納得してないで説明を!」
「見えてきたんですよ、真犯人が犯行に及んだ手口が……!」
「真犯人!?」
「そう、三日月被告に犯行が不可能なことはもうご説明しました。
となると、やはり彼女の証言通り、第三者が倉庫内でボーキサイトをたらふく食べた後、
三日月被告を襲い、故意に非常ベルを押し、
大勢の者を呼び寄せる事で彼女に罪を着せたのです。
ついでにこれを提出しておきますよ。開廷前の資料に挟まれていた現場写真」
○証拠品
・現場写真:押された非常ベル
ボーキサイトの近くにある非常ベル。割りやすいプラスチック板で保護されており、
押すと警報と警告ライトが点灯し、スプリンクラーが作動する。
「だからこれが何だというのです!」
「順を追ってご説明しましょう。事件当夜、まず執務室に忍び込んだ犯人は、
城戸被告にペンを持たせて“誰でも資材使い放題”と書かせ、提督権限を発動させた。
その後、犯人は倉庫に移動し、ボーキサイトを食べ尽くした。
その時現場に食べカスが落ちたのです。しかし、ここで誤算が。
そう、三日月被告が警備の巡回に現れたのです。犯人は焦った。
そこである偽装工作を思いついたのです」
「偽装、工作……?」
「そのずぶ濡れのシートがまさにその鍵です。
犯人はシートを被り、三日月被告が近づくのを待った。
そして、彼女が手の届く距離まで近づいた所で襲いかかる!
揉み合いながらも犯人は彼女のポケットに食べカスとメモを入れ、
即座に近くの非常ベルを押した」
「違う違う違う私じゃない私じゃない私じゃない……」
「あの、大丈夫ですか……?」
香取の隣に座っていた人物の顔色が悪くなり、急にガタガタと震えだした。
「そこで証拠品の現場写真を見ていただきたい。
現場保持の観点からでしょうか、まだランプが点きっぱなしだったようですね。
かなり強力な赤いランプが倉庫内を真っ赤に染めています。
白いビニールシートも真っ赤に染めてしまうくらい。
それを利用し、犯人は三日月被告が慌てふためいている隙にシートを頭から被って……
そう、弾薬箱に登って横になった。資材防護用のシートです。
艦娘一人なら完全にスプリンクラーの雨から守ってくれたでしょう。
それにランプで何もかも真っ赤になった倉庫では、資材の上に“荷物らしきもの”が
一つ増えていたとしても誰も気づけなかったでしょう。
そこで駆けつけた艦娘たちをやり過ごし、倉庫から出た所でシートを脱ぎ捨てた!」
「それがなんだっていうのよおおおお!!」
法廷中に響き渡る大声!その声の主は……
「なによ、なによ、なんなのよ!私が犯人だって言いたいの!?」
「落ち着いてください……赤城さん!!」
目を見開き、髪を振り乱した赤城だった。
先程までの凛とした女性の面影はどこにもなかった。
「あなたねぇ……さっきから偉そうなこと言ってるけど、証拠はあるの!?
私が犯人だって言う証拠がぁ!!」
「静粛に、しょ、証人は不規則発言を……」
「うるさい!!」
「はいぃ!」
鬼気迫る赤城の一喝に思わず黙る霧島。北岡は内心ほくそ笑む。
そして真司に近づき、ヒソヒソと何かを確認し合った。
「何コソコソやってんの!?私を無視するんじゃないわよおぉ!!」
“いや、怖い……”
“本当に、あれが赤城さんなの?”
傍聴席のどよめきが収まらない。最後の時だ。北岡は狂気を迸らせる赤城と対峙する。
「証人、そもそもおかしいと思いませんか?
雨風砂埃から資材を守るためのシートが、何故外に投げ捨てられていたのか」
「知ったこっちゃないわよ!」
「貴方が捨てたんでしょう?」
「だから私がやったって証拠がどこに……」
「証拠は──貴方自身です!!」
「……は?」
北岡は証拠品のテーブルに近づくと、あるものを手に取る。
そして息を荒くして北岡を睨む赤城に突きつけた。それは──
「食べてみてください」
「え……」
証拠品“ボーキサイトの食べカス”だった。
「例え補給直後でも、一口くらいなら飲み込めるでしょう。
できないのは、一人では消費しきれないほどのボーキサイトを食べて、
まだその腹が膨れ上がっているから。でしょう?」
「赤城さん……」
香取、霧島、傍聴人が不安げに見守る。突きつけられたボーキサイト。
食べなきゃ、食べなきゃ、終わる、何もかも!!
ひと欠片つまみ、口に運ぶ。……しかし。
「うっ!」
思わず戻しそうになり、欠片を投げ出す。カラン、カラカラ……
法廷中がしんとなり、欠片が転がる音だけが響く。それが、決着の合図だった。
落ち着きを取り戻した赤城が、香取に付き添われて証言台に立つ。
美しい髪はボサボサになり、体も心なしか
一回り小さくなってしまったような気さえする。
「倉庫のボーキサイトを食べたのは、私です……」
傍聴席からまたどよめきが起こる。
「あの晩……まず提督の部屋に忍び込んで、ペンと紙を使って提督権限を発動しました。
それから倉庫に行って、中のボーキサイトを食べられるだけ食べました。
その時、巡回の三日月ちゃんがやってきて、一番奥にいた私は逃げられないと思い、
北岡さんの言われた偽装工作を。
欠片、メモ、シートを用意して、後はご説明にあった通りです……」
「一航戦の正規空母・赤城ともあろう貴方が、何故そんなことを?」
北岡が赤城に問いかけた。その時、堰を切ったように彼女の目から涙が溢れ出した。
「私は、“赤城”なんかじゃない!!」
彼女は泣きながら叫ぶ。
シュッ……トスッ
“また大ハズレ。赤城さん命中率低すぎない?”
“あれ偽物じゃないの?アハハハ”
“しっ、聞こえるわよ”
“また一発大破?勘弁してよ、あれ本当に赤城さん?”
“本当、あの赤城さんと一緒に戦えるーって喜んでたらあれだもん……あっ”
“……ごきげんよう”
“ご、ごきげんよう赤城さん。本日はお疲れ様でした、私達はこれで……”
“おやすみなさい……ぐすっ”
“赤城、演習の成績が良くないな。お前は一航戦。
艦載機と共に戦う者たちの誇りなのだからしっかりしてもらわないと困るぞ”
“すみません……”
“まったく、前の赤城はこんな……あ、すまない……”
“いえ、いいんです!私が未熟なせいなんですから”
“ふぅ、ごちそうさま”
“赤城さん、遠慮しないでもっと食べるでち!ゴーヤのプリンあげるでち!”
“ありがとう。でもいいのよ、私はお腹いっぱいだから”
“うそだー!赤城さんはまだ5人前くらいはいけるもん!”
“わたしもあげるー”“赤城さん―!”“ろーちゃんも!”“食べて食べてー”
“(食べなきゃ、悪いわよね……)あ、ありがとう、遠慮なく食べちゃおうかしら”
“やっぱり赤城さんの食べっぷりは凄いでち”
“(苦しい……)”
「みんなが“赤城”を押し付ける!私は“私”!赤城なんて知らない!
誰も私のことなんて見てくれない!
まるで私に赤城である資格なんかないとでも言わんばかりに!
本当の私は、まだ名前すらないんです!!」
その場に崩折れて語る“名も無き赤城”。皆が彼女の話に聞き入る。
「フフ……だから、いっそ、“赤城”になってやろうと思ったんです。
強くはなれなくても、せめて“大食らいの赤城”くらいにはなれるだろうと思って、
この犯行を思いついたんです。……フフ、フフフフ」
今度は自嘲気味に笑いながら。北岡が霧島に目配せする。
「……では、被告人一同を代表して、駆逐艦・三日月、前へ」
「はい……」
三日月が証言台に立つ。
「判決を言い渡します。被告人は、無罪」
無罪判決が下りても、皆、黙ったままだった。赤城は座り込んだまま。勝者なき勝利。
沈黙に耐えかねて霧島が口を開く。
「ええと、正規空母・赤城に対する処罰は追って知らせるとして……」
「待ってください!」
その時、少女の声が法廷に響く。皆、声の主を見る。三日月だった。
「お願いがあります!どうか、赤城さんへの処罰は穏便に!」
「君、何言ってんの!彼女のせいで君は……」
止める北岡に構わず三日月は続ける。
「“彼女”を追い詰めたのは私達の責任でもあるんです!
戦艦や空母だって育ててもらわないと強くなれないのに、
私達は生まれたばかりの赤城さんに、かつての赤城さんを勝手に重ね合わせて……
あの人も、“x029785の悲劇”の被害者なんです!!」
「そうかもしれませんが……ねぇ、提督?」
困り果てた霧島は真司を見る。
そもそも艦これの世界で裁判が起こった事自体初めてなので、
彼女も量刑を計りかねているようだ。
「誰のせいでもないよ。強いて言うなら、俺のせい。
確かに俺、ライダーバトルや自分のことにかかりきりだったし、
練度が不足してる艦娘が多くて彼女の悩みに気づけなかった。
三日月ちゃんにイレギュラーの話を聞いたときに、
一番気を配らなきゃいけない娘だってことに気づけなかった……!」
「どーすんの、城戸提督?」
北岡が終わった裁判には興味ないと言わんばかりに、気のない様子で聞いてきた。
「……無罪放免は駄目だ。みんなに示しがつかない」
赤城がきゅっと袴を掴む。だが、真司が彼女のそばに膝を付いた。
「だから、一緒に責任を取ろう。赤城は演習いっぱい頑張って、
みんなの手本になるような“改”になる。
俺は、たくさん遠征に同行して、無くしたボーキサイトを取り戻す」
はっと真司を見る赤城。真司は彼女に微笑みかけて、手を取った。
「霧島!俺はそういう責任の取り方が一番だと思う!」
「それはいいですね!そうしましょう、そうしましょう!
では、量刑も決まった所で……これにて閉廷!」
カン!
霧島の木槌でライダーを巻き込んだ珍事件の裁判は幕を閉じた。
──多目的ホール 控室
無事無罪を勝ち取った北岡達は控室で座って休んでいた。1人を除いて。
ガン! ガン! ゴン!
「まぁ、一瞬ヒヤヒヤしたけど無事に……ってうるさいよ浅倉!」
「放っとけ、そのうち飽きるだろ」
「うるせえ……一時間で終わるんじゃなかったのか!
半日もゴミ溜めに押し込まれてイラついてんだよぉ!!」
その時、控室のドアノブが回り、扉が空いた。そして、長門が入ってきた。
「皆さん、無罪おめでとう……って浅倉提督何をしているのです!
皆もなぜ止めないんですか!?」
壁に頭を打ち続ける浅倉の腰に手を回し、力づくで止めようとする長門。
「止めて止めるようなやつじゃないからな」
すると浅倉は目についた長門の両肩を掴み、力任せに大きく揺さぶった。
「うおあああああ!!」
「やめろー!目ーがーまーわーるー……」
そして長門を放り出し、今度は椅子を何度も床に叩きつけ始めた。
「ふん!うおおっ!あああ!」
荒れ狂う浅倉を無視し、備え付けの緑茶をすする一同。
「うあああああああ!!」
ホールに夜の帳が下りる。こうしてライダー裁判は浅倉の叫び声で幕を下ろした。
*いろんな矛盾や幼稚なトリックだらけでしたが、
ライダー恒例のギャグ回がやりたかったんです。お許し下さい……